第 6 章 造船・修船システムを視野に入れた整備
6.5 遺構表示
来訪者に、遺構のスケールや、造船・修船システムの流れを体感してもらうため、
①調査による確実な成果を基にした遺構表示の実施
②遺構を地中で保存しながら、造船・修船システムをより具体的に来訪者にイメージさせるため、
デジタル技術の最大限の活用と、ガイドによる案内、サインによる説明による表示
③遺構の調査状況や造船・修船システムとしての価値に応じた表示種類の設定
を行う。遺構表示は、海軍所稼動期に属した地下遺構と、その価値の証明を補強する遺構について実施 する。
なお、今後の発掘調査成果によって追加された要素の表示については、見直す場合もある。
(1)遺構表示に関する諸条件の整理
遺構表示には、露出表示、平面表示、復元表示などの方法が考えられるが、三重津海軍所跡で露出表 示を行った場合、乾湿の繰り返しを制御しがたく、風化や劣化の促進を抑制できない。また、大潮等の 浸水の影響にも考慮した整備を行う必要があり、通常の整備では遺構を確実に保存できない可能性があ る。そのため、将来にわたる良好な状態での維持の観点から、原則として露出表示は行わず、表 9 に示 した平面表示あるいは立体表示を行う。表示の方法は、表10に示しているように、調査によって判明 している事項や法規制等の条件、遺構の価値等の諸条件を踏まえて設定する。また、要素の位置を図 101 に示す。
表 9 遺構表示の種類と本史跡における考え方
一般的なイメージ 説明 本史跡における考え方
平面表示
( 例)建 物の 柱穴の 原位 置 を示す舗装等
地 下 に 保 存 さ れ て い る遺構の規模・配置・
形態・性質等に関する 情 報 を 模 式 的 に 表 す もの。
地 下 遺 構 を 主 と す る 史跡では、最も主要な 遺 構 表 現 手 法 と し て 適用されている。
遺構の原位置を、
平 面 的 に 舗 装 等 で表現したもの。
複 数 の 遺 構 の 場 所 を 表 示することで造船・修船 シ ス テ ム の 流 れ を 解 説 する場合等に用いる。
立体表示
( 例)建 物規 模を実 感で き る よう柱 を一 部立ち 上げ た もの
遺 構 の 原 位 置 に 加え、一部を立体 的 に 表 現 す る こ とで、遺構の性質 等を示すもの。
単 体 と し て 遺 構 の 規 模 や 形 態 等 を 解 説 す る 場 合等に用いる。
表 10 要素毎の表示の種類
表示する 遺構
構成要素
本質的価 値を伝え るための 表示の優 先度
遺構を表 示するた めの情報 の有無
表示種類の設定
①
ドライ ドック
護岸遺構〔本渠部〕
高 有
平面表示・立体表示
ドライドックの完全復元については、遺構を確実 に保存する観点から実現が難しいため、平面表示も しくは立体表示を行う。
護岸遺構〔渠口部〕
河川面護岸遺構
②
金 属 加 工 関 連 遺構
石組遺構
高 有
平面表示
炉等の検出遺構については原位置での平面表示を 図る。上屋については現時点では不明確な点が多 い為、調査・研究の進捗に応じて表現を検討する。
金属加工関連遺構 溝状遺構
小型二連炉
廃棄土坑 高 有
平面表示
土坑の4分の1程度の深さまで発掘調査が行われ ており、原位置での平面表示ないし立体表示を検 討する。
③ 土堤盛土 中
有
(一部)
平面表示
発掘調査の結果により部分的に検出された遺構や 絵図等を参考に、設置されていた範囲を想定し、
漁港利用に影響の無い範囲で平面表示を行う。
④ 木杭群(検討中) 検討中
有
(一部)
検討中
掘立柱建物である可能性が判明したことから、調 査の進展により検討する。
⑤ 旧堤防跡 ― ― 現状維持
図 101 要素の位置
(2)本質的価値を構成する要素の表現
現在、発掘調査によって概要が判明している修覆場地区と船屋地区の一部の主要な遺構、地上構築物、
地形(表 10)についての表現は、以下のように設定する。今後の発掘調査の進展により、更に適した 表現も検討していく。
①ドライドック
護岸遺構の木組みは、三重津海軍所跡の本質的価値の枢要となる遺構であり、来訪者にとっては史跡 の「見どころ」でもある。その表現にあたっては、遺構の保存、公園としての安全確保、関係機関との 協議を前提としたうえで、造船・修船システムの要となる「修船の様子をイメージしやすい手法」を 検討する。
【表現すべき内容】
・全長 60m、幅 24mに及ぶ規模及び位置(空間スケール)
・木と土によって造られた階段状の側壁構造(木造ドックと誤解されないこと)
【前提条件】
・遺構面保護のための保護盛土の確保
・地下の遺構の保存環境(地下水位)に改変が及ばないこと
・大潮時の浸水による土砂や漂流物の影響を考慮したうえで維持管理を行いやすいこと
・堤防構造に影響を及ぼさないこと
【留意点】
・護岸遺構の木組みなどの遺構面のリアリティの高い表示
・ARやVRなどのデジタル技術との表現の分担と相互補完
上記の内容を踏まえ、平面表示、立体表示、復元、露出展示の四つの手法をベースに五つの案を作成 して、現地での表示方法について比較検討を行った。
表 11 に示した検討の結果、地下遺構の保護の観点から、本計画では平面表示と立体表示をベース に今後詳細な検討を行うという結論に至った。
第 5 回策定委員会でのドライドックをめぐる議論
○パブリックコメントで「ドライドックを見ることができないか」という意見があったように、ドライドックをどのように表 現するかが、三重津海軍所跡の整備全体の目玉になる。河川敷だったり木材であったり問題もあるが、何か それらを突破するアイデアはないだろうか。
○発掘調査中にドライイドックを見た感動は忘れがたい。保存手法の確立も大事だが、一方で将来的にドライド ックを立体的に見せられないか、今後も追及していく姿勢を表現してはどうか。
○なぜ見せられないのを、正面から説明していくという姿勢が必要だろう。
○来訪者に保存の重要性をきちんと理解してもらえると、実物は見せられなくともそれなりに納得してもらえるの ではないか。
表 11 ドライドックの表現比較
【表現手法1 現地での表現】
表 11 に示した比較表に基づき、本計画では平面表示と立体表示をベースに今後詳細な検討を行 うこととする。なお、平面表示と断面表示の断面イメージを表 12 に示す。
表 12 ドライドックの断面イメージ
平面表示の断面イメージ 立体表示の断面イメージ
【表現手法2 デジタル技術での表現】
現地では表現しにくいドライドックの立体感・構造、ドックに入った洋式船のイメージなどをわ かりやすく伝えるため、遺構表示に加えてARやVRなど、デジタル技術を活用した表現を行う。
表現のイメージを図 102 に示す。
図 102 デジタル技術での表現イメージ
② 属加工関連遺構
修覆場地区においてドライドックと一体的に展開した金属加工施設は、a.鉄の鍛造関連施設、b.
鉄の鋳造関連施設、c.銅の鋳造関連施設、d.廃棄関連施設の 4 種に分類できる(図 103)。これらの 金属加工施設はドライドックと合わせて修船システムの特性を現すものである。一方で金属加工関連 遺構のほとんどは上部構造が無い状態で検出されており、出土遺物も少ないことから、三重津海軍所 稼働期にどのような形状をしていたかは不明な点が多い。
【表現すべき内容】
金属加工関連遺構の上部構造は不明確な点が多く表現ができないことに加え、発掘により検出さ れた状態に近い形で立体的に遺構を表現したとしても、遺構が持っていた機能やそのつながりを来 訪者にわかりやすく示すことは難しい。そのため、現地での遺構表現としては、遺構の位置や平面 的な形状を伝えるための平面表示を行うこととし、その表現をもとに造船・修船システムのイメー ジを補完するデジタル技術を活用した表現やガイドによる案内、サインによる説明の充実を図る。
金属加工関連遺構については以下の内容を表現する。
a.鉄の鍛造関連施設
修覆場地区に展開した鉄の鍛造関係施設は、在来の鍛冶職人を中心に様々な作業が展開されたと 考えられるが、その実態は不明である。関連遺物の出土状況から、ドライドックの上流側、鉄の鋳 造施設よりも、堤防側に分布していたと考えられるが、これまでの調査では明瞭な遺構は確認され ていないため、今後の調査の進展に応じて表現を検討することとする。
b.鉄の鋳造関連施設
鉄の鋳造関係施設は、遺構の分布状況から、ドライドック上流側の堤防寄りに展開している。こ れまでの検出遺構や出土遺物から、その作業内容は、SX9009 石組遺構は鋳型作製、SX9015 炉状遺 構はこしき炉による鉄材の再溶解、SX9001 溝状遺構は鋳込み(鋳造)であることが判明している。
これらの各遺構の位置や、平面形状の表現を行う。
SK10018 廃棄土坑 図 103 平面配置図
SX9009 石組遺構
SX10007・10008 二連炉