第 2 章 三重津海軍所跡の概要及び現状・問題点・課題
2.6 保存・整備・活用に関する課題
(2)整備に関する課題
整備上の課題解決に向けて留意しておくべきことは、三重津海軍所跡が史跡の本質的価値を表すと同 時に世界遺産の構成資産として顕著な普遍的価値の証明に貢献するという両側面を持つということで ある。したがって、その両側面を様々な来訪者が確実に理解できるようにするために必要な整備とは何 かについて十分に検討することである。
①史跡指定地及びその周辺の整備
特に、世界遺産となったことの効果は大きく、来訪者数も増加し、大人から子どもに至るまで、国 内外、障がいの有無にかかわらず、来訪者層も実に多様である。したがって、このような多様な対象 者が三重津海軍所の往時の姿やそこで行われていた様々な活動の様子をイメージできるよう、可能な 限り平易かつ具体的な説明に努め、ユニバーサルデザインにも配慮したものとすることが重要となる。
そのためには、安全でわかり易い動線を設定し、地下に存在する様々な遺構や地形などの規模・性 質についてわかりやすく表現することが必要である。また、地上にあって現在も見ることのできる旧 堤防跡、船屋期からの機能が維持され、現在も漁港となっている入江の地形、石碑などの近代の地上 構造物、現代に引き継がれてきた遺跡周辺の農地・河川・集落などの景観・機能についても、その存 在を知らせ、当時の様子も含め様々な方法を用いて説明することが必要となる。さらに、河川敷に存 在する遺跡の立地上、大潮など水の影響を受けやすいため、通常の整備方法では良好な状態の維持が 難しい状況にあることから、浸水することを視野に入れた整備を考慮しなければならない。
よって、整備の工夫を検討する際には、前例に縛られることなく、遺跡の保存の観点のみならず、
景観保全・防災などの幅広い視野及び来訪者の視点を加味して行うことが大切である。
②公開・活用施設の整備
遺跡を構成する要素の多くが地下に埋まっており、遺跡本体の整備だけでは価値の説明にも限界が あるため、来訪者に伝えるべきことを明確にした上で、現地で伝えることが難しい事柄については、
適切な規模と立地を備えた屋内展示施設等を十分に準備し、屋内展示と屋外展示の双方を通して来訪 者の理解を深めることが、三重津海軍所跡にとって重要である。加えて、三重津海軍所跡に隣接して いる記念館には、周辺景観も含め遺跡全体を展望できる機能を有していることから、その有効活用を 図るべきである。
③来訪者、利用者のための整備
整備全般を通しては、市民や来訪者に親しまれ、何度でも訪れてもらえるような場となるよう、空 間としての利便性や快適性も考慮する必要がある。駐車場やバス停からのアクセス、サインや便益施 設のデザイン・配置の見直し、多様化する来訪者へ対応するためのユニバーサルデザインへの対応な ど、あらゆる視点から空間としての質を高めていく必要がある。
また、遺跡の見学を目的とした来訪者以外にも公園利用者や漁港利用者が存在するため、整備にあ たっては、来訪者の利便性と所有者それぞれの利用に支障をきたさないことが不可欠である。よって、
現在設置されている複数の便益施設等については、利用者の利便性や史跡指定地内にあることの妥当 性等を検証し、より適切な形で一体的な整備をしていくことが求められる。
(3)活用に関する課題
遺跡の活用は、保存を前提としつつも相互に補完しあうものであり、遺跡の価値をより顕在化させ るという重要な役割を持つ。このことは、翻っては保存活動にも大きな効力を発するものとなるため、
活用を進めるにあたっては、来訪者や市民・地域住民などの様々な人々が遺跡の価値を正確に知り理
解を深められるよう、多様な形態と手法で積極的に実施することが求められる。
①理解を深める情報発信
何よりも重視すべきことは、正確で具体的な情報を理解しやすい形で発信することである。特に、
三重津海軍所跡は史跡であると同時に世界遺産の構成資産でもあるため、その両面の価値が適切に 伝わるようにすることは留意すべきである。そのためには、「明治日本の産業革命遺産」の構成資産 全体との連携による価値の理解及びそれぞれの位置づけ、また三重津海軍所跡と市内の関連資産と の連携による価値の理解など、遺跡単体ではない総合的な情報の提供を視野に入れるべきである。
そして、常に人々の関心の有様を調査することにより、そこから見えてくる効果的な発信手法を 研究し、訪れる度に新しい発見があるような発信のあり方を提供していくことも考え、いわゆるリ ピーターづくりの視点を持って取り組むべきことが大切である。
②教育・啓発・観光プログラム
情報発信の相手となる対象は広範囲に及ぶため、発信活動の場は、遺跡本体や公開・活用施設だ けに限定することなく、学校教育や生涯学習などにも広げ、その際に活用する教材などのツールの 開発は幅広いレンジやレベルに応じて行うことが必要である。実施するコンテンツも、学習だけに とどまらず体験、周遊、案内、イベントなど、観光の要素も含めた多彩なプログラムなど、公開・
活用の充実に向けた企画運営の展開を考えるべきである。
③ガイドプログラム
地下遺構を主体とする三重津海軍所跡における情報発信において、史跡指定地整備及びガイダンス 施設整備とともに大きな柱の一つをなすのが、遺跡と来訪者とをつないで価値の理解を助ける案内ガ イドの存在であり、その育成や活動環境の整備は今後の活用の効果的な展開の大きな鍵となる。案内 ガイドの人員増とともに、ガイド体制の充実・強化が望まれる。
(4)管理運営に関する課題
管理運営においては、来訪者が安全かつ快適に活用できる状態の維持が必要である。さらには三重津 海軍所跡の保全に従事する者の人材育成もの充実も求められる。
①維持管理
遺跡の保存・整備・活用においては、史跡管理、公園管理、漁港管理、教育、観光に携わる庁内関 係部署や関係機関など、多様な関係者全てが遺跡の価値を的確に理解したうえで、連携を強化して管 理運営にあたっていくことが求められる。また、この管理運営においては、さらに地域住民や市民が 参画する協働の体制づくりも必要である。今後は漂着ゴミ等の除去や清掃、芝の管理、葦原の景観保 全等の日常的な維持管理を強化していくことが、魅力的な三重津海軍所跡の整備において不可欠であ る。
②安全管理
災害時の管理体制計画について、関係者間で情報共有が必要である。
また、来訪者の安全管理に加え、遺産や解説施設を適切に保全するための監視や体制を整える必要 がある。
③人材育成
管理運営にあたっては、全ての関係者が、遺跡の価値と保全や管理運営のあり方についての共通認
識を持ち、モニタリングの体制の強化を図るために、研修や講座等の機会を設けることで、情報の蓄 積や管理保全のための知識の向上を図ることが必要である。同時に、来訪者に三重津海軍所跡の価値 を正しく、わかりやすく伝えるため、案内ガイドをはじめとした接客に従事するスタッフに対する研 修も充実させなければならない。
また、このような取組は、的確なスケジュールの下に、定期的に進捗状況を点検しつつ進めること が求められる。