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連帯債務の絶対的効力事由は,人的担保の基本原理(附従性)から導かれる本質的なもので ある。

2013年11月1日(金)14:00~18:00 漢陽大学校 法学研究所 706号室

⑶   連帯債務の絶対的効力事由は,人的担保の基本原理(附従性)から導かれる本質的なもので ある。

と慣習法の関係に関する研究

日本民法債権法改正における連帯債務の 絶対的効力事由の検討

深 川 裕 佳

Ⅰ.問題の所在

 本報告では,近年,日本において進められている債権法改正を,連帯債務の絶対的効力を対象と して検討していくことにする。連帯債務者間では,そのうちの一人に対して生じた事由は他の連帯 債務者には効力を及ぼさないのが原則である(日本民法440条)。これを連帯債務の「相対的効力」

の原則という。これに対して,一定の事由については,たとえ連帯債務者の一人について生じたも のであっても,他の連帯債務者に効力が生じるものと規定されており(日本民法434条から439条),

これを「絶対的効力」という。

 債権法改正に関する議論は,法制審議会において,第一ステージ(中間的な論点整理の作成とパ ブリックコメント),第二ステージ(中間試案の作成とパブリックコメント),第三ステージ(改正 要綱案の取りまとめ)というように進められるものとされている。現在は,第三ステージに入った ところであり,本報告において検討の対象とすることができる最新の資料は「中間試案」である。

そこで,この報告では,中間試案を対象として,検討を行っていくことにする。

Ⅱ.連帯債務の絶対的効力事由に関する中間試案の検討

 現行日本民法においては,絶対的効力事由は,①負担部分の範囲において他の連帯債務者に効力 を有する事由と,②連帯債務の全体について他の連帯債務者に効力を有する事由とに分けられてい る(レジュメⅡ⑴ A の表を参照)。①負担部分の範囲において効力を有する事由として,現行条文 では,連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有しているもののまだ相殺を対抗していないとい う場合や,免除,時効について規定している。債権法改正の中間試案では,このうち,相殺につい ては,連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有している範囲において他の連帯債務者が履行を 拒絶する抗弁とすることを提案するのに対して,免除と時効は,相対的効力の原則に従うものとす ることが提案されている。また,②連帯債務の全額について効力を及ぼす事由として,現行民法は,

請求や連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有するときに連帯債務を相殺する場合,更改,混 同について定めている。これに対して,中間試案では,相殺を除くすべてを相対的効力の原則に服 させることを提案している。なお,中間試案には,別の考えも注意書きによって示されており,請 求と混同については,現行民法の規定を維持することも提案されている。

 このようにして,連帯債務の絶対的効力事由を削減するという提案は,公表された「中間試案の 補足説明」によると,「〔更改,免除,混同,時効を相対的効力とする提案〕は,絶対的効力事由を

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廃止するという点で,〔請求を相対的効力とする提案〕とともに,判例上の不真正連帯債務に関す る規律を原則的な連帯債務の規律として位置づけるものといえる」(「補足説明」192,198頁)と述 べられている。不真正連帯債務とは,日本では,学説および判例を中心に形成されてきた概念であ り,特に複数人の不法行為によって引き起こされた同一損害を原因とする損害賠償のように,当事 者の間に主観的な共同関係が存在しない場合に成立する債務であって,連帯債務とは異なって,債 権を満足させる原因を除いてはすべて相対的効力を有する債務関係であると考えられている。な お,不真正連帯債務は,かつては,債務者間の求償が生じないものと考えられていたが,今日では,

判例も学説も,求償関係の成立を認めることについて異論は存在しない。

A.免除が相対的効力事由となった場合の帰結

 では,これまでは絶対的効力事由とされてきたものが,相対的効力事由に改められることになれ ば,どのような問題が生じるのだろうか。ここでは,免除を取り上げて検討してみることにする。

 免除が相対的効力を有するということになれば,債権者が連帯債務者の一人に対して連帯債務の 全額を免除したとしても,他の連帯債務者はなお債権者からの全額請求に応じなければならないこ とになる。この場合,他の連帯債務者が全額の弁済をすれば,免除を受けた連帯債務者に対する求 償が生じることになる。中間試案は,このような求償を認め,たとえ免除を受けた連帯債務者が求 償に応じたとしても,その額を債権者に対して請求することはできないという規定を提案してい る。しかし,もしもこのような求償を認めるとすれば,債権者のした免除は,その免除を受けた連 帯債務者にとって,まったく債権の消滅という免除の効力を生じさせないということになってしま う。これでは,「免除」の意味が全く損なわれてしまう。

 「不真正連帯債務」においては,免除が相対的効力を有することは,判例によって示されている

(最判昭和48・2・16民集27巻1号99頁,最判平成6年11月24日判例タイムズ867号165頁,最判平 成10年9月10日民集52巻6号1494頁)。しかし,これらの判決は,裁判上の和解における免除の効 力であったり,離婚調停における免除の効力であったりする。はたして,このような和解や調停に おける免除に関する判決が民法の規定する連帯債務の免除規定一般に妥当するものといえるだろう か。このような混乱は,連帯債務の絶対的効力とは何かということが理論的に十分に理解されてい ないということに起因するものであると思われる。そこで,日本における従来の議論を簡潔に見つ つ,連帯債務の絶対的効力を合理的に理解する方法について検討していくことにする。

Ⅲ.連帯債務の絶対的効力の意義に関する日本での議論

 日本では,連帯債務の意義及び絶対的効力は,伝統的な通説によれば,「債務者の間に主観的な 共同関係がある」(我妻栄『債権総論』(岩波書店,1964年)402頁)ことから説明されてきた。近 年の学説は,これに,「相互保証」の観点を付け加えて説明するのが一般的になりつつある(奥田 昌道『債権総論〔増補版〕』(悠々社,1992年)348頁,川井健『債権総論』(有斐閣,第2版補訂版,

2009年)181頁)。

 しかし,このような一般的な説明に対して,日本では,「主観的な共同関係」という曖昧な概念 を持ち出す必要はなく「相互保証」から合理的に連帯債務の効力を説明できることが一部の学説に よって有力に主張されている(たとえば,加賀山茂『契約法講義』(日本評論社,2007年)358−

387頁を参照)。このような立場は,「相互保証理論」(または,相互保証説)と呼ばれている。相互 保証理論とは,連帯債務の構造が自己の固有の債務である「負担部分」と,他の連帯債務者の債務

(負担部分)を担保する「保証部分」(連帯保証)とから構成されているという考え方である(レジュ

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メⅢ⑵ A の図を参照)。たとえば,Y1,Y2,Y3が X に対して600の連帯債務を負担しており,

その負担部分が順に300,200,100であるという場合を考えると,Y1の連帯債務600の内容は,① 自己が最終的に負担すべき300の負担部分,並びに,他の連帯債務者である④ Y2の負担部分を担 保する②保証部分200および⑦ Y3の負担部分を担保する③保証部分100から成り立っているもの と考える。Y2の連帯債務も同様に,④固有の負担部分200並びに⑤ Y1の負担部分を担保する保 証部分300及び⑥ Y3の負担部分を担保する保証部分100から成り立つ。Y3の連帯債務も同様であ る。

 このような相互保証理論の考え方は,連帯保証に備わる4 4 4 4 4 4 4 4附従性4 4 4から絶対的効力事由を理論的に解 明する。たとえば,連帯債務の一部免除の問題についても,相互保証理論に立てば,判例の考え方 を容易に理解することができる。日本の判例では,連帯債務の一部免除がなされた場合には,全部 免除があった場合に比例した割合において,その負担部分について絶対的効力を生じると考えられ ている(大判昭和15・9・21民集19・1701)。この意味を相互保証理論から解明すれば,次のよう に説明できる(レジュメⅢ⑵ B の図を参照)。すなわち,Y1の連帯債務は,負担部分と保証部分 が比例的に縮減し,Y1の負担部分の縮減は,その範囲において Y2および Y3の連帯保証を附従 的に消滅させる。なお,ここでは一部免除に関する判例の帰結を相互保証理論から説明したものの,

一部免除の効果に関する議論(すなわち,連帯債務の一部免除が割合的4 4 4に行われるのか,または,

保証

4 4

部分から

4 4 4 4

行われるのか,さらには,負担部分から

4 4 4 4 4 4

行われるのかという判例・学説間の理論的対 立)については,相互保証理論それ自体は中立的であり,どの立場をも説明することができる。

Ⅳ.連帯債務の絶対的効力の意義に関する比較法的検討

 このような相互保証理論は,近年,フランスにおいてその正当性が博士論文において明らかにさ れた。そこで,このフランスの博士論文を紹介しつつ,相互保証理論の正当性を検討していくこと にする。

 フランスでは,伝統的に,連帯債務の効力は,目的の一体性(または,債務の唯一性)および債 務関係の複数性から説明されてきた。これに対して,近年公表されたミニョの博士論文は,歴史的 な検討および理論的な検討を踏まえてこの伝統的な理解が誤っていることを示し,相互保証理論に 基づいて連帯債務を合理的に説明することができるということを次のように明らかにした。

 まず,歴史的検討としてミニョは,フランス民法典の連帯債務 (solidarité  passive) は,ローマ 的連帯モデルとオリエント的相互保証モデルをつなぎ合わせた理論的には整合性のない条文から構 成されているということを明らかにする。一方で,ローマ的連帯は,典型的には,家族的集団を背 景として一つの約束から生じる一つの債務であって,そこには負担部分も,従って,求償関係の発 生も考えられないというものであった。これに対して,オリエント的相互保証は,それぞれの債務 者が最終的に負担すべき固有の負担部分が存在し,従って,求償関係も発生するものと考えられた。

この二つの制度は,本来的には反発しあうものであるはずのところ,フランス古法を経て現在のフ ランス民法典では,それぞれの特徴を部分的にとどめたまま受け継がれてしまった。フランス民法 典の連帯債務制度は,ドマやポチエの影響を受けて作られたものであるが,特に,ポチエがローマ 的連帯をドグマティックに理解したことが,フランス民法典においてローマ的連帯の面影を多く残 す結果となっている。しかし,このようなポチエの考えおよびこれを支持した学説による「誤った 理解」がなければ,歴史的には,オリエント的相互保証に適合的な連帯債務制度へと発展していた はずであるという。

 このような相互保証モデルへの発展は,理論的側面からも説明することができる。相互保証モデ