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途上国の循環型社会形成に向けた CSR 調達システム

はじめに

途上国の循環型社会形成において、インフォーマルリサイクルセクターの活動がもたら す社会的リスクの管理が重要な課題である。しかし多くの途上国では、そうした課題に対 処するための行政能力が不十分である。そこで 6 章では、行政能力を補完しながら課題解 決を図る方策としてEPR政策の途上国での適用可能性を分析した。その結果、途上国では、

EPR 政策が十分に機能する条件が揃っていないことが明らかとなった。条件が未整備であ る主な要因は、EPR を担う能力のある生産者を特定できないことにある。特に、製品の生 産機能を持たず、輸入中古品の流通が大宗を占めるような国では、EPR を担う生産者はほ ぼ存在しない。

そこで本章では、途上国の循環型社会形成において、行政能力を補完するより効率的な 資源循環を促進する手立てとして、リサイクル資源の需要主体の調達責任に着目した政策 に関する考察を行った。リサイクル資源の最終的な需要主体は素材産業である。途上国に おける素材産業は、他の産業に比して相対的に資本力があり、経営や技術も優れているこ とから、その調達責任を問うことで、適正な調達先の管理や育成が促進され、結果的に途 上国の適正な廃棄物処理やリサイクル処理能力の向上に有効であると考えられる。こうし た考え方は、既に企業のCSR(Corporate Social Responsibility)活動の中でCSR調達と して進められており、調達先の収益性や品質だけでなく、環境や社会面での評価を通じて、

サプライチェーン全体の持続可能性を高めいく取組として展開されている。したがって本 章では、途上国の素材産業におけるCSR調達システムの導入可能性について分析を行う。

第1節では、途上国におけるEPR政策適用の限界などを踏まえて、リサイクル資源の需 要主体の調達責任を問うCSR調達システムの必要性を整理する。第2節で CSR調達シス テムの現状や論点の把握を行い、それを踏まえて第3節で途上国の素材産業における CSR 調達システムのあり方を考察する。また、第4節では素材産業におけるCSR調達システム 導入に向けた具体的な取組の課題を整理し、むすびで本章のまとめを行う。

1.途上国の循環型社会形成に向けたCSR調達システムの必要性

1-1.途上国における循環型社会の問題構造

一般に途上国においては、廃棄物処理・リサイクルにおける行政管理を中心としたフォ ーマルなシステムが不十分である。何故なら、経済発展とともに増加する廃棄物量に対し て、その処理能力や管理能力が追いつかないためである。また、廃棄物に占める使用済み の工業製品や耐久消費財等の割合が高まることで、廃棄物処理やリサイクル処理において 高度な技術を要するようになり、現状の技術水準と求められるものとの乖離がさらに拡大 している。

特に近年では、e-wasteが急増しており、その適正なリサイクルや廃棄物処理能力の増強 が求められている。具体的には、e-wasteには、資源として価値のある金属類とともに、重 金属などの様々な有害物質も含まれているため、リサイクルや最終処分にあたっては、適 切な技術や設備が必要となるのである。しかし途上国では、都市貧困層を中心としたイン フォーマルセクターによる零細な規模でのリサイクルの占める割合が多く、不十分な技術 や装備による処理によって、生活環境の汚染や健康被害等の問題が生じている(1)

途上国において e-waste がリサイクル資源として再利用されるまでの資源循環システム は次のとおりである。それは、e-wasteのウェイスト・ピッカーと呼ばれる回収人による家 庭や企業等への訪問回収→仲買人→解体屋→リサイクル事業者→素材産業での需要あるい は輸出、といった流れをたどる。また、回収物の中で程度の良いものは、仲買人から修理・

改造屋に引き渡され、修理・改造後に中古品市場をとおして再利用される。そしてこれら の過程での残渣が最終処分場に投棄される。途上国の最終処分場は多くの場合、オープン ダンピング(野積、投棄)状態である。最終処分場では、ウェイスト・ピッカーがさらに 有価物を拾い出す。以上の過程の中で登場した、ウェイスト・ピッカー、仲買人、修理・

改造屋、解体屋、リサイクル業者はインフォーマルセクターである場合が多い。特に環境 汚染や健康被害のリスクが高いのは、リサイクル事業者や最終処分場である。リサイクル 事業者は十分な装備や設備、技術を有しないために、例えば、廃ケーブル内の銅線を抽出 するための野焼き、プラスチックの直接溶解、プリント基板からの酸を使った金属の抽出、

ハンダ付け溶解などの作業によって、健康被害や汚染が発生する。また、最終処分場に投 棄された残渣中には重金属などの有害な物質が含まれている場合があり、最終処分場での 浸出水にそうした有害物質が混入することで、周辺環境の汚染や健康被害が生じる。

以上が国内で発生する e-waste の流れであるが、これに先進国からの中古品の輸入や

e-wasteの偽装貿易による輸入の流れが加わる。途上国では、所得水準が先進国よりも低い

ために中古品の需要が比較的大きい。国内で供給される中古品では足りないために、先進 国からの輸入が増加する。中古品輸入では、廃棄物同然の製品が含まれている場合があり、

そうした製品はインフォーマルな仲買人を通じて先に示したインフォーマルなリサイクル 流通に流れる。また、ミックスメタルスクラップなどの輸入においても e-waste が混入さ れている場合が有り、これもインフォーマルに仲買人を通じて、同様のリサイクル流通に 流れる。

途上国における汚染や健康被害といった外部不経済の根本原因は、リサイクルの担い手 であるインフォーマルな事業者が適正な処理技術や環境汚染防止設備、健康被害を防ぐた めの十分な装備を備えていないことにある。国によっては行政による認定事業者などフォ ーマルな主体として存在する場合があるが、適正な処理技術や装備を持たず、環境汚染防 止対策なども行わないインフォーマルな事業者の価格競争力が高いために、リサイクルの フォーマルな産業組織化が進展しないといったジレンマに陥っている。

1-2.途上国におけるEPR制度導入の限界

1-1.で整理したような問題の解決に向けて、基本的には行政がインフォーマルなリ サイクル従事者のフォーマルな産業組織化や適正なリサイクル処理の能力向上支援を行う ことが必要である。しかし、多くの途上国では行政の政策遂行能力が乏しいために遅々と して進まないのが現状である。そこで、一部の途上国ではEPR政策の導入(2)を行っている。

EPR は、製品に対する生産者の責任を製品使用後の段階に拡大することで、a.地方自治体 主導による廃棄物処理・リサイクルシステムから生産者が関与するシステムへと転換し効 率化を図ること、b.製品設計の際に環境に配慮するよう生産者に動機を与えること、を目的 とした政策原則である。1990年代以降に、先進国を中心に廃棄物処理・リサイクルシステ ムに取り入れられてきた政策であり、処理困難な物質や有害物質を含むような e-waste の 増加に伴い、廃棄物管理の公的部門の負担増や最終処分場の逼迫といった問題の深刻化が 背景となっている。

しかし、EPR の途上国への適用については、6 章で整理したように、次のような課題が ある。第1に、途上国では生産者や輸入者を特定できない場合が多いという点である。途 上国では先述のように中古品流通市場が大きく、こうした市場では零細な修理事業者や輸 入業者が多数存在し、修理した中古品について誰が生産者であるかを特定することは難し い。第2には、途上国においてはインフォーマルなリサイクル事業者の存在が、フォーマ ルなリサイクル市場の障害になっているという点である。これは先述のように、インフォ ーマルな事業者は適正な処理技術や装備を持たず、環境汚染防止対策なども行わないため にフォーマルな事業者よりも価格競争力が高いことに起因する。結果的に価格競争力に劣 るフォーマルな事業者にリサイクル資源が集まらず、フォーマルな事業経営の妨げとなっ ている。第3には、途上国ではEPR政策の運用に不可欠な廃棄物回収・処理に関する基本 的なインフラや技術が不足している点である。基本的なインフラや技術とは、自治体の廃 棄物回収システムや処理施設、環境汚染や健康被害が生じない適正な技術、人材などであ る。実際に先進国のEPR政策では、民間の生産者がe-wasteの回収やリサイクルの責任を 負うとしても、e-wasteの回収では自治体の回収システムを活用し、民間の生産者は財務的 な負担責任を果たすといった取組が多い。つまり、EPR 政策が基本的なインフラ整備や技 術を促進するのではなく、EPR 政策の実施においては基本的なインフラの存在が必要条件 なのである。したがって、途上国においては基本的なインフラが未整備であるため、EPR 政策の適用が困難なのである。以上のような、EPR 政策の途上国への適用における条件面 でのギャップの程度は、途上国の特性に応じて異なる。例えば、廃棄物処理やリサイクル の公的なインフラ整備の程度、処理技術の水準、リサイクルセクターのフォーマルな産業 組織化の程度、そして当該製品の生産機能を有するかあるいは消費するだけなのかといっ た特性によって異なるのである。