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途上国におけるリサイクルセクターの発展プロセス分析

はじめに

循環型社会は、原料→加工→流通→販売といった分業間の連鎖に加えて、販売後の消費

→廃棄物回収→リサイクル→廃棄物処理といった分業の連鎖を加えることで物質循環の環 が形成された社会である。資源の有限性という制約下で持続的な発展を図るためには、循 環型社会形成は重要なアプローチである。後者の分業の連鎖では、廃棄された物質を資源 として再生させるリサイクルセクターが重要な役割を果たす。循環型社会形成においては、

健全なリサイクルセクターの発展が必要であり、そのための制度、技術、市場が重要な要 素となる。しかし、現実のリサイクルセクターは様々な問題を抱えている。特に、途上国 ではインフォーマルセクターが主な担い手であり、その多くは都市部の貧困層による小規 模零細あるいは個人生業である。インフォーマルセクターが貧困の温床であるという問題 とともに、適正な技術や装備が不十分なために有害物質を含有するものを扱うことで環境 汚染や健康被害が生じている。そこで本章では、途上国におけるリサイクルセクターの発 展プロセス分析を通じて、健全なリサイクルセクターの発展に資する政策措置の論点の導 出を行う。分析枠組みとしては、リサイクルセクターの規模の経済性を実現できるような 組織化によって、途上国におけるリサイクルセクターが抱える外部不経済の克服が可能で あるとの仮説に立ち、事例の分析を通じてその可能性を検証する。

第 1 節では、途上国におけるリサイクルセクターが抱える問題点を概観し、第 2 節では、

そのような問題の発生メカニズムに関する先行研究のレビューと考察を行っている。また 第 3 節では、高所得国におけるリサイクルセクター発展のプロセスとして日本の経験の整 理を行っている。第 4 節では、第 2 節と第 3 節をふまえて健全なリサイクルセクター発展 を促進する視点からの仮説を提示し、第 5 節では、事例の分析によって仮説の検証を行っ ている。第 6 節では、仮説の検証を踏まえた政策的な含意を導出し、むすびで本章のまと めを行っている。

1.途上国におけるリサイクルセクターの問題点

途上国におけるリサイクルセクターは、都市生業としての割合が多く、労働環境、環境 汚染、貧困問題等の多くの問題を抱えている。

1-1.リサイクルセクター集積地における環境汚染

中国においてリサイクルが盛んに行われている地域は、沿岸地域の広東省、江蘇省、浙 江省等であり、これらの地域の農村・漁村において農民や小規模な私営企業がリサイクル 業に携わっている。これらの中には、特に e-waste(廃電気・電子機器)を専門に取り扱い、

国内外からの e-waste の集積地になっている地域がある。ここでは、広東省汕頭市貴嶼鎮 の事例(1)、及び湖南省永興の事例(2)、ベトナムのバクニン省の事例(3)についてその概要を以

下のように整理した。

広東省汕頭市貴嶼鎮は、第2章でとりあげた Guiyu であり、国内外からの e-waste の集 積地となっている。かつてこの農村は人口の割には耕地が少ない地域であり、余剰労働者 が銅スクラップや廃プラスチック類の回収転売業に従事していたが、家電製品の普及とと もに、中国最大の使用済み電気・電子機器のリサイクル拠点となった。現在では、300 企業、

5,500 戸、30,000 人(全人口の半分)が従事しており、その中心は出稼ぎ労働者であると いう。また、産業としても地域税収の 90%を占め、地域経済の柱となっている。しかし、

ほとんどが家内工業であり、手作業等人力によるところが大きく、技術力は相当に低い。

中国の Guiyu における e-waste のインフォーマルな処理に伴うリスクについては第2章の 表 2-1~表 2-3 に示したとおりである。

湖南省永興は、約 300 年の金銀精錬加工の歴史を持つ地域であり、現在でも中国の“銀 都”と呼ばれる有名な地域である。現在では、これまでの貴金属精錬の技術を活かして廃 棄物からの貴金属回収精錬も営まれ、中国全土から金銀スクラップ、スラッジ、廃液など

“三廃”と呼ばれるスクラップを年間約 120 万 t 回収している。このような回収精錬によ り、銀鉱山を有していないにもかかわらず、全国の銀生産の 1/3 を占めるに至っている。

全村で 4,000 戸 30,000 人が回収精錬に従事しており、地方政府も重点冶金工業地区として 振興を図っている。しかし、この地域においても不法投棄などで環境問題が発生している。

ベトナムでは、農村工業化の特徴的な形態として工芸村(langnghe)の形成がある。従 来は、家内制手工業的な小規模の手工芸事業者が集積した村が点在していたが、ドイモイ 以降の工業化とともにこれらの工芸村が次第に工業製品の生産を行うようになってきてい る(坂田 2008)。このような工芸村は、特に紅河デルタ地帯に多く、廃棄物のリサイクル を専業としているリサイクル工芸村も存在する。リサイクル工芸村は、北部と中部に多く 南部にはほとんど見られない。リサイクル工芸村では、家庭や工場発生の廃棄物を収集・

分別し、製品原料や日用品として再生化しており、事業者が数百戸の単位で集積している

(坂田 2008)。鉄スクラップのリサイクル村として代表的な村が、ハノイの北 16kmに位 置するバクニン省のチャウケ―・コミューンにあるダーホイ村である。かつてダーホイ村 は、鋤、鍬などを生産する鋳鉄の伝統工芸村であったが、近年は、ベトナム国内や海外か ら集めた鉄スクラップのリサイクル拠点へと変貌している。村内には、回収した資源の分 類、電炉による溶解とインゴット製造、圧延、メッキ、各種線材や厚板等への成形といっ たリサイクルのプロセスが分業化され、各工程を個別の事業者が行っている。このような 工業化が進んだ工芸村において、近年では工芸村から排出される排水、排ガス、等による 環境汚染問題が顕在化しており、政府による環境保護規制が強化されている。

以上の事例は、リサイクル資源の一大集積地となった事例である。このように途上国に おいてリサイクル産業はフォーマルな産業としてではなく、農村部からの人口流入による 過剰労働者や貧困層の受け皿として機能しており、雇用といった面では一定の貢献をして いるものの、労働集約的で付加価値の低い作業から抜け切れない状況が続いている。加え

て、不適正な技術による処理を行うために環境汚染が発生し、健康被害の発生が懸念され ている。このような問題への対処のために能力形成を図ることが必要となるが、貧困の罠 に捕らえられているために、技術の蓄積や革新、人的資本の蓄積といった発展に不可欠な 要素が欠落しており、内発的な問題解決が困難な状況にあると考えられる。

1-2.貧困の温床としてのインフォーマルリサイクルセクター

途上国におけるリサイクルの中心的な担い手は、都市部を中心としたインフォーマルセ クターである。ここでは、速水(2006)をもとにインドのデリー市における廃品回収業の 特性を整理した。この研究は、インドのデリーで廃品再生工場向けに廃品を回収すること で生計を立てているごみ拾い人とごみ集荷人を対象に、その社会的特徴等の分析によって 都市貧困層の性格を解明したものである。

まずこの研究で対象とした廃品回収業のごみ拾い人とごみ集荷人の関係を図 5-1 によっ て概観しておく。図5-1は、再生可能な廃品の流通経路を示したものである。ごみ拾い人と ごみ集荷人は、両者とも廃品の排出現場から直接廃品を回収し、回収した廃品を中間業者 に販売することで生計を立てている。両者の異なる点は、ごみ拾い人が紙くずや空き缶・

ビンなどの廃品を回収するのに資本を必要とせず、ごみ集荷人はごみ排出者から現金で廃 品を買い取るため、運転資金を必要とすることである。彼らが回収した廃品は仕切り屋と いう中間業者に売り渡され、仕切り屋はそれらを分別して卸売業者に販売する。卸売業者 は、紙や金属等物質別に専門特化している。

デリー市におけるごみ拾い人とごみ収集人を対象としたアンケート調査による両者の社 会的特徴の把握結果は表5-1に示す通りである。廃品回収業従事者のほとんどが農村部から の移住者である。ごみ拾い人とごみ集荷人では、ごみ集荷人の方が回収規模も大きく、荷 車などを使って作業効率化を図っており、仕切り屋等の上位の職種への道も開かれている。

これは、ごみ集荷人は出身がデリー市隣接地域あるため、比較的早くから移住してきてお り、上位の職を独占できていることによる。また、ごみ集荷人は共同体を形成し、同郷か らの移住者が集荷業に参加するにあたっての資本やノウハウに関する制約を取り除く役割 を果たしている。これに対しごみ拾い人は、回収規模が背中に担げるレベルという制約が あるため小規模であり、遠隔の州から比較的遅くに移住してきたために、上位の職への道 は閉ざされている。よって、ごみ集荷人のような共同体が形成されず、社会的資産を持ち 得ないために、恒常的な貧困から抜け出せないといった状態に陥っている。

このように、廃品回収業は、所得水準、生活水準などからみて都市インフォーマルセク ターの底辺に位置していると考えられる。また、移住者の出身地域の違い等による共同体 形成が社会的な分断(4)を生じさせ、そのような社会的分断が、ごみ拾い人が貧困の罠から脱 出できず、恒常的に貧困が再生産される原因になっていることを明らかにしている。この 事例は、結果的に廃品回収業を含むリサイクル業が、途上国においては貧困の再生産の場 になっていることを示唆しており、このような流通構造の中では、リサイクルに関する適