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述語複合体

ドキュメント内 「ダグール語の述部の諸相」 (ページ 89-94)

第三章 述部の基本構造

3.4. 述語複合体

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◇名詞類-動詞の組み合わせ

名詞類-動詞 という組み合わせは、実際の言語使用において最も頻度の高いものであろう。

この中には、目的語-動詞述語のような関係を成すものが大多数を占める。本論文において は、動詞の支配する各項については述部に含めない考え方を取ることから、こうした目的 語-動詞述語の関係は述語複合体とみなさない。

動詞が支配しているとは言えない名詞項を直前に据える構造としては、コピュラ文があ る。これは名詞類述語に対し、aa_, bol_ といった動詞が補助的に用いられるという構造を もつものである。これについては 3.2.1. で述べた。

◇名詞類-名詞類の組み合わせ

名詞類-名詞類 の組み合わせは、修飾語と被修飾語という意味関係の組み合わせと、後続 の名詞類がより文法化し、終助詞的に用いられるようになったものとの組み合わせの 2 種 類が考えられる。前者は名詞類述語としては頻出の形であると思われるが、これについて は動詞-名詞類の組み合わせ (3-42) 同様に、述語複合体の議論においてとくに取り扱わない。

名詞類の修飾・被修飾関係として、稿を改めて論じることとしたい。

後者については終助詞的な問題として、詳細は 4.1.3. で扱う。また、名詞類述語文の否 定文についてもこの組み合わせによるが、これについては3.4. 否定文において扱う。

◇述語複合体とは

表3-2に示したものの他に、不変化詞類との組み合わせがある。まず動詞前辞と動詞の組 み合わせは述語複合体を成すものと考えられるが、2.3.3. ですでに扱った。また否定を表す 語が動詞述語の前に置かれる組み合わせがあるが、これについては3.5. 否定 において述べ る。

実際の言語使用では、これらをさらに組み合わせた複雑な動詞複合体も形成しうる。ま た複合語のような語の組み合わせとは言えないが、両語の間に密接な関係が認められる組 み合わせとして、いわゆる「慣用的な表現」(e.g. čulee tali_「休みを置く>休暇を取る」な ど) がある。これも、複合の度合により複合体を成すものとしてみなしうるが、本論文では こうした慣用的表現について扱わない。

本論文で考える述語複合体は、凡そ次のようなものである。すなわち、動詞や名詞類に 先行する要素としては否定を表す要素や動詞前辞 (cf. 2.4.) がある。動詞や名詞類は語彙的 な意味を担うものに文法化したものが補助的に付されるという形で、動詞述語には補助動 詞や人魚構文的な名詞類の語が、名詞類述語にはコピュラたる補助動詞が付され、それが 複数連なりうる。これらに後続する要素として終助詞的な名詞類の語や、終助詞がある。

本節で考えるダグール語の述語複合体の構造は、大枠においてアルタイ型の諸言語にも 見られるものである。本論文における整理は、こうしたアルタイ型の諸言語の間の対照研 究にも応用可能なモデルとなるだろう。

82 3.4.2. 人魚構文

動詞述語が支配する項などを維持したまま、名詞類述語に埋め込まれる形をとる構造を 角田 (2011) の用語に倣い人魚構文と呼ぶ。ダグール語では、とくにハイラルにおいて人 魚構文ないし疑似人魚構文がよく用いられるが、これは周辺のモンゴル語の影響によるも のと思われる。

角田 (2011) は日本語において「[節] 名詞 だ」という構造を持ち、節は動詞述語文と同 じ構造を持っているが文は名詞+コピュラで終わる次のような文を人魚構文と呼んでいる (3-43)。

(3-43) [太郎は名古屋に行く] 予定だ。

[太郎は今本を読んでいる] ところだ。

[外では雨が降っている] 模様だ。 (角田 2011)

これらは構造上は連体修飾節が名詞を修飾した形式のように見えるが、日本語の例から 統語上の振る舞いを見ると動詞述語文と同じであるという。次の3-44の例では、連体修飾 節内の主語は主題化されず、ガ格とノ格の交代が見られるが、人魚構文では主節の主語の ようにハで標示されていることを示したものである。

(3-44) a. [太郎の名古屋に行く] 予定は延期された (連体修飾節)

b. *[太郎の名古屋に行く] 予定だ

c. [太郎は名古屋に行く] 予定だ (人魚構文)

角田 (2011) によればこうした人魚構文はモンゴル語などを含むアジアの言語にのみ見 られる珍しい現象であるという。

ダグール語においては、とくにハイラルで次のような語が人魚構文または疑似人魚構文 の名詞部分として述語複合体の一部を担う。例とともに示す (3-45, 3-46, 3-47, 3-48)。

(3-45) duar-tie {preference-PROP} 「好きだ」

bii suni duandaar ǰagus batgu duartiebie.

bii suni duand-aar ǰagus bat-gu duar-tie=bie

1SG night middle-INS fish to.catch-FUT preference-PROP=1SG

「私は夜中に魚釣りするのが好きだ」(塩谷 1990: 73)

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beyee sain bolgooyaa geleesee, dangaa eegu keregtiebie.

bey-ee sain bolgoo-yaa gel-ees-ee, dang-aa ee-gu body-REFL good to.make-VOL to.say-COND-REFL tabaco-REFL to.quit-FUT

kereg-tie=bie

necessity-PROP=1SG

「健康になりたいなら煙草をやめなければならない」(塩谷 1990: 67)

(3-47) sanaa-tii {thought-PROP} 「つもりだ」

bii nekend ičigu sanaatiibie.

bii nekend ič-gu sanaa-tii=bie 1SG together to.go-FUT thought-PROP=1SG

「私は一緒に行くつもりだ」(塩谷 1990: 80)

(3-48) maged {possible} 「かもしれない」

ter gertee hariǰ anieǰ ul šadgu maged aa.

ter geri-t-ee hari-ǰ anie-ǰ ul šad-gu that house-DAT-REFL to.return-SIM to.spend.the.New.Year -SIM NEG to.be.able-FUT maged

possble

「彼は家に帰って新年を過ごせないかもしれない」

(塩谷 1990: 88 ※文末の aa は分析に現れない要素。4.1.3.7. 参照)

いずれも直前の動詞は、連体修飾可能な形動詞形 (cf. 2.2.) の未来 -gu を伴うものである。

形動詞形の完了 -sen を伴う例は見いだせず未検証だが、maged については「過去の可能性」

を表す用法として -sen maged がありうるかもしれない。また、(3-45)~(3-47) における名詞 類の部分は -tii を伴う表現である。

これらはいずれも話者の主観的態度を表す。先行する動詞の動詞接辞さえ調整すれば後 続する名詞類を削除しても話者の態度以外に変化なく文が成立するもので、この表現によ ってモダリティ的な意味が付与されていると考えることができる。

3-45 は「好む」という表現で、名詞類の与位格形を取って「~が好きだ」という表現を

することも可能である。この語は、名詞類を好意の対象とする場合には与位格を取る (3-49) のに対し、動詞述語と組み合わせる際には動詞述語に与位格接辞を付すことはしない。

(3-49) taa hulaandini duartii kawtaa?

taa hulaan-d-ini duar-tii kaw=taa 2PL red-DAT-3SG preference-PROP SFP=2PL

「赤いのが好きですか」(恩和巴图 (编著) 1988: 240)

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こうした人魚構文の表現は先述の通りハイラルに多いが、ブトハにおいて見られる若干 の例 (3-50, 3-51) も以下に挙げておく。

(3-50) albii baitaa saiken akenbuugu giaantii.

alb-ii bait-aa saiken akenbuu-gu giaan-tii mission work-REFL well to.complete-FUT necessary-PROP

「任務はきちんと全うせねばならない」(恩和巴图 (编著) 1988: 417)

(3-51) nek sarč yawgu boolǰoonwei.

nek sar=č yaw-gu boolǰoon=wei one month=also to.go-FUT certainty=NEG.EXIS

「一か月も行くのかもしれない」(恩和巴图 (编著) 1988: 417)

チチハルでは、el-ǰ san-ǰ+aa-wei {to.say-SIM to.think-SIM+to.be-NPST}「~とおもっている」

などのような動詞的表現、kawoo「だろう」などのような終助詞表現がよく用いられ、人魚 構文は避けられるのかもしれない。また「好む」という表現については、動詞taal_「好む」

が用いられる (3-52)。

(3-52) bii šanǰauyii aidug taalebbi.

bii šanǰau-ii aidug taal-bei=bi 1SG banana-GA very to.like-NPST=1SG

「私はバナナがとても好きだ」 (風間・山田 2014)

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ドキュメント内 「ダグール語の述部の諸相」 (ページ 89-94)