第二章 動詞の形態的特徴
2.3. 派生接辞
本節では動詞語幹に後続する接辞のうち、文法的な派生接辞を 2.3.1. で扱い、その他の 派生接辞を 2.3.2. で扱う。これらは動詞の意味や語彙的な性質などの点で重要な要素であ る。しかし本論文の主たる関心ごととはあまり関係しないため、簡略に扱うこととする。
なお本論文では本節での記述を除き、こうした派生接辞についてはとくに例文上で形態分 析を施さない。
2.3.1. 文法的な派生接辞
派生接辞のうち、相や態などの意味を動詞に付与するものは、動詞語根と動詞接辞の間 に現れ、動詞語根と合わせて動詞語幹を成す。図 2-1 (再掲) では派生接辞①がこれに該当 する。
(動詞前辞) 動詞語根 (-派生接辞①)
動詞語幹 -動詞接辞
-派生接辞②
図2-1 (再掲): 動詞の基本構造
この図のように文法的な派生接辞 (派生接辞①) は動詞接辞とパラダイムを成さず、語の 最後尾にはやはり動詞接辞を付すことが必須である。こうした文法的な派生接辞は 2 つ以 上の接辞を連続的に付すことも可能である。
異形態の選択が語彙的であったり、接続の可否が語の意味によって制限を受けたりする 点において派生接辞らしさがあるが、とくに態の意味を表すもの (例2-6) はどんな動詞語 幹にも比較的幅広く付しうる点で文法接辞よりな要素である。
ここでは以下に恩和巴图 (编著) (1988: 375-384) より当該要素を列挙するに留める (2-6)。
これらの要素が付されてもなお動詞語幹であるため、これらの派生接辞にも動詞語幹であ ることを示す _ を付す。
(2-6) 態を表すもの
使役 -lgAA_ id_「食べる」 > idelgee_「食べさせる」
-lkAA_ sau_「座る」 > saulkaa_「座らせる」
-gAA_ bol_「成る」 > bolgaa_「成らせる、する」
-kAA_ bos_「起き上がる」 > boskaa_「起こす」
-AA_ panč_「怒る」 > pančaa_「怒らせる」
受動 -rd_ uǰ_「見る」 > uǰerd_「見られる」
衆動・相互 -lč_ bari_「つかむ」 > barilč_「つかみあう、相撲を取る」
(恩和巴图 (编著) 1988: 375-382)
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(2-7) 相を表すもの
反復 -ǰoo_, -čoo_ yaw_「行く」 > yawǰoo_「行ったり来たりする」
瞬間 -lAA_ šag_「拭く」 > šaglaa_「さっと拭く」
(恩和巴图 (编著) 1988: 382-384)
この他、移動動詞 ir_「来る」とič_「行く」は -IIr_, -IIč_~-(i)č_ のような接辞として「~
しに来る」「~しに行く」というような目的を果たすために移動する意味を表す用法があ
り (2-8)、恩和巴图 (编著) (1988) はこれを一種のアスペクト接辞であるとして扱っている。
(2-8) udeš šamii eriičsen aasenbi.
udeš šamii eri-ič-sen aa-sen=bi yesterday 2SG.ACC to.search-to.go-PERF to.be-PERF=1SG
「昨日君に会いに行ったんだよ」(恩和巴图 (编著) 1988: 386)
2.3.2. その他の派生接辞
これは文法的な動詞接辞と異なり、付される語幹が語彙的に限られ、どんな語幹に付さ れるか、また付された結果どのような意味機能が付与されるか共時的に予測しがたいもの である。これは動詞接辞とパラディグマティックな関係のもので、1つの語の内部で動詞接 辞と同時に現れることはない。動詞接辞が付されない以上動詞ではないので、その主たる 機能は動詞語幹を動詞以外の語類へと転換するものであると見ることができる。中には動 詞接辞と同形のものもあるが、この場合その当該接辞が派生接辞であるか否かは意味的に 判断するしかない。
以下に恩和巴图 (编著) (1988: 534-543) より代表的な派生接辞を列挙する (2-9)。
(2-9) -s nemb_「覆う」 > nembes「掛け布団」
-r alku_「歩く」 > alker「歩み」
-nku turki_「押す」 > turkenku「鍵」
-del sor_「学ぶ」 > sordel「教養」
-AA tari_「植える」 > tarie「田畑」
-š oo_「飲む」 > ooš「飲み物」
-leg aminaa_「暮らす」 > aminaaleg「生活」
-l šad_「できる」 > šadel「能力」
-AAr melǰ_「競う」 > melǰeer「競争」
-AAč daul_「歌う」 > daulaač「歌手」
(恩和巴图 (编著) 1988: 534-543)
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とくに最後の -AAč は恩和巴图 (编著) (1988: 348) が動詞接辞としても扱っている形式 であるが、本論文ではこれについて使用頻度の低さから動詞接辞と見なさず、あくまで派 生接辞であると見る (cf. 2.2.2.)。
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