4.まとめと課題
ライフスタイルの多様化により食生活も変化している。これに伴って,様々 な問題が引き起こされており,生活習慣病やメタボリックシンドロームといっ た健康にも影響を及ぼして,食と健康の関わりは重要視されてきた。2005年に は「食:育基本法」が制定され,「食育」という言葉が一般的に使われるように なり,食育は国民運動として展開されており,様々な取り組みが行われている。
食育については,「知育・体育・徳育よりも先ず食言」といわれており,保育 園や幼稚園,小学校などの教育現場では,教育課程に栽培などの食育活動が取 り入れられるようになり,これまで以上に,給食を生きた教材として積極的に 活用することが推奨されている。しかし,高等学校では社会へ出る最終段階に あり,生活の自立に直面しているにもかかわらず,学校給食から離れることと も関係してか,学校をあげての「食」に対する教育は必ずしも重要視されてい ないようである。そこでわれわれは,食物摂取状況の問題として野菜類が少な く,菓子類が多い高校生に対して,「望ましい食習慣の形成」を目標とした栄 養教育プログラムを計画し,実施と評価を繰り返し行ってきた。
第3章で述べたように,4回連続で実施した栄養教育プログラム2005の後に
ある。
栄養教育プログラム2005では,振り返りの記述分析による評価を行った。
手立ての明確化まで記述できていた者が増加したという結果が得られたが,記
述レベルと野菜の摂取量からみた行動変容との直接的な関係を見いだすこと
はできなかった。今後,記述内容との関係を詳細に分析して,プロセス評価として用いる記述カテゴリーをさらに検討しなければならない。また,栄養教育
プログラム2005の分析では,全体的な評価しか捉えていないので,個々の生
徒の行動変容を調べ,行動変容別に学習の前後の態度や行動を比較するなどし て,効果をもたらした要因を明らかにしていかなければならない。この点に関 連して,授業前は野菜摂取量が必要量に達していないにもかかわらず,摂取量 が「ふつう」「多い」と自己評価している者が多かったことを第3章で記述し たが,これを受け,共同研究者は,野菜摂取量において必要量に達していない が,望ましい行動変容が見られた生徒では,自己評価が「少ない」「ふつう」の回答が増加したという分析予備結果を得ている。すなわち,野菜類摂取量の 変容に良好な傾向が見られた要因の一つは,摂取量に関する自己評価ができる ようになったことにあると考えられる。したがって,適確な概言把握や振り返 りができるようになることは重要であり,ここに至る教育内容や方法の検討が 必要であろう。
われわれのプログラムには,既存の学習ツールであり,すでに有効性が検証 されている「弁当箱学習法」を活用し,また比較的新しい「食事バランスガイ ド」も使用した。いずれに対しても生徒は興味をもって取り組んでいた。これ
らは,選択行動の単位が1食と1日という違いはあるものの,食生活指針をベ
ースにした料理選択型のツールである。そして食事の全体量のとらえ方は,弁 当箱学習法では弁当箱の大きさ(ml)に,食事バランスガイドではエネルギー 量(kcal)に基づいており,理解しやすいのではないだろうか。このようなツールを家庭科の学習内容と関連づけながら摂取量の自己評価や概量把握に今
後も活用すれば,実践しようという意図を高め行動変容が期待できるのではな いかと考える。また,プログラムの学習内容を誤解していたり,十分理解でき ていない生徒もいることを考えると,継続的なプログラムが有効と考えられる が,この点については,今後の評価で明らかにしていきたい。要約
社会に出る準備段階にある高校生に,自分で食生活を管理する力を身につけ させるために,高等学校の授業時問詰で実践可能な栄養教育プログラムが必要 であると考えて,プログラムを計画・実施し,実践を通してプログラムを評価 することを研究の目的とした。
まずプログラムの計画・実施に向けて,2004年に兵庫県立A高等学校の2 年生233名(男子103名,女子130名)を対象に食生活調査を行ったところ,
以下の結果が得られた。
1.栄養や食品に関する基礎的な知識はあるが,食事量や献立改善などに関す る知識は断片的であり実生活に活用できる知識があるとは言えない。
2.食行動を望ましい方向に変えようとする意図は比較的高い。
3.行動変容の意図が高い者は,食物摂取状況が良好である。
4.野菜の摂取量が目標値に対して下回っている一方で,菓子の摂取量が多い。
5.栄養素等摂取については,カルシウムや鉄,食物繊維が不足しているが,
半数近くの者では,脂肪エネルギー比率が適正範囲を超えており,食:物摂取状 況では個人差が大きい。
これらの結果より,学習者に自分の食生活の問題点を気づかせ,自分の食事 量を把握させることを通して,「望ましい食習慣の形成」を目標とするプログ
ラムを計画した。
2004年度のプログラムの試行を経て,2005年度(2006年1月〜2月)には,
「栄養教育プログラム2005」を実施した。プログラムの具体的な学習目標を「自 分に合った食事量を理解し,主食・主菜・副菜のそろった食事を主体的に選択 できるような食習慣の形成」とし,中でも副菜の適正摂取に焦点を当てた。ま た,振り返りに重点をおいた4回のプログラムとした。プログラムの概要は以 下に示す通りである。
第1回:食事の量とバランスの問題に気づく。
第2〜3回:調理を通して野菜の適正摂取量を把握する。
実施前後の食生活調査と学習過程のワークシートの記述内容などの分析か
らプログラムを評価した結果は以下に示す通りである。1.調理実習という体験型の活動や,自分のふだんの弁当を教材とした演習を
取り入れた第3回と第4回では,「内容の満足度」や「内容の興味」の得点が
相対的に高かった。2.調理実習の野菜と肉を見て,自分なりに考えた概量把握法を回答させた。
生の緑黄色野菜と加熱後の肉に対する妥当率は,いずれも約75%であったが,
全体的に妥当な回答をした生徒は約半数に留まった。
3.事後には,野菜の摂取量が増加しており,特に,女子の緑黄色野菜が有意 に増加していた。また,菓子類・嗜好飲料類を合わせた間食由来のエネルギー は男女とも事後には有意に減少しており,食物摂取状況からみると良好な結果 が得られた。
4.食生活の振り返りに関する記述を分析したところ,自分の食生活を「自己 評価」することやこれからの生活への「行動意欲」に加えて行動変容への「明 確な手立て」まで記述できたものは,1回目では3%であったが4回目では48%
に増加していた。しかし,「手立ての明確化」に至った生徒とその他の生徒で 野菜摂取量を比較すると,有意な差はなく,記述レベルは野菜の摂取量からみ た行動変容とは直接つながっていないようである。今回は野菜の摂取量しか分 析していないので,今後,菓子類についての分析や振り返りの内容別に摂取量 の変化などを調べなければならない。
さらに2007年度には短期連続の実施ではなく,通年に渡り,プログラムの
内容を分散させて家庭科の授業と関連づけながら行う「改訂プログラム」を実 施しており,実施方法の検討を進めている。栄養教育プログラム2005の実施後には,食:物摂取状況が良くなるという結 果を得ることができたが,ここに至るプロセスを明確にすることはできなかっ た。しかし,得られた結果を総合的に評価すると,摂取概量を自分なりに把握 することができ,摂取量に対する自己評価が適確に行えるようになると行動変 容への可能性が期待できるのではないかと考える。
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