第 2 章 付加価値誘発に基づく中日付加価値貿易分析
3.3 輸出構造
産業3部門14に分けて、中日間の輸出構造(図表 2-7)を分析する。伝統貿易で見る輸 出構造では、中日両国とも製造業中心の輸出構造をとっている。1995年から2015年にか けての伝統貿易で見る輸出構造について、中国の対日本輸出に占める第1次産業と第3次 産業の比重の低下及び第2次産業の比重の上昇が見られる。これに対して、日本の対中国 輸出を見れば、第3次産業の比重の低下及び第2次産業の比重の上昇が見られる。
付加価値貿易で見る輸出構造について、中国では第2次産業を中心としたが、日本では
14 第1産業は農林水産業と採掘業であり、第2次産業は製造業であり、第3次産業はサービス業であ る。
1995年 2000年 2005年 2010年 2015年 1995-2015 拡大金額
1995-2015 拡大倍率 農林水産 1 2 3 5 19 18 18 鉱物 0.3 0.4 0.8 1.3 3 2 8 食料品・タバコ 1 2 6 10 29 28 30 繊維・衣服・皮革 3 4 5 6 10 7 4 石油・石炭製品 2 3 9 15 21 19 10 化学品・ゴム製品 10 19 47 95 158 148 16 金属精錬・製造 14 19 54 117 163 149 12 一般機械 18 21 65 145 148 130 8 電気・電子機械 20 45 86 147 184 164 9 輸送機械 3 6 27 81 135 132 45 その他製造業 6 10 23 39 74 68 12 電気・水道・ガス 4 7 16 28 59 56 16 建設 1 3 4 7 22 20 15 運輸 14 16 49 70 109 96 8 通信 2 5 8 15 39 37 19 その他サービス業 62 101 225 409 790 728 13
29
第 2 次産業と第 3 次産業が五分五分の状態である。伝統貿易ベースと付加価値貿易ベー スの輸出構造が異なる原因は、第2次産業の輸出には大量な第 1次産業と第3次産業の 付加価値を含まれているからである。中国の対日本輸出の第 2 次産業の生産に必要な原 材料及びサービスの調達を行うため、第 1 次産業と第 3 次産業の割合の両方の上昇が見 られる。これに対して、日本の対中国輸出には第3次産業の割合の上昇しか見られない。
そして、第3次産業の割合の拡大が非常に顕著であり、拡大する幅もだんだん大きくなっ た。
図表2-7 中日間の輸出構造
(単位:%)
中国対日本輸出
1995年 2000年 2005年 2010年 2015年
伝統貿易
第1次産業 10 5 4 2 2 第2次産業 61 68 86 89 88 第3次産業 29 26 10 9 10
付加価値貿易
第1次産業 20 16 18 15 12 第2次産業 40 44 51 54 50
第3次産業 40 40 31 31 39
日本対中国輸出
1995年 2000年 2005年 2010年 2015年
伝統貿易
第1次産業 0.2 0.2 0.1 0.1 0.2 第2次産業 69 73 75 80 78 第3次産業 31 27 25 20 22
付加価値貿易
第1次産業 1 1 1 1 1 第2次産業 48 49 51 55 47
第3次産業 52 51 48 44 52
4 比較優位
ヘクシャー=オーリンは各国が相対的に豊富に保有する生産要素を集約的に使用する 財に比較優位を持ち、それぞれの比較優位性を持つ財に特化して生産、輸出すると双方の 利益になると主張している。比較優位を示す代表的な指標には貿易特化係数(NER:Net
Export Ratio)がある。特定国における特定財の貿易特化係数は、その財について純輸出額
(輸入額-輸入額)とその貿易総額(輸出額+輸入額)の比率として定義される。貿易特 化係数の値は-1<NER<1の範囲にあり、NER 値が1 に近づくほど比較優位となり、
-1に近づくほど比較劣位となる。0に近いほど輸出入均衡である。
伝統貿易ベースの特化係数を見ると、日本が比較優位を持つのは、輸送機械、一般機械、
金属精錬・製造、化学品・ゴム製品、石油・石炭製品、建設、輸送及びその他サービスで ある(図表2-8-1)。日本が比較劣位を持つのは、農林水産、採掘業、食料品・タバコ、繊 維・衣服・皮革、その他製造、電気・水道・ガス及び通信である。電気・電子機械の特化 係数が正から負になったが、0に近くのほぼ均衡状態である。
一方、付加価値貿易ベースの特化係数は、伝統貿易ベースの特化係数と比べて、まず、
機械類がより高くなっている(図表 2-8-2)。なかでも、電気・電子機械において日本は、
30
貿易総額では、2005、2010、2015 年に比較優位(中立)がほとんどないように見られる が、付加価値貿易では一貫して比較優位を持つようになっている。このことから、伝統貿 易で見ると中日間の輸出入が均衡に見える日本の電気・電子機械は、実際に中国へより多 くの付加価値を輸出していることが判明した。
伝統貿易では、比較優位を持つ財貨・サービスを輸出するのが利益になるが、付加価値 貿易から見ると、必ずしもそうではない。収益性の高い生産工程がより多くの付加価値を 生み出すということで、優位性を持つのである。例を挙げると、電気・電子機械は最も典 型的な「スマイル・カーブ」 を示す部門であり、最終の加工・組み立ての工程より、部 品・素材を生産する工程の収益性は高い。一般的に中間財輸出が多い分野は、部品・素材 生産工程にあり、最終財輸出が多い分野は組み立て工程にある。電気・電子機械部門では、
日本の対中国輸出に占める中間財の比率が高く、2015年には 71.2%である(図表 2-9)。 部品・素材部門の収益性が高い。それに対して、中国の電気・電子機械において対日本輸 -1.0
-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
農林水産 石炭・原油・天然ガス その他鉱物 食料品・タバコ 繊維・衣服・皮革 石油・石炭製品 化学品・ゴム製品 金属精錬・製造 一般機械 電気・電子機械 輸送機械 その他製造業 電気・水道・ガス 建設 運輸 通信 その他サービス業
図表2-8-1 伝統貿易ベースの日本の対中国特化係数
2005年 2010年 2015年
-1.0 -0.8 -0.6 -0.4 -0.20.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
農林水産 石炭・原油・天然ガス その他鉱物 食料品・タバコ 繊維・衣服・皮革 石油・石炭製品 化学品・ゴム製品 金属精錬・製造 一般機械 電気・電子機械 輸送機械 その他製造業 電気・水道・ガス 建設 運輸 通信 その他サービス業
図表2-8-2 付加価値貿易ベースの日本の対中国特化係数
2005年 2010年 2015年 図表2-8 日本の対中国特化係数
31
出に占める最終財の比率は高く、2015年に63.9%に達している(図表2-10)。さらに貿易 方式別に見ると、最終財輸出に占める加工貿易の比率は、2005 年に 82.8%であった。そ れから低下してきたが、2015 年には 78.5%となり、依然として高い。このことから、中 国の電気・電子機械部門は組み立て工程に位置することが言えよう。
図表2-9 日本の対中国電気・電子機械及び輸送機械の財別輸出総額及び比率
(単位:億ドル・%)
年次
電気・電子機械 輸送機械
中間財 最終財 中間財 最終財
輸出総額
2005 181 69 23 25
2010 235 149 43 121
2015 294 119 60 99
比率
2005 72.3 27.7 47.5 52.5
2010 61.1 38.9 26.2 73.8
2015 71.2 28.8 37.7 62.3
(資料)GVC分析用中日表による。
図表2-10 中国の対日本電気・電子機械の財別輸出総額及び比率 (単位:億ドル・%)
2005年 2010年 2015年
輸出総額
中間財 114 152 175 非加工貿易 13 26 36 加工貿易 101 126 140 最終財 127 202 311 非加工貿易 22 38 67 加工貿易 105 164 244 合計 241 354 487
比率
中間財 47.2 42.9 36.1
非加工貿易 5.3 7.4 7.3 加工貿易 41.9 35.5 28.7
最終財 52.8 57.1 63.9
非加工貿易 9.1 10.7 13.8 加工貿易 43.7 46.4 50.2
合計 100.0 100.0 100.0
(資料)GVC分析用中日表による。
しかし、すべての産業の輸出の国内付加価値率の分布が「スマイル・カーブ」のように 見られるわけではない。輸送機械はその例である。猪俣[2014]によると、輸送機械の生産 は電気・電子機械と異なり、最後の組み立ての工程には高い技術力が必要なので、必ずし
32
も利益が低いのではない。そのため、輸送機械において、加工・組み立て工程の利益が高 い。最終財を輸出するのがより多くの利益を得ることが出来る。輸送機械部門において、
日本の対中国輸出に占める最終財の比率は、2005年に52.5%、2010年に73.8%に上昇し、
2015年に62.3%に低下したが、比較的に高い水準にある(図表2-9)。日本の付加価値貿 易ベースの特化係数も同じように一旦上昇した後低下したのは前述した通りである。これ に対して、中国の輸送機械の対日本輸出に占める最終財の比率は低い。例えば、2015 年 には40.8%と日本(2015年62.3%)と比べて20ポイント以上の差がある。また、中国の 輸送機械の最終財輸出のなか付加価値率の低い加工貿易により多く占められている。輸送 機械の最終財輸出に占める加工貿易の比率は、2005年に67.7%に達したが、2015年には 46.9%にまで低下してきた(図表2-11)。
図表2-11 中国の対日本輸送機械の財別輸出総額及び比率
(単位:億ドル・%)
2005年 2010年 2015年
輸出総額
中間財 11 22 38
非加工貿易 6 14 27 加工貿易 5 8 11
最終財 10 18 26
非加工貿易 3 7 14 加工貿易 7 11 12 合計 21 40 65
比率
中間財 54.0 55.1 59.2
非加工貿易 29.5 34.2 42.1 加工貿易 24.5 20.9 17.1
最終財 46.0 44.9 40.8
非加工貿易 14.9 17.9 21.7 加工貿易 31.1 27.0 19.2
合計 100.0 100.0 100.0
(資料)GVC分析用中日表による。
以上で見たように、付加価値貿易から見ると利益の高い生産工程を行う国がより多くの 付加価値を輸出することができ、その分野で比較優位を持つようになる。日本はその1つ の例である。しかし、2015 年の付加価値貿易ベースの日本の対中特化係数を見ると、一 般機械、電気電子機械では日本の比較優位は低下傾向にある。逆に、中日貿易において中 国のこれらの部門は利益の低い生産工程から利益の高い生産工程へとシフトしていると も言える。
5 むすび
本章では中国と日本の間の付加価値貿易額を計測し、その構造変化を分析した。そして、
付加価値貿易ベースで見る中日間の比較優位について分析した。本章の主要な結果は次の 通り整理できる。
33
まず、中国の対日本貿易は伝統貿易では黒字であるが、付加価値貿易では赤字である
(例えば2015年について)。伝統貿易だけで中日貿易を見るのは、中国の対日本貿易黒字 を過大評価する可能性が高い。
そして、製造業輸出にはサービス業及び第1次産業の付加価値が含まれている。日本の 輸出に含むサービス業の付加価値が多い。日本の製造業輸出が研究開発、デザイン、販売、
運輸、通信情報など一連のサービス業への波及効果が強い。一方中国の製造業輸出に含む 第1次産業多いが、製造業輸出に含むサービス業の付加価値が日本と比べてまだ少ない。
伝統貿易統計では、GVC の川上の原材料部門や研究開発、デザインなどのサービス部門 および川下の販売、アフターサービスなどの重要性を過小評価している。中国でも、研究 開発やデザインなどの川上工程に一層力を入るなら、製造業の競争力を高める。
さらに、付加価値輸出を部門別にみると、日本の対中付加価値輸出は、主に化学品、金 属、機械類およびその他サービスを中心としている。これに対して、中国の対日本付加価 値輸出は各産業に及んでいるが、まだ第1次産業と労働・資源集約的産業の競争力が相対 的に高く、資本・技術集約的産業には成長する余地が十分ある。
最後に、伝統貿易では、一般的に要素賦存に基づく比較優位の財貨・サービスを輸出す ると利益になるとされるが、付加価値貿易では、収益性の高い生産工程が優位性を持つ。
伝統貿易によると、電気・電子機械の産業では産業内貿易に起因して、中日の比較優位が 中立である(輸出入の均衡状態)が、本研究の付加価値貿易による分析では、日本の比較 優位性が確認できた。ほかに、日本の一般機械、輸送機械の比較優位性は、伝統貿易の場 合と比べて高い。