第1節 緒言
オレン ジ類(Citrus sinensis)は,ミ カン 科 ミカン 属の常 緑小 高 木にな る果 実で,C. aurantium に 属して おり, スイ ー トオレ ンジ, サワ ー オレン ジ,マ ンダリ ンオレ ンジ に 大別さ れる.オ レン ジ 類は国 内で最 も消 費 されて いる果 汁のひ とつで あ り 4 ),スイー トオレ ンジ の うち普 通オレ ンジ に 属する カンキ ツの果 汁が頻 用さ れ ている.スイ ート オ レンジ の品種 には ,普通オ レンジに 加えて ネーブ ルオ レ ンジと ブラッ ドオ レ ンジが ある.国 内で 栽 培され ている オレン ジの大 部分 は ネーブ ルオレ ンジ で あり ,現 在 ,日 本市 場 で流通 してい るオレ ンジ果 汁 の 90%以上は輸入 品で あ る .主 な輸 入先は ,ブラジ ル,メキ シ コ, イ ス ラエ ル な ど であり 5 3), オレ ン ジ 果実 そ の も の よ り も 輸送 コ スト および 保存性 の観 点 から冷 凍濃縮 した 状 態(Frozen concentrated orange juice; FCOJ)で輸入 され る ことが 多い .関 税法 に よっ て,オレ ンジ 果汁は 濃縮果 汁 全重量 中のシ ョ糖 含 量が 10%以上の 場合 には 25.5%の関 税率 (WTO 協定 関 税率) が課せ られ ,10%以下では 21.3%の関税率 となる .す な わち, 濃縮果 汁 全 重 量 中 の シ ョ 糖 含 量 が 多 い ほ ど 関 税 率 が 高 く な る よ う に 定 め ら れ て い る.し たが って ,シ ョ糖含 量の低 い果 汁 の輸入 量が増 加し て いるが ,JAS 規 格では 砂糖( ショ 糖 )類,蜂 蜜等 の添 加 が認め られて いる た め ,果 汁には本 来含有 されて いな い 成分が 混入さ れ,真 正性が 疑われ るケ ー ス があ る 8 ).し かしな がら,JAS 規格 では糖 用屈折 計示 度 などの 規格が 存 在 す る のみ で真正 性 を 評 価 す る 項 目 は な い 5 4 ). 一 方 , 欧 州 で は 果 汁 の 消 費 量 が 増 加 す る に 伴 い,果汁に 安価 な糖 や酸を 混入す る果 汁 偽和の 問題が 多数 発 生して いる 5 5). そこ で, 果汁 の真 正 性を 確保 する ため , 欧州 連合 では AIJN5 6 )や SGF5 7 )が真
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正 果 汁 の 成 分 含 量 の 範 囲 を 示 し た 規 格 や デ ー タ ベ ー ス を 作 成 し て い る . AIJN の定 める 果汁ガ イドラ イン 5 6 )は 主に 欧州で 広く用 いら れ ており ,糖類 や有機 酸なら びに ミ ネラル 成分など 50 成 分以上 につい ての 上 限 値と 下限値 が詳細 に設定 され て いる .
これま での研 究に よ り,オレ ンジ 果汁 に ついて は,糖 や有 機 酸の含 量が嗜 好性と 関連す る こ と が報告 されて い る 5 8 ).また ,原 料 で あるオ レンジ の品種 により フラボ ノイ ド や香気 成分の 種類 と 量比 が 異なる こと 5 9 , 6 0 )が報 告され ており,オレン ジ果 汁の品 質決定 因子 と なって いる.し かし ながら,我が国 に 輸 入 さ れ て い る 濃 縮 オ レ ン ジ 果 汁 に つ い て 品 質 成 分 に 関 す る 詳 細 な 検 討 はなさ れてお らず,産 地によ る濃縮 オレ ン ジ果汁 の品質 決定 成 分の違 いにつ いては 不明で あっ た .そこで 本章 では,果 汁の真 正性評 価 の た め に有 用な因 子を明 らかに する こ とを目 的とし て,産 地 の異な る濃縮 オレ ン ジ果汁 を用い て品質 成分を 分析 し た.特 に,色 調,糖 ,有機酸 ,フラ ボ ノ イ ド およ び香気 成分を 品質に 関連 す る項目・対象 成分 に 選択す るとと もに ,産地判 別法に活 用され ている 元素 濃 度およ び重元 素同 位 体 比 に ついて も検 討 を行っ た.
第2節 実験材料および方法
第1項 実験材料
冷凍濃 縮オレ ンジ 果 汁は一 般社団 法人 日 本果汁 協会よ り入 手 した.試 料の 内訳は ブラジ ル 産 16 種類, アメリ カ合 衆 国産 8 種類 ,メキ シ コ産 4 種類,
ベリー ズ産 4 種類 ,イスラ エル 産 4 種 類 の合 計 36 種類 である .試 料は-80°C で保存 し,測 定時 に は AIJN の果汁 ガイ ド ライ ン 5 6 )に 準拠 して ,糖用 屈折計 示度 が 11.2°Brix とな るよう に蒸留 水で 希 釈した .
28 第2項 実験方法
1.色調測 定
オレン ジ果汁 の色 調 は,測 色式 差計(Color meter ZE6000, 日本 電色工 業㈱
製)で 反射式 によ り 測定し ,L*, a*, b*値 を求め た 6 1 ).
2.グルコ ース ,フル クトー スおよ びス ク ロース 量の測 定
オレン ジ果 汁 5.0 mL に精製 水 30 mL を 加 え, 0.1%(w/v)水 酸 化ナト リウ ム溶液 で pH 6.8 に調 整した .次い で 30 分 間超音 波処理 (出 力 ;200 W,発 振周波 数;39 kHz,UT-204,シャー プ㈱製 )した後 に 50 mL に 定容し,試料 溶液と した.試料溶 液 0.75 mL に等 量の アセト ニトリ ルを 混 合し,シ リン ジ フィル ター(孔 径 0.45 μm, セ ルロー スア セテー ト, Advantec 東 洋㈱製 )で ろ 過 し た 後 に , 高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ (HPLC) 分 析 に 供 し た . 装 置 は Prominence LC-20(㈱島津製 作所製 ),検 出 器 は示 差屈折 率検 出 器(RID-10A,
㈱島津 製作所 製) を 用いた .カラ ム は Shodex Asahipak NH2P-50 4E(250 × 4.6 mm I.D., 5 μm, 昭 和電工 ㈱製) 用い , カラム 温度 は 40°C, 移動相 は 75%
(v/v)アセ トニ トリ ル,流 速は 1.0 mL/min とした .定性 は標 準溶 液(10 mg/ mL) の保持 時間と の照 合 で行い,定量は 標準 溶 液のピ ーク面 積と の 比較に より行 った.
3.クエン 酸お よびリ ンゴ酸 量の測 定
オレン ジ果 汁 2.0 mL を遠心 分離(3,300×g, 5 min, CFM-1300,AGC テク ノ グラス ㈱製) し , 上 清をシ リンジ フィ ル ター( 孔径 0.45 μm, セルロ ースア セテー ト, Advantec 東洋㈱ 製)で ろ過 し た後,HPLC 分析に 供した .装置 は LC-10ADvp(㈱島 津 製作所 製),検出 器は 紫 外(UV)検 出 器(SPD-10AVvp,
㈱島津 製作所 製) を 用いた .カラ ム は LiChrospher 100RP-18(250 × 4.0 mm
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I.D., 5 μm,Merck㈱製)を 用い, カラ ム 温度は 35°C, 検出 波 長 は 210 nm, 移動相 は 0.2%(w/v)メタリ ン酸溶 液,流 速は 1.0 mL/minとし た.定性 は標 準溶液(20 mg/ mL)の保持 時間と の照 合 で行い ,定 量は標 準 溶液の ピーク 面 積との 比較に より 行 った.
4.イソク エン 酸量 の 測定
前 述 の ク エ ン 酸 お よ び リ ン ゴ 酸 量 の 測 定 と 同 様 の 方 法 で 調 製 し た 試 料 を イオン クロマ トグ ラ フ分析 に供し た.装 置 は DX-500(Thermo Fisher Scientific
㈱製 ),サ プレ ッサ は ASRS-ULTRA II( リサイ クルモ ード ,232 mA),検 出 器は電 気伝導 度検 出 器(ED50,Thermo Fisher Scientific㈱製) を用い た.分 離カラ ムは IonPacAS11-HC(250 mm × 4.0 mm I.D.,Thermo Fisher Scientific
㈱製 ),ガー ドカラ ム は IonPacAG11-HC(50 mm × 4.0 mm I.D.,Thermo Fisher Scientific㈱製) を用 い,カ ラム温 度は 35°C,移 動相 A は超 純 水 ,移 動相 B は 0.1 M 水酸化ナ ト リウム 溶液, 流速 は 1.5 mL/minと した. グラジ エント 条件 は B 液 濃度 を 1%(0~8 分),1→25%(8~28 分 ),25→60%(28~38分)
とした .定 性は 標準 溶液(20 mg/ mL)の 保持時 間との 照合 で 行い ,定量 は標 準溶液 のピー ク面 積 との比 較によ り行 っ た.
5.総アス コル ビン酸 量の測 定
総アス コルビ ン酸 量 の測定 は Sawamura らの方 法 6 2 )に準 じて 行った .ま ず,オ レンジ 果 汁 2.0 mL を 遠心分 離(5,000×g, 5 min, CFM-1300, AGC テク ノグラ ス㈱製 )し 上 清を得 た.上 清 300 μL にエタ ノー ル 600 μL およ び 8%
(w/v)メ タリ ン酸溶 液 300 μL を加 えて 混 合した 後 ,遠心分 離(1,800×g, 15 min, テーブル トッ プ 遠心機 4000, 久保 田 商事㈱ 製) を行い , 回収し た上清 500 μL に 0.3 M リン 酸三ナ トリウ ム溶 液 100 μL およ び 1.2%(w/v)水硫 化
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ナトリ ウム溶 液 100 μL を混 合した .混 合 液を 35°C で 20 分間 加温し た後,
8%(w/v)メ タリ ン 酸溶液 300 μL を添加 して HPLC 分 析に供 した. 装置は LC-10Avp(㈱島 津 製 作 所 製 ), 検 出 器 は UV 検 出 器 を 用 い た . カ ラ ム は LiChrospher 100RP-18(250 × 4.0 mm I.D., 5 μm,Merck㈱製)を 用い,カラム 温度は 40℃, 検出 波 長は 243 nm,移 動相 は 0.2%(w/v)メ タ リン酸 溶液,
流速 は 0.76 mL/min と した.定性 は標準 溶 液(10 mg/mL)の保 持時間 との照 合で行 い,定 量は 標 準溶液 のピー ク面 積 との比 較によ り行 っ た .
6.フラボ ノイ ド量の 測定
フラボ ノイド 量の 測 定は Nogata らの方 法 6 3 )に準 じて行 った . オレン ジ果 汁 6.0 mL を遠 心分離 (4,670×g, 5 min,テ ーブル トップ 遠心 機 4000, 久保 田 商事㈱ 製)し, 上 清 を回収 した. 回収 し た上清 を Sep-Pak C1 8 カート リッジ
(日本 ウォー ター ズ ㈱製 ) に負荷 し, 10%(v/v)メタ ノー ルで 洗浄後 ,メタ ノール:DMSO(1:1)混 合液 4.8 mL で溶 出し て 5.0 mL に定 容 後,HPLC 分 析に供 した.装置 は LC-10ADvp(㈱島 津 製作所 製),検 出器は フォト ダイオ ード ア レイ (PDA) 検出 器 (SPD-M10Avp,㈱島 津製 作 所製 ) を用 い た. カ ラム は LiChrospher 100RP-18(250 × 4.0 mm I.D., 5 μm,Merck㈱製 )を用 い,
カラム 温度 は 40°C, 検出波 長は 340 nm, 移動相 A は 0.01 M リン酸 溶液,
溶離液 B は メタノ ー ル, 流 速は 0.6 mL/ min とした .グラ ジエ ント条 件は,
B 液濃 度を 30→45%(0~55 分),45→100%(55~95 分),100%(95~100 分)
とした .定 性は 標準 溶液(10 mg/ mL)の 保持時 間との 照合 で 行い ,定量 は標 準溶液 のピー クの 高 さとの 比較に より 行 った.
31 7.香気成 分の 測定
固相マ イクロ 抽出(SPME)–ガス クロマ ト グラフ(GC)法で 分 析した .オ レンジ 果汁 1.0 mL をクリ ンプバ イア ル 瓶に 移 した後 ,内 部 標準と して 1%
(v/v)シク ロヘ キサ ノー ル 10 μL を添 加 し,40°C で 5 分 間加 温した .ヘッ ドスペ ースガ ス部 に ファイ バー(Carboxen-PDMS 75 μm タ イプ ,シグマ アル ドリッ ジジャ パン 製 )を挿入 し,20 分 間 揮発性 成分を 吸着 さ せた.フ ァイバ ーに吸 着した 成分 は 260°C に加 熱し たイ ンサー ト部分 で 10 分 間脱離 させた 後,ク ライオ フォ ー カシン グ GC 分析 に 供した .装置 は,GC-14A(㈱島津製 作所製 ),検出器 は水 素炎イ オン化 検出 器(FID)を用 いた .カラ ムは DB-WAX
(60 m × 0.25 mm I.D., 膜厚 0.25 μm, Agilent Technology㈱ 製 ), カラム 温度 は 40~230℃まで 3°C /min で昇温 し, 230°Cで 10 分間 保持 した.注入法 はス プリッ トレス 注入 ,キャリ アーガ スは ヘ リウム ,流速 は 1.0 mL/minと した.
内標準 である シク ロ ヘキサ ナール( 終濃 度;1 mg/L)との ピー ク面積 比によ り成 分量 を求 めた . 成分 同定は GC-質 量 分析 (MS)法 によ り 行っ た. 装置 は,Varian 3400GC(㈱Varian 製)にイ オン ト ラップ 方式の 質量 分 析計(Model 800,Finnigan MAT㈱製)を装 着し たもの を用い た.分 析は SPME-GC 法 と同 様の条 件で行 った .
イオン 化は電 子イ オ ン化(Electron Ionization, EI) 法およ びイ ソブタ ンに よる化 学イオ ン化 (Chemical Ionization, CI)法を 用いて 行い, ピーク 面積百 分率は, Full Scan モー ド(26~300 amu/s)でのト ータル イオ ン カウン トから 求めた .成分 の同 定 は, ライブ ラリー サ ーチシ ステム (MAGNUM ライブ ラ リーサ ーチシ ステ ム ,NIST MASS SPACTRA DATABASE;62, 235 化合 物収 載)による 検索 と Retention index(RI)値 6 4 )から 物質を 推定 し,標準物 質と の RI 値お よび マスス ペクト ルの一 致も し くは RI 値 の一 致 によ り行っ た.