第 5 章 Kasalath の有する種子の貯蔵性に関わる QTL の評価
3. 貯蔵性に対する種皮の効果の検証
前節では Kasalath の有する種子の貯蔵性は籾に依存するものではないことが明
らかになった.従って,本節では次に Kasalath の有する種子の貯蔵性に対する種皮 の効果を検証するため,SL226 とコシヒカリを正逆交雑した種子を用いて加齢処理と 発芽試験を行った.交雑種子の種皮は母本由来であり,正逆交雑間に差がなければ種 皮の効果はないと判断できる.
材料と方法
2004年夏に温室でSL266/コシヒカリおよびコシヒカリ/SL266の交配を行った.比 較品種としてコシヒカリ,SL226も温室で栽培し,それぞれ採種した.比較品種およ び交雑種子の加齢処理および発芽率調査は前節の方法と同じである.
結果と考察
第19図のように,コシヒカリは加齢処理開始6ヶ月後から発芽率が低下し始め,8 か月後にはほぼ0%となった.一方,SL226とSL226/コシヒカリ,コシヒカリ/SL226 の交雑種子は加齢処理開始 6か月後においても発芽率の低下はみられず,8か月後で は80%程度まで低下したが,これらの間に有意な差はみられなかった.この結果から,
qLG-9 の支配する種子の貯蔵性は優性の遺伝形質であることが明らかになった.9 か
月後では,SL226は56.7%の発芽率を有したが,SL226/コシヒカリおよびコシヒカリ
/SL226はそれぞれ16.7%,15.0%となった.いずれの加齢処理期間においても,SL226/
コシヒカリとコシヒカリ/SL226の発芽率に差がみられなかったことから(第14表),
qLG-9の支配する種子の貯蔵性は種皮ではなく,胚内の要因であることが推定された.
Miuraら (2002) は,Kasalathの種子の貯蔵性のQTLと,同じく日本晴とKasalath のbackcross inbred linesを用いてLinら (1998) が見出したKasalathの種子の休眠 のQTLの位置が異なることから,Kasalathの種子の貯蔵性は休眠性とは異なる遺伝 領域により支配されているとしている.今回の実験結果からも,Kasalath の種子の貯 蔵性と休眠性は,異なるメカニズムであると考えられる.
Kasalath の種子の貯蔵性を支配する qLG-9 は,種皮により物理的に酸素や水の透
過を抑制し,炭水化物,タンパク質,脂質などの変性を抑えて発芽率の低下を防ぐと いうより,酵素活性の低下抑制など胚部における要因により種子の寿命を延ばしてい ると予想される.
第19図 SL226とコシヒカリおよびそれらの正逆交雑種子の発芽率の推移.
0 20 40 60 80 100
収穫直 後
加齢処理開始直前 加齢処
理6か月
8か月
9か月
発芽率(%) SL226
コシヒカリ
SL226/コシヒカリ コシヒカリ/SL226
第14表 正逆交雑種子における発芽率の推移. SL22680.0a99.3a96.0a75.0a56.7a コシヒカリ88.0a96.0a68.0b1.7b0.0c SL226/コシヒカリ41.3b94.0a96.0a78.3a16.7b コシヒカリ/SL22657.3b96.7a96.0a81.7a15.0b Tukeyの多重検定で,同一処理において同一記号のついた平均値間には5%水準で有意差がないことを示す.
9か月後収穫直後加齢処理開始前6か月後8か月後
まとめ
Kasalathの有する種子の貯蔵性に関わる QTL について,コシヒカリ/Kasalath の
染色体部分置換系統を用いて調査した.貯蔵性に関わる3 つのQTL のうち,第9 染 色体に座乗する qLG-9 は単独でコシヒカリの種子の貯蔵性を高める効果を有したが,
qLG-2およびqLG-4(それぞれ第2,第4 染色体に座乗)は単独での効果は認められ なかった.
玄米に調整した後加齢処理を行ったところ,qLG-9の領域を有する系統は玄米でも 貯蔵性が高かったため,Kasalath の有する種子の貯蔵性は籾に依存するものではない ことが確認された.
qLG-9を有する染色体部分置換系統(SL226)とコシヒカリの正逆交雑種子の貯蔵
試験の結果から,貯蔵性には母性効果はみられず,Kasalath の有する種子の貯蔵性は 種皮に由来するものではないことが推定された.
このように,Kasalathの種子の貯蔵性に関するQTL であるqLG-9は,コシヒカリ の種子の貯蔵性を高める効果を有し,さらにその効果は籾に依存するものではないこ
とから,qLG-9 がコシヒカリの玄米の貯蔵性を高める可能性が示唆された.また,
qLG-9の有する種子の貯蔵性は,種皮に依存するものではないことが明らかになった.