種子の貯蔵 性の品種 間差に関 する研究 は古くか ら行われ ているが (池橋 1973,
Siddique ら 1988),日本の品種の中にも大きな品種間差があり,コシヒカリは最も種
子の貯蔵性の高い品種の一つであることが明らかになっている.しかしながら,第 2 章で述べたように,現在栽培されている良食味品種はほとんどがコシヒカリの後代で,
コシヒカリとの近縁度が高く,遺伝的背景が偏っているため,その中での種子の貯蔵 性の品種間差については不明である.そこで本節では種子の貯蔵性に優れた良食味品 種の育成のため,現在栽培されている品種の種子の貯蔵性を再評価するため以下の実 験を行った.
材料と方法
材料は,前節で述べたものと同じである.現在北陸地域で栽培可能な極早生~晩生 の主要品種(あきたこまち,アキヒカリ,ひとめぼれ,コシヒカリ,キヌヒカリ,ど んとこい,いただき,あわみのり)に加え,穂発芽性やや易(サチミノリ,1978年北 陸農業試験場育成),および易(北陸PL3)について調査した.処理温度は前節で最 適であると判断した30℃とした.試験は2反復行った.
結果と考察
第 10 表に供試品種の加齢処理後における発芽率の推移を示した.穂発芽性がやや 易であるサチミノリは,全供試品種の中で最も発芽率の低下が早く,加齢処理開始 3 ヶ月後では21%にまで低下した.他の品種では,どんとこいがやや発芽率が低かった が,3ヵ月後でも80%以上の発芽率を有していた.サチミノリは早生で穂発芽性がや や易の品種であるが,他の品種については登熟気温や穂発芽性と種子の貯蔵性との間
第10表 供試品種の加齢処理後における発芽率の推移.
品種名 熟期 穂発芽性
ひとめぼれ 早生 やや難 99 a 97 a
いただき 晩生 難 99 a 94 ab
アキヒカリ 極早生 やや易 96 a 90 ab
北陸PL3 早生 易 98 a 89 ab
コシヒカリ 中生 難 93 a 88 ab
あきたこまち 極早生 やや難 99 a 85 ab
あわみのり 晩生 中 100 a 85 ab
キヌヒカリ 中生 やや易 99 a 80 b
どんとこい 中生 やや難 99 a 67 c
サチミノリ 早生 やや易 80 b 21 d
2ヶ月後 3ヵ月後
同一処理において同一アルファベットのついた平均値間には Tukeyの多重検定で5%水準において有意差がないことを示す.
には明確な関係はみられなかった.コシヒカリは種子の貯蔵性が高い品種である(池 橋 1973)が,以上から現在栽培されている品種はコシヒカリ並みに種子の貯蔵性が 高いことが明らかになった.
まとめ
1 年間貯蔵したコシヒカリは,香りとうま味が著しく低下し,総合評価では新米の コチヒビキ程度まで食味が低下した.
低温貯蔵した種子は 18 年経過しても90%以上の発芽率を有する品種があった.台 風など不良環境に遭遇した種子は貯蔵性が低かった.
加齢処理温度の検討をしたところ,種子の貯蔵性の品種間差を検出するには30℃で,
種子の水分を15%程度に保つ方法が適当であった.
加齢処理によって評価した種子の貯蔵性の品種間差をみたところ,現在栽培されて いる品種はコシヒカリ並に種子の貯蔵性が高かった.したがって,コシヒカリおよび 遺伝的背景がコシヒカリに極めて近い現在栽培されている品種,あるいは育成中の品 種の種子の貯蔵性をさらに高めるためには,新たな遺伝資源を導入する必要があるこ とが示唆された.