古川農試育成),ゆめひたち (茨城県農総セ育成),きぬむすめ (九沖農研セ育成)など 16 品種,どんとこいを親とした品種は,いただき (北陸農試育成),あきさやか,ふ くいずみ (九沖農研セ育成),イクヒカリ (福井県農試育成) の4品種が挙げられ,こ れらの品種は宮城県から鹿児島県まで幅広い地域で栽培されており,このことを実証 している.
このように現在栽培されている品種は遺伝的背景がコシヒカリに偏っており,コシ ヒカリと同様,耐倒伏性,いもち病抵抗性が弱いという 欠点を持ち,遺伝的脆弱性
(Walsh 1981) が心配される.今後も,病虫害抵抗性などの積極的な導入を継続し,
さらに,コシヒカリとは異質な良食味母本の探索および利用を図る必要があると考え られる.また,育成された遺伝的に多様な品種を普及させる努力も求められるであろ う.
第二に,育成地における食味試験の評価を行い,育成系統の食味がコシヒカリ並み に向上している場合でも,あきたこまちとコシヒカリの差を安定的に検出でき,コシ ヒカリ系の食味の選抜においては精度が高いことを明らかにした.しかしながらこの 結果は,コシヒカリとは異なる,例えば粘りが少なくやや硬いが,うま味,香り,外 観に優れた良食味系統などは淘汰されてしまう危険性があることを示しており,注意 を要することをも指摘した.
第三に,育成地におけるコシヒカリの古米の食味試験を行い,低温で1年間貯蔵し たコシヒカリでも,香りとうま味が著しく悪化し,かなりの食味低下が起こることを 明らかにした.この結果から,コシヒカリの食味をさらに高める形質として,貯蔵に よる食味低下を抑える,つまり玄米の貯蔵性を高めることを提案した.玄米の貯蔵性 は極めて複雑な形質であるが,太田・竹村 (1970)は種子の寿命と米穀の活物貯蔵との 関係を論じており,豊島ら (1998) は貯蔵後の玄米の発芽率と食味の高い相関を報告 している.したがって,種子の貯蔵性 (種子の寿命) と玄米の貯蔵性には何らかの関 係があると仮定し,現在栽培されている品種の種子の貯蔵性を調査した結果,これら
の種子の貯蔵性はコシヒカリ並みに高いことを明らかにした.種子の貯蔵性について は古くから研究が行われており,その中でも Miuraら (2002) はインド原産品種であ
るKasalath は種子の貯蔵性に優れており,日本晴とKasalathの戻し交雑自殖系統群
を用いたQTL解析の結果,種子の貯蔵性に関する3 つのQTLが存在することを報告 している.したがって,Kasalathの種子の貯蔵性に注目し,これについて解析を本論 文では進めた.
Kasalath の種子の貯蔵性に関するQTLについて,コシヒカリ/Kasalathの染色体
部分置換系統を用いて検証したところ,最大の効果を有するqLG-9はコシヒカリの種 子の貯蔵性を高めることを明らかにした.さらに,qLG-9 の種子の貯蔵性は籾に依存 するものではなく,玄米でも発現し,さらに正逆交雑の結果から,母性効果はみられ ず,胚や胚乳に由来することが明らかになった.
最後に,qLG-9を有したコシヒカリの準同質遺伝子系統を育成した.この系統はコ
シヒカリよりもやや稈長が短く,玄米収量がやや低かったが,玄米千粒重や食味はコ シヒカリと同等であり,Kasalath の種子の貯蔵性を有する有望系統であることが明ら かになった.
イネ種子の休眠性が深い品種は種子の寿命が長いとする報告は多いが(池橋 1973,
太田・竹村 1970),種子の休眠や寿命は環境変異が大きく,これらの関係について は十分な解析が行われているとは言いがたい.実際,本報告においてコシヒカリより も寿命が長かった Kasalath と SL226 は,休眠の程度もコシヒカリより大きかった.
しかしながら,このKasalath の種子の貯蔵性の QTL(Miuraら 2002)は,同じく
Kasalathと日本晴の戻し交雑自殖系統を用いて解析した休眠性のQTL(Linら 1998)
とは異なる位置に座上していた.したがって,Kasalathの有する種子の貯蔵性は,休 眠とは異なる遺伝子に支配されていると考えられる.
コシ ヒカ リは ジャ ポニ カ品 種の 中で は休 眠が 深く ,種 子の 貯蔵 性も 高く (池 橋 1973),さらに食味低下の程度も低い品種(Matsueら 1991,三輪 2000,和田ら 2001)
であるが,日本晴と Kasalathの組み合わせで検出されたQTLである qLG-9 はコシ ヒカリに導入しても高い効果を発揮した.SL226 はKasalath よりも加齢処理後の発 芽率を高く維持したが,貯蔵性に優れるコシヒカリのバックグラウンドに Kasalath の貯蔵性を支配する最大の QTLであるqLG-9 を導入したことで,Kasalath以上の貯 蔵性が発揮されたことが期待される.
以上のように本研究の結果,Kasalath の種子の貯蔵性に関するQTL であるqLG-9 の効果は籾や種皮に依存せず,さらにコシヒカリの種子の貯蔵性を強化することが明 らかになった.さらにqLG-9を導入したコシヒカリの準同質遺伝子系統を育成したこ とで,従来の品種間の比較では困難であった複雑な形質である種子の貯蔵性のメカニ ズムの解明に一歩近づいたと言えるだろう.種子の貯蔵性の玄米の貯蔵性に対する効 果は,コシヒカリの準同質遺伝子系統の貯蔵後の食味試験の結果を待つことになるが,
コシヒカリの食味を越える食味関連形質として,玄米の貯蔵性を高める可能性が示唆 された.これらの知見や有望系統は,古米になっても食味が低下しない,コシヒカリ の食味を超える品種育成に貢献できると考えられる.
謝辞
東京農工大学農学部平澤正教授,茨城大学農学部松田智明教授,宇都宮大学農学部 本條均教授,同和田義春助教授には本論文の御校閲を賜りました.記して心より厚く 御礼申し上げます.
本研究の遂行にあたり,中央農業総合研究センター北陸研究センター稲育種研究室 長三浦清之博士には,特に貯蔵性に関して貴重な種子を分譲いただき,懇切丁寧なご 指導・ご協力を賜りました.同研究室の笹原英樹主任研究員,後藤明俊博士には,選 抜・育成,および食味試験などにおいて多大なる協力・助言・激励をいただきました.
上原泰樹室長 (現作物研究所) には発芽試験や交配両親名データベースの作成に対し,
ご指導を賜りました.また,業務科職員および非常勤職員の方々には,材料の栽培か ら収穫・調整,食味試験の準備など,本研究の基盤となる部分を担っていただきまし た.ここに心より深く御礼申し上げます.
貴重な種子および分子マーカーをご分譲いただきました農業生物資源研究所矢野昌 裕博士,富山県農業技術センター蛯谷武志主任研究員に感謝の意を表します.
最後に,九州大学在学時から 10 年に渡り,親身なご指導,叱咤激励を賜り,支え ていただきました宇都宮大学農学部吉田智彦教授に深甚なる感謝の意を表します.
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