第 4 章 負荷変動に対するスイッチング電源の適応化
4.3 オンラインシステム同定実験
ここでは、可変忘却要素を用いたオンラインシステム同定法を用いて導出されるモデル の検証を行う。入出力データは3章で使用した入出力信号と同じものを使用した。メモリ ホライズンを最短でも10 は確保するために、忘却要素の下限値を0.9 とした。オフライン 同定での同一入力に対する実験出力とモデル出力の比較において、後半1 周期に対する二 乗誤差和は1.47×103 であったのに対し、可変忘却要素を用いた適応同定では7.81×102と オフライン同定より約47%誤差が減尐した。これより、オフライン同定よりフィッティン グ率が向上したと言える。オンライン同定に用いたARX モデルの各パラメータ(a1, a2, b1,
b2)を図4.3にその拡大図を図4.4に示す。ARX モデルは次の式で表わさせるモデルであ
る。
1
2 2 ( ) ( )
1 1 2
2 1
1
z a z y k b z b z u k e k
a
(4.24)点線はオフライン同定で導出されたパラメーターであり、実線がオンライン同定のパラ メータとなる。図4.3と図 4.4からオンライン同定で得られるパラメータは300step程度で 素早く収束していくことが確認できる。パラメータである定常状態 100 個の平均値とオフ ラインシステム同定法により導出したモデルのパラメータを表4.2に示す。図4.5に忘却要 素を示す。横軸が時間であり、縦軸が忘却要素である。図から、忘却要素は全域で高い忘 却要素を示しており、これが同定パラメータの収束に寄与していると考えられる。
図4.3 a1、a2、b1、b2のパラメータ図
0 0.001 0.002 0.003 0.004 0.005 0.006 0.007 0.008 0.009 0.01 -10
-8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 10
Time[s]
Parameter
―a1
―a2
―b1
― b2
38
図4.4 a1、a2、b1、b2のパラメータ拡大図
表4.2 オフライン同定法とオンライン同定法で得られたパラメーター
パラメータ値 オフライン同定法 オンライ同定法(100個平均値)
a1 -1.16 -1.185
a2 0.745 0.757
b1 3.295 3.276
b2 1.049 0.939
Time[ms]
Parameter
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 -10
-8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8
10 ―a1
―a2
―b1
― b2
39
図4.5 忘却要素の時間変化
0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 0.03 0.035
0.9 0.91 0.92 0.93 0.94 0.95 0.96 0.97 0.98 0.99 1
Time [s]
Forgettingfactor
40
4.4 スイッチング電源への適応化機構の導入
前節では、可変忘却要素を用いたオンラインシステム同定法により導出されるモデルの 精度を確認することができた。本節では、同定法に基づいてDIMC法を適応化することに より、制御系を適応化し制御対象が変化をしたとしても要求される制御性能を満たすこと を目的として制御系の適応化を行う。出力側の負荷変動に対するオフライン同定実験結果 から、可変忘却要素を用いた逐次最小二乗(VFF-RLS) 法に基づく逐次同定法を4.3 節で導 入した。ここでは、抵抗負荷によって生じるモデルの変化を模擬し、要求される制御性能 を達成するためにDIMC に適応機構を導入する。同定モデルには2 次のARX モデルを用 いた。ARX モデルは式誤差モデルの一つで、次式で表すことができる。
) ( ) ( ) ( ) ( )
(q y k B q u k ω k
A (4.25) ここで、q はシフトオペレータ、ω(k)は外乱項である。また、ARX モデルは最小二乗法に とって都合のいいモデルで、出力の一段予測値が推定値に対して線形な関係式で記述でき る。2次系の同定モデルの場合、制御対象Pn(z) は、
1 2 1 1
1 2 1 1
) 1
(
z a z a
z b z z b
P
n (4.26) と表すことができる。サンプリング時間をTsとして、双一次変換は次式になる。2 1
2
1
1
s s sT
sT e sT
z
s
(4.27) 式 (4.27)を用いて、Pn(z) に代入し、整理をするとることでPn(s)との関係を得ることができ る
s s s K
P
n( )
2 (4.28) ただし、K、α、βは) 1
(
) (
4
2 1 2
2 1
a a T
b K b
s
) 1
(
) 1 ( 4
2 1
2
a a T
a
s
) 1
(
) 1
( 4
2 1 2
2 1
a a T
a a
s
DIMC の適応化機構を導入したブロック図を図 4.6 に示す。制御入力 upwmから出力 vout
の入出力データを用いてオンラインシステム同定法により導出したモデルを Pn2
-1(s)を更新 していく。制御対象は外乱オブザーバーのノミナル化により、フィルタの帯域内では P(s) はPn1(s)に摂動をしている。kaはPn1(s) とPn2(s) とのミスマッチによって発生する定常偏差 を補償する補正ゲインであり次のように表される
) 0 ( ) 0
(
112
n na
P P
k
(4.29)41
適応化した DIMCのフィードフォワードコントローラ F(s)Pn2
-1(s)の更新手順は次のように
なる
Step1:制御入力upwmから出力voutの入出力信号を用いてVFF-RLS法によりARXモデル
パラメータa1、a2、b1、b2を得る
Step2:同定した離散モデルを連続モデルに変化に変換する
Step3:連続モデルのパラメータK、α、βを用いてフィードフォワードコントローラPn2
-1(s) と補正ゲインkaを更新する
図4.6適応化DIMCブロック図 Identified plant
y
r
Disturbance observer
VFF-RLS identification
d
F(s) ・ P
n2-1(s)
F
d(s) ・ P
n1-1(s) P(s) P
n1(s)
(v
ref) (u
pwm) (v
out)
k
au
42
4.5 適応化 DIMC によるシミュレーション結果
本節では前節で導出した適応化DIMCのシミュレーションによる有効性の検討を行う。
制御対象に抵抗負荷が接続されたとして、このモデル変化を数式モデルに反映させ、シミ ュレーションを行う。4.1節で示したように、抵抗負荷を接続したことによりスイッチング 電源の周波数特性は減衰率と固有周波数は変化している。無負荷時の伝達関数と0.98 Ωを 接続した際の伝達関数をそれぞれ示すと、
無負荷時
0.98 Ω接続時
導出された伝達関数を比較するとゲインは減尐し、減衰率は増加している。シミュレーシ ョンでは、この抵抗負荷接続によるモデル変化の模擬を行い制御対象のモデルP(s)のゲイン を0.6倍、減衰率を1.4倍とした。シミュレーション条件としてフィルタF(s)、Fd(s)の帯域
幅1000 Hz、サンプリング時間は3.41 μs、パラメータ更新時間は27.3 ms、目標電圧を1 V
とした。シミュレーション結果を図4.7に示す。比較のため、P(s)=Pn(s)の時DIMCのステ ップ応答を緑点線で示している。モデル更新1回目では、制御対象P(s)とそのノミナルモデ
ルPn2(s)間のモデル化誤差が生じているため、立ち上がり時の振動的なオーバーシュートが
生じている。モデル更新2回目においてはモデル更新が行われたことにより、この振動的 なふるまいが改善されていることが確認できる。また、モデル更新が行われることにより、
DIMCの応答に近づいていくことが確認できる。定量的な評価ではモデル更新1回目におけ るオーバーシュートは16.35 %、モデル更新2回目におけるオーバーシュートは6.51 %とな り共に改善されていることが確認でき、制御系の適応化が有効であるといえる。
2 2
2 2
62137 62137
164 . 0 2
) 382156 382156
843 . 0 2 ( 001258 .
) 0
(
s s
s s s
P
2 4 4
2
2 5 5
2
) 10 15 . 6 ( 10 15 . 6 188 . 0 2
) ) 10 76 . 3 ( 10 76 . 3 832 . 0 2 ( 0.00125 )
(
s s
s s s
P
43
図4.7 適応化DIMCのステップ応答
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
-0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
Output Voltage [V]
Time [ms]
━モデル更新1回
━モデル更新2回 DIMC