第 3 章 〈研究 2 〉「過去」の経験がもたらす「現在」の恋愛関係
4. 調査結果
4-1. 自己観の分類
本研究では、文化心理学者 Singelis(1994)の「自己観(相互依存的自己観・独立的 自己観)に関する30項目」を基に、インタビューに参加した26名に追加で質問票調査 を行った。この Singelis(1994)の質問票は、欧米の研究で最も一般的に用いられてい るものであるが、北米文化の特質に規定され、日本人には不適切な項目(例:相手が年 上でもファーストネームで呼ぶ)などを含むため、「欧米とアジアの文化間での妥当性 の認識がなされていないのではないか」とMatsumoto(1999)が指摘している。
Kimら(1996)は日本、韓国、ハワイ、アメリカ本土の大学生に対して自己観に関す る調査を行う際、Singelis(1994)の質問票項目を、各文化に合わせた適切な項目に修正 している。例えば Singelis(1994)の質問票項目では「相手が年上でもファーストネー ムで呼ぶ」とされていたものを、「初対面の相手が自分よりかなり年上であっても、私 は相手とオープンに話をすることができる」にすることで、日本文化における妥当性を 高めている。本研究では、Kimら(1996)の修正版「自己観に関する30 項目」を使用 し、調査を実施した。質問30項目のうち、15項目が「相互依存的自己観」に関する質 問(例:自分が属している組織のためなら自分の利益を犠牲にしても構わない、進路や 職業について考える時は親の意見を考慮すべきだと思う)、そして「独立的自己観」に 関する質問(例:あらゆる面において他の人たちとは違った個性的な存在でいるのが好 きだ、職場の会議で自分の意見を率直に述べることができる)などである。
30の質問項目に対して、7段階(とてもそう思う、そう思う、ややそう思う、どちら でもない、あまりそう思わない、そう思わない、全くそう思わない)のうち、研究参加 者は自分の意見に最も近いものをひとつ選んだ。その後、筆者が集計作業を次の通り行 った。まず、「どちらでもない」を基点4点とし、「とてもそう思う」を7点、「全くそ う思わない」を1点として回答の点数を集計した。そして独立的自己観に関する15問 の合計点(15-105点)と、相互依存的自己観に関する15問の合計点(15-105点)を比
82
較し、合計点が高い方の自己観を「その個人の傾向を示す自己観」とした。集計結果を 以下、「独立的自己観 男性」、「相互依存的自己観 男性」、「独立的自己観 女性」、「相互 依存的自己観 女性」の順に並べている。
83
〈表8〉独立的自己観 男性
1 2 4 5 6 7 8 9 10 14 15 19 25
1. 私はあらゆる点で、他の人たちとは違った、個性的な
存在 でいるのが好きだ。 2 5 5 5 4 6 5 7 5 7 5 5 5
2. 初対面の相手が自分よりかなり年上であっても、私は
相手とオープンに話をすることができる。 6 5 4 5 2 6 6 7 2 6 3 1 2
5. 周囲がどう思おうと、私は自分が思ったことをやる。 7 5 5 6 4 5 6 7 6 6 2 3 3
7. 自立した一人の人間として行動することは大切なこと
である。 7 6 7 7 5 6 7 7 7 7 6 5 6
9. 誤解を招くくらいなら、はっきりと「いいえ」と言う方
がいい。 6 5 5 4 4 5 7 7 6 6 5 3 5
10. 豊かな想像力を持つことは、私にとって大切なことで
ある。 7 7 7 7 6 6 7 7 6 7 6 3 6
13. 初対面の人でも、私は単刀直入で率直でありたいと
思う。 3 5 6 6 3 5 5 7 6 6 5 1 4
15. 私は自分ひとりだけが誉められたり、賞をもらっても
気がひけることはない。 5 4 3 6 4 2 3 4 2 3 3 7 3
18. 職場の会議において、私は自分の意見を率直に述べる
ことができる。 6 5 5 5 4 6 6 7 6 6 5 2 3
20. 誰と一緒であろうと、私はいつも同じように
行動をする。 2 6 5 4 2 3 3 7 2 6 3 3 5
22. 健康でいることが、何よりも重要だと思う。 2 7 7 7 7 5 2 7 7 7 7 7 6
24. 周囲の人に影響が及ぶとしても、私は自分にとって
最適であると思ったことには挑戦する。 5 4 3 4 6 3 6 4 6 6 3 1 7
25. 自分で自分の面倒が見れることは、私にとって最も
重要なことである。 7 5 6 5 5 6 6 7 7 3 6 7 6
27. 他の人から簡単に影響を受けない自分自身の
アイデンティティーを持つことは、私にとって重要だ。 7 5 6 5 6 5 5 7 6 6 5 7 5
29. 私は家にいる時の自分と、職場にいる時の自分とが
同じである。 3 5 5 6 2 2 6 7 6 2 1 1 3
独立的自己観を表す質問 男性
84
〈表9〉相互依存的自己観 男性
1 2 4 5 6 7 8 9 10 14 15 19 25
3. 自分と同じグループ・組織に属している他のメンバー の意見に全く同意できない時でも、私は相手と議論を することを避ける。
3 4 3 5 5 3 2 1 2 2 5 3 3
4. 私は権威や権力を持った知人に対して、尊敬の気持ちを
抱いている。 5 4 4 6 4 5 5 7 6 7 3 1 6
6. 自分に謙虚な人を私は尊敬する。 6 6 7 5 5 6 6 7 6 7 7 4 4
8. 自分が属しているグループ・組織のためなら、自分の
利益を犠牲にしてもかまわない。 5 3 5 3 3 5 3 7 6 6 6 7 5
11. 進路や職業について考える時、親の意見を考慮する
べきだと思う。 3 4 6 3 5 6 2 4 5 6 5 7 5
12. 私の運命は、自分の周囲の人の運命と関連し合って
いると思う。 3 5 7 6 6 5 5 7 6 7 2 4 6
14. 周囲の人と協力し合うことは、私にとって心地良い
ことだ。 3 6 7 6 4 6 7 7 6 7 7 6 5
16. 自分の兄弟姉妹が失敗をしたら、私自身も責任
を感じる。 3 5 6 4 5 5 2 7 6 3 3 2 6
17. 自分の成功や業績よりも、周囲との人間関係の方が大切
であると思うことがよくある。 5 4 7 4 4 4 3 4 6 7 5 7 4
19. バスの中で上司に会ったら、自分の席を譲るだろう。 6 5 6 5 5 6 6 7 6 7 4 1 6
21. 周囲の人が幸福であってこそ、私は初めて幸福に
なれる。 5 4 7 5 4 6 6 7 7 6 6 1 5
23. 居心地が悪くても自分が必要とされるなら、私はその
グループ・組織にとどまると思う。 6 5 5 4 3 3 2 4 6 6 5 1 6
26. 自分の属しているグループ・組織によって決定された
ことを尊重することは、私にとって重要だ。 5 5 5 5 4 5 3 7 6 6 5 7 6
28. 自分が属しているグループ・組織の調和を保つことは、
私にとって重要だ。 6 5 7 5 5 5 2 7 6 6 4 7 6
30. 自分と周りの人がやりたいことが異なった場合、私は
いつも周囲の人の意見を優先している。 2 4 6 4 3 3 1 4 6 5 6 1 5
相互依存的自己観を表す質問 男性
85
〈表10〉独立的自己観 女性
3 11 12 13 16 17 18 20 21 22 23 24 26
1. 私はあらゆる点で、他の人たちとは違った、個性的な
存在 でいるのが好きだ。 6 6 2 1 3 3 4 4 2 4 4 2 3
2. 初対面の相手が自分よりかなり年上であっても、私は
相手とオープンに話をすることができる。 7 6 5 7 3 7 5 6 7 6 7 3 5 5. 周囲がどう思おうと、私は自分が思ったことをやる。 6 7 5 3 3 4 4 6 2 3 5 2 5
7. 自立した一人の人間として行動することは大切なこと
である。 7 7 7 7 6 7 6 6 7 6 6 7 6
9. 誤解を招くくらいなら、はっきりと「いいえ」と言う方
がいい。 6 7 3 5 6 5 5 7 6 6 6 5 6
10. 豊かな想像力を持つことは、私にとって大切なことで
ある。 7 7 6 5 5 6 6 7 6 6 5 5 6
13. 初対面の人でも、私は単刀直入で率直でありたいと
思う。 6 7 2 4 3 3 5 2 2 6 5 3 5
15. 私は自分ひとりだけが誉められたり、賞をもらっても
気がひけることはない。 3 2 2 3 3 2 4 3 7 4 3 4 4
18. 職場の会議において、私は自分の意見を率直に述べる
ことができる。 6 6 5 5 6 5 6 7 6 6 4 3 6
20. 誰と一緒であろうと、私はいつも同じように行動
をする。 6 6 4 4 3 5 3 5 6 5 4 2 2
22. 健康でいることが、何よりも重要だと思う。 7 6 7 7 6 6 7 7 7 7 7 6 7
24. 周囲の人に影響が及ぶとしても、私は自分にとって
最適であると思ったことには挑戦する。 4 7 2 3 3 5 4 5 6 4 6 4 2
25. 自分で自分の面倒が見れることは、私にとって最も
重要なことである。 6 7 6 5 3 5 6 6 2 6 7 6 4
27. 他の人から簡単に影響を受けない自分自身の
アイデンティティーを持つことは、私にとって重要だ。 7 7 2 5 3 5 4 6 6 4 6 6 5
29. 私は家にいる時の自分と、職場にいる時の自分とが
同じである。 6 7 5 2 2 3 2 1 1 6 6 3 3
独立的自己観を表す質問 女性
86
〈表11〉相互依存的自己観 女性
3 11 12 13 16 17 18 20 21 22 23 24 26 3. 自分と同じグループ・組織に属している他のメンバー
の意見に全く同意できない時でも、私は相手と議論を することを避ける。
2 1 3 5 5 5 5 3 1 3 6 6 2
4. 私は権威や権力を持った知人に対して、尊敬の気持ちを
抱いている。 4 6 5 4 2 6 5 4 1 5 6 5 4
6. 自分に謙虚な人を私は尊敬する。 7 7 6 5 2 6 3 6 2 7 4 7 5
8. 自分が属しているグループ・組織のためなら、自分の
利益を犠牲にしてもかまわない。 5 2 2 3 1 5 3 4 1 6 2 3 4
11. 進路や職業について考える時、親の意見を考慮する
べきだと思う。 5 1 2 5 3 5 4 5 6 5 5 6 5
12. 私の運命は、自分の周囲の人の運命と関連し合って
いると思う。 6 1 3 3 6 5 6 6 6 6 5 6 5
14. 周囲の人と協力し合うことは、私にとって心地良い
ことだ。 6 6 7 6 6 7 5 4 5 7 5 6 6
16. 自分の兄弟姉妹が失敗をしたら、私自身も責任
を感じる。 5 1 5 5 3 6 5 5 6 5 5 5 4
17. 自分の成功や業績よりも、周囲との人間関係の方が大切
であると思うことがよくある。 5 4 5 5 3 6 5 4 2 6 3 5 6
19. バスの中で上司に会ったら、自分の席を譲るだろう。 6 3 7 5 6 4 6 4 6 5 4 4 6
21. 周囲の人が幸福であってこそ、私は初めて幸福に
なれる。 6 2 2 6 2 6 5 6 7 5 4 5 6
23. 居心地が悪くても自分が必要とされるなら、私はその
グループ・組織にとどまると思う。 5 1 2 4 5 3 2 2 2 5 3 4 3
26. 自分の属しているグループ・組織によって決定された
ことを尊重することは、私にとって重要だ。 5 5 6 5 2 6 3 7 2 5 6 5 5
28. 自分が属しているグループ・組織の調和を保つことは、
私にとって重要だ。 5 5 7 6 5 7 5 6 2 5 6 6 6
30. 自分と周りの人がやりたいことが異なった場合、私は
いつも周囲の人の意見を優先している。 3 3 6 5 2 5 5 4 2 4 5 5 3
相互依存的自己観を表す質問 女性
87
研究参加者の独立的自己観と相互依存的自己観の各点数を合計し、それぞれどちらの 自己観の傾向が強いかを、以下の表にまとめた。研究参加者26名のうち、相互依存的 自己観の傾向が強い者は13名、独立的自己観の傾向が強い者は12名、そして2つの自 己観の傾向が同じだった者が1名だった。傾向が強い方の自己観の合計点数の上に色を 塗っている。
性別 参加者 独立的自己観 相互依存的自己観
m-1 75 66
m-2 79 69
m-4 79 88
m-5 82 70
m-6 64 65
男 m-7 71 73
m-8 80 55
性 m-9 99 87
m-10 80 86
m-14 84 88
m-15 65 73
m-19 56 59
m-25 69 78
f-3 90 75
f-11 95 48
f-12 63 68
f-13 66 72
f-16 58 53
女 f-17 71 82
f-18 71 67
性 f-20 78 70
f-21 73 51
f-22 79 79
f-23 81 69
f-24 61 78
f-26 69 70
〈表12〉独立的自己観 ・相互依存的自己観
88
研究参加者の持つ自己観を、「独立的自己観」と「相互依存的自己観」の 2 つに分類 した後、「4つの自己観(four-type model of self-construal)」(Kim et al., 1996)を導い た。本研究では、羽山(2018)の「やさしく学ぶデータ分析に必要な統計の教科書」が 示した手順を基に、Microsoft Excelのデータ分析ツール(基本統計量)を使用し、研究 参加者26名の自己観に関するデータ代表値を算出した。なお、データの代表値として、
「平均値」、「中央値」、「最頻値」の3 つがあるが、本研究では「平均値」を使用する。
平均値は、データの合計値をデータの数で割って算出した値であり、データを代表す る数値でもあるが、データの中に極端な数値が含まれている場合、平均値はその影響を 大きく受けることがある。次に中央値は、データを昇順または降順に並べた時に中央に 位置する数値であるため、データの中に極端に大きいまたは小さい数値が含まれていて も、その影響は受けない。しかし、データ全体の真ん中の数値だけを表すことになり、
データ全体の変化を表したり比較には適さないとされている。そして最頻値は、データ の中でどの数値が一番多いかを表すため、サンプル数が多い場合でしか使えないという 特徴がある。これらのことから、本研究はサンプル数が26名と少ないため「最頻値」
は使用できない。本研究における2つの自己観それぞれの平均値と中央値を比較したと ころ、平均値(独立的74.5、相互依存的70.7)と中央値(独立的74、相互依存的70)
には大きな差はない。本研究では正規分布が見られ、さらに統計を行うにあたり、平均 値と中央値の差が大きくずれがない場合、平均値を使うことが一般的であることから
(羽山、2018)、本研究でも平均値を基準値とする。なお、Kimら(1996)やYamaguchi
ら(2016)も平均値を基準値としている。
詳細は、「自己観調査結果(26名)のデータ代表値」にまとめている。また、26名か ら得たデータが正規分布であることを示した「ヒストグラム(度数分布図)」は、以下 の通りである。