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欧米のコミュニケーション理論の異文化への適用の例: 「Relational turbulence model/

ドキュメント内 「過去」を基点とした恋愛関係と恋愛観の (ページ 125-133)

第 5 章 〈研究 4 〉「 Relational baggage/ 関係に持ち込む荷物」の

2. 欧米のコミュニケーション理論の異文化への適用の例: 「Relational turbulence model/

Relational turbulence model / 関係乱気流モデル」

本研究は日本社会で育ち、その影響を受けている人々の恋愛コミュニケーションに注 目しており、本研究の核のひとつとなるのが恋愛関係における「変化」である。宮原(2000、

p.71)によると、「人間は常に変化し続け、人間が二人でつくる関係も常に変化を続けて

いる。どんなに安定しているように見える人間関係も、お互いが努力して『安定』とい う状態をつくり出しているのであって、人間関係が静止状態に入っているのではない」。

「いつもの状態」とは、何もせずに保たれているわけではない。さらに恋愛関係におい て、両者が望むような関係が常に維持されることはない。人間関係とは変化し続けてい るのである(Baxter & Montgomery, 1996; 2000)。そしてその変化には、「望まない変化」

が含まれていることもある。実際に恋愛関係が構築され、維持されている状況において、

思いがけないことや望まない出来事が起こることは決して珍しいことではない。そして そのような変化もまた二人の関係に影響を与える。

アメリカのコミュニケーション研究者Solomon, Weber, & Steuber(2010)を中心に生 み出された「Relational turbulence model/関係乱気流モデル」は、二人の関係において新 しく起こった「変化」が、感情、認知、コミュニケーションを複雑化していくことを説 明している。そして何らかの変化が起きた時、二人の間に「不確実性」と「相互依存に よる相手からの干渉」という要素が頻繁に見られるようになるという。ここでいう「変 化」とは、社会的状況や経済的状況そして感情などが、あるひとつの状態から別の状態

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に移ることである。例えば、相手に対する愛情の減少、子どもができた、新しいキャリ アを得た、職場を解雇された、事故に遭った、親の病気が発覚したなどである。これら の変化によって、二人の間で連携し同意してきたはずの考えや行動などが機能しなくな ることもある(Solomon, Knobloch, & McLaren, 2016)。

そして状況や関係性の変化が起こっている時に見られる「不確実性」について、

Solomonら(2016)は次の3つに分類している。まず、自分が今後相手に対してどのよ

うな感情を持つのか、自分が二人の関係をどのように考えていくのかなどに関する「自 分の不確実性」。次に、相手が自分にどのような感情を持っているのか、相手が二人の 関係に対してどれほどの投資を行うのか、そしてどのようなゴールを持っているのかな どに関する「相手の不確実性」。そして最後は、二人の関係は今後どのようになってい くのかという「関係の不確実性」である。二人の関係を維持し続けるには、これらの不 確実性を乗り越えなければならないとSolomon(2016)らは主張している。

さらにSolomon(2016)によると「相互依存による相手からの干渉」について、親密

な間柄になると、互いは依存するようになり相手への干渉も増えていく。そして二人の 関係がより深まり、さらにその関係が維持され続けると、両者の間に何らかの変化が起 こったとしてもそれを乗り越えられるようになる。仮にその変化が、二人にとって困難、

かつ、関係を脅かすような「望まないもの」であっても、実際に二人で乗り越えること により「望まないもの」から二人で一緒に「達成したもの」へ変わっていくという。「関 係の不確実性」そして「相手からの干渉」は、親密な関係を維持することを妨害する要 素のように感じられる。しかし、これらは二人の親密さを深め、関係の維持を促進する ものであると「Relational turbulence model/関係乱気流モデル」では考えられている。

そしてSolomonら(2010)の研究によると、ある女性は自分が乳がんであることを知

った。その事実を夫に打ち明けた場合、「夫はどのように感じるのか」、「どのような反 応をするのか」などの自分の病気に対する夫の反応は、彼女にとって不確実なことであ った。そして実際に、自分が乳がんであることを夫に告げると、夫は治療法や手術など について干渉してきたという。この乳がんという病気は妻が患っていたものだったが、

それは夫にとっても重要な問題であり、妻の病気は「夫婦の病気」となった。

また別の研究では、ある既婚女性は自分が不妊症であることを知った。この夫婦は結 婚する際、「将来、二人の子供を持とう」と話していたという。そのため妻は、「自分が 子供を産めない」という事実を夫に伝えることで、婚姻関係が解消されてしまうのでは ないかと考えていたという。だが夫は、この事実を「二人の問題」として受け入れ、子

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供を持たない、または養子を迎えるなどの選択肢について二人で話し合い、この夫婦独 自の解決方法を見つけようとしていた(Solomon et al., 2010)。

この2組の夫婦が経験したように、二人の関係に「変化」を起こすような出来事が起 こる可能性は、極めて高いと考えられる。その変化をどのように捉えるのか、その変化 を共有するのか、そして変化に対してどのようなコミュニケーションを行うかなどの判 断は、二人それぞれ異なるかもしれない。だが、両者の間に望まないことが起こったと しても、それを両者が「二人の問題」として乗り越えることで、その望まない変化は二 人に価値ある結果をもたらし、両者の関係性をより強固なものに変えていくことが、先 行研究から明らかになっている。

上記の先行研究も含め、これまで「Relational turbulence model /関係乱気流モデル」の 研究対象はすべてアメリカ人であり他の文化圏での研究は行われていなかったが、

Theiss & Nagy(2012; 2013)によって、この「Relational turbulence model /関係乱気流モ デル」をアメリカ人以外に適用した研究が行われた。彼女たちは、恋愛中の韓国人とア メリカ人を対象に、「恋人が自分の意見を尊重する」、「自分が目標達成しようとしてい ることを、恋人が邪魔していることについて話し合う」、「二人の関係についての話し合 いを避ける」という3つを「変化」と想定した。そしてその変化が起こっている時に、

「不確実性」と「恋人からの干渉」の2点がどのように関連しているかについて調査し た。

その結果、アメリカでは「自分が目標達成しようとしていることを、恋人が邪魔して いることについて話し合う」と「恋人からの干渉」の関連が強かった。このことについ

てTheiss & Nagy(2013)は次のように説明している。アメリカでは、個人の目標を達成

することが重要だとされているため(Markus & Kitayama, 1991)、たとえ相手が恋人であ ったとしても、自分の目標を追いかける行為を妨害されることは受け入れ難いことであ る。だからこそ、そのような行為を恋人が行った場合、アメリカ人にとって相手と「話 し合う」ことが重要なのである。一方韓国ではアメリカとは違い、「自分が目標達成し ようとしていることを、恋人が邪魔していることについて話し合う」と「恋人からの干 渉」の関連性は弱かった。これは、韓国では他の東アジア諸国同様、他者との関係に依 存する傾向が強く、人々にとって重要なのは周囲との調和であり(Markus & Kitayama, 1991)、個人の成功や目標達成ではない(Kitayama et al., 2000; Uchida et al., 2004)。従っ て、自分の目標を達成しようとしていることを恋人から妨害されることは、アメリカ人

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が感じるほど韓国では深刻には捉えられておらず、そのことについて相手と話し合う必 要性は低いと考えられていたのだろう(Theiss & Nagy, 2013)。

次にアメリカと韓国の両方で、「不確実性」と「二人の関係についての話し合いを避 ける」の2 つには関連があり、両文化とも「不確実性」が高い関係や相手であるほど、

二人の関係についての話題を避ける傾向にあった(Theiss & Nagy, 2013)。文化にかかわ らず、自分たちの不確実性の高い関係に関する話をした場合、自分とパートナーの考え 方の相違が浮き彫りになることは十分起こり得ると考えられる。例えば、自分は相手と の将来を考えているにもかかわらず、相手はそのようには考えてはいなかった。また場 合によっては、相手が二人の関係を否定的に捉えていることが発覚するかもしれない。

いずれにせよ、「関係の不確実性」という要素は、関係にいる当事者たちを不安にさせ ると考えられる。Theiss & Nagy(2013)の調査によると、「不確実性の高い関係につい ての話し合いを避ける」という点は両文化で共通していたが、その理由は同じではなか った。

アメリカでは人々は自分自身を主体として物事を捉え、そして何より自分自身に価値 があると考えている(Kitayama, 2000)。そのようなアメリカ社会で育った者にとって、

不確実性の高い二人の関係についてパートナーと話をすることで、「自尊心」が傷つけ られることも十分に考えられる。一方韓国では、他者からどのように見られているかと いうことを非常に気にする傾向がある(Theiss & Nagy, 2013)。そのため、不確実性の高 い二人の関係についてパートナーと話をすることで、自分の「面子」が傷つけられる可 能性もある。この2つの文化において「不確実性の高い二人の関係についての話題を避 ける」という行動は共通していたが、そこに至った理由は異なっていた。アメリカでは、

「自尊心」を傷つけられることを避ける、つまり「自己評価」に関連する理由だったが、

韓国では「面子」を傷つけられることを避けるという「他者評価」に関連する理由であ った(Heine, 2003)。

Theiss & Nagy(2013)の韓国人とアメリカ人に対する調査から浮彫りになったのは、

それぞれのコミュニケーションは文化的・社会的価値観に則していたという点である。

例えば、恋人からの干渉に対し、自分のゴールを邪魔することであれば、それは重要な 問題であるからこそ、そのことについて恋人と話し合おうとするアメリカ人、そして、

日常的に他者と相互依存的なかかわりを持ち、個人の目標よりも周囲との調和の方が重 要であるため、恋人からの干渉はさほど大きな問題ではないと捉える韓国人のコミュニ ケーション行動は異なっていた。また、恋人と不確実性の高い話題を避けるという行為

ドキュメント内 「過去」を基点とした恋愛関係と恋愛観の (ページ 125-133)