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第 1 章 数学教師の実践的知識に関する考察

第 2 節 調査の方法

2-2-1 調査概要

表17は調査の概要をまとめたものである。調査は 2回行われ、一回目は、1学年から6 学年までの数学担当教師 6名、二回目は 2017年1月下旬、6学年担当教師 1名を対象と した。一回目調査では6名の教師に対して調査を行い、更にそのうち実践的知識に関する データ数が多く、解釈の妥当性が高いと思われる3学年担当教師A(事例①)と6学年担

当教師B(事例②)の2名を対象とし事例研究1を行った。二回目調査では、授業を創造

することに意欲を示した6学年担当教師Bを研究対象とし事例研究 2を行った。

事例研究1と事例研究2との関連は、事例研究 1で同定された実践的知識の課題に対し て、事例研究2においてその改善を図ることである。

表17 調査の概要

一回目調査 二回目調査

時期 2016年11月中旬 2017年1月下旬 対象 各学年数学担当教師6名 6学年担当教師1名

目的 教師の実践的知識の課題の把握 調査者の教育的介入による教師の実践 的知識の変容の把握

方法 質問紙、インタビュー、授業観察 質問紙、インタビュー、4時間分の翻案・

授業・省察の観察 授業内容 1学年:半分の視覚化し同定する

2 学年:数直線を使って関係する 式を書く

6学年:空間図形(事例研究2)

学年 役職 年齢 性別 学歴 経験年数 学年別経験年数

1 担任 47 女 学士 13年 1学年13回

2 担任 28 女 学士 7年 1学年3回・2学年3回

3

担任・数学専科 数学主任

(事例研究1)

31 男 修士 7年 3学年5回

4 担任・数学専科 38 女 修士 15年 2学年7回・4学年8回 5 担任・数学専科 57 女 学士 29年 3学年5回

6 担任・数学専科

(事例研究1・2) 33 女 修士 10年 1学年5回・2学年 5回 5学年3回・6学年 1回

60 3学年:異分母分数の比較をする 事例研究1(事例①)

4 学年:モデルを使って異なる角

(直角・鋭角・鈍角)を描 写し描く

5学年:2つの数の比を視覚化する 6学年:比の未知数を求める 事例研究1(事例②)

2-2-2 調査の枠組み

本項では実践的知識の様相を捉えるための調査の枠組みを確立する。そのために、本研 究の課題意識である教授的推論過程の中で実践的知識を捉えることに立ち戻る。そして、

教師の日々の活動とカリキュラムメーカーとしての教師の活動を関連させた調査の枠組み を考察する。

(1) 実践的知識の概念枠組みと教授的推論過程

実践的知識の概念枠組み(図18)における、翻案・授業・省察段階のつながりについて、

Shulman(1987,p.15)が示した教授的推論過程(巻末資料1)を再度振り返り、細分化

された教師の教育活動を考察する。Manouchehri(1997,p.202)は「教授的推論とは教 授内容を特定の子どものグループに合うように、教育的に効果的な形に翻案する過程であ る」と定義(Brown & Borko,1992)し、教授的推論を翻案に限定しているが、本研究は 包括的理解・翻案・授業・評価・省察・新しい包括的理解のすべてを教授的推論過程とす る。

ここでこれまで言及していない「評価」について述べたい。Shulmanは「評価」につい て「授業中に学習者の理解度をチェックする。公的なテストを含む。」(巻末資料1)とし、

授業中と授業後の評価を対象としている。また斎藤(2010)は、評価には次の3つがある という。

診断的評価:学年や学期のはじめ、単元のはじめなど、指導を始める前に指導計画を立 案するために行われる評価

形成的評価:学習が円滑に進んでいるかを判定するための評価

総括的評価:一連の指導が終わったとみ、指導目標にてらして、学習と指導の成果を判 定するために行われる評価

本研究は Shulman の考えを土台にしているものの、評価を独立して見ずに授業中に行わ

れる形成的評価と授業後に行われる総括的評価を考え、教師がどのような方法で子どもの

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学習内容の理解度をみるか、それをどのように認識しているか、を分析の対象に加える。

省察については、「授業を振り返る」(巻末資料 1)と説明され、授業後の段階と位置づ けるが、実践的知識が行為の中で生成・活用されることから、本研究が対象とする省察は 授業中に行われている行為の中の省察を含む「行為についての省察」とする。

以上まとめると、表18が示すように翻案・授業・省察は教授的推論過程における複数の 活動に対応している。

表18 教授的推論過程の段階と活動

段階 活動

翻案 包括的理解、新しい包括的理解

翻案(準備・表現・選択・適合・仕立て)

授業

授業 形成的評価 行為の中の省察 省察 総括的評価

行為についての省察

(2) 教授的推論過程とカリキュラム

カリキュラムメーカーとしての教師は「意図されたカリキュラムに積極的に働きかけ

(教材研究)、指導案を作成し、実践し、評価、省察し、実施されたカリキュラムを創り出 す」(p.7)ことから、表18の教授的推論過程を具体的に意図されたカリキュラムを基にど のように授業(実施されたカリキュラム)を作成するか、という視点から捉えなおすこと ができる。特にここでは、先行研究の議論から実施されたカリキュラムの概念を深めたい。

Remillard(2005)は教師を「積極的なカリキュラムの設計者(the active designer of curriculum)」ととらえ、授業を「活性化されたカリキュラム(enacted curriculum)」と している(p.5)。Remillard & Heck(2014)は、実施されたカリキュラム(運営的カリキ ュラム)が3つの要素―教師が意図したカリキュラム・活性化されたカリキュラム・子ど もの学習成果―からなるとしている。三輪(1998)もまた同様に、「教室における授業のと らえ方」(p.141)の中で、意図された授業・実施された授業・達成された授業の3つに分 けている。両者とも実施されたカリキュラムを意図されたカリキュラムと達成されたカリ キュラムと関連付けながら3つに細分化している。つまり学習指導要領などを基にしなが ら、教師の意図したカリキュラムは翻案段階に作成されるが、学習指導要領と同じものと は言えない。そこでこれも含めて実施されたカリキュラムと呼ぶ。また、授業後教師は、

達成したと認識しているカリキュラムが存在し、そのことは省察段階に対応するが、教師 の認識と実際の子どもの達成とずれている場合があり、実施されたカリキュラムに含める。

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これらの対応関係を見るために、目標・目的、指導内容、指導方法を比較する手法をとる。

表 19 は、教授的推論過程と五層のカリキュラムを対応させ、調査の分析の対象を明示 した調査の枠組みである。一回目調査ではカリキュラム間の差異を示すことにより実践的 知識の課題を同定する。二回目調査では翻案・授業・省察を繰り返す日々の教育活動の中 で教師の変容を捉える。

表19 調査の枠組み

日々の教育活動 カリキュラム

段階 活動 五層のカリキュラム 分析の対象となる内容 意 図 さ れ た カ リ キ

ュラム

シラバス・教師用指導書における

①目標・目的 ②指導内容

③指導方法 翻案 包括的理解

翻案

新しい包括的理解 実 施 さ れ た カ リ キ ュ ラ ム

教師が意図し たカリキュラ ム

指導案における

①目標・目的 ②指導内容

③指導方法 授業 授業

形成的評価 行為の中の省察

教師が活性化 したカリキュ ラム

授業における

①目標・目的 ②指導内容

③指導方法

省察 総括的評価 行為についての省 察

教師が認識し た達成された カリキュラム

評価テストの結果における

①学習内容

(学習されたと判断された知識・技能)

達 成 さ れ た カ リ キ ュラム

小テストの結果における

①学習内容

(実際に子どもが獲得した知識・技能)

一回目調査の分析の対象は、シラバス・教師用指導書、指導案、授業、評価テストの結 果である。達成されたカリキュラムにおける学習内容は、調査者が行う小テストの結果を 代用する。そして各カリキュラム間の指導内容・学習内容等の比較を行い、その差異を明 らかにし実践的知識の課題を把握する。図 21 はカリキュラムの 4種類の差異を示してい る。意図されたカリキュラムAと教師が意図したカリキュラムBとの差異は、指導内容が 削減される場合(図21③)や追加される場合(図21④)、またカリキュラムAとカリキュ ラムBに共通部分はあるが差異がみられる場合(図 21②)などが考えられる。

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図21 カリキュラム間の差異

(3) カリキュラムの差異と実践的知識の課題

次にカリキュラムの差異からどのような実践的知識の課題が浮かびあがるか、考えてみ よう。例えば意図されたカリキュラム A と教師が意図したカリキュラム B の差異を考察 する場合、教師用指導書と学習指導案を比較した結果、指導内容が削除された場合は図21

③の様相である。「削減」という行為に結びつく図 18のカリキュラムメーカーの実践的知 識の概念枠組みの構成要素に関して、次のようなことが予想できる。ただしこれらの構成 要素は関連しあっている。

子どもの学習状況の認知 :内容の理解が困難と判断し削除した

状況特有の知識 :子どもがつまずいている様子を見て、本時の目標達成を あきらめ、次時に再学習しようとした

カリキュラム知識 :カリキュラム知識がないために、重要なところを削減し てしまった

内容・指導法・子どもの知識:計算方法を身に付けるために概念形成にかかわる部分は 削除した

信念 :答えを簡単に求めることが重要なので、概念的理解は削 除した

個人の経験 :前年の授業でも削減をしてよい授業ができたので、本年 も削除した

社会文化的背景 :テスト重視の学校教育では問題練習に時間を多く配分し、

概念的理解は削除した (4) 調査の枠組みを用いる際の留意点

上記のようなカリキュラムの差異を引きおこす実践的知識の問題を考察する場合、「状 況特有の知識」であることを考慮すると描写分析に困難が生じると考えられる。つまり、

翻案・授業・省察段階では上記の要素が同様の関係で影響するとは言えないのではないだ ろうか。翻案段階ではカリキュラム知識の影響、授業では子どもの学習状況の認知による 影響が大きくなるであろうし、省察段階では対象となる行為によってどの要素も働きうる。

更に授業においては一般的な実践的知識の特徴である暗黙的・直観的・即興的といった教

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