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8-1 稲作担当団員所感

(1)土壌生産力の維持管理のための土壌・植物分析の必要性

コメに限らずどのような作物でも、土壌から窒素、リン酸、カリなどの栄養塩類(肥料要 素)を吸収するので、生産物または収穫物を水田や畑からもちだすことは土壌から肥料要素 を収奪することにつながる。そのため、そのまま栽培を続ければ、土壌の生産力は次第に低 下していく。草地や林野を新規に開墾した場合などは土壌の有機物含量が高く、その生産力 が一定期間高く維持されることもあるが、栽培を続けてきた農地ではそのようなことは期待 できない。したがって、農地の生産力の維持のためには、収奪した分を有機物または化学肥 料で補給しバランスをとることが必要である。どのようにしてバランスをとるか。これは化 学分析によって窒素、リン酸、カリ等の収奪量を定量し、その分を堆肥等の有機物または化 学肥料を施用することによってできる。このとき注意することは、有機物はそのままでは作 物に吸収されないので、まず土壌中で分解されなければならず遅効性であり、一方、化学肥 料は水に溶ければ直ちに吸収される速効性であるという点である。実際には、有機物と化学 肥料の混用が勧められるが、そのためにも土壌分析や植物分析が必要である。

(2)土壌診断

今回の現地調査で訪問したイタシ県のモデル農家の水田土壌はリン酸欠乏があるため、収 量向上のためには、リン酸の多量施用が必要であることが土壌診断によって判明したと聞い た。このように、土壌の肥沃度(生産力)をあらかじめ診断することが化学肥料の適切な施 用量の判断につながる。土壌診断は、通常、土壌に対して無肥料区、窒素区、リン酸区、カ リ区、窒素+リン酸区、窒素+カリ区、リン酸+カリ区、三要素(窒素+リン酸+カリ)区 を設け、実際に稲を栽培してその生育状態を比較して行う。プロジェクトでは現在対象県の 土壌診断を実施しているが、国全体のコメ生産向上のためには、稲作地帯の土壌について土 壌診断を行うことが重要である。診断結果を土壌肥沃度マップとして表示することは国全体 の施肥対策上重要なことである。

(3)普及と技術パッケージの要素技術

現在の技術パッケージはおおむね 12 の要素技術から構成されており、生産性向上のため には化学肥料は重要な要素の1つである。しかし、化学肥料を購入できない農民が多数いる ことも事実である。そのため、生産要素から化学肥料を除いた技術パッケージによってどこ まで生産性向上が可能であるか実証することに技術普及上意味があると思われる。本調査に おいて、技術普及推進のためデモ圃場の設置が提言されたが、その場合、土壌診断を実施し たうえで、化学肥料区と無肥料区を設置することを提案したい。

(4)種子純化の意味と品種育成

品種による価格差がほとんどない現在のマダガスカルで、コメ生産農家の段階で複数品種 のコメが混合することは実用上あまり問題にならない。しかし、育種家種子(G0)、原原種

(G1)、原種(G2)、認証種子(G3)の段階では混じりのない純粋種子であることは必要な

ことである。そのため、育種家種子、原原種、原種に国家的な責任を負うFOFIFAにおいて は、既に混合された種子を純化する技術を実用レベルまで習得し、種子を純化することが重 要である。また、種子には地域適応性があり、中央高地では低温障害やいもち病の障害もあ るので、そのようなストレスや障害に耐性を示し地域適応性が高い品種の育成に取り組むこ とが将来の生産向上につながるものと期待される。

(5)ポストハーベスト技術によるコメの差別化

刈り取り後の稲の乾燥、脱穀、精米、精選など収穫後のコメの品質向上技術がマーケティ ング上重要である。商品としてのコメの差別化が行われれば、農民のインセンティブが発生 し、収入向上に至ることが期待される。そのためポストハーベスト機械の整備が望まれる。

(6)農業研究機関の強化

マダガスカルのコメ生産向上において土壌・植物分析、土壌診断や品種育成等の研究は極 めて重要である。そのためあらゆる手段を活用して研究機関の人材の補充や研究能力の強化 が強く望まれる。

8-2 団長所感

(1)協力機関の延長について

JCCに先立ち2013 年6 月18日に農業省次官と面会し、1.5 年間の協力期間延長が適当と の日本側の考えを伝え、事実上双方で合意に達した。本プロジェクトの協力期間延長の必要 性につき以前より日本側関係者間で協議してきたが、両国政府間に横たわる懸案事項(大豊 建設の口座凍結問題)の解決の見通しが立たず、本プロジェクトの今後の方向性が見いだせ なかった。しかし、6月6日付で在マダガスカル日本大使館とマダガスカル政府との間で上 記問題の解決に向けた覚書が署名されたことを受け、外務本省より本プロジェクトの延長に 限り承認する方向性が示された。今回の協力期間延長は、上記経緯を踏まえたものである。

協力期間延長の理由は、①技術パッケージの開発・普及を通じて大きな成果をもたらして いる(プロジェクト目標以外の指標はおおむね達成)、②ただしプロジェクト目標に限って は、その指標(モデルサイトにおけるコメ生産農家の平均単位収量が 1t/ha 増加)が達成に は至っておらず(2011/2012年で平均0.69t/ha、2012/2013年は今後調査予定)、確実なプロジ ェクト目標の達成にはあと2作期(1.5年)必要と判断したことによる。

これに対して農業省次官から感謝の意が表されるとともに、PAPRizの農民中心の取り組み

(Farmer-Centered Approach)を高く評価する旨の発言があった。これは、他機関の支援と異 なり、対象県ごとに技術パッケージの開発・普及を進め農民の技術力強化に丁寧に取り組ん できた本案件の活動を高く評価するものである。これまでプロジェクト活動はマダガスカル 側関係者の積極的な巻き込み・参加のうえで進められてきたが、今後の活動の持続性を踏ま えて延長期間中はマダガスカル側の主体的な取り組みを一層推進していくことが望まれる。

(2)延長期間中の協力の方向性について(技術パッケージの普及)

これまで技術パッケージに関しては、対象各県別に品種の決定から苗の準備、耕起・代掻 きから田植、水管理、収穫など各分野の技術の検証、改定が繰り返し行われてきた。特に技

術パッケージの改定は、作期終了のたびに各技術項目につきマダガスカル側関係者の主体的 な参加の下で精力的に検討を行い改定を行ってきた。このプロセスは、上記関係者の技術能 力向上及びマダガスカル側の主体性の醸成に大きく貢献したといえる。

他方、技術パッケージの改定は既に繰り返し行われており、多いものでは既に Version 3 まで改定されている。今後技術的検証が十分でないものについてはこれまで同様改定作業を 行っていく必要があるものの、既に改定が進んだ技術パッケージについては、今後の更なる 改善の可能性はあるものの、技術的観点からは一定レベルに到達したと理解できる。したが って、技術パッケージについては一定レベルに到達したものも多いことを踏まえ、延長フェ ーズでは「技術の開発・検証」から「技術の普及」に軸足を置いた活動を展開していくべき と考える。「技術の普及」に係る活動の詳細は今後具体化していく必要がある。

(3)プロジェクト目標達成に貢献する付随的な活動への取り組み

現在わが国によるマダガスカルに対する協力は、同国暫定政権が国際的に承認されていな いことから新規の協力を全面的に停止し、政変前に合意に達した協力のみを実施している。

マダガスカルは元来コメを主食とし、コメ生産量(約 400 万 t、CARD対象国ではナイジェ リアと並び他国を圧倒)、生産ポテンシャルともに高い国である。当初2008年のCARD立ち 上げを受けてマダガスカルのコメ開発の推進を支援するべく「食糧増産プログラム」を立ち 上げ複数の協力を組み合わせて戦略的に支援を展開する計画であった。しかし、2009年の政 変以降は本プロジェクトのみを実施している状況にある。

プロジェクト目標(単収増)の達成に向けた 1.5 年間の延長期間中はモデルサイトを中心 に技術パッケージの普及を中核に据えた活動を展開することとなる。しかし、政変以降、本 来必要とされる協力が実施できていない現状及び今後のマダガスカルコメセクターの発展 を考え、普及関連活動に加えてプロジェクト目標達成に貢献する付随的な活動についても一 定程度取り組むことが適当と思料する。ただし、その場合においても確実に成果につなげる べく、選択と集中の観点から活動を展開する必要がある。

(4)技術の普及について〔稲作技術普及ユニット(仮称)の設立〕

上記のとおり、延長フェーズでは稲作技術パッケージの普及に軸足を置いた活動の推進が 求められるが、これまでは中央政府には普及担当部局がないこともあり対象5県のDRDRが 中心となり普及関連活動を実施してきた。しかし、今後は農業省を核として組織的に普及活 動に取り組む必要があることから、日本側調査団よりは農業省生産局の傘下への稲作普及ユ ニットの設立につき提案した。

この点につきマダガスカル側も理解を示し、むしろ技術の普及にとどまらず稲作にかかわ る幅広い活動の強化を理由に、農業省次官の下(各局の上)への稲作推進ユニットの設立に つき提案があった。生産局傘下ではなく次官に下に設置する理由として、稲作は種子、灌漑、

技術普及など多岐にわたる技術が必要となり、生産局傘下で普及関連活動のみ推進するので 不十分であることが挙げられた。上記提案は、本プロジェクトの成果を中核とした政府を挙 げた稲作全般の推進体制の強化を意味するものであり、マダガスカル側の前向きかつ自発的 な提案は評価に値する。

ただし、マダガスカル側から提案されたユニットの詳細についてはまだ固まっておらず、

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