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評価 5 項目に基づく検討(評価結果)及び過去の類似案件の 教訓と本事業への活用

9-1 評価5項目に基づく評価結果

9-1-1 妥当性

以下に記載する観点から本プロジェクトの妥当性は高いと判断する。

(1) 必要性(ニーズ)

ニカラグア国首都マナグア市(約 103 万人、2012 年推計値)においては、我が国や他ド ナー機関が、上水道施設整備に係る調査や施設整備事業実施面で各種の支援を行ってきてい る。具体的には、水道水源の確保(主として井戸の新規開発や改修、水道送配水施設の整備・

拡張を中心に実施されてきた。その結果、給水能力自体は大幅に向上しているが、人口増加 と市街地拡大に伴い、一日当たりの給水時間が10時間以下2の地域が残されている。その原 因としては、貯水施設の不足、配管網の整備不足、物理的・商業的な水損失が大きいことな どが挙げられる。特に、無収水率については、2000 年以降 50%台で推移しており、改善が 見られない。このことは、給水能力が約 37%拡大している一方、無駄になっている水(水 道料金が徴収できてない水量)も給水量拡大に比例して増加している状況を示す。下表に 2000年から2014年までにマナグア市における水生産量、無収水量、無収水率を示す。

表 9-1 2000 年から 2014 年までの水生産量、無収水量、無収水率の推移

単位 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 水生産量 百万m3 128.0 131.1 134.7 145.1 148.3 146.3 145.1 146.9 148.4 153.9 158.1 167.4 167.0 168.4 175.4 無収水量 百万m3 66.1 69.3 73.3 83.5 82.9 78.6 75.6 75.3 74.4 73.1 79.1 88.4 88.8 86.3 91.8 無収水率 % 51.6 52.9 54.4 57.6 55.7 53.7 52.1 51.3 50.1 47.5 50.0 52.8 53.2 51.3 52.4

これまでに給水量の拡大に焦点を当てた水道事業が実施されてきたが、無収水率を下げ て、水道料金徴収額を増加させることが、ENACAL の経営財務面の改善において、また、

水道施設の効率的・効果的な運営・維持管理においても重要であるとの認識がENACAL内 で高まっている(このことは、ENACALの2013~2017年組織開発戦略の重点事項の第1番 目に無収水削減を掲げていることからも解る)。

このような状況から判断して、マナグア市において無収水削減に係る支援を実施するこ とは、そのニーズに合致している。

(2) ニカラグア国の関連政策との整合性

第2章の2-1-2項で述べたように、ニカラグア政府が2012年に作成した「ニカラグ ア人間上下水道セクター統合プログラム-生活プログラム」では、都市部については、量、

質、継続性の点において、水道サービスへのアクセスを増加・確実化させることを基本目的 としている。都市部の水道サービスにおいて優先的に対応すべき事項の中には、無収水率削 減が重点項目として含まれている。

2 ENACAL資料によると、給水時間が10時間以下の利用者が約2割存在し、24時間給水が得られている利用者は約5割に過

ぎない。

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本プロジェクトは、上記プログラムの都市部の上水サービスにおいて優先すべき事項の 一つに掲げられている「無収水率」を改善するため、マナグア市を含む都市部の上下水道サ ービス提供を担当しているENACALの能力強化を行うプロジェクトであり、政府の上下水 道分野の政策に合致するプロジェクトである。

(3) 日本側の政策との整合性

我が国の対ニカラグア国 国別援助方針(2013年3月版)の重点分野の一つは、「貧困層・

地域の社会開発」で、この中には、「保健医療・衛生改善」を通じた人々の生活の質向上に 貢献する方針が示されている。給水セクター支援は、衛生改善に該当する支援である。また、

国別事業展開計画(2015 年 6 月)では、課題「保健医療の改善、安全で安定した水の確保 による生活の質の向上」の中の「保健医療・衛生改善プログラム」の中のプロジェクトとし て位置づけられている。したがって、本プロジェクトは、我が国の対ニカラグア国援助方針 と整合性がある。

(4) 我が国の無収水削減に係る経験・知見の活用

我が国の水道事業全体の無収水率は、平成 25 年度(2013 年)試算3で、9.82%であった。

特に、東京では、無収水率が3.38%であり、非常に無駄の少ない水道事業経営が行われてい る。またJICAは、アジア、アフリカ、中南米において無収水削減に関する技術協力プロジ ェクトを実施してきた経験を有する。日本国内に蓄積されている無収水削減に係る技術・知 見ならびにJICA技術協力プロジェクト実施の経験を、ニカラグア国マナグア市における無 収水削減に効果的に活用することが可能である。たとえば、現在マナグア市では、給水地区 を小さな区域に水理的に分離し(ミクロセクター)、ミクロセクター毎に無収水管理を進め ようとしているが、技術的に困難との意見もある。無収水削減に係る別の方法もあるので、

現地の状況に適した対策・手法について、日本側が有する技術・知見の現地適用性を考慮し つつ、マナグア市の現状に適した方法が見いだされることが期待される。

9-1-2 有効性

本プロジェクトは、①無収水削減に係る計画策定能力の強化、②無収水削減に係る対策実施 能力の強化、③給水装置(給水管及び水道メーター)の設置に係る品質管理能力の強化、④無 収水対策研修の計画・実施能力の強化、という4つの成果目標を達成することを通じて、プロ ジェクト目標である「無収水削減対策を計画的に実施する体制の整備」を達成するという仕組 みになっている。

①~④の成果を達成することで、計画策定能力強化、無収水対策実施に係る実務能力強化、

人材育成に係る体制構築を図ることができ、無収水を計画的に削減するための必要なソフト面 の基盤が整備されることから、プロジェクト目標達成における論理性は明確であると判断する。

ENACALは、無収水対策の必要性・重要性を認識しており、日本の無収水対策技術導入に大

きな期待を示している。ENACAL 職員の定着性は概ね高いとのことである。以上の観点から、

4 つの成果ならびにプロジェクト目標が達成される可能性が高く、よって有効性が高くなるこ

3 (公財)水道技術研究センター作成資料による(水道ホットニュース第490号、平成271120日)。

とが期待される。

9-1-3 効率性

首都マナグア市を対象地域に、そして ENACAL 本部の職員を対象に本技術協力プロジェク トが実施される。プロジェクト活動実施にあたっては、部署横断的なプロジェクト・マネジメ ント・ユニットと各成果の活動を実施するチームを設けてプロジェクト活動を実施する計画と なっている。無収水削減に関わる部署が有機的に連携してプロジェクト活動を実施すること、

また、関連する部署はすべて ENACAL 本部内にあることから、プロジェクト活動を効率的に 実施できると期待される。

さらに、無収水削減に関わるノウハウや協力実績を持つ我が国の技術協力に対するENACAL 側の期待が高いことも効率性を確保する要因になると期待される。ただし、ENACALの組織体 制の見直しが進行中であり、プロジェクト開始時に ENACAL の組織体制に変更が生じている 可能性がある。そのため、プロジェクト開始時には、組織改編の有無を確認し、必要に応じて プロジェクト実施体制の適正化を図ることが円滑なプロジェクト活動実施のために必要にな る。

9-1-4 インパクト

(1) 短期的に期待されるインパクト

本プロジェクトでは、パイロット地区を選定して、実際に無収水削減対策活動を実施し、

無収水削減を実践する。このパイロット地区での活動を通じてENACAL職員が得ることに なる経験とノウハウは、その後、ENACAL 自身で実施する無収水削減活動を他の地区でも 効果的・効率的に実践することにつながるという波及効果が期待できる。

本プロジェクトでは、ENACAL 本部に勤務する職員をカウンターパートとして活動を行 い、無収水削減に関わる能力強化が実施される。また、研修の計画・実施能力の強化では、

研修カリキュラム・教材の作成及び研修講師の育成を行う。ENACAL は、地方の支所に勤 務する職員の無収水削減に係る能力強化を自分たちで実施したいとの意向を持っている。し たがって、本プロジェクトで作成される研修カリキュラム・教材と育成される研修講師は、

地方勤務のENACAL職員の能力向上に寄与するという波及効果の発現が期待される。

(2) 長期的に期待されるインパクト(プロジェクト終了後)

本プロジェクトで作成する「無収水削減に係る実施基本計画」に沿って、無収水削減に 係る事業が実施されれば、マナグア市の無収水率を徐々に削減していくことが可能となる。

ただし、そのためには、給水施設の更新・改良に係るインフラ整備が必要であり、ENACAL がインフラ整備に必要な資金を他ドナー等から確保することが必要条件となることから、プ ロジェクト実施中もENACALに必要な働きかけを行い、資金調達を側面支援する必要があ る。