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設計への応用

ドキュメント内 大型鋼 I 断面桁の接合方法に関する一考察 (ページ 83-95)

5.1  はじめに 

  本研究で提案する併用継手について,3章で得られた軟質溶接継手の検討結果と,4 章で得られたいったんすべった高力ボルト継手のすべり試験結果に基づき,2章で設計 した継手との比較を試みる.設計方法では,I断面桁の高力ボルト継手の設計で検討さ れた,フランジとウェブの協同作用を期待した「総すべりモーメント43)」による設計法

39)が提案されている.ここでは,この考え方を参考に併用継手の新しい設計法について も検討する.

5.2  上下フランジ(横突合せ溶接継手)の設計 

5.2.1  設計条件 

  継手の接合は完全溶込み開先溶接を採用するものとし,理論のど厚は板厚とする.

  フランジの材質はSM490Y材で,PCM値は0.27と仮定する.溶接方法を炭酸ガスシー ルドアーク溶接として施工する場合,道路橋示方書 44)では 50℃の予熱を実施すること となっているが,ここでは低温割れ対策として軟質溶接継手を採用し,予熱作業を省略 するものとする.

5.2.2  軟質溶接継手 

  軟質溶接継手の設計で使用する母材と溶接材料の機械的性質は,JIS 規格の下限値と

する.3.2.1項で述べた試験体の強度は軟質溶接継手ではあったが,SM490YA継手で使

用した鋼材と溶接材料の降伏応力と引張強度の規格値は,鋼材(JIS G3106 SM490YA)

が355 N/mm2と490 N/mm2に対し,溶接材料(JIS Z3312 YGW16,日鐵住金溶接工 業YM-25)が390 N/mm2と490 N/mm2であり,軟質溶接継手とはならない.ここで は明確な軟質溶接継手を設計するため,溶接材料には 400N/mm2級鋼用低水素系被覆 アーク溶接棒(JIS Z3211 E4316)を用いることとする.JIS Z3211 E4316の降伏応力 と引張強度の規格下限値は330 N/mm2と430 N/mm2であり,溶接・母材応力比αは降

伏応力で 0.930,引張強度で0.878 となる.道路橋示方書の許容応力度は降伏応力で定

められているため,本項では降伏応力のα=0.930 を採用する.なお,参考までに JIS

Z3211 E4316の溶接材料(日鐵住金溶接工業−16)のメーカーカタログ値45)には,標準 的な条件で施工した場合の溶接金属の降伏応力が掲載されている.その値は460 N/mm2 と,軟質溶接継手にならない値となっており,溶接金属部の強度は銘柄や溶接条件に よって規格値よりも大きい場合があるので注意が必要である.

  溶接継手の構造詳細は2章で試算したI断面桁である.フランジの溶接継手は片面V 開先とするため溶接部の幅は,3.2.2項で述べた板厚12 mmの片面V開先試験体の初層

側が12mm,終層側が20mmとなった結果を用いて比例させる.また,3.5.1項で用い

た解析モデルは板厚方向で一様の積層をモデル化していないため,溶接金属の幅は1.33 倍(=(12+20)/2/12)を見込むものとする.したがって,上フランジの溶接幅は 44 mm(= 33 mm×1.33),下フランジの溶接幅は50 mm(= 37 mm×1.33)とする.

  よって,3.5.2項で求めた降伏応力の評価式は,

上フランジ側溶接幅 :du = 44 mm 下フランジ側溶接幅 :d l= 50 mm

板幅 :w = 530 mm 上フランジ板厚 :t = 33 mm 下フランジ板厚 :t = 38 mm 母材の降伏応力 :σy = 355 N/mm2

上フランジ板厚の補正係数 :βtu = 0.032 (t/w) + 0.996 = 0.9980 下フランジ板厚の補正係数 :βtl = 0.032 (t/w) + 0.996 = 0.9982

溶接・母材応力比 :α = 330/355=0.930

上フランジ側溶接幅の補正係数 :βdu = −0.155(d/w) + 1.021 = 1.034 ※ 下フランジ側溶接幅の補正係数 :βdl = −0.155(d/w) + 1.021 = 1.036 ※   ※:dとwが3.5.2項の評価式の適用範囲外であるため,1.0とする.

溶接・母材応力比の補正係数(降伏応力) :βα =−1.315a2 + 2.258a−0.045 = 0.918 降伏応力 :σys = 0.988×βt×βd×βα×σy

      =321 N/mm2 (上フランジ側)       =321 N/mm2 (下フランジ側)

  となる.これは,母材の降伏応力(355 N/mm2)と比べて 9.6%(=1−(321/355)) の低下となる.母材の材質はSM490YAであり,実設計では道路橋示方書で規定される 許容応力度の 210 N/mm2で照査される.軟質溶接継手とすることにより継手の耐力が 9.6%低下することが見込まれる場合の照査方法として,許容応力度を低下させて照査す ることとする.

SM490YA材の許容応力度を9.6%低下させると189.8 N/mm2(=210×(1−0.096)) となる.この数値を用いることもできるが,道路橋示方書では SM490 材の許容応力度

が185 N/mm2となっている.ここでは,軟質継手を採用することにより,継手の強度を 1ランク下げることとし,許容応力度を185 N/mm2として設計するものとする.

5.2.3  上下フランジの設計 

(a)上フランジの連結 

  上フランジの寸法  1-fig PL 530×33 mm (SM490Y)  総断面積Ag = 17,490 mm2 よって,曲げ応力度を照査すると,

  σc = M/I×yu = 6,424×106/(3.20×1010)×918 = 184 < 185 N/mm2 OK

(b)  下フランジの連結 

  下フランジの寸法  1-flg PL 530×37 mm (SM490Y)  総断面積Ag = 19,610 mm2 よって,曲げ応力度を照査すると,

  σt = M/I×yL = 6,424×106/(3.20×1010)×852 = 171 < 185 N/mm2 OK

5.3  併用継手の設計 

  本研究で提案する施工方法では,ウェブの高力ボルトをフランジの溶接前に締付ける ため,ウェブのボルト継手のすべり係数が低下することは避けられない.

  また,従来の併用継手の設計では,2章で述べたようにフランジ継手とウェブ継手を 独立して設計している.しかし,近年,I断面桁の高力ボルト継手の設計ではフランジ とウェブの協同作用を期待した「総すべりモーメント43)」による設計法38)が提案されて いる.ここでは,この考え方を参考に併用継手の新しい設計法についても検討する.

5.3.1  設計条件 

( ) 接合面の表面処理に応じたすべり係数:μ=0.35

  4章で示したように,予すべりを与えた場合のすべり係数は予すべりを与えなかった 場合よりも低くなり,その低下率の平均値は載荷方向が圧縮の予すべりで 7%,引張の 予すべりで19%であった.ここでのすべり係数は接触面に無機ジンクリッチペイントを 塗布した条件でのものであり,道路橋示方書ではすべり係数を 0.45 としている 46).そ こで,すべり係数を

0.45 ×(1−0.19)= 0.35  (小数点以下2桁を5刻みに切捨て)

  と考えた.したがって,F10T(M22)の高力ボルト1本の1摩擦面あたりの許容応力度

ρ = 205×0.35×2×2 /1.7 = 84 kN(小数点以下切捨て)

  として試算する.

(b) 設計法:土木学会指針38)(総すべりモーメント43)

  曲げモーメントが作用する継手全体のすべりに対する照査は,作用曲げモーメント以 上のすべり耐力(曲げモーメント)を有することにより確認する.ただし,フランジ継 手については,降伏応力に対する許容応力度を,許容すべり耐力とみなす.

5.3.2  曲げモーメントの照査 

( ) 道路橋示方書に基づく従来の設計

  併用継手の上下フランジは,軟質溶接による突合せ溶接継手であり,5.2.3項に示した とおりとなる.ここではウェブの高力ボルト継手について設計する.

(i) 曲げモーメントによりボルトに作用するカ

  ウェブの高力ボルトの配置は図-2.4に示すように上下対称とし,ボルト本数は作用力 の大きい上フランジ側の最上段のボルトを対象に照査することで算出する.

①最上段ボルト

最上段ボルトの分担幅b1の計算 b1 = 130+90/2 = 175 mm 最上段ボルトが分担する力Plの計算

Pl = 175×10×(177+142)/(2×103) = 279 kN 所要ボルト本数の計算

  ウェブの連結は2面摩擦接合継手とし,高力ボルトM22(S10T)を用いて連結 を行うと,高力ボルトの本数nは,

n = P1/ρ = 279×103/84,000 = 3.32 (本)となる.

したがって,主桁ウェブの最上段ボルトの本数は4本とする.

このとき,最上段のボルト1本あたりの分担力ρMは,

ρM = P1/4=279/4 = 69.8 kN

②2段目のボルト

2段目のボルトの分担幅b3の計算 b3 = 90/2+90/2 = 90 mm 2段目のボルトが分担する力P3の計算

P3 = 90×10×(142+124)/(2×103) = 120 kN

所要ボルト本数の計算

n = P3 /ρ = 120×103/84,000 = 1.43 (本)となる.

  したがって,主桁ウェブのボルト本数は全て最上段と同様に4本とする(図-5.1参照). このとき,ボルト1本あたりの分担力ρMは,

ρM = P3/4 = 120/4 = 30 kN

(ii) せん断力によりボルトに作用する力の照査

  せん断力は,主桁のウェブのボルト全体で分担するものとして設計する.

作用するせん断力Q = 404 kN

連結部片側のボルト本数n = 4×17 = 68 本 ボルト1本あたりの分担力の照査

ρg = Q/n = 404/68 = 5.9kN < ρ =108 kN OK

(iii) ボルトに作用する合成力の照査

  ボルトが分担する曲げモーメントによる水平方向のカとせん断力による鉛直方向の 力との合成力に関する照査を,主桁ウェブのボルト最上段(作用力最大)のボルトについ て行う.

2 2 2

2 S 70 6

M ρ

ρ

ρ = 70.3 kN < ρ = 108 kN OK

(iv) 連結板の応力度の照査 連結板の断面

連結板の寸法 2-PL 1,530×9 mm (SM490Y) 断面積 As = 2×1,530×9 = 27,540 mm2

断面2次モーメント Iw = 2×1,5303×9/12+27,540×352 = 5.41×109 mm4 主桁ウェブの断面性能

断面積 Aw = 1,700×10 = 17,000 mm2

断面2次モーメント Iw = 1,7003×10/12十17,000×352 = 4.11×109 mm4 ウェブが受け持つモーメントMwは,図-5.1より,

Mw = 177×Iw/885×10-6 = 177×4.11×109/885×10-6 = 822 kN・m 連結板に作用する曲げ応力度の照査

  σs = Mw/Is×800 = (822×106)/(5.41×109) × 800 = 122 < 210 N/mm2 OK

(b) 土木学会指針に基づく総すべりモーメント法による設計

  曲げモーメントが作用する継手全体のすべりに対する照査は,作用曲げモーメント以 上のすべり耐力(曲げモーメント)を有することにより確認する.ただし,フランジ継

手については,降伏応力に対する許容応力度を,許容すべり耐力とみなす.せん断に対 してはウェブのボルト継手のみで抵抗するものとして設計する.

ウェブのボルト配置は,17行2列(片側34本)として計算する(図-5.2参照). また,すべり耐力補正係数(曲げモーメント)φmは,フランジ部を1.0,ウェブ部を0.8 とする。

(i) フランジの溶接継手の降伏およびウェブの高力ボルト継手のすべりに対する照査

① すべり耐力(曲げモーメント)MSLの算出  (表-5.1参照)

高力ボルト1本1摩擦面あたりの基本すべり耐力ρs ρs = μ×N = 0.35×205 = 71.7 kN

フランジの溶接継手は,降伏応力を公称降伏応力とし,315 N/mm2となる.

(軟質溶接継手のため,母材の材質を1ランク下げたSM490と設定)

  曲げモーメントすべり耐力MSLは,表-5.1より,

MSL = Σ(φs×φm×di×ρli) = 11,611 kN-m

② せん断すべり耐力QSLの算出

QSL = φs×Qn = φs×m×n×ρs = 1.0×2×34×71.7 = 4,876 kN

③ 曲げモーメントおよびせん断力が作用する継手のすべりに対する照査   γ ×γb×γi×γm×((M/MSL ) 2+ (Q/QSL)2) 1/2

    = 1.7×((6,424/11,611) 2+ (404/4,876) 2) 1/2     = 0.95 ≦ 1.0 O.K.

(ii) 連結板

  連結板には,ウェブ母板の板厚を考慮して次のものを使用する。

・連結板の断面

  連結板の寸法 2-PL 1,530×9 mm  (SM490Y)

  断面積 As =2×1,530×9 = 27,540 mm2

  断面2次モーメント Is = 2×1,5303×9/12 =5.37×109 mm4

・主桁ウェブの断面性能

  断面積 Aw = 1,700×10 = 17,000 mm2

  断面2次モーメント Iw = 1,7003×10/12 = 4.09×109 mm4   したがって, Is/Iw = 1.3 ≧ 1.0 OK

5.3.3  設計計算結果の比較 

  ここで得られた試算結果のウェブのボルト継手を,2章で示した道路橋示方書にした

ドキュメント内 大型鋼 I 断面桁の接合方法に関する一考察 (ページ 83-95)

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