本研究では,少数主桁橋に用いられる大型鋼I断面桁の現場継手の施工の省力化や施 工期間短縮のための方法の一つとして,併用継手と軟質溶接継手を採用する方法につい て検討した.併用継手の施工方法は,ウェブの高力ボルト継手をフランジの溶接継手の エレクションピースとして利用することとし,以下の手順を考えた.
①ウェブの高力ボルト継手を1次締め ②軟質溶接によるフランジの溶接施工 ③ウェブの高力ボルトを本締め
この施工手順の課題はいくつか考えられるが,本研究ではフランジの溶接収縮によっ てウェブの高力ボルト継手にすべりが生じた後の継手のすべり係数と,軟質溶接継手を フランジ継手に適用した際の降伏耐力と引張強度について検討した.
各章で得られた結果は以下のとおりである.
第1章 序論
本章では,鋼橋の現場継手のうち,高力ボルト継手,溶接継手が採用されてきた歴史 的経緯を振り返りながら,合理化橋梁型式として普及している大断面I桁では併用継手 が有望であることを明らかにした.また鋼材の高強度化という観点では,軟質溶接継手 の採用により施工が省力化できる可能性があることを示した.併用継手では施工手順が 問題となるが,既往の検討事例を整理し,本研究で提案する施工手順を提示し,研究の 目的を述べた.
第2章 大断面I桁の設計法と施工過程の比較
本章では,少数主桁橋の現場継手を対象とし,高力ボルト継手,溶接継手,併用継手 の3種類について,設計法と施工過程を比較した.設計方法は,道路橋示方書に基づく 従来の設計法として試算した.施工過程の比較では,高力ボルト継手と溶接継手は従来 の施工手順とし,併用継手では,①ウェブの高力ボルト継手を1次締め,②フランジの 溶接施工,③ウェブの高力ボルトを本締め,といった手順で工程を試算し,併用継手の 合理性を明らかにした.得られた結果は以下のとおりである.
1) 併用継手の設計は,フランジ継手は溶接継手とし,ウェブ継手は高力ボルト継手と して設計することにより,現行の設計法を踏襲することができる.
2) 併用継手の施工過程について,工期と工事費用を試算した結果,いずれも高力ボル ト継手には劣るものの,全断面溶接継手と比べると架設工期が11%短縮でき,工事 費用は全体で約0.6%の削減が見込まれる.
3) 本研究で提案する併用継手の施工手順では,旧日本道路公団の施工手順と比べて工 期は1%の短縮,工事費用は0.5%の削減効果が見込まれる.
第3章 軟質突合せ溶接継手の降伏応力と引張耐力
本章では,少数主桁橋のフランジ継手などに採用される軟質横突合せ溶接継手を対象 とし,母材の強度を3種類に変化させたV型開先の横突合せ溶接継手の引張試験と,パ ラメトリックな弾塑性有限要素応力解析を実施し,軟質溶接継手の降伏応力,引張強度 と変形性状を明らかにした.さらに軟質縦突合せ溶接継手についても同様の検討を行っ た.得られた結果は以下のとおりである.
1) 横突合せおよび縦突合せの軟質溶接継手の降伏応力と引張強度を,引張試験を行う ことにより明らかにするとともに,解析的に求めることが可能であることを確認し た.
2) 自作の画像計測システムを用いて横突合せ軟質溶接継手の変形性状を明らかにし た.
3) 軟質横突合せ溶接継手の板厚,溶接幅,溶接・母材応力比をパラメータとした降伏 応力と引張強度の評価式を提示した.
4) 軟質縦突合せ溶接継手の降伏応力と引張強度を,母材と溶接部の強度の線形重ね合 わせにより評価できることを提示した.ここで得られた評価式が有効であることを,
評価式より求めた強度を解析と実験から求めた強度と比較することにより確かめ た.
第4章 いったんすべった高力ボルト継手のすべり係数
本章では,併用継手を構成するウェブの高力ボルト継手を対象とし,予すべりを与え た後の高力ボルト継手のすべり係数について実験的に検討した.予すべりの方向は圧縮 と引張の2種類,予すべり量は1mmと2mm,本締め作業時の継手に作用する応力状態 を2種類(継手を試験機から取り外した状態,予すべり後に継手をそのまま試験機に固 定して荷重を加えた状態)とした.得られた結果は以下のとおりである.
1) 締付け軸力を設計軸力の60%とした予すべり試験でのすべり係数は,引張で載荷し た方が圧縮で載荷した場合よりも約12%低くなった.
2) 高力ボルト継手の片側に予すべりを与えた場合,本すべり試験では載荷方向が圧縮,
引張のいずれも予すべりを与えた側から先行してすべりが生じた.
3) 予すべりを与えた場合のすべり係数は予すべりを与えなかった場合よりも低くな り,その低下率の平均値は載荷方向が圧縮の場合は7%,引張の場合は 19%であっ た.
4) 予すべり量がすべり係数に及ぼす影響は,予すべりの方向によらず小さい.
5) 予すべり後の本締め作業は,応力が作用した状態で作業を実施しても,すべり係数 に及ぼす影響は,予すべりの方向によらず小さい.
第5章 設計への応用
本章では,本研究で提案する併用継手について,3章で得られた軟質溶接継手の検討 結果と,4章で得られたいったんすべった高力ボルト継手のすべり試験結果に基づき,
2章で設計した継手との比較を試みた.得られた結果は以下のとおりである.
1) 本研究で提案する軟質溶接で施工されたフランジの溶接継手と予すべりを受けた ウェブの高力ボルト継手で構成された併用継手について,道路橋示方書にしたがっ た設計と,フランジとウェブの協同作用を期待した総すべりモーメント法による設 計を比較した.
2) 本研究で提案する工法は,道路橋示方書にしたがった設計ではウェブの連結板の重 量と高力ボルト本数がともに30%以上増加するが,工事費用は従来工法の併用継手 とほぼ同じとなる.総すべりモーメント法による設計では,ウェブの連結板の重量 と高力ボルト本数がともに 30%以上低減し,現場継手に関する費用が 2.6%低減す る.
3) 提案する併用継手の施工手順について,実用化するために検討が必要な課題につい て整理した.
以上のように,大断面I桁の接合方法として本研究で提案する軟質溶接継手の採用と,
併用継手を採用することによる施工手順は,従来の現場継手の施工費用と施工期間をい ずれも小さくできることを明らかとした.しかし,実工事で採用するためには課題も 残っており,今後検討すべき項目を整理した.
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