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観測されたシグナルに対してその他の潜在的な効果の排除

第 3 章 スピンホール効果トンネル分光法による Pt のスピンホール角評価

3.2. 観測されたシグナルに対してその他の潜在的な効果の排除

ここで、CoFeB 強磁性層の磁気輸送効果を含むスピンホール効果以外にシグナルに寄与し 得る効果の排除について考察を行う。

3.2.1. 熱的効果

測定されたシグナルにおける、スピンゼーベック効果[13]等の熱的に起因する可能性があ る効果の排除のために、

AC印加電流の強度を約5倍までに変化させ、電流値と横方向電圧の間に線形関係が確認さ れた。結果を図3.6.に示す。

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図3.6 逆スピンホール電圧の交流電流依存性と線形近似[1]

これはスピンホール効果と一致し、一方で、生成されたシグナルが電流値の自乗の関数で変 化することが期待される熱的な効果と矛盾する。加えて、交流電流を用いているためにもし シグナルが電流値の自乗に依存して変化したとしても、シグナルの周波数がドライビング 電流の 2 倍になる。セカンドハーモニック測定を行った実験の分解能においてはシグナル が観測されなかった。

スピンホール効果の起源はダイレクトとインバーススピンホール効果の両方の配置で同 程度の強度のシグナルを得られた事実によっても支持される。2つの配置において、チャー ジ電流の流れは全く違う経路をとる。インバーススピンホール効果の配置においては高抵 抗のトンネルバリアを横断する一方で、ダイレクトスピンホール効果の場合は非磁性体層 の下部電極にのみ電流経路が存在する。それ故、もし熱的な効果の寄与があれば、2つの測 定で熱勾配の大きな変化があり、シグナルは大きく異なるはずであるが、実験結果はそれを 否定するものである。

電流印加時においてトンネル接合における温度上昇のラフな見積りを行った。最大の昇 温効果は、直流バイアス印加時に発生する。図 1にと最大約0.1mA 程度の電流を印加し、

電流密度を換算すると、デバイス面積が4×4μm2であるとするとjc 6 10 2 A/cm2になる。

それ故デバイスにおいて典型的なRA値である約

100k  μm

2を用いると、デバイスにおけ る単位面積当たりの発熱力を計算してPjc2RA 360W/cm2が得られた。比較のために、

スピントルクスイッチングのための通常の磁気トンネル接合素子においても同様の計算を

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行った。ここで、スイッチング電流密度はおおむね 1×107A/cm2程度で RA は大よそ

10  μm

2 で あ る 。 よ っ て ス イ ッ チ ン グ ポ イ ン ト に お け る 、 発 熱 力 は 大 よ そ

2 7 2

cRA 10 W/cm

Pj である。スピントルク磁気トンネル接合素子と本デバイスの間では 発熱力が大よそ 4 桁程度違うことが判明した。スピントルク磁気トンネル接合素子におい ては一般的にスイッチングポイントにおける温度上昇は数十から数百度であると考えられ

ている。[14]それ故、トンネル接合素子における発熱効果は無視できるとして議論している。

3.2.2 CoFeB による磁気輸送効果

電流が強磁性層を通過するとき、異常ホール効果のために横方向の電圧が生成する。チャ ージ電流に熱気流が伴っているとすると、異常ネルンスト効果によっても電圧が発生する 可能性もある。チャージ電流に伴った熱気流がある系においては、たいてい異常ネルンスト 効果シグナルは異常ホール効果に対して非常に小さるなるはずである。そのために以下に おいては、異常ホール効果により生成する横方向電圧に焦点を当てて議論する。図3.3.に示 すデバイスにおいて、CoFeB層を電流が流れるとき、場に依存して横方向電圧がCoFeB層 の末端から逆方向にy軸方向に発生しうる。

この電圧は共通の起源であるスピン軌道相互作用のためにスピンホール効果による電圧 と同様に外部磁場に対して同じ対称性をもって生じる。[15]

varying the orientation によって観測されたシグナルの起源について異常ホール効果を排

除することはできないが、Ta/MgO/CoFeB vs. Pt/MgO/CoFeBの2つのサンプルのシグナ ルを比較することにより、異常ホール効果とスピンホール効果を区別できる。もし、得られ た現象が、CoFeB層の異常ホール効果によるものであるとすると、これら2つのサンプル は逆の横方向抵抗を示す代わりに同じ方向で変化するはずである。既に言及しているよう に。それ故、実験によって得られたシグナルはスピンホール効果のみによるものである。

図3.7 異常ホール効果の発生概念図

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加えて、CoFeB が寄与する異常ホール効果は計算によると、最低でも得られたシグナル よりも最低でも4桁程度小さいものである。3d遷移強磁性体金属において、ホール角

AH

は、横方向伝導率

xyと縦方向伝導率

xxの比で定義され、大抵大よそ 0.01 以下である。

[16]CoFeB中の異常ホール効果によって生成される、横方向電圧は以下の様に計算される。

AH

y z

j

j ここで、 z I

jabは印加電流密度である。

本デバイスにおいては、CoFeB層は、Ta(5)/Ru(50 nm)キャップ層と、Ta(5)/Cu(90)/Pt (20

nm)トップコンタクト層に並列に接続されている。図S4に示す並行回路図を用いて、y方

向のCoFeB層の両端に生じる横方向電圧を以下の様に計算した。

Cu CoFeB

AH CoFeB AH CoFeB Cu

Cu CoFeB

I R R I

V t b t b R

ab

R R ab

   

 (3.4)

ここで、a b, はそれぞれ図 3.3.のトンネル接合の寸法を示し、

t

CoFeB CoFeB 層の膜厚

を、

R

Cu

, R

CoFeBはそれぞれ、CuとCoFeBのy方向の抵抗を示している。最後のステップ

として、並列合成抵抗はCu層単体の抵抗値を用いて近似を行った。なぜなら、Cuははる かに導電性でありそしてかつ残りの層よりもはるかに薄いためである。非磁性層に位置す る電極2と4の間の横方向電圧を測定しているために、異常ホール効果に寄与する電圧は、

トンネル接合抵抗と非磁性金属抵抗の間で大きく分割されている。図3.3.に示す様に、それ 故最終的に我々が測定している横方向電圧は以下の様に与えられる。

NM

AHE AH CoFeB Cu

TJ NM

4 I R

V t b R

ab

R R

  

ここで、

R

NMはトンネルバリア下をy方向に流れ る非磁性金属のシート抵抗を示し、

2R

TJは、トンネル接合面積の半分に流れる抵抗値を示 している。Cu層の抵抗を Cu Cu

Cu

R a

t b

 と表し、異常ホール抵抗を以下の様に求めた。

AH CoFeB Cu NM

AHE

Cu 4 TJ NM

t R

R t b R R

 

 

 (3.5)

本デバイスにおいては、Cuの低効率が約4μΩcmであり、非磁性体のシート抵抗が、Taサ ンプルにおいて約300Ω、Ptサンプルにおいて約40Ωであり、0バイアスにおいて

R

TJは約

8kΩであった。よって、

R

AHETaサンプルにおいては0.1μΩ以下でありPtサンプルに

おいては0.01μΩ以下となり、スピンホール効果によるシグナルと比較して、最低でも4桁

程度小さい強度となる。

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異方性磁気抵抗効果(AMR)は、測定された横抵抗に影響し得るCoFeB層に存在するも う一つの電気磁気効果である。

まずに上記の計算は、異方性磁気抵抗効果による寄与の強度を見積もるのにも適用可能 である。第2に以下のセクションに示す様に、異方性磁気抵抗効果はTAMR効果と同様の 対称性であり、我々が測定したシグナルと比較して異っている。

3.2.3. トンネル異方性磁気抵抗 TAMR

Ta/MgO/CoFeB と Pt/MgO/CoFeBのサンプルにおいて、強磁性電極は1層しか存在し

ないため、通常の磁気トンネル接合素子の様なトンネル磁気抵抗効果は発言しない。しかし、

非磁性金属/酸化物/強磁性電極の多層膜構造においてトンネル異方性磁気抵抗効果が観測 されたという報告がある。[17,18]

それらの実験では、磁気モーメントの応答に対応してトンネル抵抗が発見された。トンネ ル異方性磁気抵抗効果(TAMR)においては、接合抵抗変化は印加電流

I

ACの変化の結果と して現れ、それは2つの非磁性電極から観測された場依存の横方向電圧を大きく生成する。

しかしながら、本実験においては、トンネル異方性磁気抵抗効果の寄与は排除できる。理由 としては、まず、TAMRは印加磁場角に対して、180°周期を有するはずであるが、我々が 測定したシグナルは 360°周期を有していた。磁気モーメントとサンプル表面のなす角を

、平面とのなす角を

と定義すると、抵抗は

R     ,

と表せる。TAMRの実験では、印加

平面場の角を変化させたときに、

R   , R     ,

の関係が見つかっている。[17,18]

それ故、観測されたシグナルが、TAMR 効果を起源とするのであれば、横方向電圧は正と 負の場において変化しないはずである。次に、それぞれの方向において外部磁場をスウィー プさせている間に、Ta/MgO/CoFeB と Pt/MgO/CoFeB のそれぞれのサンプルにおいて縦 抵抗を測定したが、本実験の精度ではTAMR効果は観測されなかった。最後にTAMR効果 は、強磁性層の結晶異方性を起源としており、面内場の角度依存性を観測するためには単結

図3.8 異常ホール効果寄与時の等回路図[1]

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晶や高配向強磁性電極が要求される。CoFeB 膜は面内方向に対して接合次元の長さスケー ルに対して高い等方性を有しているために、TAMRが観測されないのは理にかなっている。

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