第 2 章 親子関係研究の概観 2- 親子関係と青年の心理的側面との関連 -
1. 親子関係とアイデンティティ,自尊感情,自己受容との関連についての研究
小沢・湯沢 (1989c) は,大学生を対象に加藤 (1983)が作成した同一性地位判定尺度を 用いて,同一性地位と心理的離乳との関連を検討し,次のような結果を報告している。 男 子では,A地位(同一性達成地位)は親から自立した状態,M地位(積極的モラトリアム 地位)は親子の対立という危機の状態,AF 地位(同一性達成-権威受容中間地位)は親 との心理的葛藤をもつ状態,D地位(同一性拡散地位)は親から離反した状態にあるとい うこと,また女性については,A地位は親から自立した状態,M地位は自立への試みと親 との心理的葛藤と親への反発という自立への過渡期の状態,AF 地位は未だ自立していな い状態,D地位は未自立と親への現実的依存の状態にあるという。
井上(1995)は,親との依存-独立の葛藤と自我同一性との関連性について明らかにし
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ている。彼は,大学生を対象に親との関係での依存欲求,独立欲求及び自律性を表す尺度 を構成し,この尺度と同一性地位判別尺度を用いて,同一性地位によって親との依存-独 立の葛藤の様相がどのように異なるのかということを検討している。その結果,同一性達 成地位にある者は他の地位の者よりも親から自律的であるという結果を報告している。ま た同一性達成地位にある者は依存欲求と独立欲求のバランスがほどよく保たれており,同 一性拡散地位にある者は独立欲求が強いことに特徴があることを報告している。
高木・藤田(1988)は大学生を対象に,親子関係と自己意識との関連性についての研究を 行っている。彼らは,青年の親への意識の側面が同一性地位や自尊感情といかに関わって いるのかということを検討している。その結果,同一性地位との関連について,D地位の 男子は,父親・母親からの「精神的支持」「人生観・考え方への影響」が他の男子よりも有 意に低く,A 地位の男子は,DM 地位(同一性拡散-積極的モラトリアム中間地位)よりも 父親・母親からの「精神的独立性」が有意に高いということ,女子においては父親との関 係において,D地位とDM地位の女子は,A地位の女子よりも「人生観・考え方への影響」
を受けておらず,「感謝・愛情」や「精神的独立性」も低いということを報告している。ま た,D地位の女子は AF地位の女子と比べ,父親を「生き方モデル」としていないこと,
またDM地位の女子は父親からの「心理的圧迫」をA地位の女子よりも有意に強く受けて いると感じていること,さらに母親との関係において,D地位とDM地位の女子はA地位 の女子よりも有意に「人生観・考え方への影響」を受けていないことや,「感謝・愛情」「精 神的独立性」「精神的支持」も弱いということを報告している。彼らは親子関係と自尊感情 との関連についても検討しており,男子においては,母親からの「人生観・考え方への影 響」が強く,「精神的支持」と「心理的圧迫」が少ないほど自尊感情が高くなること,また 女子においては父親からの「精神的独立性」が高く,父母の「心理的圧迫」が少ないほど,
自尊感情が高くなるという結果を得ている。
森下(1988)は,自己評価(self esteem)の発達と母子関係の関連性について,母親の 受容的な養育行動や自律性を尊重した養育行動が子どもの自己評価を高めるということを 報告している。彼はその中で,自己評価と親の養育行動の関連性については,性差がある ということにも触れており(Kawash, Keer & Clewes, 1985),それによると,男子に おいては子どもが認知する母親の受容的な養育行動が,女子においては子どもが認知する 母親の自律性を重んじた養育行動が,自己評価を高めるとしている。
また森下 (1990) は,小学生,中学生,大学生を対象に,親子診断EICA(辻岡・山本, 1976)
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を用いて親子関係と自己受容との関係について検討している。その結果,小学生女子は両 親の情緒的支持の尺度は「自信」と正の相関を,「自己拒否」と負の相関を示しており,両 親の統制的な養育態度は「自己拒否」と正の相関を,「自信」と負の相関を示していること を報告している。また,中学生の場合,両親の情緒支持的な養育態度は「自己承認」と正 の相関を示し,特に女子の場合,母親の情緒的支持が強いほど,「自己理解」の得点が高く,
両親の統制が強いほど「劣等感」が高い結果になっていたことを報告している。さらに大 学生においては,父親の情緒支持的な養育態度は男子の「自己理解」と,女子の「自己理 解」「自己評価」が正の相関を示しており,女子の「自己拒否」とは負の相関を示していた こと,そして,父親の統制的な養育態度と女子の「自己信頼」とは負の相関を示していた ことを報告している。このように,親子関係が子どもの自己受容とも関係していることが 明らかにされている。
2000 年に入ってからの研究では,高橋(2001)は青年期の自我同一性の発達と親子関 係についての研究を発表している。彼女は自我同一性尺度と子どもの親に対する親和性に 関する尺度を用いてその関連を検討している。その結果,自我同一性の発達の程度が高い 子どもは,親に対する親和性も高いという結果を得ており,特に同性の親に対する同一視 欲求を含んだ親和性との関連性があるということを報告している。
最近の研究では,水本・山根 (2011) は,青年期の女性を対象に調査を行い,母との関 係が,女性の自我同一性地位とも関係していることが報告しており,母娘関係が娘の発達 や適応に影響を与えていることを報告している。この他にも,キン・大野 (2013) は,大 学生とその母親を対象に,漸成発達における主題の母子間の関連性と,母親の主題の獲得 状況と青年の「アイデンティティ達成」への影響を検討している。その結果,母親と青年 の漸成発達の各主題に互いに有意な関係があるということ,「基本的信頼感」と「自律性」
において母子間に有意な正の相関があること,母親の「基本的信頼感」及び「自律性」の 獲得と青年の「アイデンティティ達成」との間に有意な正の相関があること,そして青年 期における「アイデンティティ達成」には,母親からの直接の影響よりも,母親の影響に より獲得した青年自身の初期の人格発達の主題である「基本的信頼感」および「自律性」
が影響していることを明らかにしている。
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