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第 9 章 全体考察

2. 本研究の成果

(1) 母―青年関係の統合的な枠組みの提供と方法論的試み

本研究の成果の一つ目は,親―青年関係を捉えるためには,親の青年の態度・行動(親

→子への影響過程)と青年の親への態度・行動(子→親の影響過程)の両者の関係を統合 的に捉えたという点が挙げられる。

①母―青年関係の統合的な枠組みとSEMの適用

まず青年の母への態度・行動についてみると,第4章,第5章,第7章の結果からわか るように,青年の母への態度・行動は6つの一次因子で構成されていることが明らかとな

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った。また高次の次元には,「母への親和志向」と「母からの客観的独立志向」の二つの次 元が得られ,これら上位2因子は,小高(1998, 2010, 2015)で得られた2つの因子と類 似しており,これら二つの枠組みで青年の親への態度・行動を捉えることは妥当であると 思われる。

次に母の青年の態度・行動についてであるが,第1章で述べたように,辻岡・山本(1975a, 1976, 1978)の一連の研究からもわかるように,親の青年に対する態度・行動の大きな概 念として「受容」と「統制」の2つの因子が得られている。本論文の第5章でも,同様の 結果が得られており,母の青年への態度・行動は「受容」と「統制」の二つの因子で捉え ることができた。そして,母の青年への態度・行動と青年の母への態度・行動の関係を検 討した結果,両者は独立したものではなく,互いに関係していることが SEM の男女の 2 集団同時分析を行うことで明らかとなり,SEM を用いた分析方法は意義あるものと考え られる。

②日々の母娘関係へのDFAの適用

第6章においては,一組の中学生の母―娘関係に焦点を当て,両者の日々の母娘のやり 取りから母娘関係の時間軸を入れた影響過程を P技法因子分析と DFAを用いて検討し,

母娘関係は,互い影響しあっていること,また母と娘の間の分離的側面と結合的側面が 2 日という短い時間の中で,影響し合っていることを明らかにした。我が国の親子関係研究 でDFAを適用した研究は無く,この試みは本研究が初めての試みである。今回,DFAを 用いることで,母と娘の影響過程が認められ,その道筋は一つではなく,いくつかの道筋 を通りながら,前々日,前日,当日へと影響しあっていることを明らかにした。このこと は本研究の成果であると考える。

(2) 母―青年関係と青年の心理的側面との関係

本研究の成果の二つ目の成果は,集団を対象にした研究と個を対象にした研究からアプ ローチすることで,親―青年関係と青年の心理的側面との関係についての研究結果を蓄積 できたことである。

① 母―青年関係の統合的な枠組みと心理社会的適応との関係(集団を対象にした研究)

大学生の集団を対象にした研究で,母―青年関係が「受容」「統制」「親和志向」「客観 的独立志向」の4つの枠組みで捉えることができることを明らかにしたことは既に述べた が,第7章ではこれらの次元を用いて,母―青年関係と青年の心理社会的適応との関係を

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検討した。その結果,男女共に,母への親和志向的な態度・行動は社会志向性と関係し,

母からの客観的独立志向的な態度・行動は個人志向性と関係している結果となり,青年の 母への親和志向的な態度・行動は他者との調和的共存や社会適応と,青年の母からの客観 的独立志向的態度・行動は,自他の差異性を強調する個性や独自性を尊重することと関係 していた。また第5章の結果から,青年の母への親和志向的な態度・行動は,母親の受容 的な態度・行動と関係しており,青年の母からの客観的独立志向的な態度・行動は母親の 統制的な態度・行動と関係していることが明らかとなった。すなわち,母の青年への受容 的な態度・行動は,青年の母への親和志向的な態度・行動を高め,青年の社会志向性を間 接的に促すと可能性があると予想される。一方,母の青年への統制的な態度・行動は,青 年の母への服従的な態度・行動を高め,青年の個人志向性を間接的に抑制すると予想され る。このことは,藤田・岡本 (2009) の研究とも合致する。藤田らは,青年期の母娘関係 に「共依存」因子を見出しているが,「共依存」的な母娘関係とは,母が娘に支配的・過保 護的に関わることと,娘が母親の存在を気にしながら行動を決めてしまうという服従的な 行動を含んでいる。そして,この「共依存」的な母娘関係が,青年のアイデンティティの 確立を阻害するということを報告している。今回得られた因子と対応させるならば,母の 青年への統制した態度・行動が青年の母への服従的な行動に繋がり,母からの客観的独立 志向が低い青年の態度・行動と関係するということにに相当すると思われる。そして,こ のような母との未分化な密着した関係は,青年の個を確立する上で阻害要因になる可能性 があると考えられる。このことは,青年期後期においても母―青年関係の在り方が青年の 心理的側面の予測因になりうることを示唆するものであり,この時期の親―青年関係も心 理社会的適応の発達にとって重要な役割があると思われる。

しかしながら,ここで注意すべき点が二つある。一つ目の注意すべき点は,本研究結果 が因果関係を検証したものではないということである。本研究の結果は一つの可能性であ って,因果関係を確かめたわけではない。本研究の親―青年関係と心理社会的適応との関 係の検討では,子どもは親とのコミュニケーションを通して様々なスキルを身につけてい くだろうという立場から検討した。そのため親―青年関係を予測因と捉え,青年の心理社 会的適応を予測した。現実には,親―青年関係が青年の心理社会的適応に影響していると ころもあれば,逆に青年の心理社会的適応が青年の親への態度・行動に影響を与えるとこ ろもあると思われる。これについては,縦断研究を行うなど更なる検討が必要となると思 われる。二つ目の注意すべき点は,母からの客観的独立志向的な態度・行動が必ずしも,

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青年の心理的適応にとって肯定的な意味だけを持つということではないことである。第 6 章で述べたように,小高 (2014b)では,母からの独立志向的な態度・行動はエゴイズムや 自己顕示やナルシズムという否定的な態度と,ポジティブな関連があることを報告してい る。すなわち,親からの客観的独立志向的な態度・行動は,青年を利己的にする可能性を 内包していると思われる。親から独立しようとする態度は,個人志向性のポジティブな態 度を形成する働きがあるが,それと同時にネガティブな態度も生じさせる可能性があると いうことである。一方,母への親和志向的な態度・行動についてみると,第5章で述べた ように,母親の受容的な態度・行動が,青年の母への親和志向的な態度・行動と関係して いた。そして青年の母への親和志向的な態度・行動は社会志向性のポジティブな側面と関 係していたが,個人志向性や社会志向性のネガティブな側面と関係していないことから,

青年を受容する態度・行動は社会的適応のポジティブな側面を引き出す可能性があると考 えられ,母と青年の親和的な関係は心理社会的適応にとって最も重要なファクターである と考える。

本研究が,集団を対象とした親―青年関係と青年の心理的側面との関係の研究を一つ積 み重ねたことは一つの成果であると考える。

②母娘関係と母娘の情動性との関係(個を対象にした研究)

第8章では,3組の中学生の日々の母娘関係と情動性についての関連を探索的因子分析

(P技法因子分析)により検討した。その結果,母娘関係に関する5つの因子が得られた。

これらの因子は,全く同一の因子ではないが,3組の母娘ペアに共通する3つの因子群,

すなわち,「娘の認知する母との親和的関係」に関する因子群と「娘の認知する母への反抗 的態度・行動」に関する因子群,「母の認知する娘との親和的関係」に関する因子群の3 つの因子群が存在することが明らかとなった。

次に,これら 3組に共通して得られた3つの母娘関係の因子群と母娘の情動性との関係 を同じモデルの中で明らかするために,共通に負荷を示す項目を選択し,これらの項目を 用いて,SEMによる DFAのラグ0の3組の母娘の2者関係の同時分析を行ったところ,

適合度の高いモデルを得ることができた。母娘関係と情動性との関連は,それぞれの母娘 の組み合わせで,共通する点,異なる点が認められた。娘の情動性と母の情動性が母娘関 係を介して間接的に関連する場合や,娘の情動性と母の情動性が母娘関係とは関連するが 娘の情動性と母の情動性が間接的に関連しない場合や,娘の情動性と母の情動性が直接的