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結 論

⑥ 中 国

20 世紀末までは近代化の遅れから海洋領域での軍事力は能力的に限定されており、

地上軍の後方支援と沿岸防備を目的としていた。その後急速な経済発展を背景に、優 勢な米国のPPを拒否するためのADを推進し、2010年前後まではADの強化を最優 先してきた。

その後日米と対峙する東シナ海では引き続きADの強化を進め、また南シナ海を自 らの影響圏内として囲い込みつつある。さらにAD圏の確立及び拡大に伴い、自国沿 岸からマラッカ海峡を越えて進出するための SD/SD を発展させている。また、能力 は限定的であるが、台湾問題への対応と南シナ海などにおける島嶼への進出を目的と するPPについて投資を進めている。

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(表4-7)中国の評価 (表3-11再掲)

軍事力近代化開始前

(1980~1992年)

A2/AD戦略の発展

(1993~2009年)

海洋における局地的 優越の確立

(2010~2017年)

AD 2 3 3⇒4

SD/SD 1 2 3

PP 1 1 2

(筆者作成)

4.2 戦略目標の優先順位に関するパターン

分析対象6カ国に関するAD、SD/SD、PPという分析枠組みに基づく軍事戦略目標 の変遷に関してその要因を確認してゆくと、これらは相互に影響を与え合うとともに 複雑な関係性を有することが明らかになる。つまり、これらの観察を通じて見いださ れる事象は国ごとに個別具体的な方法によってのみ説明可能である、というわけでは なく、そこには国家間に共通な、いくつかの類似性をもつケースがみられる。それら は分析対象国全てに共通する、単一のモデルもしくは分析パターンをもって説明する

「一般理論」のようなものではないが、AD、SD/SD、PPの3要素のうち、どれに対 して資源配分を重視しているのか、という点を追っていくことでいくつかのパターン に分類することは可能である。

まず一貫してSD/SDとこれを前提としたPPを重視し、海洋領域における軍事的優 越を原則的に保持してきた米国は、SD/SDとPPのいずれを重視するのか、という点 に着目した上で他の5カ国とは独立したパターンとなる。

次に英国、ポスト冷戦期の日本、あるいは対米関係が好転するとともにインド洋の 戦略的価値を見出した 2001 年頃以降のインドという3ケースに関しては、いずれも 自国周辺に強力な軍事的脅威が存在しなかったこと、ならびに米国の海洋領域におけ る軍事的優越を受容していることによってADの重要性が相対的に低く、海外での国 益確保あるいは影響力の拡大を企図したSD/SD、もしくはPPに対する投資を高める ことができた、というパターンを形成する。

そして中国の海洋進出が顕著となった2010年頃以降、日本はSD/SDだけでなく、

冷戦末期のソ連と対峙した時期と同様に、AD への投資が必要となる。逆に中国は米 国に対するADと合わせ、自身が経済的にその多くを依存するSLOCの安定的な確保 のため、SD/SDを上昇させる必要がある。この2ケースはADとSD/SDに同時並行 して投資することが必要となるパターンである。

最後に、米国の海洋領域における軍事的優越を受容せず、一義的に対立を選択した

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場合について、当該国家は米国のSD/SDを前提としたPPを拒否するため、必然的に ADを最重視することとなる。このパターンに該当するのがロシア、冷戦末期から21 世紀初頭までのインド、あるいは対米A2/AD戦略を最重視した2010年頃までの中国 という3ケースである。これらの議論をまとめると、米国、英国、ロシアについては それぞれ1ケースと、日本、インド、中国に関する各2ケースという計9ケースが存 在し、これらは(表4-8)のとおり4つのパターンに整理できる338

(表4-8)分析結果から導かれた4つのパターン

パターン 適用ケース 概 要

1 ①米国

SD/SDを前提とするPPを重視

SD/SD が 阻 害 さ れ た と 認 識 し た 場 合 、

SD/SDの優先度が上昇

②英国

③日本(ポスト冷戦期)

④インド(2001年頃以降)

米国の海洋領域における軍事的優越を受容 自国周辺に強力な軍事的脅威がない

AD の重要性が相対的に低いため、国益確 保、影響力拡大を企図したSD/SDと、場合に よりPPを重視

⑤日本(冷戦末期及び 2010年頃以降)

⑥中国(2010年頃以降)

自国周辺に強力な軍事的脅威が存在し、AD への投資が必要

SLOC への依存度が高く、AD と同時に

SD/SDへの投資も必要

⑦ロシア

⑧インド(2000年頃まで)

⑨中国(2009年頃まで)

米国の海洋領域における軍事的優越を受容 しない

米国のSD/SDを前提とするPPを拒否する ため、ADを最重要視

(筆者作成)

4.2.1 パターン1:SD/SDを前提とするPPを重視

パターン1は米国のみを別に取り上げるものである。米国は原則的に SD/SD を前 提とするPPを重視するが、挑戦者によってSD/SDが阻害される状況にあると認識し

た場合、SD/SDの優先度が上昇する。

338 ここに示す9つのケースのほか、インドと中国は分析対象期間内に軍事的近代化 を開始する以前の状況を含むが、これはC4ISRなど先進的な軍事技術を有している、

という本論の前提仮定を満たしていないため、分析対象ケースに含めない。

156 ケース①: 米国(分析対象の全期間)

米国は第二次世界大戦以降、英国から海洋領域における軍事的優越を委譲される 形をとり、70年以上の間海洋領域において最も強力なパワーであり続けてきた。冷 戦期においてはソ連あるいはWTOに対する軍事的優越を示すことで長期競争にお ける優位を維持するとともに、同盟国に対しては拡大抑止の信頼性を担保するため

には SD/SD における優位が必須であり、これによって海洋領域における優越を確

保し、その結果海洋から地上領域に向けたPP を発揮する能力が求められた。本論 の分析対象期間外であるが、ケネディ政権時の柔軟反応戦略は「2+1/2」正面339、 すなわちソ連、中国というイデオロギー対立を伴うグローバルな敵対国に対応しつ つ、加えて他の1つ以上の地域紛争に対しても対応し得る戦力の保持を目標とした。

冷戦終結までの間、米国は同盟国への拡大抑止の信頼性を維持するため、東側陣 営からの干渉あるいは脅迫に晒された同盟国に対するコミットメントを保ち続ける 必要があり、そのためのツールが核戦力であり、通常戦力におけるPPであった。

冷戦終結後、米国自身の国益を拡大することと、経済自由主義と民主主義、ある いは法秩序といった規範的価値を維持することは表裏一体であった。その際、海洋 領域は経済活動における自由主義のため航行の自由が維持されなければならず、ま

た米国のSD/SDに関する圧倒的優位、すなわち海洋における優越を前提としたPP

は関与と介入というポスト冷戦期の民主主義的価値の拡大を実現するために最も重 要な道具であったといえる。その後 21 世紀に入ると、中国が海洋領域における挑 戦者として海洋領域における軍事力を拡大しており、米国はPP よりもPPを発揮 する前提としての SD/SD を重視する必要を生じていると理解することができる。

ここまでの議論を図式化したのが(図4-1)である。

歴史上米国は自身の近傍に強力な敵対国が出現したことがなく、AD の必要性が 低い。そして冷戦期においては西側陣営のリーダーとして、冷戦期以降については グローバル化が進む世界経済システムにおいて支配的立場を維持するため、SD/SD を維持した上で政治的影響力もしくは軍事力を投射するためにはPP を保持するこ とが非常に重要である。したがって今後グローバル化が引き続き進行し、米国が引 き続きそこに死活的な国益を見出すかぎり、米国が海洋における優越を維持するべ

くSD/SDの優位を他者に委譲することは考えられず、またこのSD/SDを前提とし

た上で、海洋から地上領域に向けた PPを発揮することを引き続き企図すると見做 すことができる。そして SD/SD における挑戦者が出現した場合、米国は一義的に

SD/SDを優先して挑戦者を排除しようとすると考えられる。

339 U.S. Department of Defense, Statement of Secretary of Defense Melvin R.

Laird on the FY 1972-76 Defense Program and the 1972 Defense Budget, p.157.

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(図4-1) 米国の海洋領域における戦略目標設定フロー

(筆者作成)

4.2.2 パターン2:SD/SDと場合によりPPを重視し、ADを相対的に軽視

ここで示すパターンとは、原則として自国近傍の海洋領域に重大な脅威が存在しな いケースが該当する。そして本論の分析対象期間において、一義的に米国が海洋領域 における軍事的優越を維持してきたのであるから、このパターンに該当するケースと は、必然的に米国の海洋における優越を受容する米国の同盟国あるいは友好国に関し て当てはまることとなる。

このような国家は米国のSD/SDを補完するとともに自国SLOCの安定を図り、場 合によって安定した海洋を使用できる環境のもと、海洋を越えて自国の影響力を他の 地上領域へと行使することが可能となる。このパターン1は以下に示す②から④まで の3つのケースが該当する。英国、日本と比較した場合、インドは一見して軍事戦略 環境が大きく異なるようにみえる。しかし本論の分析枠組みを通じてみた場合、自国 周辺に大きな脅威が存在しないためADに投資する必要性に乏しく、SD/SDに重点投 資できる、という点において、2017年の時点で英国と類似した軍事戦略環境にあると 考えられるのは、日本よりもむしろインドということになる。

ケース②: 英国(分析対象の全期間)

一貫して米国のSD/SDを補完するとともに、NATOの主要構成国として地理的、

能力的に限定されたレベルのSD/SDとPP能力を提供してきた。冷戦末期、地上戦 が主体となる欧州戦域において英国は自国周辺海域にそれほど深刻な脅威を認識す ることはなかったが、冷戦後については深刻な脅威が存在しないといって過言では

海洋領域における支配的立場の確立

SD/SDにおける挑戦者の出現

PPへの優先配分(SD/SD優位を前提)

海洋における挑戦者の排除(SD/SDへの投資)

海洋における挑戦者の消失

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