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複数の運転支援情報の提示方法に関する設計指針の策定

本章では,本研究において提案した,周辺視野を活用した複数の運転支援情報の提示方 法について,路車間協調システムからの情報の取得から,車両に搭載された運転支援シス テムによる情報提示に至るまでの処理の流れを具体化し,設計指針としてまとめる.

図 6-1は,4.3において設計した複数の情報の提示方法に基づいて,車両に搭載された運 転支援システムにおける情報提示制御のプロセスを,フローチャートの形で具体化したも のである.以降,本フローチャートの各工程について,詳細を示す.

図 6-1 情報提示処理フロー 開始

路車間協調システムから 情報を受信

HUDへの情報提示 信頼性・緊急性の相対比較による

表示形態の決定

周辺ディスプレイへの 情報提示

開始 情報の競合 可能性あり?

HUDへ情報提示 2種の情報提示の

表示仕様決定 優先度の高い 2種の情報の抽出

情報提示の 表示仕様決定

(Step1)

(Step2)

(Step5)

(Step6)

(Step7)

(Step8) YES

NO

(Step9)

(Step3)

(Step4)

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路車間協調システムの導入された交差点に,運転支援システムの搭載された車両(自車)

が接近すると,運転支援システムは,路車間協調システムから情報を受信する(Step1).

運転支援システムは,受信した情報数に基づいて,単一の情報を受信した際には“情報の 競合なし”,複数の情報を受信した際には“情報の競合あり”と判断する(Step2).

“情報の競合なし”と判定された場合には,受信した情報に基づいて,予め運転支援シ ステムに格納されている,注視して認知する事を想定したアイコン形式を選択して(Step3),

車両に設置されたHUDに表示する(Step4).アイコン形式の表示例を,図 6-2に示す.

図 6-2 において,左図は,歩行者の接近情報を受信した際の HUD への表示例,右図は,

交差車両の接近情報を受信した際のHUDへの表示例である.

情報の競合が発生しない場合は,ドライバは,HUDに提示されたアイコン表示を注視し た上で内容を理解し,安全確認を行ったうえで必要に応じて徐行し,交差点を通過する.

図 6-2 注視して認知する事を想定したアイコン表示例

一方で,Step2において,“情報の競合あり”と判定された場合には,競合を回避するた めの処理へと進む.先行研究において,同時にドライバに提示する情報数の上限は 2 個ま でが望ましい,と報告されていることから [43],“情報の競合あり”と判定された場合は,

情報の優先度に基づいて,優先度の高い 2 種の情報を,ドライバに提示する情報として抽 出する(Step5).今後,路車間協調システムには,様々なサービスが導入されることが予 想されるが,ISO/TS 16951を参考にして,情報の緊急性と重大性の2つの指標に基づいて,

情報の優先度が高い上位2種の情報を抽出すればよい.

ドライバに提示された2種の情報が抽出された後は,2種の情報の緊急性と信頼性を相対 的に比較することで,情報の表示形態を決定する(Step6).具体的には,表 4-3に示す緊 急性・信頼性毎の表示形態をまとめたテーブルを用いて,其々の情報を,中心視で認知す ることを想定した形態か,周辺視で認知することを想定した表示形態のいずれかに決定す る.以降では,出会い頭時,右折時それぞれの,表示形態の決定の具体例を示す.

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なお,下記以外のシーンにおいても同様に,表 4-3 のテーブルを用いて,2 種の情報に ついて緊急性と信頼性の相対評価を行い,2種の情報を,中心視で認知する形態と周辺視で 認知する形態のいずれかに決定すればよい.

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<出会い頭>

①交差車両情報と歩行者情報が同時に提示される場合

・シナリオ

図 6-3 運転シナリオ

・表示形態の決定

自車が歩行者と衝突するまでの時間と,自車が交差車両と衝突するまでの時間は ほぼ同等とみなし,情報の緊急度は同等に高いと判定する.一方,歩行者について は,交差点進入後の挙動の予測が困難であり,情報の信頼性は,交差車両情報と比 較して相対的に低いとみなし,交差車両情報の表示形態を中心視野への情報提示,

歩行者情報の表示形態を周辺視野への情報提示と判定する.

表 6-1 表示形態の決定方法

情報の緊急度

高 低

情報の 信頼性

信頼性:高

(誤報/欠報可能性:低)

中心視野への情報提示 周辺視野への情報提示

信頼性:低

(誤報/欠報可能性:高)

周辺視野への情報提示 周辺視野への情報提示 自車

歩行者 交差車両

情報1 交差車両情報

情報2 歩行者情報

・路車間協調システムから提示される情報 - 情報1:交差車両情報(右)

- 情報2:歩行者情報(左)

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②2種の交差車両情報が同時に提示される場合

・シナリオ

図 6-4 運転シナリオ

・表示形態の決定

交差車両と衝突するまでの時間は,右側から接近する交差車両の方が短いため,

交差車両情報(右)の緊急度は,交差車両情報(左)よりも高いと判定する.一方,

情報の信頼性は,いずれも交差車両である事から,等しく高いと見なし,交差車両 情報(右)の表示形態を中心視野への情報提示,交差車両情報(左)の表示形態を 周辺視野への情報提示と判定する.

表 6-2 表示形態の決定方法

情報の緊急度

高 低

情報の 信頼性

信頼性:高

(誤報/欠報可能性:低)

中心視野への情報提示 周辺視野への情報提示

信頼性:低

(誤報/欠報可能性:高)

周辺視野への情報提示 周辺視野への情報提示 自車

交差車両 交差車両

障害物

情報1 交差車両情報(右)

情報2 交差車両情報(左)

・路車間協調システムから提示される情報 - 情報1:交差車両情報(右)

- 情報2:交差車両情報(左)

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③2種の歩行者情報が同時に提示される場合

・シナリオ

図 6-5 運転シナリオ

・表示形態の決定

左右の歩行者と衝突するまでの時間は,ほぼ同等とみなし,情報の緊急度は同等 に高いと判定する.一方,情報の信頼性は,いずれも歩行者である事から低いと見 なし,歩行者情報(右),歩行者情報(左)の表示形態を,ともに周辺視野への情 報提示と判定する.

表 6-3 表示形態の決定方法

情報の緊急度

高 低

情報の 信頼性

信頼性:高

(誤報/欠報可能性:低)

中心視野への情報提示 周辺視野への情報提示

信頼性:低

(誤報/欠報可能性:高)

周辺視野への情報提示 周辺視野への情報提示 自車

歩行者 歩行者

障害物

情報1 歩行者情報(右)

情報2 歩行者情報(左)

・路車間協調システムから提示される情報 - 情報1:歩行者情報(右)

- 情報2:歩行者情報(左)

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<右折時>

〇対向車情報と横断歩行者情報が同時に提示される場合

・シナリオ

図 6-6 運転シナリオ

・表示形態の決定

対向車両と衝突するまでの時間の方が,右折先の歩行者と衝突する時間よりも早 いため,対向車両情報の緊急度は,歩行者情報よりも高いと判定する.一方,歩行 者については,横断歩道進入後の挙動の予測が困難であり,情報の信頼性は,対向 車両情報と比較して相対的に低いとみなし,対向車両情報の表示形態を中心視野へ の情報提示,歩行者情報の表示形態を周辺視野への情報提示と判定する.

表 6-4 表示形態の決定方法

情報の緊急度

高 低

情報の 信頼性

信頼性:高

(誤報/欠報可能性:低)

中心視野への情報提示 周辺視野への情報提示

信頼性:低

(誤報/欠報可能性:高)

周辺視野への情報提示 周辺視野への情報提示 自車

歩行者 対向車両

情報1 対向車両情報

情報2 歩行者情報

・路車間協調システムから提示される情報 - 情報1:対向車両情報

- 情報2:歩行者情報

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上記の例では,情報の信頼性については,挙動の予測が難しい歩行者に関する情報は,

挙動の予測が容易な車両に関する情報と比較して,相対的に低いと判定するように説明し た.今後,路車間協調システムから,交差点に接近する情報の種別に加えて,センサの認 識精度に関する情報が取得できる場合は,センサの認識精度を考慮して,情報の信頼度を 設定してもよい.例えば,センサにカメラなどを用いた画像撮影装置を用いている場合は,

天候や照明変動などによってセンシング精度が大きく影響を受ける可能性がある.また,

ミリ波レーダーなどを用いている場合は,検出対象の電波反射率などの影響を受ける場合 がある.将来的には,このようなセンサの特徴に基づいて,情報の信頼度を設定すること が可能になると考えられる.

Step6において,2種の情報の表示形態が決定された後は,2種の情報提示の表示仕様を

決定する(Step7).中心視で認知する情報と判定された場合には,情報を確実かつ迅速に 伝達する事を目的として,図 6-2で示したアイコンを,HUDに表示する.一方,周辺視で 認知する情報と判定された場合には,周辺視野でも認知可能な形態で,ドライバの周辺視 野領域に配置されたディスプレイを用いて,情報の存在する方向のみをドライバに伝達す る.周辺視野情報の表示仕様については,先行研究および,本研究における評価に基づい て,表 6-5にまとめた.表 6-5において,(※)で示した項目については,先行研究 [27]

[28]に基づいて設定した項目である.

表 6-5 周辺視野領域への情報提示の仕様

項目 表示仕様

表示位置 ・運転中にHUD上の情報提示を注視しながら,周辺視野で認知可能 とするために,注視安定視野の範囲内に表示することが望ましい.

- 左右:約15度~約30度 - 俯角:約12度~約25度

サイズ・形状(※) ・周辺視野で認知可能な表示サイズであることが望ましい(空間周波 数1cpd以下).本研究では,視野角3度のエッジの無い円型パタン を用いた.

色 ・周辺視野では,色に対する感度が低下するため,色の違いにより異 なる情報を伝達することは避けることが望ましい.本研究では,表示 色として黄色を用いた.

周波数(※) ・注視を誘発しないように,時間周波数1~7Hzで,ローパスあるい は狭帯域な時間周波数で変化する,エッジの無いパタンとすることが 望ましい.

HUD及び周辺視野領域のディスプレイに対する表示仕様が決定した後,表示仕様に基づ いて,HUD及び周辺ディスプレイへの情報提示を行う(Step8,Step9).