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4. 周辺視野を活用した情報提示方法の設計

4.2. 競合回避のアプローチ

次に,ドライバに複数の警報が提示される場合の競合回避のためのアプローチについて 説明する.本節では,Wickensによる注意の多重資源モデル [33] [34]を引用し,中心視野 に加えて周辺視野を活用することにより,警報の競合を回避できる可能性について議論す る.

4.2.1. 注意の多重資源モデル

多重資源理論では,何らかの課題を遂行する際に用いられる処理メカニズムそれぞれに,

特有の資源が存在すると仮定している.例えば,音を聞きながら体を動かす,という一連 の課題を想定する場合,音を聴取するために用いられるために消費される資源と,体を動 かすために用いられる消費される資源とは異なるとされる.ある一つの課題の遂行にも,複 数の処理プロセスが用いられるため,各処理に対応した複数の資源がそれぞれ一定量必要 になる.そこで,二つの課題間で干渉が生じるのは,両課題で同一の資源が共有される時 である.また,各資源の供給量よりも課題の必要量が上回ったときにのみ干渉が生じると 考えられ,資源の競合は各資源において独立して生じ,課題間で多くの種類の資源が共有 されるほど,より多くの干渉が生じると考えられる.二つの課題で消費される資源が別々の ときには,両者の遂行成績は独立したものとなる.

左折時衝突防止 支援システム

信号見落とし防止 支援システム

右折時衝突防止 支援システム

追突防止 支援システム

一時停止見落し 防止支援システム

出会い頭自転車衝突 防止支援システム 出会い頭衝突防止

支援システム 歩行者横断見落し

防止支援システム

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図 4-2に,Wickensによる注意の4次元多重資源モデルの概要を示す.Wickensの多重 資源モデルの特徴を以下に示す.

 処理段階の次元(STAGES)…知覚及び認知に関するタスクは,潜在的な行為の選択や 実行とは異なる資源を用いる.

 処理コードの次元(CODES)…空間的な活動は,言葉による,または言語的な活動と は異なる資源を用いる.

 モダリティの次元(MODALITIES)…モダリティの次元は,特に,処理段階の知覚レ ベルにおける構造であり(認知,反応レベルにおいて,その構造は明確になってい ない),聴覚的な知覚は視覚的な知覚と異なる資源を用いる

 反応の次元(RESPONSES)…動作または空間的な反応は,言語・声による反応とは 異なる資源を用いる.

 視覚的チャンネル(VISUAL PROCESSING)…上記4つの次元に加えて,モダリティ の視覚レベルにおける内部構造として,中心視野と周辺視野からなる視覚的チャン ネルが存在する.中心視野は,文字を読む,シンボルを認識するなどの高精度な知 覚を行う.一方,周辺視野は,視野全体に関わっており,方向や動きの知覚を行う.

例えば,ターゲットの方向に向かって真っすぐに進む,高速道路で走行車線を維持 する,といった行動の際に使われる.

図 4-2 Wickensによる注意の多重資源モデル

4.2.2. 従来手法における注意資源の競合

複数の情報を提示するための従来手法として,1.3.2で述べた先行例を例に取り,注意資 源の競合について説明する.情報が競合するシーンの一つである,出会い頭時に,交差車 両と歩行者に関する情報がドライバに提示される場面を想定する.

Vocal Verbal

STAGES

RESPONSES MODALITIES

CODES

Focal Ambient

VISUAL PROCESSING

Manual Spatial Perception Cognition Responding

Visual

Auditory

Spatial Verbal

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従来手法では,複数の情報がドライバに提示される場合,情報の優先度に応じて,表示 の物理特性(サイズ)を割り付ける.上記シーンにおいて,ドライバが減速行動をとらな ければ衝突の可能性が高い交差車両に関する情報を優先度が高く,挙動の予測が困難なた めに衝突可能性の判定が難しい歩行者に関する情報を優先度が低いと考えた場合,情報提 示の概念図を図 4-3に示す.

図 4-3 従来手法の概念図

従来手法は,注視して理解する事を想定したアイコンを,情報の優先度に応じたサイズ で提示するために,優先度の低い情報の視認性が低下する可能性がある.上記について,

注意の多重資源モデルを引用して示したものが図 4-4 である.視覚情報処理の中心視に関 する注意資源を,複数の情報の知覚で用いることにより,情報の知覚・認知処理が干渉し,

結果として情報に対する反応時間が遅延する可能性がある.

歩行者注意

車両注意

歩行者注意

車両注意

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図 4-4 従来手法における注意資源の競合

4.2.3. 提案手法による注意資源競合の回避

次に,周辺視野を活用した提案手法による競合回避の考え方を示す.優先度の高い交差 車両に関する情報をHUDに提示し,優先度の低い情報を周辺視野領域に位置するディスプ レイを活用して,注視を必要とせず,周辺視野で理解可能な形態で提示する.提案手法の 概念図を図 4-5に示す.

図 4-5 提案手法の概念図

上記について,注意の多重資源モデルを引用して示したものが図 4-6 である.複数の情 報を伝達するために,視覚情報処理の中心視に関する注意資源と,周辺視野に関する注視 資源を分割して活用することで,情報の知覚・認知処理の注意資源に干渉を発生させずに,

双方の情報を理解できる可能性がある.

Vocal Verbal

STAGES

RESPONSES

MODALITIES

CODES

Focal Ambient

VISUAL PROCESSING

Manual Spatial Perception Cognition Responding

Visual

Auditory

Spatial Verbal

情報1 情報2

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図 4-6 提案手法による注意資源競合の回避