第 3 章 法制化
第 1 節 裁判的統制
前章では、裁判的統制の古典的法理を確認した。そこでは、不作為義務・作為義務いずれ についても、行政による行為を待って、既判事項に照らし違法な場合にはそれを取り消すと いうサンクションが主たる役割を果たしていたことが明らかになった。20 世紀後半の法制 度改革はこの延長線上に位置づく。本節では法制度の視角から取り組まれた既判事項の権 威にかかるフランス法の展開を考察する。とりわけ重要な1995年法律に基づくアンジョン クション権限(第2款)と、それに先立つ1980年法律に基づくアストラント権限(第1款)
が考察の対象である。
第1款 アストラント
行政事件において宣告されるアストラントおよび公法人による判決の執行に関する 1980 年7月16日の法律3(以下、1980年法、もしくは、アストラント法と呼ぶことがある。)
1 J.-P. Costa, L’exécution des décisions de justice, A.J.D.A., 1995, p. 227;J. Waline, Droit administratif, 25e éd., Dalloz, 2014, p. 705.
2 1980年から2000年にかけては、立法によるフランス行政訴訟改革が多く実現した時期でも
ある。本章でとりあげる1980年法律、1995年法律によるもののほか、1987年の行政控訴院の 創設、2000年の仮の救済制度の整備、1982年の地方分権改革等が挙げられる。各々の概略に ついては、橋本博之『行政訴訟改革』(弘文堂、2001年)13頁以下参照。
3 Loi n°80-539 du 16 juillet 1980 relative aux astreintes prononcées en matière administrative et à l’exécution des jugements par les personnes morales de droit public. この法律は、国民議会 を通過したのち元老院の反対で廃案になった経緯があるが、ヴデル教授がル・モンド紙上
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は既判事項の権威のコントロールにおいて、裁判官の権限を拡大させた最初の法律である。
コンセイユ・デタがすでに私人に対するアストラントを実践していたことに加え4、司法裁 判所は判決の執行の観点からアストラントを命じる権能を法の一般原則から導き出してい たこと5もまた同法制定の原動力となった。ここでは、後述するアンジョンクション権限の 考察をより相対化して分析するために、アストラントの趣旨目的(第1項)とその意義ない し限界(第2項)を概観しておく。
第1項 趣旨・目的と概要
Ⅰ 1980年法の趣旨
1980年法は大別二つのアストラント(astreintes:罰金強制)の仕組みを設けた。公法人
に金銭の支払いを命じる判決の執行を確保するためのアストラント(1条)と、行政行為の 取消判決の執行を確保する手段としてのアストラント(2条)である6。なお、アストラン トは損害賠償とは異なることが同法3条に明記されている7。
初のアストラント判決となった1985年ムヌル判決8における論告は、この法律の目的に ついて、二点を指摘する 9。一方で、特別かつ協議による手続き(procédures spéciales et amiables)の強化である。これは、1976年法律に基づくメディアトゥール制度や、1963年 デクレに基づくコンセイユ・デタ調査部による説得を指している。これについては、第2節 で後述する。他方で、伝統的に用いられてきた、越権訴訟あるいは全面審判訴訟といった通
(1977年5月6日付)で改革を擁護し、3年後の成立に大きな影響力を与えたという(参照、
滝沢正「最近のフランスにおける行政裁判制度の改革」日仏法学12号(1984年)71頁注 (15))。
4 C.E. Sec., 13 juillet 1956, OPHLM du département de la Seien, Rec., p. 343, concl. Chardeau.
5 C.E. Ass., 10 mai 1974, Barre, Honnet, Rec., p. 276 ; A.J.D.A., 1974, p. 525, chron. M. Franc et M. Boyon;J. Chevallier, L’interdiction pour le juge administratif de faire acte d’administrateur,
A.J.D.A., 1972, p. 73によると、司法裁判所はアストラントの権限そのものを19世紀末から明
文の根拠なしに認めてきたという。
6 この法律は、コンセイユ・デタではなく、政府のイニシアティブによる珍しい例として紹介 されている(C. Broyelle, Contentieux administratif, 4e éd., L.G.D.J., 2016, p. 279)。なお、当時 の規定では、既判事項の確定力を帯びた判決すなわち確定判決に限定されていた。
7 これは、司法裁判所が明文の根拠なく実践していたアストラントの解釈において、すでに認 められていた(J. Chevallier, op. cit., p. 73)。
8 C.E., 17 mai 1985, Menneret, Rec., p. 149, concl. Pauti ; A.J.D.A., 1985, p. 229, chron. S.
Hubac et J.-E. Schoetti ; D., 1985, p. 583, note J. Marie Auby ; R.A., 1985, p. 467, note Pacteau.
9 Pauti, concl. préc., (note 8), p. 150.
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常の裁判的保障の不十分さの克服である。前章で述べたところの外在的批判を指している ものと思われる。かくして、「迅速な執行(exécution rapide)10」を目指し創設されたアス トラントは、あくまで「抑止・動機づけ・圧力(procédures de dissuasion, d’incitation et de pression)」の手続と解されており、第2 章で述べる行政的統制の延長と位置づけられるこ とになる 11。近時の憲法院判例においても、アストラントは威嚇的措置(mesure comminatoire)であることが改めて明記されている12。
Ⅱ 1980年法の仕組み
前述の通り、二つのアストラントが制度化されたわけであるが、1980年法1条は、行政 裁判所が公法人に一定の金額の支払いを命じる判決を下した場合、判決から 4 か月以内に 右の支払いが実施されなければならないことを定めている。4か月を徒過しても支払いがな されない場合、当該債権者から、国の債務については支出担当の会計官に対し、地方団体の 債務については後見監督庁を介して、当該金額の支払い請求ができることを定めた。この規 定は、2条とは異なり、確定判決において適用される。続く2条は、行政裁判所によって下 された判決が執行されない場合、アストラントを言い渡すことができ、取消判決の執行に関 わるのは、言うまでもなくこの規定である。その流れは次のようなものである。まず、コン セイユ・デタ争訟部に対する原告の申立てに基づき13、あるいは争訟部の職権によって14、 アストラントの訴訟上の手続が開始される。ここでは、第 2 章で述べる調査部が実際上大 きな影響力を有する。すなわち、原告の申立てに基づく場合、争訟部は、調査部に一件書類 を送付することで、まず調査部による審理およびあらゆる手立てが試みられる。ここでの説
10 J. Massot, Portée et conséquences de l’annulation par le juge d’un acte administratif, E.D.C.E., n°31, 1979-1980, p. 116.
11 アストラントは本質的に行政である(J.-C. Bonichot, P. Cassia, B. Poujade, Les grands arrêts du contentieux administratif, 5e éd., Dalloz, 2016, p. 1358)。
12 N°2014-455 QPC du 6 mars 2015, cons. 5, J.C.P., 2015, p. 567 note A, Trémolière;Cf. J.-C. Bonichot, P. Cassia, B. Poujade, op. cit., pp. 1357-1358. なお、威嚇的性格は夙に学説により 指摘されていた(par exemple, Y. Gaudemet, Reflexions sur l’injonction dans le contentieux administratif, in Le pouvoir. Mélanges en l’honneur de Gerges Burdeau, L.G.D.J., 1977, p.
811)。
13 E.D.C.E., n°33, 1981-1982, p. 178.
14 1980年法律制定時、元老院による修正として、職権によるアストラントの権限が加えられ
た。当時、行政裁判判決につきアストラントを言い渡すことのできる唯一の裁判所としての権 限強化が企図されたという(J.-C. Bonichot, P. Cassia, B. Poujade, op. cit., p. 1360)。
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得が奏功しない場合、争訟部へ移送され15、争訟部でのアストラントの審理が開始される16。 争訟部の職権による場合においても、調査部部長が職権で争訟部部長に裁判的統制の手続 きの開始を付託することが前提となる17。争訟部部長のオルドナンスをもって、当該手続が 開始され、ついで原告の申立てが実体的に審理され、裁判官は、期限を設定し、その期限内 に行政による執行が果たされない場合に罰金を課すことができる。これは仮の(provisoire)
アストラントと呼ばれる種類のものであり(同法3条)、一般的な手法である18。裁判官の 提示した期限内に執行措置を実施しなかった場合に、額が変更されることがあるという意 味において、仮の性質を有する(4条)。他方で、確定的(définitive)アストラントも存在 する19。かかるアストラントの種類、執行にかけることのできる期間、額のすべてにつき、
アストラント裁判官の裁量で決する20。アストラントが言い渡されたあと、管轄する法廷は 一件書類を調査部に移送し、調査部は執行の進捗状況を争訟部に知らせる(R.931-7条)。
原告による申立てに関して重要なのは、判決の通知から 6 か月以内にアストラントを申 し立てることはできないという点である。これは待機期間(délai d’attente)と呼ばれるも のであり、行政による任意の執行を待つべきという政策判断を看取させる。なお、後述する 1995年2月8日法律が事後のアンジョンクションを設け、その申立てに判決の執行に係る アストラントの申立てを実質的に取り込んだことで、待機期間は 3 か月に短縮されること となった。
なお、当初の規定では、コンセイユ・デタのみがアストラントの権限を有していたが、同 1995年2月2日の法律21により、第2項で述べる執行援助とアストラントの手続きが下級 審裁判所(行政地方裁判所および行政控訴院)にも適用されるようになった。コンセイユ・
デタの権限が限定されていた理由の一つにコンセイユ・デタ調査部との連携の必要性があ
15 ここでは、調査部部長が請求されたアストラントを課すべきか否かに関する意見(avis)も 文書(note)の形で送付される。コンセイユ・デタ内部の性格を有するこの文書はしばしば論 告の中でも言及されるという。Cf. J.-C. Bonichot, P. Cassia, B. Poujade, op. cit., p. 1367.
16 E.D.C.E., n°36, 1984-1985, p. 282.
17 Ibid., n°38, 1986-1987, p. 194;J.-C. Bonichot, P. Cassia, B. Poujade, op. cit., p. 1366.
18 J.-P. Costa, op. cit., (note 1), p. 229.
19 不執行が偶発的あるいは不可抗力であることが明らかにならない限り、額の確定
(liquidation)の際、アストラントの額が変更されることはない。
20 なお、アストラントの一部は、地方公共団体の整備開発基金(Fonds d’équipement)に納め られる。Cf. Y. Gaudemet, Droit administratif, 21e éd., L.G.D.J., 2015, p. 101. 私人の理由なき 獲得(des enrichissements sans cause de parties privées)を避けるためと説明される(J.-P.
Costa, L’effectivité de la justice administrative, R.A., 1999, p. 134.)。
21 Loi n°95-125 du 8 février 1995 relative à l'organisation des juridictions et à la procédure civile, pénale et administrative.