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立法への統制

ドキュメント内 フランス越権訴訟における取消判決の法理論 (ページ 183-200)

第 4 章 深化

第 1 節 立法への統制

行政裁判所が言い渡した取消判決に基づき、行政が負うところの諸義務を免除しうる権 能を有しうるのは、ほかならぬ立法府である。立法による有効化(validation législative)

ないし有効化法律(loi de validation)と呼ばれる手法がフランスにおいて長い歴史を有す ること、そして20世紀の学説がその裁判的統制の必要性を強く訴えながらも、なすすべ がなかったことは、第2章で述べた通りである。転換期を迎えるのは20世紀も押し迫っ た1990年代後半のことであった。本節では、まず、フランスに波紋をもたらすことにな るヨーロッパ法の展開を追い(第1款)、次いで別の根拠規範をもって自らのコントロー ルの権威を示した憲法院判例の意義を確認し(第2款)、有効化法律の統制の射程を明ら かにする(第3款)。

第1款 欧州人権規約に基づくコントロール

有効化法律の統制の一翼を担うのが、欧州人権規約(Convention européenne des droits de l'homme)に基づく条約適合性審査である。ここでは、当然その審査を担う欧州人権裁 判所(第1項)と、国内における通常裁判所としてかかる審査を担うこととなった行政裁 判所、ここではとりわけコンセイユ・デタ(第2項)の二つの裁判所による判例の展開を 概観し、その意義および異同を明らかにする(第3項)。

177 第1項 欧州人権裁判所の判例

欧州人権裁判所(Cour européenne des droits de l'homme)が行った有効化法律の統制 において、最もインパクトを与えたのが、1999年のジーリンスキー判決1であった。ここ では、欧州人権裁判所において有効化法律が争われる状況と(Ⅰ)、問題となる条文

(Ⅱ)につき説明を加え、ジーリンスキー判決の意義を明らかにする(Ⅲ)。

Ⅰ 問題となる局面

欧州人権規約締約国による同規約の遵守を担保する仕組みは、主に、締約国が他の締約 国による条約違反を主張する国家間申立て(inter-state applications)と個人が申し立てる 個人申立て(individual applications)によって構成されるが、1999年のジーリンスキー判 決およびその他の有効化法律に関する判決は後者に基づくものである2。事案の概要に先 立て、ごく簡単にその仕組みを説明しておく。

個人による申立ては、すべての国内的救済手段が尽くされたあとでしか提出することは できない3。本案審理前に受理要件の審査では、人権裁判所に5つある部の部長に指名さ れた報告裁判官が、専ら個人申立ての却下決定を行うために3名の裁判官から構成される 委員会(comités)に申立てを付託することができる。委員会は、全員一致の決定で申立て を却下することができ、実際にはそこで約9割が却下されている。ここで却下されず、あ るいは報告裁判官により直接小法廷にかけるよう求められた申立てについては、小法廷が 構成され、ここでは却下または受理することができる4。小法廷の判決後、3か月の期間内

1 C.E.D.H., 28 octobre 1999, Zielenski et autres c/ France, R.F.D.A., 2000, p. 289, note Mathieu.

2 欧州人権裁判所の組織および手続きにつき、参照、小畑郁「ヨーロッパ人権裁判所の組織と 手続」戸波江二・北村泰三・建石真公子・小畑郁・江島晶子編集代表『ヨーロッパ人権裁判所 の判例 第1版』(信山社、2008年)10頁以下。

3 なお、1998年の第11議定書の改正により、申立ての受理可能性の審査および調停を担うヨ ーロッパ人権委員会の役割が人権裁判所に引き継がれる前までは、個人は人権委員会にのみ申 立てを行いうるのであり、人権委員会による友好的解決(欧州人権規約旧28条1項)の不達 成後、人権裁判所への事件の付託が可能となる。かかる事件の付託は人権委員会の職掌にある である(旧44条、47条)。もっとも、1994年発効の第9議定書により、友好的解決の不達成 後の人権裁判所への提訴権が個人申立人にも付与され、人権裁判所の3名の裁判官で構成され る審査部会により、不受理の決定がなされうるようになっている。

4 実際には、小法廷でも約半数が却下されており、結局、提出された申立てのうち、受理され

るのは3~4%程度である。友好的解決の促進は、国家に人権侵害の認定を下すことを可能な限

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に、当事者は、上訴受理を請求でき、条約解釈に関する重大な問題が提起されるとき、ま たは判例変更の可能性がある場合に、大法廷に回付されることになる。

なお、欧州人権裁判所による条約適合性審査の対象は法律に基づく具体的な処分に限ら れ、国内法律の審査は許されない。

Ⅱ 問題となる条文

ジーリンスキー判決において問題となったのは、有効化法律に基づく係争行為が欧州人 権規約6条1項に適合しているか否かであり、同項第一文は次の通りである。

「すべての者は、その民事上の権利および義務(ses droits et obligations de caractère civil)

の決定または刑事上の罪の決定のため、法律で定められた独立のかつ公平な裁判所により 妥当な期間内に、公正な公開審理を受ける権利(droit à ce que sa cause soit entendue équitablement)を有する。」

ここには、いわゆる「公正な裁判を受ける権利(droit à un procès équitable)」が定めら れている。「裁判官に対する権利(droit au juge)」の一部を構成するこの権利5の具体的内 容のなかで、有効化法律が関係しうるのは、まず、武器の対等原則(principe de l’égalité

des armes)である6。この原則は、2001年に、フランスにおいて長い伝統を有する「政府

委員(Commissaire du gouvernement)」制度の条約違反を導いたことで知られている が7、具体的には、裁判において、当事者間の公正な均衡が確保されること、および相手 に対して不利益な状況に置かれることなく自己の主張を行う合理的な機会を付与されるこ とを意味する8。有効化法律が、訴訟の係属中に制定された場合、行政庁を有利とし、原 告私人を不利な状態に置くことになるため、武器の対等原則への抵触が問題となりうる。

り避けるという実質的必要性に基づくものであったが、現在では、それは、膨大な申立件数の 圧力のもとで、事件処理の効率化をはかる目的のみで行われている。

5 6条1項と裁判官に対する権利については、par exemple, J.-F. Renucci, Le droit au juge dans la Convention européenne des droits de l’homme, in J. Rideau(dir.), Le droit au juge dans l’union européenne, L.G.D.J., 1998, p. 135 et s.

6 公正な裁判を受ける権利には、ほかに、裁判所へのアクセス、裁判所の独立、公正な審理、

合理的な審理期間等が認められている。江島晶子「ヨーロッパ人権条約が保障する権利」戸波 ほか編・前掲注2、20頁、建石真公子「ヨーロッパ人権裁判所による『公正な裁判』保護の拡 大——『ヨーロッパ規範』の形成および手続き的保障による実体的権利の保護へ——」比較法 研究74号(2012年)27頁以下参照。

7 詳細については、例えば、建石・前掲注6、41頁以下、同281頁以下参照。

8 建石・同上、31頁。

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もっとも、確定判決が下されたあとなど、すでに裁判が終了していれば、武器の対等原 則の射程は及ばない。しかし、欧州人権裁判所は、6条1項に基づきつつ、有効化法律を 別の角度から統制しうることを示した。すなわち、1997年判決9は、6条1項所定の「裁 判(procés)」概念を拡張し、あらゆる裁判所の判決の「執行(exécution)」の局面をも、

この「裁判」の完全な一部をなすもの(faisant partie intégrante du "procès")とみなした

(§40)。かくして、判決の執行に対する権利(droit à execution du jugement)が6条1 項から導き出されることとなり10、裁判官へのアクセスおよび審理の展開のみならず、判 決の執行をも公正な裁判の観念は射程に収める11。したがって、今日では、何らかの執行 すべき判決12の執行段階における立法介入もまた、公正な裁判を受ける権利を侵害するも のとして、サンクションされうる。

なお、同判決は、以下のような判示を残している。すなわち、判決の不執行は、欧州人 権規約のまさに根幹をなす法の支配の原理(principe de la preeminence du droit)と適合 しない状況を生み出しうるのであり、当事者の犠牲のもとで、確定的かつ義務的な裁判判 決が主張上無効になる(inopérant)状態にすることを締約国の国内法秩序が可能とするな らば、かかる権利は絵空事に帰する(illusoire)と述べ(§40)、行政訴訟においてとりわ け重要性が増すことを指摘する。曰く、「当事者の実効的な保護と適法性の回復は、行政 に対し、国内における最高行政裁判所によって言い渡された判決に従う義務を含む」ので あり、「行政は法治国家の一要素を構成し、ゆえに行政の利益とよき裁判の運営(une bonne administration de la justice)の利益とは一体なのである」(§41)。最高行政裁判所 という記述に関して補足すると、この一文の前には、最高行政裁判所の前に提訴されたな らという仮定が挿入されており、前述の執行の局面をも裁判の一部となすとする一文にお いて、あらゆる判決(jugement ou arrêt, de quelque juridiction que ce soit)と強調されて いることに鑑みるに、確定判決に限定する趣旨ではない。

9 C.E.D.H., 19 mars, Hornsby c/ Grèce, A.J.D.A., 1997, p. 986, chron. J.-F. Flauss;J.C.P., 1997, n°22949, note O. Dugrip et F. Sudre;R.F.D.A., 1998, p. 1195, obs. H. Labayle et F.

Sudre. もっとも、この判決自体は、複数のコンセイユ・デタ判決が確定していたにも関わら

ず、ギリシャ国内の行政庁が在英国民に対し、民間学校開設許可の交付を拒否していた事案で あり、有効化法律に関する事案ではなかった。

10 したがって、司法裁判所によって下された判決の執行のために、国家は強制執行の有効な利 用を勝訴原告に認め、その実現に貢献しなければならない(N. Fricero et Bernardini, Le droit au juge devant les juridictions civiles, in J. Rideau(dir.), Le droit au juge dans l’union

européenne, L.G.D.J., 1998, p. 16)。

11 H. Labayle et F. Sudrem, obs. préc., (note 9), p, 1195.

12 序章で述べた通り、仮処分判決をも含めたあらゆる判決が執行すべき判決となり、そのう ち、本案審理判決が既判事項の権威を帯びた判決、さらに確定した判決は既判事項の確定力を 帯びた判決である。

ドキュメント内 フランス越権訴訟における取消判決の法理論 (ページ 183-200)

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