4. 拡張現実感技術による現場検証用映像生成
4.2. 裁判員制度
平成16年5月21日「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立し,平成21 年5月21日から裁判員制度[4-01]が始まった.裁判員制度とは,国民に裁判員として 刑事裁判に参加してもらい,被告人が有罪かどうか,有罪の場合どのように刑にする かを裁判官と一緒に決める制度である.
4.2.1. 裁判員制度の導入
国民が刑事裁判に参加することにより,裁判が身近で分かりやすいものとなり,司 法に対する国民の信頼の向上に繋がることが期待される.裁判員制度導入による裁判 の構成を図4.2.1に示す.裁判官3名と一般市民より選出された裁判員6名で構成され る.
裁判員制度の導入理由は2 つある.1つめの理由は裁判を改善するためである.こ 被害者
(仮想)
凶器(仮想)
犯人
(現実)
周りの環境
(現実)
-54-
れまでの裁判は,裁判官・検察官・弁護士といった,法律の専門家だけが裁判に関わ って,一般の国民には裁判は無縁のものであった.誰でも罪を犯せば刑事裁判の当事 者になってしまう.また,誰もが一生被告人になることはないから関係ないと思って しまう.そのため,ほとんどの国民が真剣に刑事裁判を自分のことのように考える機 会はない.その上,刑事裁判は,手続きが複雑で専門用語がわかりにくく,裁判の進 め方も理解しづらい.
裁判は,一般に公開されているため傍聴できる.しかし,一般の国民が傍聴しても 裁判の内容を理解することは困難であり,裁判についての情報も圧倒的に少ない.裁 判員は一般市民から選出された裁判の素人である.裁判員が裁判の当事者として加わ れば,裁判官や検察官,弁護士も普通の市民の感覚で,一般市民に理解してもらえる ように裁判をしなければならないと協力し合うようになる.
また,以前の裁判はとても時間がかかり結審まで長期間を要していた.そこで裁判 員に参加してもらうようになると,一般市民であるため裁判に長期間拘束するわけに もいかず,裁判を少しでも早く終わらせるようになる.それには,事前に裁判に関わ る証拠調べなどの準備をすませ,論点をしぼり,法廷でも無駄のない審理をする方法 になる.その結果,刑事裁判が身近なものになり,わかりやすく速やかな裁判になる ことが期待されている.
2つめの理由は一般市民の法教育のためである.現在の教育では法学部にでも進学 しない限り,法律を勉強する機会がない.そのため,裁判員制度になると一般市民も 裁判に参加する可能性があるため,少しは法律の知識を持っておかなければならない.
そのため,法教育に繋がることになることが期待されている.
図4.2.1 裁判員制度による裁判構成
検察官
裁判員 裁判長 裁判員 裁判官 裁判官
被告人
弁護人
-55-
4.2.2. 裁判員制度のメリット・デメリット
正確な事実認定や法律の厳格な適用を最重視している従来の刑事裁判は慎重で丁寧 な審議が行われてきた.しかし,同時に社会一般の価値観や市民感覚とかけ離れた判 決がでてしまうことや,公判審議に膨大な時間がかかってしまうなどの弊害もあるこ とが指摘されていた.裁判員制度はその指摘をもとに,従来の刑事裁判制度を改善す るメリットがある.また,最大のメリットは,刑事裁判に国民が参加することによっ て有罪か無罪かの判断や量刑,そしてその判決理由などに国民が持つ社会一般の価値 観や市民感覚が反映される.これにより一般的な常識からかけ離れた判決が出てしま うことを防止できる.そして国民から裁判所に対する信頼も得られる.
デメリットは裁判員が裁判資料で解剖報告書や現場検証報告書を提示されても専門 用語の羅列により犯罪状況を正確に理解できない場合がある.また,解剖写真や現場 写真をそのまま使用し,注釈を付けて犯罪状況の説明に利用されるが,裁判員にとっ て精神的ストレスを受けてしまう場合があり問題となっている.その他のデメリット としては,よく似た事件でも参加する裁判員によって判決や量刑が変化する可能性が ある.無実の人を事実誤認のまま断罪してしまう冤罪のリスクは陪審員制度を設けて いる諸外国でも顕著化している.また,被告人の量刑を決定するため被告人の人生を 左右する当事者になることへの戸惑いや,判決内容に対する逆恨みなどの懸念がつき まとう.
4.2.3. 刑事裁判の流れ
刑事裁判の流れを図4.2.2に示す.まず,事件発生により警察が事件の真相を究明す るため捜査を開始し,犯人が見つかれば起訴する.次に裁判員に対して争点を分かり やすくし,期間短縮のため事前に公判で争点になる部分を整理する作業として公判前 整理手続きを行う.そして,裁判の冒頭手続きに人定質問,起訴状朗読,黙秘権など の権利を告知し,被告人が陳述する機会を与える.次に証拠調べ手続きとして,検察 側は被告人の罪状を立証し,弁護側は被告人に有利な証拠を集めて証明する.次に弁 護手続きに検察側,弁護側双方がそれぞれの主張を行い,提示した証拠に基づいた最 終的な言い分を示す.そして,裁判官と裁判員で判決の内容を決める話し合いである 評議を行う.最後に,判決宣告として決定した判決を法廷にて被告人に宣告する.
図4.2.2 刑事裁判の流れ
事 件発 生~ 起訴
公 判前 整理 手続
冒頭 手続
証 拠調 べ手 続
弁論 手続
評 議
判 決宣 告
-56-
4.2.4. 裁判資料の可視化
現状の裁判資料は専門用語が多く使われている.裁判員制度の導入で警察官や検察 官による簡潔な資料作成もされているが新たな労力を費やさなければならないため,
あまり実行さていない.そのため,裁判員は難解な資料のまま犯罪状況を把握し,量 刑を決めなければならない.間違った解釈による誤審の危険性もある.
誰もが簡単に犯罪状況が理解できる資料があればこのような危険性を回避すること ができる.また,理解するまでの時間が早くなるため裁判の迅速化にも繋がる.それ には裁判資料を可視化できれば,犯罪状況が理解しやすい資料にすることが可能にな ると考える.しかし,捜査情報の秘密保持のため外部業者への委託も困難であり,警 察官や検察官自身で作成する技術や時間も必要となり多くの問題がある.