• 検索結果がありません。

術前のインフォームド・コンセント

ドキュメント内 福島県立大野病院事件 (ページ 46-60)

(1)あるべきインフォームド・コンセント ア 厚生労働省医政局の指針

厚生労働省医政局平成15年9月12日「診療情報の提供等に関する指針」(医政発 第 0912001 号、文献 91)は、術前のインフォームド・コンセントについて以下のこと を要求している。

3 診療情報の提供に関する一般原則

○ 医療従事者等は、患者等にとって理解を得やすいように、懇切丁寧に診療情報を 提供するよう努めなければならない。

○ 診療情報の提供は、①口頭による説明、②説明文書の交付、③診療記録の開示等 具体的な状況に即した適切な方法により行われなければならない。

6 診療中の診療情報の提供

○ 医療従事者は、原則として、診療中の患者に対して、次に掲げる事項等について 丁寧に説明しなければならない。

① 現在の症状及び診断病名

② 予後

③ 処置及び治療の方針

④ 処方する薬剤について、薬剤名、服用方法、効能及び特に注意を要する副作用

⑤ 代替的治療法がある場合には、その内容及び利害得失(患者が負担すべき費用 が大きく変わる場合には、それぞれの場合の費用も含む。)

⑥ 手術や侵襲的な検査を行う場合には、その概要(執刀者及び助手の氏名を含 む。)、危険性、実施しない場合の危険性及び合併症の有無

⑦ 治療目的以外に、臨床試験や研究などの他の目的も有する場合には、その旨及 び目的の内容

イ 医学文献

帝王切開術に関するインフォームド・コンセントについて、以下の文献が存在す る。

○ 石綿勇・石綿千恵子・岡根夏美「帝王切開術のインフォームド・コンセント」

(文献 92、周産期医学第33巻8号、2003年)

・ 「具体的なステップとして、ステップ1では医師が患者の病状や診断結果 を説明し、治療法について推薦順位を含めて選択肢を示す(informed choice)、 ステップ2では、それらの選択肢を参考に患者の自由な環境下における自己 決定権を駆使した受けたい医療を決定する段階(informed decision)、さら にステップ3では、同意を得て、同意書を作成署名捺印する段階(informed consent)順になされ、これらの過程を踏まない場合はICを得たことにはな らない。」

・ 「大量出血が予想される場合、特に既往切開部位の前置胎盤(癒着胎盤)

あるいは全前置胎盤など術中に大量な出血が予想される場合は高次医療機関 へ紹介することも必要である。自院で対応する場合はリスクとその対応(自

己血の準備、輸血用血液の準備など)についても十分にICしなければなら ない。」

ウ 最高裁判決

最高裁判所平成 13 年 11 月 27 日判決(最高裁判所民事判例集 55 巻6号 1154 頁、判 例時報 1769 号 87 頁、乳がん事件)は、医療機関の説明義務に関する判例であるが、

説明すべき内容について、以下のように述べている。

「医師は、患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基 づき、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定 の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容 と利害得失、予後などについて説明すべき義務があると解される。」

(2)本件インフォームド・コンセントの内容 ア 本件証拠に表れた事実

記録によると、本件の術前の説明は、以下(ア)ないし(エ)記載のとおりである。

本件手術の危険性に関する説明としては、癒着胎盤の可能性があること、大量出血 の危険性があること、子宮摘出および輸血実施の可能性があることなどについては、

説明している。しかし、癒着胎盤である可能性はどの程度なのか、準備していた輸血 量5単位では不足する可能性はどの程度なのか、子宮摘出に移行する可能性はどの程 度か、死亡率などについては、説明がなされていないようである。

(ア) 本件患者夫供述調書(検甲19号証)より抜粋

a 輸血についての説明(同意書を見せ、書き込みながら説明)

○ 本件帝王切開手術では輸血をする可能性がある

○ 輸血には感染のリスクがある一方で、輸血をしないと植物人間になる可能 性がある

○ 教科書などを見ると1リットルとあるので、1リットル用意すれば大丈夫 である

○ 血液の成分が入った薬も用意する

○ 本件患者の場合は貧血気味なので自己血の輸血は使えない

b 手術についての説明(カルテに書き込みをしながら説明)

○ 本件患者が前置胎盤である

○ 前置胎盤で前回も帝王切開の場合は、前回切った時の傷に胎盤が癒着しや すい

○ 胎盤が癒着している場合には、出血することがある

○ 出血がある時には出血の源になる子宮をとることになる

○ 子宮をとる時には、2本の動脈を止める

○ 何かあったらZ病院の先生を呼ぶ、時間も空けてもらっている

○ 手術は1時間半から2時間で終わる

(イ) L助産師供述調書(弁124号証)より抜粋

○ 前置胎盤なので、手術の際出血が伴うこと、出血の際の輸血の措置等

○ 何かあったら私のほかにZ病院のA先生という産婦人科医師に応援を頼む

(ウ) 担当医供述調書(検乙12号証)より抜粋 <説明内容について>

○ 本件患者が前置胎盤である

○ 胎盤と子宮はたくさんの血管で結ばれている

○ 前回帝王切開創に胎盤がかかっている可能性があり、その場合大量出血す るおそれがある

○ 大量出血した場合には、場合によっては子宮を摘出する

○ 出血が酷い場合には、子宮動脈を挟むことで止血を試みる

○ 出血が多い時には輸血をする

○ 手術の時に長時間同じ姿勢をとっていると血栓ができる可能性がある

<カルテ記載の図についての説明>

○ 『>』という図形は、前回の帝王切開創を表している

○ 前回帝王切開創に胎盤が架かっているという説明をしたように見えるかも 知れませんが、この図に書いてある図は、本件患者の実際の胎盤の状態を表 すために書いたものではなく、一般的な前置胎盤の図として書いたものであ る

(エ) 担当医第7回公判廷質問より抜粋 <説明内容>

○ 輸血の可能性や子宮摘出の可能性について話した(223項)

○ 前置胎盤だから、出血が多くなった場合には準備していた輸血をすること もあること(230項)

○ 出血が多くなった場合には、場合によっては子宮摘出もあり得ること(2 31項)

○ 3人目のお子さんのご希望について聞いたら、希望しているということは 言っていた(233項)

<カルテ記載の図についての説明>

○ 前置胎盤で、前壁に胎盤が存在する場合には出血が多くなるが、本件患者

の場合には後壁に付着しているので、大量出血の心配はないということで書 いた図(225項)

○ カルテに書いた前置胎盤の図は、本件患者の子宮の状況ではなく、危険な ケースについて敢えて記載したもの(227項)

○ 出血の危険性というのを分かっていただきたかったために書いた(228 項)

○ 本件患者の子宮を書いたわけではない(823項)

○ 『>』のマークは、切開して赤ちゃんを取り出す場所として書いたもので、

前回帝王切開創を示すマークとして書いた訳ではない(839~840項)

○ 胎盤と子宮壁の間の赤い線は、胎盤は子宮と血管でつながっているという 意味で書いたもので、癒着胎盤のおそれがあることを説明するために書いた ものではない(846項)

イ 判決の認定

「被告人は、12月14日夜、大野病院において、本件患者及びその夫に対し、本 件患者が前置胎盤であること、前回帝王切開創に胎盤がかかっている可能性があるこ との他、輸血の可能性、子宮摘出の可能性、血栓症、抗体等について説明した。この 際、被告人は、子宮の切開場所について、胎盤の付着していない場所を切るつもりで あり、U字型にする考えであることを子宮の図や患者から見て子宮の右よりにU字型 の図形を書き込んだ図を書くなどして説明した。さらに、被告人は、何かあったらA 医師に手伝ってもらうつもりであり、既に同医師には話してある旨述べた。被告人の 説明を受け、本件患者は、手術承諾書、輸血に関する説明と同意書に署名した。この 際、本件患者らから、子宮を残して欲しいという積極的要望はなかったが、被告人が、

3人目の子供が欲しいかと尋ねると、本件患者らは肯定した。」(判決 23 頁)

第4 術中の診療経過について 1 術中の事実関係

判決が認定した術中の事実経過は、別表3「術中事実経過一覧表」を参照されたい。

以下では、上記事実経過のうち、本件の術中の診療行為の評価をする上で重要と考えら れる事項、担当医の捜査段階の供述と公判廷での供述にくい違いがある事項につき、両供 述の内容と判決の認定を記述する。

1-1 癒着胎盤に対する処置に関する事実関係

(1)開腹時の子宮の状態

開腹時の子宮の状態については、見た者により表現の違いはあるが、概ね次のような 状態であった(関係者の各供述は、別表3・術中事実経過一覧表参照)。

(判決23頁 第1・4 本件手術(3))

○ 子宮表面の一部分、本件患者の足下に近い側に男性の手の甲の静脈くらいの幅の静脈が数 本、網目状に走行し、怒張していた。

(M助産師証言 別紙1)

○ 開腹時の子宮の状態を、M助産師が、図示した図が存在する。

(2)子宮の切開箇所

本件の専門家証人らの意見が、本件手術での帝王切開創に癒着部分はないとの意 見で一致したため、判決は、担当医が「超音波により胎盤の位置を確認し、胎盤の付着 した部分を避けて」子宮を切開したと認定した。

(判決24頁 第1・4 本件手術(3))

担当医は、本件患者の頭部方向に向かって切開を広げ、子宮がより広く見えるようにした上、

子宮に直接プローべを当てて超音波により胎盤の位置を確認し、胎盤の付着した部分を避け て、本件患者から見て子宮右よりの部分をU字型に切開した。

(3)児娩出直後の出血量

14時37分(判決24頁 第1・4 本件手術(5)ア、麻酔記録)

児娩出

14時40分報告(以下、報告の時刻も単に時刻のみを記載)(判決24頁 第1・4 本件手術(5) ア、麻酔記録)

○ 出血量(羊水を含む)2000cc

○ 同出血量につき、当時関係者は少し多いという印象をもった。

ドキュメント内 福島県立大野病院事件 (ページ 46-60)

関連したドキュメント