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事故調査委員会

ドキュメント内 福島県立大野病院事件 (ページ 106-118)

(1)院内事故調査委員会のあり方

院内事故調査委員会のあり方については、様々な議論がなされているが、日本弁護士 連合会が、2008年10月に行われた第51回人権擁護大会シンポジウムの第2分科 会基調報告書「安全で質の高い医療を実現するために―医療事故の防止と被害の救済の 在り方を考える―」第2編において「院内事故調査ガイドライン」(文献 129)を作成し ているので、本報告書では、これを参考とする。

* なお、院内事故調査委員会のあり方についての参考文献としては、日弁連 の上記報告書のほか、名古屋大学附属病院および愛知県医科大学附属病院に おける事故調査をもとにした「医療事故から学ぶ・事故調査の意義と実践」(文 献 130)や、財団法人生存科学研究所の「院内事故調査の手引き」(文献 131)

などもある。

日弁連のガイドラインの要旨は、以下のとおりである(文献 129・281~289 頁)。

ア 院内事故調査の目的

医療事故調査の第1の目的は、医療事故の原因を究明し、その原因を踏まえて再発 防止策を策定・提言し、もって、医療事故の再発を防止することである。

また、事故原因を究明して、患者・家族に対し充実した説明を尽くすとともに、社 会的な説明責任を果たすことも医療事故調査の重要な目的と認識すべきである。

イ 院内事故調査の質・信頼性を担保するために必要なもの

院内事故調査の質・信頼性を担保するためには、以下の4つの性質が確保されてい なければならない。

① 専門性の確保

医療の専門性ゆえに、原因究明にあたる者にも高い専門性が要求される。

② 科学性・客観性の確保

スタンダードな医学的知見と、適切に記載された診療記録の記載等に基づいて原 因究明がなされなければならない。

③ 公正性・透明性の確保

社会も患者・家族も、医療機関が医療事故に対し適切な対応をとったことを直ち に信用して受け入れることができるよう、公正性・透明性が保たれる必要である。

④ 論理性・分析力の確保

原因を究明し、再発防止策を導くためには、そのプロセスは論理的でなければな らず、これにあたる者には、分析力が必要である。

ウ 院内事故調査委員会の組織及び委員の選任 (ア) 院内事故調査委員会の組織

現場に根付く再発防止策を策定し実践するために、内部委員が関与する必要があ るが、他方、公正性・透明性及び論理性を確保するためには外部委員を入れる必要 がある。よって、外部委員を入れた内部調査委員会を設置するのが最も適当である。

(イ) 外部委員

医療問題に関わっている弁護士等や事故調査の手法について知見を有する有識者 は、論理性・客観性確保のために、外部委員として選任すべきである。

患者・家族が委員として推薦した人物や、患者代表者たるいわゆる医療の素人は 公正性・透明性確保の観点から、選任を検討するのが適当である。

エ 事故原因の分析と再発防止策の提言

事故調査の対象は、①物、②記録、③人に分類される。③人については、医療従事 者だけでなく、患者・家族などからも聴き取りをすべきである。

オ 事故調査報告書の記載内容

事故調査報告書は、論理的・科学的・具体的な記載がなされなければならない。ま た、患者・家族及び社会に説明して理解してもらえるよう、できる限り平易な文章で 記載し、適宜、説明に必要な資料等を付けたり議論の内容が分かるように少数意見を 紹介すること等も行う。記載すべき事項としては、以下のものが挙げられる。

① 調査活動の経過

② 院内事故調査委員会が事実と判断した診療経過その他の事実

③ 事故に至った機序、原因ないし背景、根本原因

④ 診療経過に対する医学的評価

⑤ 患者・家族から疑問が投げかけられていた事項に対する回答

⑥ 再発防止策の提言

⑦ 委員の所属・氏名

(2)本件の事故調査委員会について

インターネット上で入手可能であった本件事故調査報告書をもとに、以下、検討する。

なお、この本件事故調査報告書が報告書全文であるのか、概要版であるかも明らかでな いが、全文であることを前提とした検討である。

ア 設置目的

事故後、E院長の要請により福島県を設置主体とする事故調査委員会が設置された。

この事故調査委員会の設置目的について、報告書は、「この事例を検証し、今後の前 置胎盤・癒着胎盤症例の帝王切開手術における事故防止対策を検討することを目的と して設置した」と記載している。

なお、弁護側は、「再発防止の観点と過失を前提とする損害賠償保険の適用.................

を考慮し て作成したもの」(傍点は報告者)と主張していた。(弁護側の冒頭陳述3頁)

イ 事故調査委員会の組織形態

本件事故調査委員会の構成員は、福島県内の病院における3名の産婦人科専門医で あった(E院長尋問調書125項、271項)。委員長の宗像正寛医師は、福島県立三 春病院の診療部長であり、委員2名のうち1名は、福島県立医科大学附属病院所属の 医師である(検甲 37-2 頁参照、2005 年 3 月 31 日付毎日新聞報道等参照)。

本件の事故調査委員会は、①院長が設置要請をしている点、②大野病院の開設者で ある福島県が設置主体である点、③委員会の構成員3名のうち2名(委員長及び委員 1名)は福島県立の医療機関に所属する医師で構成されている点から、院外事故調査 委員会というよりも、院内事故調査委員会としての性格が強いものと考えられる。

構成員については、上記3名の産婦人科医師のみであり、病院内部者、麻酔科医師、

医療従事者以外の者は選出されていない。

ウ 調査経過

① 第1回委員会(平成17年1月13日開催)

1 関係資料の確認

2 関係者への聴き取り調査 ・ 大野病院の医師

② 第2回委員会(平成17年1月31日開催)

1 関係資料の確認

2 関係者への聴き取り調査

・ 大野病院の医師及び看護スタッフ 3 現地等の調査

③ 第3回委員会(平成17年2月23日開催)

1 関係資料の確認

以上のように、本件事故調査委員会の調査方法には、関係資料の確認と大野病院関 係者からの聴き取りしか挙げられていない。遺族の話も総合すると、本事故調査委員 会では、遺族からの聴き取りがなされていない。

エ 調査結果報告書の記載内容

本件事故調査委員会の調査結果報告書の記載内容は、概ね以下のように列挙できる。

なお、本報告書の本文部分は、A4用紙4枚で比較的短いものであり、参考医学文献 の引用はなされていない。

① 設置目的 ② 構成員

③ 患者及び疾患名 ④ スタッフ ⑤ 診療経過

⑥ 術前診断についての検討内容 ⑦ 手術中についての検討内容 ⑨ 事故原因

⑩ 事故要因 ⑪ 総合判断 ⑫ 今後の対策

オ 事故調査委員会調査結果の家族への報告

平成17年3月、大野病院において、事故調査委員会の委員から家族へ、調査結果 について、説明が行われた。説明は、口頭説明のみであり、事故調査報告書の交付は 行われていない。

被害者遺族は、事故調査委員会の委員から「胎盤を摘出する際にはさみを使ったの は妥当ではなかった」(本件患者義父供述調書検甲31号証8項)、「胎盤をはさみで切 り取ったことで大量の出血をし、そのため命を落としてしまった」(本件患者義母供述 調書検甲32号証6項)などと説明を受けたと供述している。

第6 総括

本報告書は、私ども医療問題弁護団による検討班が、ご遺族の協力を得て、刑事事件の 訴訟記録を精査し、併せて医学文献の検討と専門医からの参考意見の聴取を行った結果、

本件にはなお多くの未解決の疑問点ないし問題点が残されていることを明らかにしたもの である。

私どもの認識する疑問点等については、「調査・検討すべき論点」として、本総括の末尾 に掲げる。

なぜこのような疑問点が残されるに至ったのか。いくつかの要因が考えられる。

第1には、刑事事件においては審判の対象が限定的であることによる。

当事者主義を原則とする我が国の刑事訴訟手続は、審判の対象を「訴因」に限定し、検 察官が構成した「訴因」こそが訴訟上の主要な立証命題となるものと解されている。

本件においては、起訴事実にあるように、「(担当医には)直ちに胎盤の剥離を中止して 子宮摘出術等に移行し、胎盤を子宮から剥離することに伴う大量出血による同女の生命の 危機を未然に回避すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、直ちに胎盤の剥離を中 止して子宮摘出術等に移行せず、同日午後2時50分ころまでの間、クーパーを用いて漫 然と胎盤の癒着部分を剥離した過失」が訴因ということになり(医師法違反の点を除く)、

したがって、例えば、術前診断の問題、術前準備の問題、インフォームド・コンセント違 反の有無、輸血の手配の問題、麻酔医による術中管理の適否、さらには医療体制や医療制 度上の問題点等は、刑事事件では主要な論点とはならなかった。

このため、再発防止のためには本来議論されてよいはずの幾つもの論点が、刑事訴訟手 続のなかでは十分に(あるいは論点によってはほとんど)解明されないままとなった。

第2には、刑事訴訟法上の厳格な証拠制限が挙げられる。

刑事訴訟手続においては厳格な証拠制限が存し、たとえば文献等も無条件に証拠として 認められる訳ではなく、厳格な例外要件を満たさない限り法廷に顕出することができない

(伝聞法則)。

本件の刑事訴訟でも、おそらくはそのような証拠制限の結果として(と思われるが)、た とえば医学文献は16点しか証拠採用されていない。

そのため、たとえばある医学的論点について一般にどのような議論がされてきたかを文 献の裏付けをもって正確にトレースするような立証は、必ずしも十分なされているとは思 われない。

この点、民事の医療過誤訴訟手続においては、医療水準の立証を医学文献で行うことが 通常であり、原被告双方から相当量の医学文献が証拠として提出されるのが通例であるが、

このことに比して、本件の医学文献証拠の極端なまでの少なさは、私どもにとって、ある 種の驚きを禁じ得ないものであった。(なお、今回私どもが検討した医学文献は130点を 超える。)

ドキュメント内 福島県立大野病院事件 (ページ 106-118)

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