第4 術中の診療経過について
(4)クーパーを使用するまでの胎盤の剥離の仕方
(判決24頁 第1・4 本件手術(5)ア)
子宮収縮剤を直接子宮体部に筋肉注射してから、胎盤を剥離するために臍帯を牽引した。し かし、子宮の内壁が、胎盤とともに、臍帯が付いている部分を頂点にした三角形のような形に 反り返って胎盤に付着したまま持ち上がる状態となってしまい、胎盤を剥離することができな かった。そこで、担当医は、子宮をマッサージした後、再度臍帯の牽引を試みた。
すると、子宮内壁が持ち上がってくることはなかったものの、胎盤は剥離できなかった。
そこで、担当医は用手剥離を行った。
クーパーを使用するまでの胎盤の剥離の仕方、クーパーを使用することとした理由に つき、担当医の検面調書、担当医の公判廷供述、判決の認定は次のとおりである。
(検面調書乙3-4、5)
○ 徐々に右手の指を入れづらくなり、力を込めなくてはいけなくなって、剥離がしにく くなった。1本の指も入らなくなったので、指よりも細いクーパーなら入るだろうと思 い、クーパーを使うことにした。
(公判廷供述 担当医⑦-67、68、71)
○ 指が入りにくくなってきたからクーパーを使ったというようなことは無かった。
○ 用手剥離自体、かなり胎盤がはがれて、あともう少しで剥がし終えるという時期だっ たし、クーパーを使うときに、ちょうど目で見ることができていて、出血するかどうか というのも目で見ることができていたということと、見えている状態でクーパーでやれ ば、ちゃんと剥離する面にクーパーが当たって胎盤の取り残しもないし、子宮も傷つけ ないということで、クーパーの使用を開始した。
(公判廷供述 担当医⑦-366、369)
○ (クーパーを使用する方が)安全に剥離できる。
(公判廷供述 担当医⑦-1061、1063)
○ 用手剥離をそのまま行うこともできるが、・・・気持ち、剥離しづらくなったという ところからそう(クーパーの併用を)考えた。
(判決24頁 第1・4 本件手術(5)ア)
担当医は、左手で胎盤を牽引しながら、右手手指を胎盤と子宮壁の間に差し入れ、指先 で胎盤を押すようにして、子宮後壁上部から下部の方向に用手剥離を試みた。しかし、徐々 に指で剥離することが困難となったため、途中からクーパーも使用(した。)
(判決39頁 第6・3(2)ウ(エ))
担当医は、用手剥離中に胎盤と子宮の間に指が入らず用手剥離が困難な状態に直面した 時点で、本件患者の胎盤が子宮に癒着している認識をもったと認めることができる。
(判決39頁 第6・4)
癒着胎盤と認識した時点において、胎盤剥離を継続すれば、現実化する可能性の大小は 別としても、剥離面から大量出血し、ひいては、本件患者の生命に危機が及ぶおそれがあ ったことを予見する可能性はあったと解するのが相当である。
(5)クーパー使用後の胎盤の剥離の仕方
クーパー使用後の具体的な剥離の仕方について、担当医の検面調書、担当医の公判廷 供述、判決の認定は、次のとおりである。
(検面調書乙5-5)
○ クーパーの先端部分を用手剥離のときの右手の指の代わりに胎盤と子宮の間に入れ、
削いでいくような感じで胎盤を剥離した。
○ 胎盤をクーパーで切ったこともあったと思う。
○ 多分、胎盤を剥離する途中、急がなくてはいけないと思ったときに、削ぐのを止めて 切ったのだと思う。
(検面調書乙15-11)
○ (出血が現れた後)とにかく胎盤を全て剥離してしまおうと考え、急いで作業を進め た。
○ 剥離しにくい部分はクーパーのハサミの部分で切ってから、削ぐように剥離するとい う方法も使い始めた。
(公判廷供述 担当医⑦-395~400)
○ なでたり、そいだり、ちょっと切開を入れたりというようなことで、交互にやってい る。
○ 索状物があった場合は、クーパーの先端を閉じたままだが、押し進めるような感じで、
そぐようにして剥離していた。
○ 索状物が若干硬いような場合は、クーパーで少し索状物に切れ込みを入れ、またクー パーを閉じて先端で押し進めるように、そぐようにしていた。
(判決24頁 第1・4 本件手術(5)ア)
主にクーパーの閉じた先端部を子宮と胎盤の間に差し入れて削ぐようにしたり、クーパ ーのはさみの部分で切開を入れるなどして、かろうじて胎盤を剥離したが、最後には、突 然、残りの胎盤が、するっと取れて胎盤の剥離が終了した。
* なお、本件事故後に病院が遺族に交付した平成16年12月26日の担当医説 明の文書には、「クーパー(はさみ)にて剥離面を切開、剥離する状態」と記載
されている。
(6)胎盤の娩出
14時50分(判決25頁 第1・4 本件手術(6)、麻酔記録)
○ 胎盤娩出
(M助産師証言 別紙3)
○ 剥離した胎盤の形状を、M助産師が、図示した図が存在する。
1-2 循環管理と補充療法に関する事実関係
(1)術中の出血量、患者の状態の推移
術中の出血量及び患者の状態の推移に関しては、麻酔記録に概ね記録がなされており、
(2)大量の出血が現れた時点を除いては裁判上争点とされていない。
よって、(2)を除いて、判決の認定に基づき経過を記述し、術中の出血量、患者の状 態の推移についての詳細は、別表3「術中事実経過一覧表」を参照されたい。
(2)大量の出血が現れた時点
助手C医師の証言に基づけば、クーパーを使用する前には、胎盤剥離部分から大量に 出血があるという状況はなかったと考えられる。この点、麻酔医Bは、検察官面前調書
(検甲第 23 号 20 項)では、クーパー使用前の用手剥離の段階でも大量出血が起こって いたかのような供述をしていたが、公判廷の証言では、用手剥離時にどの程度の出血が あったか具体的なところまでは記憶があいまいという証言となっている(麻酔医B証言 137)。
(助手C医師証言71、72、260)
クーパーを使い始めてから出血は多少増えたというお話だったんですが、
これは、まだにじみ出るという状態は変わりないですか。
そうですね。
ものすごく大量に吹き出してくる状態ではありませんでした。
では、大量の出血が現れたのはいつか。この点について、担当医の検面調書、担当医 の公判廷供述、他の医師の証言、これらを踏まえた判決の認定は、次のとおりである。
(検面調書乙15-12)
○ 胎盤剥離作業を急ぐ内に、段々と胎盤剥離面からの出血量が多くなってきているよう に感じ始めた。出血量が多くなってきていると感じ始めるまでの胎盤剥離面からの出血 の状態は、しみ出るようにジワジワと出血している感じだったが、臍の緒の付け根の裏 に差し掛かる手前くらいから、徐々に湧き出るような感じでの出血が始まった。
(公判廷供述 担当医⑦-418~422)
○ 子宮壁からじわじわと出ているような状態で、剥離中に出血量が急に増加したことは 無く、クーパーを使用しているときに、クーパーの先端部分が血液で見えなくなること も無かった。
(麻酔医B証言169、170)
その胎盤剥離の作業をしている最中に、証人のほうから、本件患者の出血の様子が見えた ことはありましたか。
はい、あります。
どんな出血の様子が見えましたか。
時間的なところははっきり分単位では覚えてないんですけれども、おふろに水を張 るような感じでわいてくるような感じの出血が見えた覚えがあります。
(助手C医師証言75~89)
その剥離作業と出血の増加について、どのように思われましたか。つまり相関関係といい ますか、双方が連動関係にあったとか、そういう点なんですけど。
やはり剥離作業が進むにつれて、少しずつ出血が多くなってきた印象はあります。
剥離作業が進んでいきますね。進行していく時間経過があるわけですが、その際の出血量 というのは、作業が進むにつれて絶えず一定の状態だったというふうにお感じになった か、それとも減少していったと感じていたか、それとも増加していったと感じていたか。
量は剥離が進むにつれて、少しずつ増えていったような印象はあります。
(判決24頁 第1・4 本件手術(5)イ)
○ 胎盤剥離中に出血が増加し、本件患者の血圧が低下した。
(判決29頁 第3・2(2))
○ 担当医が、医師記録に「剥離終了まで時間を要し、出血も多かった。約15分。約5 000ml」「14:50 胎盤娩出 出血量up、血圧down このあたりでbl eeding 5000mlぐらいか」などと記載し、本件手術後、E院長に対し、胎 盤娩出中の出血量増大を報告していることからすれば、担当医自身、本件手術終了直後 には、胎盤剥離中に出血量が増大したとの認識を有していたと認められる。
(判決30頁 第3・2(2))
○ 麻酔医Bが、胎盤剥離中に、本件患者の子宮内の広い範囲からわき出るように出血し ている様子を目撃し、助手C医師も、担当医がクーパーを使用しだしてから出血量が増 えたように感じた旨証言していることからも、胎盤剥離中に次第に出血量が増えたよう に感じた旨証言していることからも、胎盤剥離中に次第に出血量が増加してきたことが 認められる。