PDD群
第4節 行動特性指導モデル
従来、子どもたちの実際の「行動」を思い浮かべて、その子どもが困 っていること、できないことについて原因を考え、その「行動」の背景 にある原因に基づいた対応策を立てていくというアプローチがされてき た。上野(2001)は、つまずきの原因を突き止める方法として、心理検 査などをあげ、認知の力のどこに弱さがあるのか探り、現象として現れ ている「問題行動」に対して結び付けている。例えば、「ルールが守れな い」という行動は、「聞き取りの弱さ」、「注意」、「ルールの記憶」、「行動 抑制」、などの認知特性から現れる行動であるとしている。そして、その
「ルールが守れない」を改善するために、「聞き取り」の弱さには「具体 的に指示する、視覚的な援助」、「注意」の弱さには「周囲の不要な刺激 を減らす、集中できる時問内でする」、「記憶」の弱さには「ルールを思 い出す手がかりを与える」、「行動抑制」の弱さには「現在の行動レベル で習得できそうなルールから提示する」などの援助があるとしている。
こうした指導法は、「つまずきのある子の支援」として、様々な教育 関係の実践書として取り上げられている。しかし、発達障害を持つ子ど もたちの示す様態は、診断名がついていたとしても一様ではなく、診断 名が違っていても似たような症状があるなど、一人一人の子どもによっ て違っており、必ずしも実践書の中に対応した「つまずき」があるとは 限らず、専門性の少ない教師が自分でその児童特有の「つまずき」に合 わせた指導方法を考えていくことは難しい。また、「ルールが守れない」、
「言いたいことが言えない」など1っ1っの「問題行動」にアプローチ していくことは、対処的な方法であり、不適切な対応をした場合、状態 は悪化する可能性もある。発達障害児を指導する場合、水野(2003)は、
認知発達の偏りを適切に把握して、その子の特別な教育的二一ズの応じ た学習しやすい支援をすることにより、学習や行動を大きく改善するこ とが期待できると指摘している。っまり、問題行動が起こってからその 問題にどう対応するかでなく、問題行動を起こす原因を探り、問題を起 こす前に対処していく必要があると思われる。
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聞き取りの弱さ
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行動抑制
具体的な指示、視覚的提示
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ルールを守って遊ぶ
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思い出す手がかり
できそうなルールから
Fig.12従来のアプローチ
行動チェックリストで子どもの評価を行った場合、発達障害の理解が 十分でない教師でも「授業中、鉛筆などの文房具で遊んだり、手遊びを したりしている」などの学校生活の中で起こりやすい具体的な項目でチ ェックすることができる。ADHD−R Sでは、注意の転導を聞いてい る項目は「気が散りやすい」1項目であるが、行動チェックリストでは
「算数」、「給食」、「学習態度」などいろいろな場面の行動でチェックす るので、注意の転導を網羅的に把握することが可能であると考える。そ して、最終的に4カテゴリーのカテゴリー得点を求めることができる。
「持続性」、「注意」、r柔軟性」のカテゴリーの得点が高い場合、このカ テゴリーの特性から起こる問題が大きいことがわかる。そして、その特 性を持つ子どもであることを理解し、環境調整やその子どもを取り巻く 周囲の教師や児童との関係を考慮した具体的な支援方法を考えることが できる。この場合、指導法としては、具体的な支援として「1回の課題 を少なくする、視覚的に指示を与える、興味のもてる課題を出す」など
チェック ストで
行動特性
o■●5■9
り!!チ1グ
具体的な支援
1回の課題を少なくする 授業中、鉛筆などの文房
で遊んだり、手遊ぴを たりしている
視覚的に指示を与える 持続性 興味の持てる課題を与える
作業の取り掛かり、作品 完成に時間がかかる
注意
物理的一刺激物を減らす 人的一おとなしい子の隣 自習時間に先生がいない課題に取り掛かれない
柔軟性
環境的な支援
一ノノ!
プ髄物理的一轍物を減らす 人的一おとなしい子の隣
Fig.13行動特性指導モデル
環境的な支援
従来は、1つ1つの「問題行動」に視点をあて、その「行動」を改善 する対処的なアプローチであった。しかし、行動チェックリストで子ど もを評価することで、カテゴリーの示す行動特性つまりつまずきの要因 そのものにアプローチすることができると考え、Fig.13に指導の流れを
「行動特性指導モデル」とし、図示した。学級担任が、行動チェックリ ストを用いることによって、「困った子」という曖昧な捉えかたでなく、
どんな行動が、どんな場面で起こっているのかが明確に捉えられる。そ の上で、子どもの特性を把握し、一人一人の状態像に合った教育的援助 法を構築することが期待される。
つまずきの要因である認知特性に対するアプローチは、学習場面でも 生活場面でも行動を問わず、同じように環境調整、具体的支援を行うこ とができる。教師は一貫した態度で子どもに接することができ、そのア プローチが子どもの行動にどのような変化を与えたか教師の指導法につ いて評価、改善することもできる。また、担任以外で指導者として子ど もと関わる可能性の高い級外職員や教科担当教師とも共通理解をはかり、
一貫した指導ができる。
問題行動が多く、日常生活で「叱責」、「禁止」、「無視」など拒否的反 応を多く受けがちな発達障害児にとって、理解され受容されていること を実感しながら指導を受けることは、自尊感情を高め、より指導の効果 が上がると考えられる。子どもの状態像を行動チェックリストで再評価 することで、子どもの行動の変化を客観的に評価することもできると考
える。
本研究では、専門性の少ない教師でも子どものもつ障害特性に気づき、
適切な支援を行っていくことを目的とし、通常学級で起こりやすい軽度 発達障害児の示す問題行動を学校生活の場面ごとに分け、学級担任が評 価しやすい具体的な質問項目で構成される「行動チェヅクリスト」を作
成した。このチェックリストは、「注意」、「持続性」、「衝動性」、「柔軟性」
の4カテゴリーからなり、ADHDの「注意の転動性」、「多動性」、「衝動 性」の三領域、PDDの「人とのかかわり」、「コミュニケーション」、「こ だわり」の三つ組みを包括している。
発達障害児の示す行動特性をこの4つのカテゴリーに分類すること によって、専門性の少ない教師でも障害の認知的側面や行動的側面の理 解、両者の関係などを考えていくことができると思われる。これまで、
通常学級では問題が起こったとき、その問題に対して対処的に扱うこと が多かったが、軽度発達障害児に対応していく場合、理解不足による不 適切な対応のために二次的障害を起こしやすい(森,2003)。ADHD児、
PDD児の示す問題行動をそれぞれの障害特性を表したカテゴリーと関 係付けてみていくことで、子どもの問題の背景となっている認知特性を
正確に捉え、障害名にとらわれることなく、総合的に子どもの状態像を 把握することができると考える。
発達障害児においては、できるだけ早期から適切な対処をすることが、
予後を左右するといっても過言でないと落合(2003〉は指摘している。
本調査において作成したチェックリストは、問題行動が起きてから対処 する従来の考えから、行動障害や適応障害を引き起こさないための教育 的支援の手助けとなると考える。
また、「行動チェックリスト」により子どもを定期的に評価することで、
行動の変化を追跡することができる。問題行動が多く、日常生活の中で 評価されることの少ない子どもたちをチェックリストにより客観的に評 価することで、改善点や新たな問題点が教師自身にわかりやすくなり、
次の指導へと活かされると考える。
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