作用部位・作用機序
(1)
本薬の薬理学的特徴はセロトニン5-HT2A受容体、ドパミンD2受容体、その他のセロトニン、ドパミン、
ヒスタミン及びアドレナリン受容体サブタイプに親和性があり、ドパミンD2受容体に比してセロトニン 5-HT2A受容体に対する親和性が高いことである21)。代謝物ノルクエチアピンは5-HT1A受容体部分活性化 作用及びノルエピネフリン取り込み阻害作用を持つ22)。
薬効を裏付ける試験成績
(2)
受容体親和性及び受容体機能に対する作用 1)
代謝物M5(ノルクエチアピン)及びクエチアピンの各種受容体及びトランスポーターに対する親和性
①
(in vitro)23,24)
放射性リガンドを用いたヒト受容体発現細胞、ヒトトランスポーター発現細胞及びラット組織膜標本並 びにウサギ血小板での結合実験において、代謝物M5はD2受容体及び5-HT2A受容体並びにその他のセ ロトニン、ドパミン、ヒスタミン、ムスカリン及びアドレナリン受容体サブタイプに親和性があり、
D2受容体に比して5-HT2A受容体に対して高い親和性を示した。M5はNET(Norepinephrine transporter: ノルエピネフリントランスポーター)に対して高い親和性を示したが、SERT(Serotonin transporter:セロ トニントランスポーター)、DAT(Dopamine transporter:ドパミントランスポーター)及びMAT(Monoamine
transporter:モノアミントランスポーター)に対する親和性は低かった。一方、上述した各トランスポー
ターに対するクエチアピンの親和性は低かった。
代謝物M5(ノルクエチアピン)及びクエチアピンの各種受容体及びトランスポーターに対する親和性
受容体・
トランスポーター
M5(ノルクエチアピン) クエチアピン
種 Ki値(nmol/L) 種 Ki値(nmol/L)
セロトニン5-HT1A ヒト 191 ヒト 1,040 セロトニン5-HT1B ラット 50.1 ラット >10,000a) セロトニン5-HT2A ヒト 2.93 ヒト 37.9 セロトニン5-HT2B ヒト 20.1 ヒト 221 セロトニン5-HT2C ヒト 27.1 ヒト 1,410 セロトニン5-HT3 ヒト 1,020 ヒト 9,620 セロトニン5-HT5A ヒト 1,280 ヒト 10,500 セロトニン5-HT6 ヒト 506 ヒト 2,360
ドパミンD1 ヒト 99.8 ラット 1,268a)
ドパミンD2L ヒト 489 - -
ドパミンD2S ヒト 748 - -
ドパミンD2 - - ラット 329a)
ヒスタミンH1 ヒト 1.15 ヒト 4.41
ムスカリンM1 ヒト 38.3 ヒト 1,860
ムスカリンM2 ヒト 675 ヒト 4,010
アドレナリンα1 ラット 37.2 ラット 94a) アドレナリンα2 ラット 1,290 ラット 271a)
NET ヒト 34.8 ヒト >10,000a)
SERT ヒト 358 ヒト >10,000a)
DAT ヒト 14,200 ヒト >10,000a)
MAT ウサギ 12,000 ウサギ 78,000
Ki値:阻害定数、IC50値:50%抑制濃度、Ki値及びIC50値は1試行の値あるいは3-4試行の平均値、NET:ノルエピネフリント ランスポーター、SERT:セロトニントランスポーター、DAT:ドパミントランスポーター、MAT:モノアミントランスポーター a)IC50値(nmol/L)
代謝物M5(ノルクエチアピン)及びクエチアピンの各種受容体、酵素及びイオンチャネルに対する作
②
用(in vitro)23)
300種以上の受容体膜標本、酵素あるいはイオンチャネルの膜標本を用いたin vitro試験において、代 謝物M5(ノルクエチアピン)は24種類、クエチアピンは17種類の標的分子で10,000nmol/L以下のKi値あ るいはIC50値を示した。
代謝物M5(ノルクエチアピン)の各種受容体、イオンチャネルに対する親和性及び酵素阻害作用
受容体・酵素・
イオンチャネル 種 Ki値(nmol/L) 受容体・酵素・
イオンチャネル 種 Ki値(nmol/L) 5-リポキシゲナーゼ ヒト 5,160a) グリシン、ストリキニーネ感
受性部位 ラット 5,040
アドレナリンα1A ラット 108 ヒスタミンH2 ヒト 2,590 アドレナリンα1B ラット 75 中枢性イミダゾリンI2 ラット 3,290 アドレナリンα1D ヒト 185 末梢性イミダゾリンI2 ラット 8,840 アドレナリンα2A ヒト 1,060 ムスカリンM3 ヒト 8.91 アドレナリンα2B ヒト 206 ムスカリンM4 ヒト 158 アドレナリンα2C ヒト 820 ムスカリンM5 ヒト 58.8 L型カルシウムチャネル、
ベンゾチアゼピン部位 ラット 6,570 ムスカリン、オキソトレモリ
ンM部位 ラット 131 L型カルシウムチャネル、
フェニルアルキルアミン部 位
ラット 8,610 オピエートδ ヒト 374
ドパミンD3 ヒト 861 シグマσ1 ヒト 1,290
ドパミンD4.2 ヒト 3,150 シグマσ2 ラット 8,090
ドパミンD5 ヒト 2,210 ナトリウムチャネルサイト
2 ラット 4,730
Ki値:阻害定数、IC50値:50%抑制濃度、Ki値及びIC50値は1試行の値あるいは3試行の平均値 a)IC50値(nmol/L)
クエチアピンの各種受容体、イオンチャネルに対する親和性23)
受容体・イオンチャネル 種 Ki値(nmol/L) 受容体・イオンチャネル 種 Ki値(nmol/L) アドレナリンα1A ラット 32.5 中枢性イミダゾリンI2 ラット 5,060 アドレナリンα1B ラット 14.6 末梢性イミダゾリンI2 ラット 7,930 アドレナリンα1D ヒト 114 ムスカリンM4 ヒト 3,100 アドレナリンα2B ヒト 98.7 ムスカリン、オキソトレモリ
ンM部位 ラット 1,240
アドレナリンα2C ヒト 81.9 オピエートμ ヒト 7,600 ドパミンD3 ヒト 769 シグマσ1 ヒト 265
ドパミンD4.2 ヒト 6,270 シグマσ2 ラット 2,260
ドパミンD5 ヒト 2,390 ナトリウムチャネルサイト
2 ラット 4,810
ヒスタミンH2 ヒト 9,470 Ki値:阻害定数、Ki値は1試行の値
代謝物M5(ノルクエチアピン)の各種受容体機能に対する作用(ラット、モルモット)22,25)
③
摘出組織を用いた受容体機能試験において、代謝物M5(ノルクエチアピン)はアドレナリンα2A受容体及 びセロトニン 5-HT1A受容体に対して活性化作用を示したが、α1B受容体、ヒスタミン H1受容体、ムス カリンM3受容体、5-HT2A受容体及び5-HT2B受容体に対しては抑制作用を示した。
代謝物M5の各種受容体機能に対する作用 受容体 組織(種) 活性化作用
EC50値(nmol/L)
抑制作用 IC50値(nmol/L) アドレナリンα1B 脾臓(ラット) - 340 アドレナリンα2A 輸精管(ラット) 11,300 -
ヒスタミンH1 回腸(モルモット) - 190 ムスカリンM3 膀胱(ラット) - 9,400 セロトニン5-HT1A 回腸(モルモット) 160 - セロトニン5-HT2A 大動脈(ラット) - 520 セロトニン5-HT2B 胃(ラット) - 10,600 EC50値:50%有効濃度、IC50値:50%抑制濃度、EC50値及びIC50値は1試行の値
代謝物M5(ノルクエチアピン)のノルエピネフリン取り込み阻害作用(in vitro)22,23)
④
ヒトNETを発現した細胞において、代謝物M5(ノルクエチアピン)はノルエピネフリン取り込み阻害作 用を示し、IC50値は13.4nmol/Lであった。
クエチアピンのドパミンD2受容体、セロトニン5HT2受容体占有率(ヒト、外国人データ)26)
⑤
統合失調症患者にクエチアピンを投与した場合の脳内ドパミン D2受容体及びセロトニン 5HT2受容体 の占有率をポジトロン放出型断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)により検討した。
慢性又は亜慢性統合失調症患者にクエチアピンフマル酸塩錠を投与(150mg/日から開始し 7 日間で
450mg/日まで漸増、以後450mg/日を継続投与)し、投与29日目にクエチアピンフマル酸塩錠150mgを
投与後、ドパミン D2受容体リガンド([11C]-raclopride:[11C]-RAC)又はセロトニン 5HT2受容体リガンド ([11C]-N-methyl-spiperone:[11C]-NMS)を投与し、PETスキャンを実施して脳内ドパミンD2受容体及びセ ロトニン5HT2受容体の占有率を求めた。
線条体(被殻、尾状核)における[11C]-RAC結合、及び前頭皮質と側頭皮質における[11C]-NMS結合は時間 の経過とともに増加し、クエチアピンのドパミンD2受容体占有率及びセロトニン5HT2受容体占有率は 減少した。また、クエチアピンフマル酸塩錠投与12時間後においてもクエチアピンは両受容体を占有 していることが認められた。
受容体占有率と血漿中クエチアピン濃度
クエチアピンのドパミン受容体拮抗作用 2)
リスザルのアポモルヒネ誘発瞬目反応に対する作用21)
①
クエチアピンはドパミン作動薬のアポモルヒネにより誘発したリスザルの瞬目反応を、1.25mg/kg以上 で溶媒対照群に比し用量依存的に有意に抑制した。また、クエチアピンの抑制効果はクロルプロマジン とほぼ同等で、クロザピンの約3.7倍であった。
リスザルにおけるアポモルヒネ誘発瞬目反応に対する作用
マウスのアポモルヒネ誘発よじ登り運動及び遊泳障害に対する作用21)
②
クエチアピンは、ドパミン作動薬のアポモルヒネにより誘発したマウスのよじ登り運動及び遊泳障害を、
それぞれ80mg/kg以上、40mg/kg以上で溶媒対照群に比し用量依存的に有意に抑制した。
アポモルヒネ誘発よじ登り運動に対する作用
アポモルヒネ誘発遊泳障害に対する作用
クエチアピンのセロトニン受容体拮抗作用(ラット)
3)
ラットのキパジン誘発首振り運動に対する作用27)
クエチアピンは、セロトニン作動薬のキパジンで誘発したラットの首振り運動を、5mg/kg以上で溶媒対 照群に比し用量依存的に有意に抑制し、ED50値は5mg/kgであった。
キパジン誘発首振り運動に対する作用
クエチアピンの錐体外路系に対する作用 4)
サルにおけるジストニア惹起作用
①
i)ハロペリドール感作サルにおける作用21)
ハロペリドールを投与しジストニアを発現させたサル(感作サル)に、休薬後クエチアピンを投与しジ ストニア惹起作用について検討した。
クエチアピン投与群では、20mg/kgの経口投与で13頭中2頭にジストニアが惹起したが、40mg/kgで は発現しなかった。一方、ハロペリドール投与群ではジストニアの発現率が高かった。クロザピン投 与群ではいずれの用量においてもジストニアはみられなかった。
ハロペリドール感作オマキザルにおけるジストニア惹起作用
薬剤 用量(mg/kg、po) ジストニア発症数/被験頭数
クエチアピン
2.5 0/13
5 1/13
10 1/13
20 2/13
40 0/5
クロザピン
10 0/1
20 0/13
40 0/11
60 0/5
ハロペリドール
0.125 3/12
0.25 6/6
0.5 2/2
1 13/13
ii)ハロペリドール未感作サルにおける作用21)
サル(ハロペリドール未感作サル)にクエチアピンを反復投与した際のジストニア惹起作用について検 討した。12週投与後、クエチアピン投与群では53.8%(7/13頭)(ジストニア発現後、持続しなかったも のを除外した場合30.8%、4/13頭)にジストニアが認められ、ハロペリドール投与群では92.0%(23/25 頭)にジストニアが認められた。また、クエチアピン投与群で中等度以上の反応がみられたのは投与期 間中1/13頭であったが、ハロペリドール投与群では23/25頭に中等度以上の反応がみられた。
累積ジストニア発現率
ジストニアの平均強度評点
ラットにおけるカタレプシー惹起作用21)
②
ラットにクエチアピンを投与した際のカタレプシー惹起作用について検討した。
クエチアピンは、20mg/kg以上で溶媒対照群に比し有意なカタレプシー惹起作用を示し、80mg/kg投与 時にハロペリドール4mg/kg投与時と同等のカタレプシーが認められた。
ラットにおけるカタレプシー惹起作用
電気生理学的試験(ラット)21)
③
ラットでの電気生理学的試験では辺縁系(A10)に対し選択的な作用を示し、錐体外路症状との関連が深 いとされる黒質線条体系(A9)に対しては作用を示さなかった。
i)単回投与21)
クエチアピン及びクロザピンは、A10において10mg/kg及び20mg/kgで、自発発火しているDA神経 細胞数(発火細胞数)を溶媒対照群に比し有意に増加させたが、A9においては20mg/kgでも発火細胞数 を増加させなかった。一方、ハロペリドールはA10において0.5mg/kgで発火細胞数を溶媒対照群に比 し有意に増加させ、同用量でA9の発火細胞数も有意に増加させた。
A9及びA10における発火細胞数(単回投与時)
ii)反復投与21)
クエチアピン及びクロザピンは、A10において20mg/kgでDA神経細胞の発火細胞数を溶媒対照群に 比し有意に減少させ、低用量のアポモルヒネ投与により有意に回復したが、A9では有意な変化は認め られなかった。一方、ハロペリドールはA9及びA10のいずれにおいても発火細胞数を溶媒対照群に 比し有意に減少させ、低用量のアポモルヒネ投与により回復した。
A9及びA10における発火細胞数(反復投与時)