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葡萄木の会計処理

ドキュメント内 □2016 年度テーマ研究論文 (ページ 48-55)

第4章 ワイン産業と会計処理

第2節 葡萄木の会計処理

第1項 IFRSにおける葡萄木の会計処理

葡萄木は、IFRS、日本基準共に、通常の事業の過程において、販売を目的として保有さ れるものではないため固定資産として認識、測定される。IFRS と日本基準の固定資産に 関する基準の違いは、IFRSには再評価モデルが存在することである。

IFRSでは、2016年1月1日以前、すべての生物資産には、IAS41号が適用されていた が、2016 年 1 月 1 日以後は、生物資産のうち葡萄木などの果実生成型植物には、IAS16 号「有形固定資産」が適用されることとなった。

IAS16 号により成熟前の果実生成型植物は、原価で測定される(22A 項)。果実生成型

の植物が成熟した後は、会計方針の選択により、原価モデルと再評価モデルのいずれかを 選択できる(29項)。

原価モデルは、資産として認識基準を満たす有形固定資産項目は、その取得原価で測定 する(15項)。有形固定資産項目の取得原価は、認識日における現金相当額である(23項)。

資産として認識した後、有形固定資産項目は、取得原価から原価償却累計額および減損損 失累計額を控除した額で計上しなければならない(30項)。

再評価モデルは、当初認識後、公正価値が信頼性をもって測定できる有形固定資産は、

再評価日における公正価値から、その後の減価償却累計額および減損損失累計額を控除し た評価額で計上する。再評価は、期末日の帳簿価額が公正価値と大きく異ならないように、

十分な規則性をもって行うとされ、ある有形固定資産が再評価される場合、当該資産の属 する有形固定資産の種類すべてについて再評価する。土地および建物の公正価値は、通常、

専門家としての資格をもつ、鑑定人の行う評価により市場価格に基づく証拠によって決定 される。有形固定資産項目の公正価値は、通常、鑑定によって決定された市場価値である

(32項)。

図表 19 再評価差額の取扱い

再評価差額 取扱い

再 評 価 時

差益

(増加額)

その他の包括利益(OCI)に認識し、再評価剰余金として資本に計上 する。ただし、再評価による増加額が、以前に損益に認識された同 じ資産の再評価による増加額が、以前に損益に認識された同じ資産 の再評価による減少額を戻し入れることとなる場合には、損益に認 識する。

差損

(減少額)

損益に認識する。ただし、再評価による減少額が、その資産に関す る再評価余剰金の貸方残高の範囲内である場合には、OCIに認識し、

再評価剰余金として資本に累積されている金額減額する。

資産の除却ま た は処分時

再評価剰余金は、損益を通さず、直接、利益剰余金に振り替えられ る(リサクリングしない)。

秋葉(2014b)p219

いずれかのモデルを採用したとしても、果実生成型植物を減価償却するうえでの耐用年

数を決定する必要があり、耐用年数は、毎年再検討する必要がある(51項)。

第2項 葡萄木に対するIAS16号「固定資産」の適用事例

前項でみたように、葡萄木は、2016 年1月 1日以降より果実生成型植物として IAS16 号が適用されるが、本論文執筆時(2017年1月13日現在)は、ワインメーカーで、適用 事例のあるアニュアルレポートが開示されていない12。仮に葡萄木が、再評価モデルによ り公正価値評価されたら、どのような方法により測定されるであろうか13。前述したオー ストラリア企業(オーストラリア証券取引所上場)の Treasury wine estates 社の 2016 年6月期のアニュアルレポートでは、葡萄木がIAS41号によって公正価値評価され、その

12 葡萄木にIAS16号を適用予定の、フランス(ユーロネクスト上場)のワイン・スピリッツ

メーカーのPernod Ricard社(2016年6月期 売上高約87億ユーロ)の2016年6月期のア ニュアルレポートに今後の動向が注記されている。

Changes in accounting standards

Standards, amendments and interpretations for which application is mandatory from 1 July 2016

The impact of the amendments to IAS 41 (Agriculture) and IAS 16 (Property, plant and equipment) is currently being assessed by the Group. Under these amendments, bearer plants will henceforth be accounted in accordance with IAS 16, allowing such plants to be recognised using the cost model or the revaluation model. Produce from such bearer plants continues to be accounted in accordance with IAS 41. Impact of implementation of these amendments will have no material impact on the Group’s operating profit. At 30 June 2016, biological assets amounted to€172 million, including€169 million of vines.

(会計基準の変更

2016年7月1日以降に適用が義務付けられている基準、改正および解釈

IAS第41号(農業)およびIAS第16号(有形固定資産)に対する修正の影響は現在、当グ ループによって評価されている。これらの改正により、果実生成型植物は今後、IAS第16号 に従って会計処理され、原価モデルまたは再評価モデルを使用してそれらの植物を認識するこ とが可能になる。このような果実生成型植物からの収穫物は、引き続きIAS第41号に従って 会計処理される。これらの修正の実施による影響は、当グループの営業利益に重要な影響を及 ぼさない。 2016年6月30日現在、生物資産は、葡萄木の169百万ユーロを含む172百万ユ ーロである。)

13 ワインメーカーにおいて、IAS16号の再評価モデルが適用されている事例として、前述した、

フランス企業(ユーロネクスト上場)のLVMH(ルイヴィトンモエネヘネシー)社の2015年 12月期のアニュアルレポートに、葡萄畑の土地の測定方法が注記されている。

Property, plant and equipment

Vineyard land is recognized at the market value at the balance sheet date. This valuation is based on official published data for recent transactions in the same region. Any

difference compared to historical cost is recognized within equity in “Revaluation reserves”.

If market value falls below acquisition cost the resulting impairment is charged to the income statement.

(有形固定資産

ぶどう畑の土地は、貸借対照表日現在の市場価値で認識される。この評価は、同じ地域の直近 の取引に関する公式の公開データに基づいています。 取得原価との差異は、「再評価剰余金」

として資本に認識される。 時価が取得原価を下回った場合、その減損損失は損益計算書に計 上される。)

測定方法が開示されているので、参考とするため取り上げる。

(公正価値の決定

農業資産の評価は、グループの会計方針(注1参照)に基づく公正価値測定のレベル 2であり、主要なインプットは以下のとおりである。

葡萄木

関連する葡萄畑の独立した評価と、購入した葡萄木(根茎)の市場価格の両方を参照

して決定される。)

以上より、葡萄木のような果実生成型植物を、IAS16号の再評価モデルにより公正価値 評価したならば、レベル2を用いた市場価格等を用いて測定されると推測される。

第3項 葡萄木の有用な会計処理

図表20 葡萄木の樹齢ごとの生産量

*葡萄木は、樹齢6~30年目において葡萄生産量が最大になる。そこを100%として、他 の樹齢における生産量を表している(リズ・サッチ ティムマッツ,2010,p46)。

図表 20 のように、樹齢を重ねた葡萄木は通常、将来生み出す葡萄の生産量も増加し、

葡萄の質も上がる14ので葡萄木の価値は高まり15、再評価モデルを選択すれば、その公正 価値は上昇すると考えられる。さらに、有名ワイナリーなどで植樹されている葡萄木は、

ブランド価値が高いため、他のワイナリーにある葡萄木よりも、公正価値は高く測定され

14 葡萄木は、樹齢が上がるにつれて地中に向かって深く根を張り、地中の様々な層の栄養素を 吸収するため、葡萄の質が向上する。さらに、樹齢30年目以降は、収穫量は減少するが、葡 萄木に結実する葡萄が減少し、葡萄一粒当たりに行き渡る栄養素が増えるため、葡萄の質が向 上する。

15 ワインのラベルに Vieilles Vignes(古木)と表記し、古木から収穫された葡萄で製造された ワインである事を消費者に伝え、希少性を表す方法もある。

るであろう16。そうであるならば、有名ワイナリーにあり、樹齢の高い葡萄木は、その公 正価値は高く測定されると考えられる17

樹齢と共に公正価値が上昇するとするならば、毎年、公正価値評価により測定すれば、

その公正価値の上昇を表すことができると考えられるが、葡萄木の公正価値情報は、投資 家が企業価値評価に用いる、将来キャッシュフローを予測する際に有用な会計情報となる のだろうか。

まず、松本(2015)において、混合会計(資産・負債の部分的公正価値情報+市場連動 型稼得利益情報⇒外部者による継続企業価値測定)による、資産・負債の公正価値情報が、

ファンド等が M&Aをする際の基本情報となり、銀行等にとっては、潜在的な貸付先の担 保能力を評価するための目安となり、企業の清算企業価値を測定する上では高い有用性を 持つとしている。しかし、資産・負債の公正価値情報は、評価差額を損益に反映させれば、

将来キャッシュフローの予測能力が低下する可能性があるとしている。

葡萄木は、ワインのような売却目的の資産ではなく、IAS16号で記述されているように、

果実生成型の生物資産で,機械設備といった有形固定資産に類似すると考えられる(BC66 項)。果実生成型生物資産の生物学的変化は、公正価値測定によって最も適切に反映される が、生物学的変化は将来の経済的便益を生み出す上でもはや重要ではない(BC64 項)。

果実生成型植物は、数期間にわたり生産物を生育させるために使用されるため、果実生成 型植物からの唯一の重要な将来の経済的便益は、それらが生み出す農産物の販売から生じ る。さらに、果実生成型植物の公正価値測定は、農産物としての売却を通じて価値が実現 される可能性のある生物資産の場合よりも、財務諸表利用者にとっての重要性は低いとし ている(BC65項)。

16 フランスのシャンパーニュ地方を例に挙げると、Recoltant Manipulant(小規模生産者、

以下RMとする)より、Negociant Manipulant(大手シャンパーニュメゾン、以下NMとす る)の方が、知名度等のブランドイメージにより、価格帯が高くなる傾向にあると思われる。

例えば、古木(Vieilles Vignes)から収穫された葡萄により製造されたワインで、RMのDomaine Egly Ourietの「Champagne Grand Cru Blanc de Noirs Vieilles Vignes」は、輸入元のヴァ ンパッシオンの希望小売価格で25,000円であるが、NMのBollinger社の「Bollinger Vielles Vignes Françaises」は、輸入元のアルカンの標準希望小売価格で110,000円であり、約4倍 程度、価格差がある。

17 フランスのシャンパーニュメゾンのBollinger社(Negociant Manipulant)の「Bollinger Vielles Vignes Françaises」は、輸入元のアルカンの標準希望小売価格は110,000円で、

「Bollinger La Grande Année」は標準希望小売価格で17,500円であり、約6倍程度、価格差 がある。上記より、古木から収穫された葡萄で製造されたワインは、将来獲得されるキャッシ ュが多くなるため公正価値が高く測定されると考えられる。

ドキュメント内 □2016 年度テーマ研究論文 (ページ 48-55)

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