森林総合研究所 森林微生物研究領域 岡部宏秋
1.共生を営む菌根
植物は陸上に踏み出したことで、それまでとはまったく異なった形態・機能を獲得した。
それは根のはたらきにある。水中では漂い流れる養分を取り入れることで足りたが、土中 では根を通じて水や栄養を取り込む必要に迫られた。土の中から集めなくてはならない。
しかしながら養分を吸収する根は、その表面積を大きくするにも、その広がりにも限度が ある。細かい根を増やし、土との接触面積を大きくしなくてはならない。しかし、土の中 のこと、集めた場所の養水分はたちまち枯渇する。そこで成立したのがカビの仲間とのや りとりであったと考えられる。細菌は土の中では遠くのものを集めることができないが、
カビは手を伸ばすように離れたところへ出かけて物質を取り込み、手元に引き寄せること ができる。都合のいいことに、根の中に菌糸を差し入れることで細胞内に取り込まれた光 合成産物、すなわちエネルギー(炭水化物)を取り込むことができ、逆方向では水や養分 を細胞内に供給することでお互いに利する舞台が出来上がった。カビ側にとっても根に取 り付いてさえできれば、エネルギーを確保でき都合がいい。こうして緑が消えたのではと 思われるほどのいくつもの難局を共生体は乗り越えてきた、その共進化の姿が今にある。
根にみる共生の世界を概観してみよう。
1879年にdeBaryによって提案された共生(symbiosis)という概念が、ここに来て大
きく花開いている。10億年以上前にバクテリア(ミトコンドリアや葉緑体)を取り込むこ とでエネルギー変換器を獲得した動物・植物、それが共生のたまものだという。生き物は 共生のかたまりといえるかも知れない。
菌根菌とは、植物の根系とカビの仲間が共生を営む菌類の総称で、分類学的には複数の カビの仲間からなる。菌根(mycorrhiza)という名称は、Frankによる1885年まで遡る。
その後、菌根を形成する菌根菌の生活史や生態が次第に明らかにされてきた。
近年、この分野の進展は菌根共生機能に特徴的なリン代謝機構やその他の養水分動態と いった生理生化学的な解析、電子顕微鏡などによる高解像の解析、分子生物学的手法によ る系統分類学の改変や使用した素材の追尾手法などなど目白押しで、根系と微生物間だけ でなく、さまざまな動物とも関わる分野、ひいては炭酸ガス固定からみたグローバルな視 点へと広がっている。
共生とは、初期の共生機能の定義にみる単なる異なった生物間の助け合いから、巧妙か つ複雑な仕組みを持った関わりへと、その解明にはまだまだ時間を要するようである。た とえば、エネルギー代謝が潤沢である状況では互恵関係にあったのが、宿主の光合成能に 衰えがみられると菌根菌側がやや寄生菌的な活動に変わったり、あるいは芽生え時点と成 長し始めたときにはすでに共生相手を変えるなど双方が生物経済学的な応答でやりとりし ているようにみえるなど共生の世界が奥の深いことをうかがわせる。
ここでは、まず菌根分野の基本的な知見に触れ、さらに菌根共生の機能面について、そ して、特に東南アジアにおける適用事情を取り上げる。
2.菌根共生の形態と機能
菌根とは、文字通りmyco(菌)+ rhiza(根)の直訳で、mycorrhizaは世界共通語とな っている。しかしながら、菌根を舞台とした共生という仕組みの捉え方は100年を越えて 大きく様変わりした。
共生という用語は上述したドイツの植物学者が提案者、植物と微生物が双方向に関わり 生活する、その在り方をみて定義したもので、今われわれがふつうに使っている共生、つ まり双方が利益を得るという相利共生、一方のみが益する片利共生、一方のみが害する片 害共生、片方が益し片方が害する寄生、これらすべてを共生としてまとめている。生物間 の相互関係を1つの用語で仕切った、といえるかもしれない。近年、われわれの生活のな かでも使われ、文化的共生(河合雅雄、2008)として、この用語「共生」が市民権を得て いる。ちなみに、河合氏は人間と自然との本質的な共生関係は片利共生だが、自然と文化 の調和を図ることで文化的相利共生を創ることできるとし、その道こそが未来を保証する 進路と諭している。緑資源の修復分野だけでなく、テーマからも読み取れる東南アジアの 自然との共生にも意義ある視点といえる。
植物の地下部にみられる共生には、菌根菌のほかによく知られた根粒菌、その他にも植 物体内にみられる内生菌がある。菌根菌が関わる共生を菌根共生といい、分類学的には数 目に及ぶ菌類、ひとくくりにするならば糸状菌(カビ)の仲間で構成されている。根粒は、
根粒菌(窒素固定を行う菌)がつくるが、マメ科は細菌、マメ科以外の樹木(ハンノキ、
グミやモクマオウなど)には放線菌、そして根粒ではないがサンゴ状の根をつくるソテツ、
イヌマキなどには藍藻細菌(シアノバクテリア)が関わっている。内生菌には、細菌やカ ビ類がリストに上がっているが、そのはたらきはわかっていないことが多い。
菌根菌が、有機物を腐らせてエネルギーを獲得する腐生菌と違うのは、宿主に取り入り 炭水化物を獲得することにある。したがって、たとえばシイタケを栽培するホダ木が数年 でぼろぼろになり、やがて土と見間違うようになってしまい短期間でエネルギーを得るこ とができなくなってしまうのに対し、一端宿主の根と合体すると、その宿主が健全である 間(共生できる間は、というのが正しい)は、炭水化物を確保できるので、例に挙げたシ イタケよりはるかに長期間にわたってほぼ同じ場所で生活することができる、ということ になる。見方を変えると、宿主の健全性に貢献している菌根菌であれば、宿主も利する関 係を長期にわたり保証される、といえる。
2.1 菌根、菌根菌の分け方
Harley and Smith (1983)は、菌根型を7つに分け、その特徴と、それらの菌根を形成す
る菌根菌、そして宿主を表にまとめた。その表は、その後わずかな改訂のみで現在(Smith and Read、 2008)に至っている。今後もこの表が基本となるように思われる。近年、イ ンドで見つかったAM菌に似た菌根形態を示し任意的な動きを示す担子菌Piriformospora
indicaやフタバガキに見られ amphimycorrhiza と提案されたグループなど根の内生菌の
新たな事例が紹介されている。この表内での位置づけについて関心が持たれている。
その表から、各菌根型に属する菌類群、宿主のみ抜粋し以下に示す。
この表に示す7つの菌根型は、根の中(根の表層から皮層部の細胞)に菌糸が広がる 形態で分けられている。中でも根の細胞の中と細胞の外側、つまり細胞間隙に広がる菌糸 が注目された。その形態によって、当初は内生、外生、内外生に分けられた。根の細胞の 内外の菌糸の広がりが鍵となった。以降、内生型は細胞の中に菌糸が広がる形態がさまざ まであることから複数タイプに分けられ、外生は1つのタイプのみであったので外生菌根、
内外生はそのままとなった。
菌根のタイプ、関わる植物群と菌類
菌根型 菌類 宿主 アーバスキュラー菌根 グロムス菌門 コケ・シダ・裸子・被子植物 外生菌根 担子菌、子のう菌、(接合菌) シダ・裸子・被子植物 内外生菌根 担子菌、子のう菌 裸子・被子植物で少数 アーブトイド菌根 担子菌 ツジ目
モノトロポイド菌根 担子菌、子のう菌 シャクジョウソウ亜科 エリコイド菌根 子のう菌 ツツジ目、コケ植物
オーキッド菌根 担子菌 ラン目
菌根菌に該当する微生物は、いずれも、いわゆるカビの仲間(真菌類)で、大きな子実 体(キノコ)をつくる高等な担子菌から、子のう菌、グロムス菌門からなり、土壌中に菌 糸を伸ばし生活する。 宿主はそのほとんどが陸上植物で、アーバスキュラー菌根(AM)
と外生菌根(ECM)の2タイプで 80%以上を占めている。その他の5つのタイプは、狭 い範囲の分類群でツツジやその近縁種と緑色ランに限られている。
なお、まだ見慣れないものの放線菌根(actinorhiza)という用語がある。これは、菌根 ではなく、前述した非マメ科植物(ハンノキ類、ヤマモモ、グミ、モクマオウなど)とFrankia 属という放線菌によって形成される根粒を示す。
以降、これら代表的なAM菌、ECM菌に絞る。
2.2 菌根(AM、 ECM)の分類、形態と機能
この2つの菌根型は、宿主となる植物が単一種の大きな広がりであっても、多様性豊か