合掌仕立ての実生由来2年生の1株について,前年の5本の主枝及び各主枝に着生した亜主枝か ら発生した新梢ごとに開花及び着果の有無を調べ,第17図に示した。 1株の総開花数は124個, その結果率は19.4%であった。開花数は主枝の発生順位と深く関係することが示され,最も早く 発生した「Ⅰ」の主枝に開花数が最も多く,発生の遅れた主枝ほど開花数が減少する傾向が見られ た。開花数は主枝節位の第30節から第40節までの間の節位から発生した新梢に多く,下位の新梢 には少ない傾向が見られた。新梢における開花節位はほぼ第10節以内であり,それ以上の節位に 着生した菅は落下した。
2.開花及び結果の状況
生育状態が平均的な80株の1日当りの開花数及び結果率,ならびに実験地の気温の変化は第15 表の通りであった。菅は新梢の基部第5節から上方の各節に着生し,基部の方から順次発達開花し たが,同一新梢においても或る節に着生する花の開花から次の節の花の開花まで日数には規則性が なく,翌日に開花する場合から10日間を要する場合まで変動があったが, 2‑3日間隔で順次上方 へ開花していく場合が最も多かった。開花最盛期に任意に選んだ558花の結果率は14.2%,実験期 間中における80株の総開花数は7,319,結果率は14.7%であった。なお,開花最盛期においても
日々の開花数には明らかな差があり,本実験においては6月7日から10日までの4日間に開花数 の著しい落ち込み(6月6日の63‑73% がみられた。落書数は非常に少なかった。
3.人工受粉による結果率の向上
晴天時と雨天時における人工受粉が結果率に及ぼす影響を第16表に示した。自家受粉及び他家受 粉の結果にはほとんど差異が認められなかった。晴天の場合は放任下における結果率が18.9%で あったのに対し,人工受粉の結果率は90.0‑91.1%と著しく高かった。雨天の場合,人工受粉の結 果率が21.6‑23.3%であったのに対し,放任下では僅かに6.7%であった。
第15表 パッションフルーツの開花期における実験地の気象条件及び放任下における開花数及 び結果率
Table 15. Climatic condition in the field, and number of opened flowers and fruit set percentage under natural pollination during flowering season in 1977 in purple passion fruit
Date May 24 25 26 27 28 29 30 31 June 1
Max.Temp. ℃ 27.3 25.8 21.7 28.0 28.7 25.3 25.6 28.3 29.0 27.2 Min.Temp. (℃ 18.1 18.4 19.1 15.5 16.3 15.8 19.3 19.4 28.3 22.4
Precipitation (mm) 0 34.0 36.0 0 44.0 No. of flowers 76 140 220 236 211 238 298 251 250 298 No. of set fruits 22 46 84 105 74 19 12 93 80 12
Fruit set (%) 28.9 32.9 38.2 44.5 35.1 7.9 4.0 37.1 32.0 4.0
Date June 3 10 11 12
Max.Temp. (℃ 31.9 31.7 Min.Temp. ℃ 15.8 19.6
Precipitation (耽7n)
4 9 7 2 2 2 6 4 0
● ●
9 0 5 2 2 0 3 0 4 9 6 2 1 6 6 3 4 0 2 1 4 2 0 2 3 1
28.5 28.7 29.3 22.4 22.3 19.7 18.0 21.0 15.0 No. of flowers 272 313
No. of set fruits 49 12 Fruit set (%) 18.0 3.8
3 0 0
82 5
0 0
13 0
0 0
32 1
1 4 8 2 3
4
5
0 8 7 4 1
2
0
0 2 1
02
0
0 2 6 0 5 2
2
Date June 13 14
Max.Temp. ℃ 29.6 29.9 Min.Temp. (℃ 18.7 21.4
Precipitation (耽m)
3 2 0
●
3 0 4 2 2 2 2 6
●
7 1 2 2 2 2
●
9 9 2 1 8 3 9 0 2 2 7 1 0 8 2 0 2 2 7 1 5 0 8 3 0 2 2 1 0 6 3 0 7 9 7 2 1 3 9 5 0
●
6 0 8 2 2 1
No. of flowers No. of set fruits Fruit set
1 0 0
03
0
5 4 6 3 1
3
9
6 9 9 4 6 1
3
1
2 1⊥ 5 0 4 3 4 1
6 0 0
12 5
0 0
02 9
0 0
5
8
●
3 4 4
8
0
5 5 4
21
9
8 7 3
71
第16表 パッションフルーツの結果率に及ぼす人工受粉の影響
Table 16. Effect of artificial pollination on the fruit set in purple passion fruit Weather Pollination Item May 24 27 28 29 31 Total Average
Self Artificial
Natural
Fine Cross
No. of flowers Fruit set (%) No. of flowers Fruit set (%) No. of flowers Fruit set (%)
10 20 20 20 20 90 80.0 90.0 90.0 90.0 100
10 20 20 20 20 90 80.0 85.0 90.0 90.0 100
91.1
90.0 10 20 20 20 20 90
40.0 20.0 10.0 10.0 25.0 18.9
Weather Pollination Item May 26 30 June 7 Total Average
Self Artificial
Natural
Ram Cross
No. of flowers 20 20 20 Fruit set (%) 25.0 40.0 5.0 No. of flowers 20 20 20 Fruit set (%) 25.0 35.0 5.0 No. of flowers 20 20 20 Fruit set (96) 5.0 0 15.0
60
60
60
23.3
21.6
考 察
現在,指宿地方におけるパッションフルーツの栽培は平棚仕立てが中心であり,合掌仕立ては僅 かである。しかし,勢走の方法は確立されておらず,植付後枝条は放任状態で,数年後には過繁茂 の状態となり,これも果実生産を著しく低下させている一因と考えられている。
前年に発生した主枝のうち最も強勢な2枝だけを残して,他の弱勢の枝(葦)を全て勢除するこ とが最も肝要であると考えられるが,このような勢定作業を効率的に行うためには,平棚仕立て法 を垣根仕立て法又は合掌仕立て法に改める必要があろうと考えられる。 3月下旬になると主枝から 新梢が発生し,伸長を始めるが,主枝の第30節から第40節の間の節位のうち,発生の早い新梢ほ ど着花数が多くみられ,しかも新梢の第10節以内に開花数が多くみられる。整枝・勢走ではこのよ うに早期に発生する主枝節位を確保することが必要である。さらに,この樹種の一般的な栽培では 果実の生産力は植付後3年目が最高で,それ以降は生産力が低下すると報告97,119,178)されているの で,生産可能な年限だけ栽培を継続する現在の方式を改め,改植を早めて増収をはかることが必要 であろう。 1日当りの開花数には明らかな差があり,本実験では6月7日から10日までの4日間 に開花数の著しい低下があったが,この原因としては,花芽はそれまでは正常に発育していたが急 に発育が遅れるのが見られたことから,晴天及び雨天の天候条件よりも,むしろ6月5日から3日 間にわたる気温の低下,とくに夜間の低温の影響であろうと推定される。オーストラリアで認めら れている極端な低温による結果不良の原因の一つに,低温により花芽の発育が遅れ開花数が減少す る現象が関与しているのではないかと推察されている107)。また,本調査期間以降(6月下旬以降)も 新梢は伸長をつづけ,膏は各節位に着生したが,未発達のまま全て落膏した。この原因の一つとし ては30℃以上の高温の影響が考えられている169。任意に選んだ558花の結果率は14.02%と非常 に低かったが,このような日々の結果率の変動は,降雨や低温など天候の影響が大きいと思われた。
ところで Hammer42)は自家不稔性のキイロトケイソウでは,訪花昆虫の多い地域でも放任下 では結果率は10‑20%であったが,人工受粉によって結果率は80%に上昇したと報告している。
本実験におけるパッションフルーツの結果率に対する人工受粉の効果は著しく,晴れた日の人工受 粉区の結果率(90‑91.196)は自然受粉区の約4.9倍,雨の日の人工受粉区の結果率(21.6‑23.3
%)は自然受粉区の約3.3倍で,人工受粉の効果は晴天時が雨天時よりも大であった。なお,雨天 時において人工受粉区,自然受粉区ともに結果率が低下した原因は,雨天時には荷の裂閑が抑えら れ,裂関しても花粉は飛散せず,また,雨水によって花粉が流失することなどが考えられる。
このように,人工受粉によって結果率が高くなった結果もたらされる栽培上の問題点はさて置く として,第16表に示したように,自然受粉区において20%以下の結果率はあまりにも低いので, 安定的なパッションフルーツ栽培を行うためには人工受粉は不可欠と考えられる。また,訪花昆虫 の積極的導入により受粉を効果的に行わせることも必要であろう。
そこで,パッションフルーツの受粉についてさらに考察を試みたい。本果樹の花は極めて美麗で やや大きく,蜜腺から豊富に蜜を分泌し22,29)虫媒花の条件を備えているのに,指宿地方において は昆虫の訪花は極めて少ない。開花は日の出頃から始まり,時間の経過に伴なって花柱が次第に外 側に琴曲し始める(第18図)。一方,雄蕊も花糸が外側に琴曲し,丁字状に着いた荷は外側から下 向きに反転して,自家受粉には非常に不都合と思われる状態になる。大多数の花の花柱は正午過ぎ になると横に曲り,柱頭が荷の間またはやや上部の位置まで下がり,柱頭と約が並ぶようになる
(第18図)。細い糸状の花糸に吊られた約は風によって動く仕組みになっていて,いかにも風媒花
第18回 パッションフルーツの開花時の花柱 及び荷の展開. ×1/2.
Fig. 18. The behaviours of the styles and anthers at flowering m purple passion fruit.
Above: the bending of styles and inclining of anthers at the begin‑
ning of flowering, middle: the an‑
thers turning downward, below:
the styles are bent down to bring the same level of the stigma with the anthers. ×1/2.
第19図 訪花して蜜を集めながら花粉媒介す る蜜蜂.
Fig. 19. A honey bee, pollinator, which is about to gather nectar from a flower in purple passion fruit.
の様相を呈しているが,接触型花及び接近型花 に風速2m/sの強制送風を行った実験結果によ れば,結果率は自然受粉区より低いと報告され ている58)。変種のキイロトケイソウは,花の構 造はパッションフルーツに類似しているが自家 不稔性で,虫媒花である4,5,53,84,85,119,166)。パッ
ションフルーツにおいても,訪花昆虫は非常に 少ないが,ミツパテ(honey bees)やクマバ チ(carpenter bees)の訪花による結果率の向 上が報告されているので24,42, 58,66,87, 112, 119, 126, 140, 145)キイロトケイソウと同様に本植物も虫媒 花と思われる(第19図)。
ところで,雨天の日には晴天の日よりも昆虫 の訪花が一層少なく,自然受粉の機会が非常に 少ない。さらに,昆虫が訪花しても雨天の日に は花粉が湿気によって破裂し,稔性のある花粉 の少ないことも結果率を低下させている原因の 一つと考えられる。著者ら67)は花粉は水中に おくと5‑20秒の間に破裂する現象を観察して いる。しかしながら,全部の花粉が破裂するの ではなく,極少数(数%)の花粉は破れないこ とが観察されているので,雨天の時,昆虫の訪 花が少ない場合でも人工受粉を行えば結果率が
向上するであろうと考えられる。
第3節 人工受粉
材料と方法
指宿植物試験場の圃場で栽培されている3‑4年生実生株を用いて, 1983年5月5日から9日 までと, 1984年5月14日から16日までの期間に人工受粉を行った。
人工受粉に当っては, 2本の柱頭を花柱基部より切除して1本の柱頭に受粉する柱頭1本区,柱 頭1本を切除して2本の柱頭に受粉する柱頭2本区,及び柱頭を切除しないで3本の柱頭に受粉す る柱頭3本区(対照区)を設け, 1区当り103‑135花を供試した。柱頭切除及び除雄は開花前日 に行い,硫酸紙の袋をかけた。開花当日は除袋して花型を確認した後,接触型花及び接近型花のみ に人工受粉を行い,再び袋かけして2週間後に結果の有無を調査した。
果実の諸形質の評価に当っては, 1983年に自然条件下で結果し,果実が成熟して自然落下した 果実を落果当日に集め,果実重,果汁重,果汁の糖度,酸度, pH,種子数,種子重及び果汁比重 の測定を行い,各項目について平均値,変動係数及び各形質間の相関係数を求めた。
結 果
1983年及び1984年の実験期間中における月別平均気温,降雨日数,降水量, 1日の日照時間な どは第17表のとおりであった。両年とも気温はほぼ類似していたが, 1983年の4月〜7月の降水 量は1984年の同時期よりかなり多く,逆に1984年の日照時間は少なかった。ところが, 8月は両 年とも晴天日数が多く,また台風の襲来もなく,栽培には好適であった。
第17表 実験期間中の実験地の気象条件(1983, 1984
Table 17. Climatic condition of the field during the experimental periods (1983, 1984)
Year Month Air temperature Days of Monthly Sun shine
Max Min rain fall precipitation hour/day
1983 April May June July August
℃ ℃
22.3 14.5 25.7 16.3
I
27.0 19.7 31.4 24.1 33.4 25.3
O>
<T
>
‑I
‑I ‑I (XI ‑H ‑H
618 378 683 277 70
nan
5.3 7.2 5.9 7.9 8.8
Air temperature Year Month
Max. Mm.
O er
y n S n相川 f
Q 2 Monthly Sun shine
precipitation hour/day
℃ ℃
21.7 12.7 25.1 15.8 29.2 22.2 32.7 24.3 32.8 24.0
LD C7> CO t>. ‑H1 2 1
第18表には1983年及び1984年の結果率を示した。柱頭1本区,柱頭2本区及び対照区(柱頭3 本)の結果率は1983年は89.5%, 95.8%及び97.0%, 1984年は88.7%, 89.7%及び91.4%で,両 年とも受粉柱頭数が多い処理区ほど高い結果率が得られたが,処理区間に1 %水準での有意差は認 められなかった。
そこで,第19表から,まず平均果実重についてみれば, 1983年, 1984年ともに柱頭1本区が最 も大きく,柱頭2本区と対照区はほぼ同じであった。また,果汁重は果実重が大きいほど重いとい う関係が認められたが,果実重及び果汁重とも各処理間に有意な差異は認められなかった。なお, 変異係数(C.V.は平均果実重,平均果汁重ともその値が大きいほど小さく,従って,柱頭1本 区が最も小さかった。 ・
1983年産果実についての調査結果によれば(第20表),果汁の糖度は15.4‑15.8%, pHは2.89
‑3.14,酸度は2.00‑2.31で,柱頭1本区, 2本区及び3本区(対照区)の間にほとんど差異は認 められなかったが,糖度の変異係数は,柱頭が少ない区ほど大きく, pHは柱頭1本区が他の2区
より大きかった。また,果実1個当りの種子数は125‑132粒,種子全量は2.38‑2.41aの範囲内 で,処理区間に明瞭な差異は認められなかったが,変異係数は柱頭2本区が他の2区よりやや大き かった。なお,データは省略したが,果汁の比重は1.0720‑1.0766で処理区間に明らかな差異は 認められなかった。なお, 1983年に自然条件下で結果・成熟した果実について測定,計算された 各形質間の相関係数は第21表の通りである。すなわち, i )果実重と果汁重,種子数及び種子重,
第18表 受粉した柱頭数及び結果率1983, 1984)
Table 18. Number of the pollinated stigmas and the resulted fruit set (1983, 1984)
Number of
stigmas Number of Fruit set Number of Fruit set
flowers percentage flowers percentage
1 2 3
5 3 7 3 0 2
1 1 1 5 8 09 5 78 9 9 0 4 71 0 1= 日日 = 7 7 48 9 18 8 9
第19表 果実の発育に及ぼす受粉した柱頭数の影響(1983, 1984)
Table 19. Effect of the number of the pollinated stigmas on the growth of fruit (1983, 1984
Number of Fruit C.V.{1) of Juice C.V. of stigmas weight fruit weight weight juice weight
ログ ログ
1983 1 2 3 3 3 3 8 2 6 9 6 6 1 3 3 2 8 2 8
1 1
1 2 3 3 3 3 7 4 4 9 5 4 7 7 5
●
6 5 5 1 1 1
All differences between the respective treatment means are not significant.
(i) : Coefficient of variation.