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パッションフルーツの花は新梢の葉肢に単生し,子房上位花39)で,開花開始後,花糸は外側‑

水平に曲り前は下向きとなる。同時に花柱も横方向に曲り,柱頭は掛こ近づきまたは接触する。ト ケイソウ属は虫媒花であるとされているが4,5,22,53,84,85,112,119,180)花床には蜜槽があり,訪花した虫 が蜜を求めるときに,背に花粉をつけやすく,また,柱頭にも背が接触し,受粉しやすい花の形を している4,24,39,60,147)第3章第5, 6図)。しかし,南九州ではパッションフルーツを訪花する昆虫 は非常に少なく,自然栽培条件下においては結果率は著しく低く58)弥富・石崎181)によれば5.2%

と報告されており,石畑ら65)の調査では晴天時は19.0%,雨天時は6.7%であった。

柱頭上に受粉された花粉の発芽は早く,受粉1時間後には花粉管は乳頭状の組織内へ伸長し,受 粉3時間後には花柱港内,受粉6時間後には子房の上位まで伸長している。そして受粉12時間後

は花粉管の先端は珠孔に侵入しているものも見出された。石畑58,64)は人工培地での花粉発芽試験 で,花粉置床30分後には発芽が始まることを観察しており,本実験では確認されなかったが,柱 頭上ではもっと短い時間内に発芽することが推察される。

ところで AKAMINE & GIROLAMI5)がキイロトケイソウで, 1本または2本の柱頭のみに受粉 しても,柱頭3本に受粉した場合と同様に結果して果実は発達し,品質にも差異が認められなかっ たと報告しているが,パッションフルーツを用いた本研究において,花柱3本の花柱溝は子房との 接合部で合体して子房室へ続くこと,花粉管はもとの花柱溝から心皮組織でつながる胎座のみに伸 長するのではなく,異なる花柱及び花柱溝を通っても3カ所の胎座部へほぼ均等に伸長し,各々の 肱珠で受精することが明らかになった。この結果から, 3本の柱頭のうち1本の柱頭のみに受粉し

ても,受精は子房1室内3胎座のすべての肱珠において行われうることが判明した。このことは, 人工受粉の省力的な作業が可能なことを示唆している。

柱頭へ受粉後花粉管が子房内へ伸長する時間はサツマイモでは3時間108)ヵポチヤでは3‑5時 間45)ネットメロンでは10時間156)と報告されている。パッションフルーツの場合,花粉管は受粉 6時間後には花柱基部を, 12時間後には珠孔を通過しており,ネットメロンと同様に受粉後10時 間程度で子房内へ伸長・到達するものと思われる。

子房内に伸長した花粉管は,胎座とその近くの空間にクモの巣のように伸びている(PlateW‑9)。

受粉後受精に要する時間的な経過は植物によって異なり,サツマイモでは6‑9時間108)ヵポチヤ では9‑11時間45)ヵヵォでは14時間146)ヘチマ及びツルレイシでは24時間171)ネットメロン では21‑24時間156)ナツミカンでは8日間179)とされている。 GILMARTIN39)によれば,キイロト ケイソウでは花粉管が珠孔から肱嚢内へ入れば受精が行われると述べており,受粉24時間後には 花粉管は珠孔近くに達したと報告している。しかしながら,本実験のパッションフルーツでは,受 粉12時間後には花粉管は珠孔を通過し, 18時間後には子房の肥大が始まっていたので,最高気温 18℃,最低気温14℃の気象条件下ではほとんどの肱珠の受精は受粉18時間後には終了しているも のと思われる。

第4節 摘  要

パッションフルーツの花粉発芽に好適な人工培地の探索と,人工培地による異なる花型の花粉の 発芽特性を明らかにした。さらに,受粉,花粉発芽及び花粉管の伸長の過程を明らかにするために, 柱頭3本のうち2本の柱頭を花柱基部より切除して柱頭1本のみにした花と,柱頭を切除しない

(柱頭3本)花に受粉し,経時的に光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察した。

1.寒天:2%,ショ糖:30%,ホウ酸:0.03%の培地の表面に,接触型の柱頭圧搾汁を塗布した 場合(20‑25℃)における花粉の発芽率は6.5%であった。

2.花粉の発芽は寒天:2%,ショ糖:30%,ホウ酸:0.02%,硝酸カルシウム:0.1%を含有し, pH4.0に調整して作成した培地の表面に接触型花の柱頭圧搾汁を塗布した発芽床(25℃)で最 高の発芽率(71.09%)が得られた。なお,発芽率が最も高かった培地のpHは4.0で,次いで 4.5であった。 3.0では花粉の発芽はほとんど認められなかった。

3.花粉の発芽適温は25‑30℃にあり, 15℃ではほとんど発芽せず, 35℃ではわずかに発芽が認 められた。

4.培地の糖源としては果糖とブドウ糖はショ糖に比較して著しく劣ることが認められた。

5.結果しない直立型花の花粉も稔性があり,受粉用花粉として使用可能なことが認められた。

6.花粉は受粉後1時間以内に柱頭上で発芽し,花粉管を乳頭状の柱頭組織内に伸ばした。花粉管 は受粉6時間後には子房内へ伸長した。肱珠基部まで伸長した花粉管は珠柄に沿って伸長し,珠 孔から肱珠へ伸び受精した。受粉18時間後には受精が終了し,肱及び子房の肥大が始まった。

7. 3本の花柱の花柱溝は花柱基部の子房との接合部で合体して子房室に接続しており,胎座は花 柱溝の延長上の中間に位置する。

8.柱頭で発芽した花粉管は花柱溝を通過し,心皮組織でつながる胎座とは関係なく,花柱溝合体 部位から子房室を3胎座に向かって伸長し各肱珠に達する。従って, 1本の柱頭に受粉しても各 胎座の肱珠は正常に発達することが認められた。

9. 1本の柱頭に受粉することで十分な果実発達が得られるので,受粉作業の省力化が可能なこと が示唆された。

Plate VH

1 3本に分岐した柱頭と除雄した花. ×0.3.

An emasculated flower with three bifurcated stigmas. ×0.3.

2 除雄し,花柱2本切除した花. ×0.3.

An emasculated flower and removed the two stigmas. ×0.3.

3 柱頭の表面. ×3.

Surface of a stigma. ×3.

4 柱頭の乳頭状組織(縦断面). ×34.

Longitudinal section of papillae of stigma. ×34.

5 花粉粒. ×153.

Pollen grain. ×153.

6 受粉1時間後の乳頭状組織を伸長する花粉管(pt). ×27.

The pollen tubes (pt) elongating through the papillae (one hour after pollination). ×27.

7 受粉3時間後の花柱溝を伸長する花粉管(pt). ×6.

Pollen tubes (pt) continuing their growth through the stylar canal (3 hours after polli‑

nation). ×6.

8 受粉6時間後の子房室内の上部に伸長した花粉管(pt) (走査型電子顕微鏡写真). ×28.

Pollen tubes (pt) stretching at the vicinity of the upper portion of loculus (6 hours after pollination) (SEM). ×28.

9 受粉12時間後の子房室内の下部に伸長した花粉管(pt),珠柄に沿って伸長している(走査型電子顕微 鏡写真). ×14.

Pollen tubes (pt) stretching at the vicinity of the lower portion of loculus 12 hours after pollination. We can see some pollen tubes growing along the funiculus of the ovule

(SEM). ×14.

10 子房室内下部に伸長した花粉管(pt). ×7.

Pollen tubes (pt) stretching at the vicinity of the lower portion of loculus. ×7.

ll 3本の花柱溝(stc)は花柱基部で合体している(横断図). ×9.

Longitudinal section of a style showing three stylar canals (stc) united at the base of the style. ×9.

12 花柱基部で合体した花柱溝(stc) (横断図). ×3.

Cross section of a style where three stylar canals (stc) united at the base of the style.

×3.

Plate

1 3本の花柱溝(stc)が合体した花柱基部(横断図). ×9.

Cross section of a style where three stylar canals were united at the style base. ×9.

2 受粉12時間後珠孔近くに伸長した花粉管(pt)走査型電子顕微鏡写真). ×54.

Pollen tubes stretching at the vicinity of micropyle 12 hours after pollination (SEM).

×54.

3,4 受粉18時間後珠孔内に伸長した花粉管(pt)縦断面図). ×11, ×30.

Longitudinal section of ovules noted 18 hours after pollination showing the pollen tube entered into micropyle. ×11, ×30.

5 受粉18時間後受精した肱珠(縦断図). ×60.

Longitudinal section of ovule fertilized 18 hours after pollination. ×60.

6 左から右へ開花後0日, 1日及び2日の雌ずい.子房は発育しはじめている. ×0.3.

Pistils noted 0, 1 and 2 days after flowering from left to right, showing the initial growth of the ovary. ×0.3.

略語の説明(Plate VI 11)

e:月もii:内珠皮, m:珠孔, oi:外珠皮, pt:花粉管, stc:花柱溝

Abbreviation

e: embryo, ii: inner integument, m: micropyle, oi: outer integument, pt: pollen tube, stc: stylar canal.

第5章 人工受粉と果実の品質 第1節 緒  看

パッションフルーツは永年性果樹であるが,実生又は挿し木由来の苗は植付け後1年目より果実 収穫が可能である。ところが,この樹種の果実生産の経済年齢は4‑6年といわれている40,87,96,107, 116。この原因としては,土壌病害虫による樹勢の劣化とそれに伴なう減収が指摘されている10,24,55, 83,88,I ‑96,106,114,115,131,132)。一方,この樹種栽培においては側枝の誘引を行う必要があり,それに人手

と資材を要するため,一般の木本性果樹に比べコストがかさむ難点がある。従って,経営的な観点 からすれば,植栽後数年間の樹勢維持と果実生産量の確保が重要な課題である。ところで,経漬栽 培におけるパッションフルーツの果実収穫量は2,000Wl0a以上が目標とされているが,そのため

には開花最盛期には1日2,000個以上,期間中約60,000個以上の花において受精が行われなけれ ばならないと概算される。前章で述べたように我が国の栽培地には適当な訪花昆虫がいないため, 人工受粉を行うことが必要であると考えられる。また AKAMINE & GIROLAMI'によればキイロ

トケイソウでは果実の品質と含有種子数との間には非常に高い相関があると報告されているので,

果実収量のみならず果実品質の点からも受粉の成否が栽培の重要な課題であると考えられる。

本章では人工受粉による結果率の向上に関する知見を得ると同時に,省力的な人工受粉方法の開 発を目的として実験を行った。なお,前章において接触型花,接近型花のみならず直立型花の花粉

も受粉用として十分利用できることが判明したので,花粉の確保は容易であると考えられる。そこ で1花当りの柱頭数を制限して人工受粉し,それが結果率及び収量にどのような影響を及ぼすかに 焦点を合わせて実験・検討を行った。

第2節 人工受粉と結果率の向上

材料と方法

調査ならびに実験は, 1977年に鹿児島県指宿市十二町の農家の圃場で栽培中のパッションフルー ツについて行った。栽培は合掌仕立てで,実生由来の2年生株であった。

1.開花及び結果習性

無病で標準的な1株を選定して供試した。実験に際しては,株から前年に分枝した主枝(第17図 の主枝I‑VI),さらにこの主枝から発生した亜主枝(第17図Ⅰ〜Ⅵより横方向に発生した枝),

No. of nodes of new shoot

■ .   ▲       ■       ■

10 5 0 5 10

L O   O   O . O C O c O C M i

1

ip tr ea q  pp jj

e os  X j bu it jc J  jo  s ep ou  j o* on j

0

No. of primary scaffold branches

i ffl vviivn

State of scaffold

b r a n c h

I

I i

▲▲▲▲▲

V VI IV No. of primary scaffold branches

第17図 パッションフルーツ2年生樹の着花及び結果状況.

Fig. 17. Flowering and fruiting behaviours of the two‑year‑old vine in purple passion fruit.

Nos. I ‑VI show the order of primary scaffold branches spread‑

ing from the base of the trunk.

▲ Flowering, : Fruit set.

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