近年,我が国における果樹類の一部は生産過剰のために生産調整が行われたり,他種の果樹類へ の転換が増加しつつある。このような中にあって,パッションフルーツはその果汁が他の果樹にみ られない成分特性があるため注目を浴びており,生産地域は温暖地に限定されているが栽培面積が 増加しつつある数少ない果樹の一つである61,76,79)。
トケイソウ属(Passiflora)には約600種が含まれるが,その多くは南米の熱帯,亜熱帯地域に 分布しており14,26‑ ‑51,73,128‑130,144,160‑162,164)果実を収穫目的として栽培されている主なものはキ イロトケイソウとパッションフルーツの2種類である4,5,22,39,53,87,121,126,132,133,143)。キイロトケイソウ が熱帯,亜熱帯の低地で栽培されている18,35,39,97,98,112,126,170)のに対し,パッションフルーツは熱帯 高地,亜熱帯低地及び降霜が僅かにみられる程度に気温が低下する温帯低地で栽培されている10,13, 30,87,107,115,178)。我が国では東京都八丈島,沖縄県,鹿児島県奄美大島のほか,本土では高知県の海 岸部や鹿児島県指宿市など冬季に強い降霜のみられない地域において露地栽培が行われている。な お,近年,台湾からキイロトケイソウとパッションフルーツの交雑種(紅皮系)が導入・栽培され ているが,受精不良のために果汁重のほか糖度や酸度の変動幅が大きく,消費者に必ずしも高い評 価を受けるに至っていない。
パッションフルーツは永年性果樹であるが,圃場での経済栽培年数は4‑6年といわれている30・
40,96,107,116)。この原因は土壌病害虫の影響によるものであるが24,55,83,89,96,98,106,136,137)これを完全に 防除することは現時点では至難の業である。さらに,我が国西南暖地には適当な花粉媒介昆虫がい ないことや開花期に降雨が多いために受粉障害が起こりやすく,年によっては結果数がかなり少な いことがあり,本果樹の栽培農家の悩みの種となっている。従って,結果率を高め,高品質果実生 産の技術を確立することは本果樹の一層の普及にとって非常に重要である。
以上のような経緯を背景に,パッションフルーツの安定的な栽培技術を確立することを目的とし て,花芽の分化・発達,開花と受精,結果率と果実の品質,果実発育と特に果汁形成の母体である 仮種皮の発育,果実収穫熟度判定の指標などについて研究,調査を行った。調査項目と得られた結
果を総括すると次のとおりである。
1.新梢の生長及び花芽分化時期と花芽の発育
パッションフルーツの花芽は新梢の伸長が停止する冬期を除き,新梢の頂部生長点近くの菓臓に 順次分化する。 3月下旬から4月上旬までの間に分化する花芽は約60日で花器を完成し, 5‑‑6 月に開花・結果したが,高温(日平均気温25‑C以上)で長日の夏季には縦径1.0m位の大きさに発 育すると落下した。花芽分化及び発育の適温は13‑25℃にあると思われる。
5月から6月の間に開花・結果する花については,花芽の縦径(XL 及び横径(Xw)と開花所 要日数(Y)との間には負の相関が認められ Y‑1.73XL2‑14.38XL+32.43及びY‑7.56X*
‑32.37Xw+36.09の式が得られた。パッションフルーツは他の多くの果樹類に比較すれば,花 芽分化から開花までが極めて短い期間に行われる果樹である。
2.花の形態と花粉の発芽及び結果との関係
花は開花時における花柱並びに柱頭と薪の位置関係から,接触型花(正常花, normal type), 接近型花(recurvate style type)及び直立型花(upright style type)の3型に分けられる。
1978年の調査結果では,花型別の花の着生比率(4月22日〜5月31日)は接触型が76%,揺
近型が17%,直立型が7%であった。結果性についてみると,人工受粉を行った自家受粉花では接 触型:94.2%,接近型:89.5%,直立型:0%であった。ところが,直立型の花粉を受粉した接触 型花の結果率は84.2%,接近型花は60.4%,接触型及び接近型の花粉を受粉した直立型花の結果 率は0%であった。このことは直立型花においては花粉稔性は正常であるが,柱頭または花柱に問 題のあることを示唆しており,直立型花の花粉も受粉用として利用できることを示している。
なお,花は早朝に開き,夕刻より夜半に閉じ,翌日再び開花することはなく,日最高(平均)気 温26.3±1.4℃,最低(平均)気温13.6±1.5℃の条件下においては,雄蕊,雌蕊器官の展開は午後
1‑3時,開所時刻は6時30分〜9時30分で,気温が高いほど関前時刻は早かった。
3.人工培地上における花粉発芽
寒天:2%,ショ糖:30%,ホウ酸:0.02%,硝酸カルシウム:0.1%を含有する人工培地(pH:
4.0)の表面に接触型花の柱頭圧搾汁を塗布した発芽床では,接触型の花粉の発芽率は71.1%,直 立型の花粉の発芽率は58%であった。
一方,培地の表面上に直立型花の柱頭,花柱上部及び下部,子房など,各器官・組織の圧搾汁を 塗布した発芽床においては,接触型,接近型,直立型のいずれの花粉もほとんど発芽しなかった。
4.雨天の日における花粉発芽及び受粉
晴天の日の結果率は,自然受粉は約20%,人工受粉は90%であったのに対し,雨天の日の結果 率は7%と23%で,晴天の日よりかなり低かった。雨天の日には柱頭上で花粉が濡れ,濡れた花粉 の多くは極めて短時間に破裂することが観察された。発芽床を用いて検討した結果,雨水に濡れた 花粉では発芽は認められなかったが,濡れていない花粉は晴天の日の花粉と稔性は変らなかった。
5.果実の品質に及ぼす人工受粉の影響
パッションフルーツの花には柱頭が3本ある。柱頭3本区(無処理区)のほか,柱頭1本区,及 び2本区を設け, 2年間にわたって人工受粉を行った結果,結果率はそれぞれ91‑97%, 89‑90
%及び90‑96%で,無処理区と柱頭切除処理区間に有意な差異が認められなかった。
さらに,果実重,果汁重,種子数,檀子重,果汁の糖度,酸度, pH,比重などの果実諸形質に ついても,無処理区と処理区間に有意な差は認められなかった。果実重一果汁重,種子数及び種子 塞,果汁重一種子数及び種子重,種子数一種子重間には1%水準で正の相関関係が,また,果汁の pH一酸度間には1%水準で負の相関関係が認められた。
6.果実の発育と収穫の熟度
開花・受粉後の果実の生長は, S字曲線を描き,果実の縦径及び横径は開花後21日目にはそれ ぞれ最大長の94.3%及び95.6%に達し,果実重は開花後21日目に最大量の84.4%に, 49日目に最 大量に達した。このことは,果実の肥大にとって,開花後4週間までの管理が重要なことを示唆し いる。また,種子の長径及び短径は開花後21日目には成熟時とほぼ同じ大きさに達したが,種子 重は開花後49日目に最大となった。仮種皮は開花後7日目に旺珠の下部組織から発達し,仮種皮 長は開花後28日日頃まで急激に増大し, 42日後に最長に達した。仮種皮重は開花後21日日頃か ら漸増し, 56日目に最大となった。なお,果汁重は果実の大きさ,果実重,果皮重及び種子数と の間にそれぞれ1%水準で正の相関が認められた。
パッションフルーツでは成熟時の果皮の着色程度による果実重,果皮垂,果汁重及び果汁量など の差は認められないが,仝赤紫色果の糖度は高い傾向にあった。したがって,本果樹においても, 果皮の着色程度は収穫の指標となることが示唆された。
なお,人工受粉によって,果実重は11%,種子数は31%,果汁重は29%,糖度は0.2度増加し,
その結果として,果汁歩合が高まり,品質が向上することが明らかにされた。
以上得られた結果は,パッションフルーツの安定した高品質果実生産のための栽培技術の改善並 びに確立に役立つことが期待され,また,特産的な果実の産地形成に十分活用することができるも のと考えられる。
謝 辞
本論文を作成するに当って,九州大学教授白石晃一博士,同教授藤枝国光博士及び同井之上準博 士にご指導とご校閲を賜わった。本研究の実施及び論文とりまと4)にあたって鹿児島大学農学部教 授片山忠夫博士,同教授宕堀修一博士(現筑波大学農林学系),同教授林 満博士には,終始かわ
らぬ厚意に満ちたご指導とご激励を賜わった。
本研究の実施に当って,鹿児島大学教授図分禎二博士,同名誉教授小倉弘司博士及び池田三雄博 士には有益なご助言と多くのご協力を頂き,鹿児島大学農学部生物生産学科園芸生産学講座並びに 作物生産学講座,及び卒業生には実験のご協力を頂いた。また,鹿児島大学農学部附属農場指宿植
物試験場職員各位には実験材料の栽培管理及び実験に全面的にご協力を頂き,更に資料の整理につ いては福川せいか嬢及び有村徹氏のご協力を頂いた。
ここに記して各位に対し深甚なる謝意を表する。
文 献
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