大橋 忠宏
1研究の背景と目的
国際航空輸送を取り巻くアジア地域での各国の空港施設整備の動きは非常に活発である.
日本においても最近では関西空港の二期工事や中部国際空港の建設,さらには首都圏第三 空港,新福岡空港の整備案に代表されるように空港施設整備の実施及び計画立案が行われ ている.一つの空港を建設するのに比べて複数の空港を建設することは住民の空港までの アクセスを容易にする.しかしながら,このことは一方で路線,運航頻度を分散させるこ とにつながるため,輸送密度の経済性による不利益を生じることになる.空港施設整備を 行う上で,この相反する効果が同時に働いていることを麟まえて計画の立案・実施が必要 不可欠である.
以上のことを分析する場合には,空港の後背地の空間を考慮し,かつ,一つの地域に複 数の空港が立地することを想定する必要がある.しかし,ハブ機能等に関する最近の地域 科学分野の研究成果では,たとえば,後背地域の域内空間を考慮した希少な研究である Fq'ita and Mori(1996)では移出入ノードの後背地の域内空間は考慮されることはあっても, 複数ノードについては検討されていない.この他,域内空間は捨象されているが,交易ル ートを内生的に扱うことでハブ機能誘致の可能性を検討したKonishi(2000)やMoriand Nishikimi(2002),航空輸送に関してネットワークを内生的に扱うことでハブ出現の可能性
について検討したHendricks etal.(1995)や大橋・安藤(1999)においても複数の移出入ノード,
あるいは複数空港の立地可能性については扱われていない.より最近では,空間競争に関 して,黒田(2002)が政府の行動を考慮して,空港収支制約の下で所得税率と空港使用料の trade‑offについて検討しているが,航空会社の行動は捨象しており,政府間で競争した結 果が航空会社に受け入れられるかは,今後の課題として残されている.なお,航空輸送に
特化した,たとえば,前述のHendricks etal.(1995)や大橋・安藤(1999)以外では,ハブ機能 誘致に関する検討は行なわれるが,運輸市場の寡占性については考慮されておらず,ただ ちに航空輸送等の運輸市場へ考え方を適用することは難しい.しかしながら,最初に述べ たように,現実世界では,ハブ機能誘致をめぐる空港間競争は,これまでの理論的枠組み で検討されるような1国1ノードの下で行なわれているわけではない.日本のように複数 ノードを整備している国でもハブ機能の誘致と空港へのアクセス等に関連付けた総合的な 議論は,理論的に殆ど検討されることはなかったと言えよう.
そこで本研究では,以上の問題意識のもとで,航空旅客輸送における輸送密度の経済性
とアクセスコストの関係を明示的に考慮することで,旅客個人のアクセスコストの減少を
目指して複数空港をおくことが必ずしも社会的余剰等の面から望ましくないなど,ローカ
ルな整備がグローバル戦略と相反する効果をもたらすことを示す.
2 モデル
(1)モデルの枠組みと仮定
モデルを構築するに当たり,以下を仮定する.
(仮定1)図1に示すような3つの国A,B,Cがあり,それぞれの特徴は以下のように想定 する.
A国:BC国間と比較して相対的に大きく離れている国を想定する(たとえば,北米 のようなところ).ノード番号1の空港が存在している.
B国: C国とは比較的近隣に位置し, A国とはかなり離れた位置にある国として考え る(アジア近隣のようなところ).ノード番号2の空港が存在している.
C国: B国とは比較的近隣に位置し, A国とはかなり離れた位置にある国として考え る・さらに, C国はB国と比較して,国内空間が無視できない程度の国土を持 ち,簡単のため,線形空間で近似できることを仮定する(日本のようなところ).
C国にはノード番号3以降,複数空港建設可能であるとする.さらに,人々は 線分上に一様分布していることを想定する.
さらに,簡単のため, A国とB国の国内空間は捨象する.
8E9 A百
図1仮定1の想定と分析の枠組み
(仮定2)航空路線では輸送密度の経済性が働くことを想定Ll,
"C'QI'=(1‑0・QL)・t/, oc'QL'=(1‑!・QL)・tL ・Qt (1,
を仮定する・ここに, QLはリンク)の輸送密度, tLはリンクlのラインホール時間, MC(QL)
1 Bruecknerand Spiller(1991)などでは, MC(Ql) ∃ 1‑0 ・Q'のような特定化により輸送密度の経済性が考慮 され費用は運航距離に全く依存しない・ BruecknerandSpiller(1991)のモデルを出発点とする多くの理論的研 究(たとえばNero(1996)やzhang(1996)I Hendricks et al・(1995)など)では,運航距離に関して何の検討も行な
われておらず,同様の仮定の下で分析が行なわれている.しかし,実際のデータによると必ずしも上記想定 通りにはなっていない・関数形の特定化については議論の余地が残されているが,本研究では,簡単のため 式(1)のような想定の下で分析している.なお,航空旅客輸送における輸送密度の経済性の程度について実証
的に検討したBruecher and Spiller(1994)では運航距離に依存する費用関数の想定がなされており,限界費用
の定数項の一つの要因として考慮されている.
は限界費用, oc(Ql)は運航費用とする.輸送密度QLの増加は0を正のパラメータとして限 界費用〟Cを単調減少させることを想定する.
(仮定3) C国で複数の空港を建設する場合,一つ当たり固定費Fが必要であり,アクセ スコストに関して社会的に最適になるように立地計画が行なわれることを仮定 する2.なお,空港を拡張する場合も追加的に固定費Fが必要であるものとする (一つの場合は線分の中点,二つの場合には両端からそれぞれ1/4のところに立 地させる).
(仮定4)経路選択は費用が最小となるところが選択される.必ず直行か経由の費用が同 じになることはない3.
(仮定5)各国に1社ずつのフラッグキャリヤーが存在し,以遠権は認められていないと
する4.
(仮定6)旅客の一般化費用cosTl,・は式(2)に示すように,出発地iから発空港までのアク セスコストと着空港から目的地jまでのイグレスコストに,運賃とスケジュール コスト,所要時間を加えたものであると仮定する.さらに,アクセスコストあ るいはイグレスコストは移動距離の増加関数,空港数の減少関数であることを 仮定5し,スケジュ‑ルコストは,路線の輸送密度に依存するものとする.
cos,・,・ ‑ACT(n・・,・EGT(n,・,・m中(・・・)I, ・∑L‑・・・,・,(%・r・EL)) (2,
2現実的には,空港の配置は歴史に依存することに留意する必要がある.すなわち,通常は,まず既存の空港 が存在し,次に,空港へのアクセスの利便性あるいは空港の狭陰化を理由に新設,拡韻することを想定する のが自然である.このとき,政府がアクセス費用について社会的に最適な配置を考える場合には,国土の人 口重心に既存空港が配置され,新規の空港建設については,既存空港を与件として次善の施設配置が行なわ れる.さらに,新規に建設される空港と既存空港で路線・便数を均等に配分することは殆どなく,現実には, 新規空港はフィーダー輸送を中心とした運用がなされる.ただし,このような想定は人口の再配置メカニズ ムなどを考える必要等もでてきて,分析の際には非常に複雑になるので非常に簡略化している.これらにつ いては今後の課題としたい.
3この仮定により,経路選択の問題を回避することが可能となる.実証分析を行なうことを考えるときには,
複数のルートが想定可能な場合にal1‑0トnOtbimgの配分を考えることは非現実的であるが,仮想的な状況での理論的な検討を行なうような場合にはある程度許容できよう.
4ここでは簡単化のため, A国にはaという航空会社が存在し, B国にはbという航空会社, C国にはCと いう航空会社のみ存在する状況を考え,自国の空港を離発着する路線のみで運航が認められることを仮定し ている.最近では,米国が推進するオープンスカイ政策に代表されるように国際航空輸送においても自由化 が進められている.ただし,日本や日本近隣のたとえば韓国などを見ると,以遠権について,これが認めら れる場合はあるものの,実際の運航でそれほど多くの第三国経由便が設定されているわけではないと言えよ う.さらに,日本国籍の航空会社が仁川国際空港をハブ空港として利用,逆に,韓国籍の航空会社が成田空 港をハブ空港として利用しているわけではない.航空会社の数については,複数社存在するが,参入企業数 の多寡により,若干の市場支配力の差は生じるものの,議論の本質には影響を与えないと考える.以上の観 点から,日本近隣を見る限りでは仮定5は容認されよう.
5厳密にはアクセスコスト(あるいはイグレスコスト)は利用するアクセス交通機関の混雑に依存するがこ
こでは簡単化している.
ここに, R(ij)はoDペア(iJ')が与えられた下でのルート(リンクと航空会社の組み合 わせ)に含まれるリンクとし, ACT(n.・), EGTl(nj),PlJ, QL, tLはそれぞれi国発のアクセス
コスト, )一国着のイグレスコスト, ij間を利用するときの航空運賃(利用するルートに 依存),路線需要密度(ただし,旅客は航空会社間のサービスは差別しない),ライン ホール時間である.さらに, β (>o)は需要側の輸送密度の経済性の程度を表現する パラメータでスケジュールコストのパラメータとしても解釈される. γ (>o)は時間 価値パラメータである.ただし,簡単のため,アクセス,イグレス費用はC国でのみ 正の値をとり, A,B国ではoとする.
(仮定7) oD交通量は以下の式(3‑aH3‑C)に示すように,所与の潜在的交通量を最大とし て,一般化費用に関する線形の単調減少となることを仮定する.ただし,一般 化費用は最も費用の安いルートのものが適用される.
ODAB ‑ ODJW ‑ aCOST^B rR(.・,,A)
ODBC ‑ OTbBC ‑ aCOSTBC IR(.・,,.,
oDAc ‑ OTb^C ‑ acosTAc IR.i,,,
ここに,蘇, oD.), COST.・,., aはそれぞれ oD(i,j)間の潜在的なoD交通量, oD(i,j)間
のOD交通量, oD(ij)間に必要となる旅客の一般化費用(アクセス等もすべて含む金 銭費用と時間費用の和),正のパラメータとする.
(仮定8)航空会社は,空港毎の発着枠制約の下で利潤を最大にすると仮定する.
(仮定9)社会厚生関数は式(4)に示すように,消費者余剰と企業利潤,建設費の和として
表されるものとする.
ドキュメント内
空間計画におけるグローバル・ローカル問題に関する基礎的研究
(ページ 65-68)