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自他の仮説形成過程の事例分析

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 76-80)

第4章 結果1:超越的コミュニケーションの成立における有

4.6 自他の仮説形成過程の事例分析

ないペアでも両方表現を多く使用していた(図4.9b).したがって,知らない課 題で形容詞が正しく理解されるには,両方表現を使用しているだけではなく,

先に名詞が特定されている必要があると考えられる.また,前半で多く使われ ていた身体表現は後半になると使用割合が減少してくるため,単独では形容詞 の理解には貢献していない可能性が考えられる.

が名詞,炎が形 容詞を表すと誤 解した

なあ…表現難し い

形容詞=熱い は,たぶん熱いっ ていうのを表現し たい

4 レモン以外で形 容詞を伝えれば 受け手の誤解を 修正できる

レモンから離れ てほしい…レモ ン以外を描けば いいのか

名詞=炎 形容詞=不明

炎は相変わらず描 いている…形容詞 が思い浮かばない

5 レモン以外で形 容詞を伝えれば 受け手の誤解を 修正できる

酢でも描くか…

レモンから離れ てくれたのはう れしい

名詞=炎

形容詞=冷たい

水滴がたれている

…レモンは涼しい 感じがあるので

6 表情を対比させ れば受け手に形 容詞を想起させ られる

酸っぱいって顔 文字

名詞=炎 形容詞=酸っぱ い

レモンが描いてあ るってことは,酸 っぱいを表したか った

7 受け手は対象を 理解した

同じ絵を描いて 名詞=炎 形容詞=酸っぱ い

酸っぱいっていう 部分は変わってい ない

8 受け手は対象を 理解した

同じふうに描い ていきましょう

名詞=炎 形容詞=酸っぱ い

さっきと絵がほと んど変わっていな いので

送り手は最初,描画対象をどう伝えるかを受け手からのフィードバックがな い状態で考え,描画で表現する.この段階では送り手は返答を受けとっていな いので,受け手が持っている仮説に関する推論はまだ行われていない.ただし,

一般的にどのように描けば描画対象を表現できるかという推論は行っている.

本実験における自他の仮説形成は次のように進行した.

1. 受け手は描画を解釈し,送り手が伝えようとしている対象のうち,名詞に ついての仮説と形容詞についての仮説という2種類の仮説を立てる.

2. 受け手が考えた名詞と形容詞は返答として送り手にフィードバックされる.

そこから送り手は受け手が持っている2種類の仮説を確認し,どう表現す れば自分が伝えようとしている対象からのずれを解消できるかを推論する.

上記2つの過程を繰り返しながら,受け手と送り手はそれまでの経緯も含めつ つ,互いの仮説を修正していく.

この例では,「炎」という名詞を伝えるために炎の絵,「酸っぱい」という形 容詞を表すためにレモンの絵が描かれ,名詞を表すicon表現と形容詞を表す代 替表現が使用されている.しかし,2・3ターンでは受け手はレモンが名詞を 表していると誤解している(図 4.10).すなわち,「炎」が形容詞を表す概念,

「レモン」が名詞を表す概念とし,炎の持つ「熱い」という特徴をレモンに移 すという,送り手の意図とは異なる解釈が生じている.

送り手が意図したのは「レモン」が形容詞を表す概念,「炎」が名詞を表す概 念とし,レモンの持つ「酸っぱい」という特徴を炎に移すという解釈であった.

知らない対象を伝える課題において,この例のように名詞を表す概念と形容詞

を表す概念を逆に解釈してしまう例は他にも観察された2.知らない対象を伝え る課題は通常は用いられない形容詞と名詞の組み合わせであるため,この例の ように「炎」が「酸っぱい」という性質を持つとは考えにくいからである.

このような受け手の誤解を修正するため,送り手はレモン以外の酸っぱい対 象として 4 ターンではミカン(図 4.11左図),5 ターンでは酢(図 4.11右図)

を追加で描くことで,この表現が意味するのは「レモン」ではなく「酸っぱい」

であるということを伝えようとしている.すなわち,代替表現として描く対象 の種類を増やしている.この送り手の絵の修正により,受け手は「炎」が名詞

2 描画課題「熱い信号機」の例:「熱い」を伝えるために描かれた太陽を名詞,信号機の点灯す る部分の色で「赤い」という形容詞を表すと解釈し,「赤い太陽」を返答した

描画課題「柔らかい信号機」の例:「柔らかい」を伝えるために描かれた人(とその耳たぶ)

を名詞,信号機が形容詞に関係していると解釈し,「信号機を待つ人」と返答した

図4.10 描画課題「酸っぱい炎」の例

2ターン目の描画(左図),3ターン目の描画(右図).

だという解釈を採用した.

それでも形容詞が何であるかが伝えられなかったので,送り手はレモンの横に 顔をしかめた絵を追加した(図4.12).これにより,受け手は「レモン」が「酸 っぱい」を表すということに気付き,「レモン」が形容詞を表す概念,「炎」が 名詞を表す概念とし,レモンの持つ「酸っぱい」という特徴を炎に移すという,

送り手の意図した解釈を採用するに至った.この表現は「レモン」で「酸っぱ い」を表す代替表現に「顔をしかめる」という身体表現を組み合わせたもので ある.「顔をしかめる」という具体的な解釈のフレームが与えられたことにより,

その原因は「レモン」が「酸っぱい」からだという推論が働いたと考えられる.

図4.11 描画課題「酸っぱい炎」の例

4ターン目の描画(左図),5ターン目の描画(右図).

図4.12 描画課題「酸っぱい炎」の例

6ターン目の描画(左図),7ターン目の描画(右図).

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