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臓器移植領域E

ドキュメント内 A A (ページ 35-43)

●フローチャート E 20 21 頁)

はじめに

実質臓器移植後の深在性真菌症は、細菌感染症や ウイルス感染症と比べて頻度が低いにも関わらず、

重症化した場合の致死率は極めて高い1)。その背景 には、① 移植治療を受ける時点で既に臓器不全に伴 う免疫不全状態にある場合が多い、② こうした免疫 不全を背景に、既に細菌・真菌感染の既往があり、

抗菌薬治療による菌交代をきたしている場合が少な くない、③ 移植手術の侵襲と初期の免疫抑制導入、

さらに初期の不安定な移植臓器機能によって感染免 疫能がさらに低下する、④ 免疫不全状態であるため に、抗菌薬の(時に過剰な)投与によって菌交代が 助長されやすい、⑤ 免疫抑制療法によって宿主の反 応が抑えられるため初期徴候に乏しく、早期診断が 難しい場合が少なくない、⑥ 臨床診断あるいは確定 診断がなされた時点では、患者の感染免疫能低下を 背景として、治療に不応の場合が少なくない、⑦ 抗 真菌薬の毒性や免疫抑制薬との薬剤相互作用のため に、抗真菌薬投与が制限される場合がある、⑧ 効果 的な予防法についての情報が限られている、などが あげられる。他の感染症の場合と同様に、移植され た臓器の種類、移植からの時間経過、免疫抑制薬の 多寡、といった因子以外に、上記①〜⑤のそれぞれ の因子(患者のおかれた環境因子も含む)において

個々の患者のリスク(net state of immune suppression)

を経時的に評価し階層化することが、深在性真菌症 の診断においても重要であり、それらの是正を図る ことが予防・治療においても重要である。なお、臓 器移植領域における深在性真菌症には無作為化臨床 比較試験がほとんどなく、多くは一部の報告や専門 家の意見に基づく

[C]

が、一般的推奨

[B]

もある。

診断

1. 発症の危険因子 ̶̶ どのような患者がハ イリスクか ?

すべての臓器移植患者には深在性真菌症の可能性 がある、といっても過言ではないが、一律に予防的 抗真菌薬投与を行うべきではない。発症に至る機序 と臨床症状は移植臓器によって異なるが、移植前臓 器不全の程度、手術侵襲の大きさ、移植臓器機能、

免疫抑制薬の多寡などに加えて、抗菌薬投与歴やカ テーテルなどの人工物留置もリスクファクターとな る。カンジダ症やアスペルギルス症では、ステロイ ドの投与歴や総投与量が危険因子となる。カンジダ 感染の多くは内因性で、アスペルギルス感染は外因 性の場合が多いが、肺移植における気管・気管支、

肝・膵移植における消化管 colonization の影響が大 きい2、3)

移植臓器別にみると、心移植は真菌感染のなかで

臓器移植領域 E

1

移植臓器別の深在性真菌症の頻度(

%

)と原因真菌1)

移植臓器

心臓 肺/心肺 肝臓 膵臓 腎臓

真菌感染罹患率 032 1535 742 1838 014

    重症化率 77 85100 5367 38 6

原因真菌

 カンジダ属 32 60100 7783 100 60

 アスペルギルス属 68 2027 2023 20

 その他 920 6 20

3章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート解説

アスペルギルスによるものの頻度が高く、重症化率 も高いとされる4)(表

1

)。アスペルギルス感染が肺 に始まり、その後播種性となることが多いのに対し、

カンジダ属によるものは播種性に始まることが多い。

心肺および肺移植では心移植より発生率が高く、多 くはカンジダ属によるものであるが5)、アスペルギル ス属が多いとする報告もある2)。カンジダ感染は、

真菌性動脈瘤や、気管支縫合不全として重篤化する ことがある。肝移植では膵移植と並んで発生率が高 く、多くはカンジダによるが、アスペルギルス感染 も稀ではない。腹腔内感染に始まって播種性となる 場合が多い。腸管内の真菌叢が感染源として重要で あり、感染は移植肝に胆汁鬱滞を引き起こす場合が 多く、致死率も高い6-8)。膵移植では、原疾患の糖尿 病が影響する場合もあるが、ほとんどはカンジダに よるもので重症化はむしろ少ない。膵管の腸管ドレ ナージの場合に頻度が高い9)。腎移植では、真菌感 染の頻度自体は少ないが、尿路が好発部位であり、

術後 6 カ月以内に多い10)

標準的な術後経過では、深在性真菌感染症の好発 時期があり、ある程度参考になる。移植手術後 1 カ 月では、カンジダ属によるカテーテル感染や手術部 位感染が主である。移植後 6 カ月以降は内因性感染 であるカンジダ症は通常みられない11)。一方、難治 性拒絶反応に対して強力な免疫抑制療法を行う場合 には、移植後の時期に関係なく真菌感染のリスクは 高くなる。

重症真菌感染症発生の危険因子については、肝移 植領域での報告が多い6-8、12-17)

2. 臨床症状 ̶̶ どのような場合に疑うか ?

確定診断(proven fungal infection)が得られてか らの標的治療成績は不良なことが少なくなく、先制 攻撃的治療( preemptive  therapy )や経験的治療

(empiric therapy)開始の目安となる真菌症疑い例

(possible fungal infection)や臨床診断例(clinically  documented  fungal  infection、probable  fungal  infection )が重要である。個々の症例のリスクを評 価し、常に鑑別診断として真菌感染を念頭におく必 要がある。原則的に広域抗菌薬に反応しない発熱を 呈する場合には、呼吸器症状など他の臨床症状や画 像所見、血清診断も含めて本症を疑うが、細菌・ウ

イルス感染診断時にも真菌症の合併を疑うことは必 要である。時には、発熱を伴わなかったり、熱型が 持続的でなく、移植臓器機能の異常だけで現れる場 合もある。白血球増多や CRP の上昇は必須ではな い。

3. 診断法 ̶̶ どのような検査を実施するか ?

真菌学的検査および病理組織学的検査を基本とし ながら、血清診断や画像診断、遺伝子診断を併せて 行う。

1

)培養(監視培養)

深在性真菌感染における定期的監視培養の診断的 意義については確立されていない。臓器移植患者で は真菌による colonization がしばしばみられるが、

感染に至らないものも少なくない2、3)。しかし、不潔 部位でも複数部位からの検出はハイリスクと考えて よい。肝移植での報告では、深在性真菌症に対する 監視培養の感度は 78 %、特異度は 50 %であった12)。 一方、アスペルギルス属に限れば、監視培養陽性時 のリスクは高いと考えるべきである。

2

)血清診断および遺伝子診断法(補助診断)

カンジダ抗原検出は肝移植における良好な成績も 報告されたが13)、感受性や特異性は必ずしも高くな い。クリプトコックス抗原検出法と比べると、アス ペルギルス抗原は感受性と特異性をともに満たすも のが確立されていない。わが国で活用されている β-D-グルカンは、カンジダ感染、アスペルギルス感 染のみならず、ニューモシスチス肺炎(

pneumonia;PCP)でも陽性となるが、クリ プトコックス症や接合菌症では陰性である。さらに、

セルロースや血液製剤投与など、偽陽性をきたす因 子についての留意が必要である。特に肝移植におい ては、その代謝が主として肝の網内系であることか ら、時に解釈が難しい場合がある。測定法によって 値に開きがあることも混乱の原因となっているが、

持続的な中等度以上の上昇は先制攻撃的治療開始の 指標であると考えられる。

PCR による遺伝子診断法は、診断を確定するうえ でその有用性が期待されているが、現状ではまだ評 価が一定していない。

E 臓器移植領域

3

)画像診断法

胸部 X 線、胸部・腹部・頭部 CT および MRI、

腹部超音波および内視鏡、眼底検査などは他の領域 と同様に有用である。

4

)真菌学的検査、病理組織学的検査

標的病巣が確定している場合には、生検、針吸引、

気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage;BAL)と いった真菌学的検査や病理組織学的検査も考慮すべ きであるが、臓器移植患者を対象にしたこれらの有 用性に関するデータは乏しく、安全に行える症例は 限られる。

各レベルの診断基準(試案)を表

2

にまとめた。

4. 確定診断

一般に下記の基準を満たす場合には、深在性真菌 症と診断する。

1)  血液、髄液、気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar  lavage fluid;BALF)、腹水(術中または穿刺液)、

尿(無菌採取)、深在組織などの無菌部位あるいは 膿からの真菌検出7、8、12、14、15、17)

2)  病理組織学的真菌検出7、8、14、15)

3)  臨床的に炎症を示唆し、画像的に炎症像を示す 患者の食道あるいは BALF からの真菌検出8、15)

4)  真菌性眼内炎は、臨床診断の指標の一つである が、ほぼ確定的診断として対処する。17)

3 カ所以上の表層部位(尿、便、喀痰、鼻口腔咽頭、

皮膚、創など)からの真菌検出7、8、17)(臨床症状を伴 う場合のみを含める12、14))は真菌感染疑い、単発の 表層部位の真菌検出は colonization とみなす8、15)

治療ガイドラインの概要

患者のリスク評価は移植手術前を通じて行われ、

深在性真菌症対策は移植待機中から始まっている。

発症予防を目標とするが、予防は単に抗真菌薬投与 を意味しない。例えば、サイトメガロウイルス感染 症は真菌症の重要なリスクファクターの一つであり、

この発症予防は結果的に真菌症の予防につなが る18)

予防と治療で重要なことは、個々の患者において 臨床経過をふまえて、その時点における真菌感染の リスクを評価・階層化し、宿主の免疫状態を維持し リスクを下げる総合的な対応である。

2

診断基準(試案)

疑い例は予防投与または早期の経験的治療に対応、臨床診断例と確定診断例は原則として標的治療に対応する。しかし、臨床診断例は発症 の可能性が高い場合と低い場合に応じて、可能性が低いと判断すれば経験的治療のレジメンを用いる場合もある

疑い(possible 臨床診断probable

確定診断proven 可能性が高い 強く疑う

血清診断または

遺伝子診断 β-D-グルカンの持続す る軽度上昇*1

G: 2050 pgmL W: 1020 pgmL

(偽陽性因子を除外)

β-D-グルカンの 中等度上昇

G: 50100 pgmL W: 2050 pgmL

β-D-グルカンの 高度上昇 G: 100 pgmL W: 50 pgmL

臨床症状を伴う汚染部位 からの真菌検出

病理組織学的真菌検出 芽胞/菌糸の検出

カンジダ抗原陽性 ガラクトマンナン抗原

陽性

血中真菌PCR陽性 真菌学的検査または

病理組織学的検査 複数の汚染部位からの真

菌検出*2 単一の半清潔部位*3

らの真菌検出 複数の半清潔部位*3

らの真菌検出 無菌部位/膿からの真菌 検出

画像診断 胸部X線/頭部CT上の真 菌を否定できない病変

(有症状)

胸部X線/頭部CT上の

真菌を強く疑う病変 胸部X線/頭部CT上の 真菌を強く疑う病変

(有症状)

その他 危険因子の2項目以上に 該当する場合はハイリス クとみなす

真菌性眼内炎所見

G: ファンギテックRGテスト(生化学工業)W: β-グルカンテストワコー(和光純薬工業)

1 β-D-グルカンについては、開腹手術の影響、血液製剤や透析膜などによる偽陽性を除外し、肝機能による修飾の可能性も考慮する。

β-D-グルカンの定量値は病勢を反映していない場合もあるが、予後の指標として重要である場合が多い(真菌感染症の確定所見ではない点 に留意)

2 監視培養のなかで、便や気道からの真菌検出の臨床的意義は高い

3 半清潔部位とは清潔部位に持続的ドレナージがなされている場合を指す

ドキュメント内 A A (ページ 35-43)

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