1. 発症の危険因子
他の領域と同様に、好中球減少症、先天性免疫異 常、担癌患者や臓器移植後、長期にわたるステロイ ド投与など免疫不全状態にある患者はすべてハイリ スク患者といえる。過去の報告では血液悪性疾患を 基礎疾患とする症例が最も多いようである5-7)。
2. 臨床症状
主に悪臭のある鼻漏、頬部痛、頬部腫脹を初発症 状とするが本疾患に特異的なものはない。これらの 症状は急速に進行し、複視、視力低下などの眼症状、
さらには頭蓋内に進展し意識障害を引き起こす。症 状から鼻副鼻腔悪性腫瘍を鑑別する必要があるが、
特に免疫不全患者において上記の症状が急速に進行 するようであれば第一に本疾患を疑う。
3. 血清診断 (補助診断)
他の領域同様にβ-D-グルカンの測定は有用であ る。この値は症状に併せて上下することから症状改 善後の抗真菌薬投与期間の指標とした報告もある8)。 また、ガラクトマンナン抗原 ELISA も補助診断とし て有用であるが、いずれも発症早期における感度や
耳鼻咽喉科領域 I
表
1
副鼻腔真菌症の分類2)Extramucosal(non-invasive)fungal rhinosinusitis Superficial sinonasal mycosis
Fungal ball(寄生型)
Allergic fungal rhinosinusitis(アレルギー性副鼻腔真菌症)
Invasive fungal rhinosinusitis
Chronic invasive(indolent)fungal rhinosinusitis Acute(fulminant)fungal rhinosinusitis(電撃型)
I 耳鼻咽喉科領域
特異度は不十分である。
4. 画像診断
副鼻腔 CT が最も有用である。寄生型と同様多く は一側性で内部に石灰化を伴い骨破壊性の強い軟部 陰影を認める。また MRI も腫瘍との鑑別に有用で T1 強調画像で等〜低信号、T2 強調画像では著明な 低信号領域を含む腫瘤性病変として描出される9、10)。
5. 真菌培養
従来、病理組織学的に副鼻腔真菌症(寄生型)と 診断された症例でも鼻漏培養で真菌が証明されるこ とは稀とされていた。しかし、近年の培養法を改良 したいくつかの検討では 9 割以上の症例で多種にわ たる真菌が検出されており、対象群である健常者に おいても真菌の検出率および検出菌の種類に大差は ないことが証明されている11)。このような観点から 鼻漏培養はあくまでも補助診断に過ぎず、他の検査 所見と併せた判断が必要である。
6. 病理組織学的診断 (確定診断)
本疾患が他の領域における侵襲性アスペルギルス 症と異なる最大の特徴は、外界に面した臓器におけ る深在性真菌症であるため組織採取が比較的容易な ことである。多くの症例で鼻腔内に真菌を含んだ炎 症性肉芽が充満しているが、鼻腔内に炎症性肉芽を 認めない症例でも内視鏡を用いれば、全身状態の悪 い症例に対しても低侵襲な手技で組織採取が可能で ある。最も侵襲の少ない生検部位として中鼻甲介が 有用であるとの報告もある12)。いずれにしても生検 により診断確定後、速やかに後述する治療に移るべ きである。
Ⅱ 治療
全身状態が許せば手術的に徹底した郭清を行うこ とが第一選択である。抗真菌薬の役割は補助的なも のであるが、その使用法など詳細に関しては確立し た基準はない。
1. 手術的治療 1 )
内視鏡的治療近年の鼻科領域手術における進歩には、内視鏡の 進歩が大きく寄与している。実際、寄生型副鼻腔真 菌症であれば大部分の症例で、内視鏡手術のみで治 療可能である。しかし、本疾患における内視鏡の位 置づけは診断確定(生検)のための手段としての一 面が主であり、病変の郭清には後述する外切開が必 要となる。
2 )
外切開による広範囲切徐本疾患は infectious cancer とも呼ばれており、患 者の全身状態が許せば治療の第一選択は外切開によ る広範囲で徹底した病変の郭清であることは一般的 にも疑問の余地はないものと思われる13)。しかしな がら、診断確定時には既に広範囲に進展しており、
眼窩内容摘出や頭蓋底手術を行っても救命できない 症例が多い。早期診断による確実な病変の郭清と抗 真菌薬の併用が重要であると思われるが、中鼻甲介 の生検による早期診断、早期治療が生存期間に寄与 しなかったとの報告もある。この検討では G-CSF に 対する反応が最も重要な因子であると述べており、
特に免疫不全患者においては手術、抗真菌薬投与に加 えて免疫能の改善を含めた全身管理が必要となる12、14)。
2. 抗真菌薬投与
抗真菌薬使用の実際に関しては、他の領域におけ るアスペルギルス症に対する使用法と大差はない。
従来は AMPH-B15、16)を使用した報告が多かったが、
新規の薬である VRCZ17)や L-AMB18)、MCFG8)の使 用経験例も報告されている。副作用の面では、代替 薬の選択肢は増えたが、各薬剤間の効果に関する比 較検討はない。症状が改善すれば内服薬へ変更する が、投与期間に関しても確立された意見はなく、症 状や血清学的指標(β-D-グルカン)、副作用の状況 を考慮しながら、最低 6 カ月は投与すべきであると の意見が多い。
また、ITCZ も有効性が期待されるが、今後の検 証が必要である。
<第一選択>
原則として外科的切除(デブリドマン)を第一選択
第3章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート解説
とし、併せて抗真菌薬の全身投与を行う
AMPH-B 1.0〜1.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静 注
[BⅢ]
‡単独投与で効果不十分の場合、下記の併用
[CⅢ]
+ITCZ 200〜400 mg /日 1 日 1 回カプセル 剤投与(保険適用は 200 mg/日まで)
+5-FC 100 mg/kg/日 1 日 1 回経口投与 ‡ L-AMB 2.5 〜 5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴
静注でも可
VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:初日のみ 6.0 mg/kg/回) 1 日 2 回点滴静注
[CⅢ]
MCFG 150〜300 mg /日 1 日 1 回点滴静注
[CⅢ]
ITCZ 200 mg /日 1 日 1 回点滴静注(loading dose:200 mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)
[CⅢ]
§§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切 り替えについては 58 頁参照
おわりに
耳鼻咽喉科領域においても、本項で述べた侵襲性 副鼻腔アスペルギルス症のように重篤な症状を呈す る深在性真菌症は増加傾向にある。しかし、頻度と しては依然として非常に稀な疾患であるため、本疾 患における無作為化臨床比較試験はほとんどない。
また診断法、治療法についても確立されたものはな いのが現状である。本疾患は死に至る疾患であり、
常に本疾患の存在を念頭において日常臨床に当たる とともに、根拠に基づいた治療法の確立が急がれる。
◉参考文献
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