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「腑分」 模写のエピソード

ドキュメント内 北辰同窓会37号 (ページ 54-57)

解剖学Ⅱ教授

篠原 治道

TV映像から

よる口答試問を受けているような感じです。Aさん の場合、出演には特に慎重で、明らかに番組の制作 協力と出演とは別次元の問題といったポリシーがあ るように思います。録画撮りをどうするか、といっ た番組の具体的な検討段階になって初めて「じゃあ、

ここのところで先生に出ていただいた方がよさそう ですが、いかがですか?」といった流れで出演を検 討することになります。結局のところ、プロポーショ ンとコントラポストが最後まで残りました。

プロポーションとコントラポストを軸にした番組 づくり、と簡単に言ったものの、実際には困難をき わめました。例えば、写楽の代表作の一つ「大谷鬼 次の奴江戸兵衛」の顔と手のプロポーションを論じ るさいに、当初はレオナルド・ダ・ヴィンチ作、ベネ チア博物館所蔵の「ウィトルウィウス的人体」を参考 にして解剖学的コメントをしようというプランでし た。しかし、これを写楽の146点全ての解析に供す るには、例えば日本人とイタリア人、1790年頃の江 戸時代人と1500年頃のイタリア人との違いをどの程 度無視して解析できるのか?といった当然の不安が 出てまいりました。

最後にはダ・ヴィンチの引用はあきらめました。

解剖学教室から本学第12学年の学生諸君をはじめ 教職員の方々に事情をお話したうえで、身体計測の

被検者になっていただき、

その計測結果をもとに眼裂 長、耳長、手長、顔面長、

身長などの関係を示す回帰 直線を求めました。次に浮 世絵中の眼裂長、耳長、手 長を数式に入れ込み、顔面 長を算出して、そこから推 定身長を求め、それが人類 学的計測で確定されている 江戸時代日本人の平均的身 長145~150cmと大きくは乖 離していないことを確認い たしました。そうして初め て浮世絵中の身長、顔面長、

手長の間のプロポーション を論じることができるよう になりました。511日夜 9時からオンエアーされたNHKBSプレミアム「知 られざる在外秘宝③」全作品解析「写楽」はこうした 膨大な計測データを基礎としてできあがりました。

番組をご覧になった方々にはお分かりいただける かと思いますが、私の美術評論はいわゆる美術評論 家の「そういった感じです」「〜という印象があり ます」から一歩踏み込み、感じや印象の根拠を、例 えば数値で示すことで成り立っています。医学界に は(物的・数値などの)客観証拠にもとづいた医学 Evidence-Based MedicineEBMという言葉がござ いますが、私の美術評論手法は数値による Evidenced-Based CritiqueEBCとでも言えるかなと考えてい ます。前述の「大谷鬼次の奴江戸兵衛」を例にとりま すと、<手長は頭長にくらべて通常よりも2030 も小さく描かれており、著しく不均衡である。その 均衡の崩れがこの浮世絵に動的な迫力を与えている

>というコメントになります。2008512日にオ ンエアされた「ロダン」が私のテレビ出演第1作目で すけれども、以来、この姿勢は基本的には変わって おりません。今回、はじめて彫刻ではなく、絵画、

しかも西洋美術が目指した方向性とは縁が薄い<平 面処理>された版画の世界で人体計測的なEBCを展 開いたしました。NHKのような公共放送で、より良 い番組作りに貢献し、より多くの方々に美術鑑賞の 写真1NHK スタジオでの収録風景

ことに大きな喜びを感じています(写真1)。

新アナトミーセンターの「腑分」の原画を訪ねて 実は今度のテレビ出演には、番組づくりとは全く 別の、私にとって大切な思い出となったエピソード が1つございます。201123日、番組の細部を 詰めるために私は東京でAさんにお会いしましたが、

それは私の本務ではありませんでした。この日の本 務は大学の仕事で、3名の金沢医科大学美術部員(秋 田大輔部長と上田麻衣さんと清水一秀君、写真2 ともに東京・恵比寿の山種美術館を訪れることでし た。3月に竣工予定の金沢医科大学新アナトミーセ ンターでは、山下公一理事長(当時)のご提案により、

入口と解剖実習室前ラウンジに美術部員の手による 模写を飾る計画でした。特に3階のラウンジには前 田青邨作「腑分」の模写を懸けることになっておりま した。おりしも、山種美術館では所蔵している「腑分」

の特別展示をしており、本物を観察してから描くほ うが好ましいということになって、私が美術部員を 引率していくことになったのです。この美術館訪問 は学生を伴う公務出張でもあり、中農理博常務理事 には美術館側との連絡など、きめ細かな便宜をはかっ ていただきました。

話は少し変わりますが、昨今の金沢医科大学では 臓器別ユニットと呼ぶ、臓器別の講義が月曜日から 金曜日まであり、土曜日はその試験に充てられるこ

る日は日曜日以外には少なくなっています。2月13 日はそういった状況下の、3名の美術部員にとって は貴重な日曜日でした。大学の時間的かつ経済的な 配慮はこのような現状を考慮してのことでございま す。彼らとは早朝5時半ころに病院前で待ち合わせ し、私の車で小松空港まで1時間あまり走りました。

空港で朝食、搭乗し羽田へ、それから電車と徒歩で 山種美術館まで参りました。彼らにとってはもちろ ん、私にとっても大学内や教室ではありえない、楽 しく意義深い交流の場となったことは当然の成り行 きで、片道5時間はあっという間でした。山種美術 館では暫く一緒に「腑分」をはじめとした絵画を鑑賞 致しましたが、あとは自由行動とし、帰りは羽田の 搭乗口で合流致しました。

春近しとはいえ2月の半ばは陽の落ちるのが早く、

大学へ到着したときには既に夕闇が降りはじめてお りました。早朝からのエクスカーションに疲れたの でしょう、うとうと眠り始めた、晩冬の夕陽が照ら す学生諸君の顔を時おりルームミラーで眺めながら の帰途の運転は、彼らのオヤジにでもなったような 至福の時間でございました。

今回の番組出演にさいしては、いつものように多 数の本学学生、教職員の方々に身体計測の被験者と して協力していただきました。私の評論はもとより 金沢医科大学の皆様のそういったご協力なしには成 り立ちません。この紙面をお借りして改めてお礼を 申し上げます。また、わずか1日ではあり ましたが、この大学へ赴任して初めて学生 諸君とともに旅行をし、様々な話をいたし ました。心暖まる小旅行の結果として、と ても上質の絵ができあがり、しかもそれが 私の仕事場である新アナトミーセンターに 懸かっています(写真3)。教員冥利に尽き る、と言っても過言ではございません。重 ねて大学からの様々なご配慮に感謝する次 第です。

最後になりましたが、そうして完成いた しました新アナトミーセンターと美術部員 たちが描いた模写を、ぜひ北辰同窓会の皆 様にも一度ご覧頂きたいと存じます。同セ ンター2階には解剖展示室もございます。

写真2 3名の金沢医科大学美術部員

2000年の論文にて抗老化遺伝子サーチュインが酵 母、線虫の寿命を伸ばすことを読んで、興味を抱い たのが、私のサーチュイン研究の始まりです。

当時、糖尿病血管合併症の成因として偽虚血が注 目されていました。その内容は、糖代謝異常によっ て細胞内のNAD+/NADH比が低下することです。そ の時期にまさしく、NAD+依存性に活性化される脱 アセチル化酵素としてサーチュインがあることを知 りました。早速、マサチューセッツ工科大学グアレ

ンティ教授に連絡して、実験に必要なサーチュイン 関連の遺伝子を含むプラスミドを快く送って頂きま した。その後、当時の大学院生久米真司先生(現在、

滋賀医科大学内科特任助教)が興味を持って行なっ 大学近くへおいでのさいには気軽に私どもにご一報

下さい(アナトミーセンターはオートロックになっ ています。お越しのさいにTEL076-286-2211内線

3180井高、芹川技能員もしくは内線3821篠原まで ご連絡いただければ開館・ご案内いたします)。

■NHスペシャル 

ドキュメント内 北辰同窓会37号 (ページ 54-57)

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