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HIV-1脳症 73 症状は増悪進行し、重度の認知機能障害や他のさまざまな神経症状(錐体路症状、パーキンソ ン症状、運動失調)を呈する。また認知障害は高度となり、動作も極端に遅くなる。このような 重度の状態になると平均2ヶ月、長くとも6ヶ月以内に死に至るとされる。死因は、嚥下性肺炎 や他の日和見感染によることが多い。

HIV-1脳症の治療法は未だ確立されてはいないが、HAART導入により変化がみらている。

Sacktorらは2002年に HAART導入以前のコーホート研究と比較することで、HAART療法が 認知機能障害の発症率を減少させる可能性を示している。同様の報告は Suarezらによっても報 告されている。ジドブジン(zidovudine、レトロビル、経口、保険適応あり)は脳血液関門を通 過する薬剤である。本剤の投与により髄液中の HIV-1抗原の減少を認め、神経症状の改善が期 待されるとの報告がある。成人では400~600mgを一日4~6回に分けて経口投与する。副作 用としては、造血障害、消化器症状(嘔気嘔吐、胃部不快感、食欲不振)がみられる。高用量の zidovudine(1000~2000mg)投与も推奨されているが、臨床効果は一過性であり、長期間に わたる調査では HIV脳症発症の予防効果は認められなかった。Sacktorらは2001年に髄液移行 の良い薬剤を多剤含む HAARTでも、単剤のみの HAARTでも認知障害に対する治療効果は同 等であったとも報告している。また Tozziらは、認知機能障害の存在はウイルス抑制ができてい ない患者にとっては、生存率を減少させる方向に働くが、抑制されている患者では生存率に影響 しないと報告している。

参考文献

1) 味沢篤:HIV-1脳症、松田重三編、HIV治療マニュアル、HIV感染者発症者予防・治療に関 する研究班(班長 山田兼雄)p77-78

2) 岸田修三:神経系の感染症:診断と治療の進歩 Ⅳ.重要な神経系の感染症 7.AIDSにお ける神経系感染症、日本内科学会雑誌 85 5:79-83,1996

3) 矢野雄三、根岸昌功:AIDSの神経症状、神経内科 39:12-21,1993

4) 平野朝雄、馬原孝彦:AIDSの神経病理、伊藤正夫・楢林博太郎編、神経科学レビュー 7:

13-26,1993

5) CliqueP,etal:Diagnosisandclinicalmanagementofneurologicaldisorderscausedby cytomegalovirusinAIDS.JNeurovirol4:120-132,1998

6) JellingerK,etal:NeuropathologyandgeneralautopsyfindingsinAIDSduringthelast 15years.ActaNeuropathol100:213-220,2000

7) MocroftA,etal:EuroSIDA studygroup:DeclineintheAIDSanddeathratesinthe EuroSIDA study:Anobservationalstudy.Lancet362:22-29,2003

8) SacktorN,etal:HIV-associatedcognitiveimpairmentbeforeandaftertheadventof combinationtherapy.JNeuroviol8:136-142,2002

9) SuarezS,etal:OutcomeofpatientswithHIV-1-relatedcognitiveimpairmentonhighly activeantiretroviraltherapy.AIDS15:195-200,2001

3 予 後

4 治療法

HIV-1脳症 74

10)SactorN,etal:CSFantiretroviraldrugpenetranceandthetreatmentofHIV-associated psychomotorslowing.Neurology57:542-544,2001

11)TozziV,etal:NeurocognitiveimpairmentandsurvivalinacohortofHIV-infect edpa-tientstreatedwithHAART.AIDSResHum Retroviruses21:706-713,2005

(神経内科 緒方 昭彦、矢部 一郎、佐々木 秀直、2009.08)

進行性多巣性白質脳症(PML)75 進行性多巣性白質脳症(progressivemultifocalleukoencephalopathy;PML)は JCウ イル スによる中枢神経の日和見感染症であり、slow virusinfectionの一つである。JCウイルスは常 在ウイルスであり、ヒトに不顕性感染しており、特に腎臓に持続感染している JCウイルスが宿 主の免疫能低下によりゲノム調節領域に変異を生じた結果、中枢神経親和性を獲得する。この変 異した JCウイルスが oligodendrocyteに感染することにより、その蛋白合成を阻害し、二次的 に脱髄病巣を多発するものと考えられている。

HIV-1感染者における PMLの合併頻度は0.5~4.0%程度。HIV-1感染者に合併した PML28 例からの分析によれば、発症年齢は22~58歳(平均39歳)で男性25例(多くは homosexual)、 女性3例と報告されている。また、HIV-1感染者以外の基礎疾患に合併した PML多数例の分析 では、性差はなく、40歳以上で好発し20歳以下の発症はまれと報告されている。

HIV-1感染者が進行性の神経症状を呈した場合に本症を疑う。AIDS関連 PMLでは非 AIDS関 連 PMLに比較して前頭葉・頭頂葉病変が多く、初発症状は運動障害が多い。

(1) 主な初発症状

視力障害、片麻痺、認知機能障害の頻度が比較的高く、さらに言語障害、人格変化、歩行障 害、意識障害、頭痛などがあげられる。

(2) 経過中の主要症状

臨床症状は多彩であり、片麻痺~四肢麻痺、失語、失行、認知機能障害、視覚障害(半盲~

全盲)などを認める。

(1) 一般臨床検査

特徴的な所見はない。

(2) 脳脊髄液検査

ほとんど異常はみられず、細胞数の増加も認められない(蛋白量は軽度増加を示すことがある)。 (3) 脳 波

特徴的な所見はなく、非特異的な徐波をみる。

(4) 血清 JCウイルス抗体価

成人の70%以上は JCウイルス不顕性感染を起こしており、血清の抗体価の測定に診断的価 値はない。また、髄液の JCウイルス抗体価は上昇しないと報告されている。

(5) 画像診断

PMLでは主として大脳の皮質下白質に大小不同の、融合して不整な形状の病巣が多数認め られる。この所見は脳 MRIT2強調画像や FLAIR画像にて確認される。この MRI病巣は通常

進行性多巣性白質脳症 (Progressive maultifocalleukoencephalopathy;PML)

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1 疫 学

2 臨床症状

診 断

3

進行性多巣性白質脳症(PML)

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ガドリニウムでは造影されない。

(6) 確定診断

診断的価値が最も高い検査は脳生検であり、得られた脳組織において、PMLに特徴的な病理 組織像と組織内に JCV抗原またはゲノムの存在を確認することにより確定診断される。髄液 における JCVゲノム解析が PMLの確定診断に有効であるとも報告されている。これは、JCウ イルスゲノムの調節領域を含む部位を PCRにて増幅し、得られた PCR産物より調節領域をシ ークエンスすることにより、PML型 JCウイルスであることを確認するものであり臨床診断の 一助となる。本方法は北海道大学医学研究科分子細胞病理学分野にて施行可能である。鑑別疾 患として、HIV-1脳症、悪性リンパ腫、脳腫瘍などがあげられる。

神経症状はいったん発症すると亜急性に進行し、多くは,発症後1年以内に死亡する。

現在のところ PMLに対して確立された有効な治療法はなく、対症療法が主である。その中で、

高活性抗レトロウ イルス療法(highlyactiveantiretroviraltherapy;HAART)は PMLに対し ても一定の効果が期待できる治療法である。JCウイルスに対する抗ウイルス薬としては、cyt a-rabineと cidofovirがあるが、治療成績の報告はは一定しておらず、無効例の報告も多い。

参考文献

1) 川杉和夫、松田重三:進行性多発性白質脳症(PML)、松田重三編、HIV治療マニュアル、

HIV感染者発症予防・治療に関する研究班(班長 山田兼雄)p69-70

2) 越智博文、小林卓朗:神経系の感染症:診断と治療の進歩 Ⅳ.重要な神経系の感染症 8.

進行性多発性白質脳症(PML)、日本内科学会雑誌 855:79-83,1996 3) 矢野雄三、根岸昌功:AIDSの神経症状、神経内科 39:12-21,1993

4) 平野朝雄、馬原孝彦:AIDSの神経病理、伊藤正夫・楢林博太郎編、神経科学レビュー 7:

13-26,1993

5)SugimotoC,etal:AmplificationofJCvirusreguratoryDNA sequencesfrom spinalfluid:

diagnosticvalueforprogressivemultifocal leukoencephalopathy.ArchVirol143: 249-262,1998

6) 松井尚子 他:進行性多巣性白質脳症と考えられた症例の拡散テンソル画像による経時的検 討。臨床神経 46:555-560,2006

7) EpkerJL,etal:Progressivemultifocalleukoencephalopathy,areview andanextended reportoffivepatientswithdifferentimmunecomprom.EurJInternMed.20:261-267,2009 8) 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 プリオン病および遅発性ウイルス感染に

関する調査研究班:進行性多巣性白質脳症 (PML)の診断および治療ガイドライン http://prion.umin.jp/guideline/guideline_PML.html

(神経内科 緒方 昭彦、矢部 一郎、佐々木 秀直 2009.08)

経過と予後

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5 治 療

ト キソプラズマ脳症(Cerebraltoxoplasmosis77 トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)は人畜共通感染症で、Toxoplasmagondii(T.gondii) の感染によって発症する。T.gondiiは胞子虫類に属する細胞内寄生性の原虫である。ネコ科の 動物の腸上皮で有性生殖を行い、糞便中に排出されたオーシスト(oocyst)あるいは食肉中の嚢 子の経口摂取から感染が起こる。T.gondii感染は通常無症候性感染であるが、先天性感染や免 疫不全状態では様々な重篤な症状を引き起こす。AIDS患者の場合、大部分は CD4陽性リンパ球 数が100/μ渥未満に低下したときに、慢性潜在性に感染していたT.gondiiが再活性化して発症す る。T.gondiiは中枢神経系においてもっとも再活性化しやすく、AIDS患者でみられる中枢神経 系の日和見感染症のうち、もっとも頻度が高いものがトキソプラズマ脳症である。

発症の様式は、急性のものから亜急性、慢性の経過をとるものまで様々である。初発症状も 様々だが、頭痛、意識障害および発熱の頻度が高く、それぞれ55%、52%、47%であったとの 報告がある。このような非局在症候の他、局在症候としては片麻痺、小脳性運動失調、脳神経麻 痺の頻度が高く、その他、感覚障害、失語症、視野障害、複視、けいれん、人格変化、錐体外路 症候などの症候が病変部位に応じて出現する。ほとんどの AIDS患者のトキソプラズマ症は脳に 限局するが、脳以外の臓器では眼と肺が侵される率が高い。

(1) 血清学的検査

免疫能正常者では、2回の検査で IgG抗体価が 4倍以上に上昇した場合や1回の検査でも IgM 抗体が陽性であれば、急性感染と考えられる。しかし、AIDS患者の場合は本症を発症し ていても抗体陰性の患者が存在し、臨床的および病理学的に本症と診断された患者のうち、そ れぞれ16%、22%が IgG抗体陰性であったとする報告がある。したがって、IgG抗体価の上 昇が見られない場合や IgM抗体が陰性の場合でも、本症を否定することは出来ないため注意が 必要である。なお、当院ではトキソプラズマ IgGおよび IgM(EIA法)を BML、トキソプラ ズマ抗体(PHA法)を SRLにそれぞれ委託している。

(2)脳脊髄液検査

脳脊髄液中の蛋白は軽度から中等度上昇、糖は正常から低下する傾向を示す。多くの例で細 胞数は単核球優位に軽度増加する。脳脊髄液中の抗体価測定は本症の診断に有用である。

PCR法による脳脊髄液中のT.gondiiDNAの検出については報告により様々であるが、いず れも感度は低いものの診断に対する特異度は100%と高い。保険適応外であり当院では外注

(三菱化学 BCL)になるが、海外(米国)に委託しているため検査日数が2~3週間かかるこ と及び検査費用が問題となる。

(3)画像診断

病巣の検出には CTより MRIの方が感度が高いので、本症を疑った場合 MRIを施行すべき である。また、CT、MRIいずれにしても、造影/増強が必要である。病変は3分の2の症例 で多発性であり、約90%の症例でリング状の造影または増強効果がみられる。病変は浮腫及

トキソプラズマ脳症

(Cerebraltoxopl asmosi s)

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1 臨床症状

診 断

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