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脳卒中高齢者のライフスタイル再編成を支える保健医療福祉学的視 点における人材育成のためのプログラム開発・実施および評価・検証

第1節 脳卒中高齢者のライフスタイル再編成への実現に向けての検討 第1項 研究の背景と目的

厚生労働省(online1)の脳卒中をはじめとする疾患の医療・福祉に関して,急性期から在宅 療養にいたるまでの切れ目のない医療・介護サービスを目指し,2006 年頃より制度の改革が 行われてきた(厚生労働省,online2).発症初期から家庭に戻るまで,多様な機関や多様な職種 が関わりをもつ(厚生労働省,online2).発症初期の救命率の向上や脳卒中後遺症の軽減,疾病 予防から急性期,慢性期の治療やリハビリテーション,さらには在宅医療にいたるまで,切れ 目のない医療を提供する体制の構築,地域連携クリニカルパス(以下,連携パス)の導入によ る,保健,医療,福祉の円滑な連携推進が目指されていた.連携パスは,対象疾病(脳卒中,

心筋梗塞,がん,糖尿病)にすべてに連携パスを適用するものと一部を適用するものがある他,

術前後の連携などさまざまなものがある.

連携パスの例えとして熊本市では,1995 年に「脳血管疾患の障害を考える会」で脳卒中連 携パスが運用開始されていた.また 2001 年には北海道砂川市立病院で脳外科ホットラインが 開設され,24 時間対応の運営がなされていた.愛知県豊田市では,2003 年電子カルテが導入 され,かかりつけ医の地図・診察時間・顔写真などが載っている紹介カードやポスターの掲示,

診療所ガイドブッグの配布など,地域に根差した取り組みがされていた.全国各地において,

さまざまな連携パスが取り組まれており(厚生労働省,online3),厚生労働省の本来の目的と 合致する.連携パスの普及・推進の現状においては,基本的には厚生労働省の案を土台にし,

各地域の特性に応じた取り組みが行われていることが把握できた.その取り組みの資料を見る 限りでは,脳卒中後の血管性うつ病やアパシー等を含む心理的ダメージの発症や悪化防止策等 は見当たらなかった.連携パスは,脳卒中高齢者が発症から地域に戻る中で,各専門職や施設,

地域,行政等のさまざまな連携が必要であることから,重要な取り組みであると考える.しか し,切れ目のない体制や連携パスには,前章までに明らかになった脳卒中高齢者に関わる専門 職の専門職的自律性や肯定的関心の能力との関係性は明確にはされていない.また,脳卒中高 齢者に関わる専門職の専門職的自律性や肯定的関心の能力の必要性に関する研究や教育,実践 については,取り組みがなされているのか把握できていない.他専門職や地域,行政等と連携 する上でも,支援者の視点に立ったケアプラン等では,脳卒中高齢者は思いや願いを自分の内 にしまいこんでしまうかもしれない.また,満足のいかないプランやケアの場合,積み重ねに よって心理的ダメージにつながるリスクも考えられる.脳卒中高齢者の心理面に注目しながら ケアを行っていくことは,重要な課題であると考える.このことから,心理的ダメージの発症 や悪化防止のために,各専門職における専門職的自律性や肯定的関心の現状について把握する ことは,本研究の取り組みにおいても意義あるものと考える.

本項では,厚生労働省の見解と各地における取り組みの現状を踏まえ,脳卒中高齢者が自 らのライフスタイルを自由に選択できるよう,心理的支援にむけて保健医療福祉学的視点から の研修を検討していく.これにより,脳卒中高齢者のニーズに対してより効果的に,かつ柔軟 に援助が展開できるような手掛かりを見出していく.

第2項 厚生労働省の見解と本研究との関連性

2014 年6月,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整 備等に関する法律」(厚生労働省,online4)が成立した.この法律は,地域において効率的かつ 質の高い医療提供体制を構築するとともに地域包括ケアシステムを構築することを通じ,必要 な医療及び介護の総合的な確保を推進するため,医療法,介護保険法等の関係法律の所要の整 備等を行おうとするものである.その主な内容は,以下の通りである.第一に「都道府県が,

医療及び介護の総合的な確保のための事業に要する経費を支弁するため,基金を設ける場合に は,国は,その財源に充てるために必要な資金の三分の二を負担するものとする」とある.第 二に,医療法の一部改正であり,「都道府県は,医療計画において,将来の医療提供体制に係 る地域医療構想に関する事項,地域医療構想の達成に向けた病床の機能の分化及び連携の推進 に関する事項等を定めるものとする」とある.第三に,介護保険法の一部改正として,その中 に「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)等に係る給付対象を,厚生労働省令で定める要 介護状態区分に該当する状態である者その他居宅において日常生活を営むことが困難な要介護 者とする」「介護給付及び予防給付について,政令で定める額以上の所得を有する第一号被保 険者に係る利用者負担の割合を,その費用の百分の二十とする」「介護予防サービスのうち介 護予防訪問介護と介護予防通所介護を地域支援事業に移行し,平成 29 年 3 月 31 日までに,市 町村は,介護予防・日常生活支援総合事業を行うものとする」が挙げられた.国の方策におい ても,脳卒中高齢者が急性期を脱し,回復期,地域や施設に戻った際に,どのようなサービス を受けながら生活を営んでいくかが検討されていた(厚生労働省,online4).

しかし,このような方策においても,年々の変更や新たな内容が打ち出される等,脳卒中 高齢者やその家族,地域住民にとっては非常にわかりにくくなっていると考えられる.医療制 度および介護,福祉制度について,矢継ぎ早の改正が打ち出されていると感じられる. 実際 には「医療崩壊」「介護崩壊」といわれるような現象がうまれ,介護保険制度の改正や,さら に「障害者自立支援法」「後期高齢者医療制度」の制定に対しても混乱を極めている(わが国 の医療経営の現状,2014;真野,2010).そのためにも,保健,医療,福祉の業務を担う専門職が,

各制度を充分に理解できていること,何より地域住民に正しい情報が行き届き,理解へとつな がることが望まれる.これについては,第 2 章や第 3 章での脳卒中高齢者や地域住民へのイン タビュー調査では,「情報が行き届かない」「説明がわかりにくい」等の言葉があり,新たな 制度も含め,分かりやすく,納得のいく説明を提供していかなければならないと改めて考えさ せられた.また,保健,医療,福祉の最先端を担う中心都市や機関のみならず,そこまで行き 届かない地域にも手を差し延べて,脳卒中高齢者のライフスタイル再編成に向けて,ナース・

コーリングを把握し,肯定的感情の姿勢をもって各ニ-ズに最も効果的,かつ効率的に支援で きる方法論を導き出し,さらには脳卒中高齢者をこの支援を活用できる人材育成に務めていく 必要があると考える.

また,厚生労働省は,急性期から在宅療養に到るまでの切れ目のない医療・介護サービスを 目指し,2006 年頃より制度の改革を目指している(厚生労働省,医政局,2012).例えば,地域 の救急医療の機能を有する医療機関において,手術など集中的な治療及び急性期のリハビリテ ーションを行い,次に,回復期リハビリテーションの機能を有する医療機関において,集中的 なリハビリテーションによる機能回復を図るということ等である.また,その後の生活では,

在宅あるいはさまざまな居住の場において,生活目標型の断続的なリハビリテーションを継続

し,機能の維持を図ることも目指されていた.これらを地域で具体的に進めることに関して,

各病院で必要に応じ,退院前に要介護認定を受ける指導や,退院後も適切な医療を受けられる ように主治医およびケアマネジャーを含め,切れ目のない連携パスの活用も考えられていた (厚生労働省,医政局,2012)(Figure4.1).Figure4.1 においては,発症からの各段階でどの ような流れで回復していくのかが,わかりやすく図面化されているが,いずれにしても,具体 的な支援や特に本題でもある心理面に関する事項には触れられていないことがわかった.また,

連携パスの導入という視点では考えられてはいるが,これを導入するための専門職者の育成と いう点では,各専門職団体や各地域に委ねられているのが現状であった.

Figure4.1 地域連携クリニカルパスの考え方(出典:厚生労働省)

一方で,クリニカルパスについての現状調査(厚生労働省)について例として取り上げると,

クリニカルパスの導入が進まない理由としては,「医師の参加が得られない」,「疾患自体が パスに向かない」,「医師間のコンセンサスが得られない」,等のような結果が得られていた.

クリニカルパスが進んでいる診療科で,クリニカルパスの運用に関して困ったことや課題につ いては,「バリアンス7分析・活用方法」,「医師間の合意のとりかた,協力体制に関して」

等であった.専門職同士の連携の難しさが表れているといえる.また,医療連携体制では,急 性期病院から回復期リハビリ病院への転院といった横のつながりはイメージできるが,行政や 地域との関係性が見えていない.脳卒中の発症から高齢者が回復に向かって移行していく際に,

誰の関わりが重要なのか,また,その時々に脳卒中高齢者が感じる思いや願いは,どこで反映

7バリアンス(Variance)とは,クリニカルパスで予想されたプロセスと異なる経過や結果(アウトカ ム)のことである.バリアンスを収集・分析してパスを改善することで,一人ひとりの患者に合ったケ アを提供でき,医療の評価・改善につながる.