第1節 研究の背景と目的
高齢者が脳卒中を発症すると,病院への搬送後からその後の回復過程で,その時々やその状 況に応じてさまざまな専門職者が,共に脳卒中高齢者の回復や社会復帰を目指し関わる.この 極めて早い時期から社会生活に戻るまでの回復過程で,最も多く関わる医師,看護師,理学療 法士,作業療法士,言語聴覚士,福祉・介護に従事する専門職者に対して,第3章第1節の脳 卒中高齢者からのインタビューにより,脳卒中高齢者は思いや願いをナース・コーリングとし て示していることを明らかにした.各専門職者の認識や支援状況,かかわりの現状について,
明らかにすることが必要となると考えた.そこで,脳卒中高齢者の発信するナース・コーリン グに気付き,必要とするケアの実現につなげていくために,本章では,肯定的関心を量的に反 映する尺度を用いて,各専門職者の状況を相互に比較することを試みたい.
まずは,本章で用いる「専門」の概念について論説し,看護師における専門性や看護専門職 の意義を考察し,本題につなげていく.
第2節 「専門」にかかわる概念の検討 第1項 専門と専門性について
はじめに,本章で用いる「専門」とは,大辞林では,「限られた分野の学問や職業にもっぱ ら研究したり従事することや,その学問や職業のこと」,「一つのことだけで押し通すことの 一本やり」と説明している.また「専門とする」とは,英語表記で「profess」であり,「職 業として熟練する,あるいは何かにそれについての知識があると主張する」という意味をもつ ことになる.本主題に関連させて考えると,例えば,看護師という資格を得るためには,看護 師に必要な学習や技術を得ることになる.これにより,看護師として得た知識や技術を生かし て脳卒中高齢者やその家族にとって必要な情報や知識等を伝える,指導することがこれにあた るといえる.一方,専門性とは,秋山(2006)は「学問・研究レベル」での概念と位置づけ,抽 象度の高い課題を持つ項目と述べている.
専門性とは,特定の領域に関する高度な知識と経験のことであり,それは権威を意味する側 面と職務遂行に必要とされる職能を意味する側面がある.これは,高度な知識や経験を要求さ れること,または,その度合いを示すことでもある(実用語辞典).脳卒中高齢者が病院や家 庭,地域での生活のしづらさ等を少なくし,円滑に過ごせるように,かつ QOL の向上を目指し た支援が必要だと考える.脳卒中高齢者にとっての的確な支援ができるようにするための高度 な専門性とも考える.
第2項 一般的な専門職(profession)の定義
専門職(profession)とは,学識(科学または高度の知識)に裏付けられ,それ自身一定の 基礎的理論をもった特殊な技能を,特殊な教育または訓練にて修得し,それに基づいて,不特 定多数の市民の中から任意に呈示された個々の依頼者の具体的奉仕活動を行い,よって社会全 体のために尽くす職業である(橋本,2013).I.Kant は,『諸学部の争い』(2002)の中で,
profession について国家と結びつく社会的に強い影響力をもつ医学,法学,神学,哲学と対
置させている.また,profession になるためには,大学での学問の重要性についても述べて いる.
Libermann.M.(佐藤訳,1995)は,profession の定義として 1)高度な知的技術を行使する,
2)範囲が明確で,社会的に不可欠な仕事に独占的に従事する,
3)長期の専門的教育を必要とする,
4)施業者は,個人的にも集団的にも広範な自律性が与えられる,
5)自律性の範囲内で行った判断や行為については直接に責任を負う,
6)営利ではなく,サービスを動機とする,
7)適用の仕方が具体化されている倫理要領をもっている,
の 7 項目を指摘している.
この他にも多く研究者(Greenwood.E.,1957 ;Millerson.G,1964, Wilensky.H.L,1964)の 定義づけはあるが,海外では多くの場合,
1)高度な知識・技能に基づく資格制度と業務の独占,
2)広範な業務の自律性と自己決定権,
3)決定に対する自己責任,
4)職能的団体による自治(独自の倫理領域)がある,
の4点はあげられている.
日本では,現代における profession をめぐる概念について石村(1969)は,学識(科学また は高度の知識)に裏付けられ,それ自身一定基礎理論をもった特殊な技能を,教育または訓練 によって習得し,それに基づいて不特定多数の市民から任意に呈示され,個々の依頼者の具体 的な要求に応じて,具体的奉仕活動を行い,よって社会全体の利益のために尽くす職業である と述べている.その特徴として,技術的,経済的,社会的の三側面から profession を論じた.
技術的側面は,skill,technique,method,process,art のような側面であり,「客観的な 法則だけでなく,技術の中には主観的な技能が含まれる」「科学それ自体から独立した独自の 存在」としてあげている.この側面は,profession の活動の内容,職域,性質,教育訓練の 側面から professionalization と表現できる.経済的側面では,「業務的側面」とも呼び,特 殊技能に対して与えられる対価という職業的活動の具体的構造の側面である.この側面により 具体的,経済的に profession が支えられている.社会的側面では,団体としての活動,資格 の付与と専門技能の維持向上及び訓練教育という機能も持つ.そして,倫理的自己規制がある.
専門職団体の組織化,また profession の活動を奉仕活動として位置づけることにある.この 奉仕活動は自己の利益を第一義的に求めるものでない利他主義と解するという論議も併せて述 べている(石村,1983).profession の profess には,「宣言する」という意味があり,かつて 医師,法律家,聖職者が職業に就く時に,公衆の前で「私は終生学び,職を通して社会に奉仕 する」と宣言していた.この「終生学ぶ」「社会に奉仕する」「宣言する」は,profession の本質を表していることから,profession とは,その職業が果たす社会的な役割と,その職 業に従事する者の資質に関わる概念と考える.
さらに前信(2003)は,専門職意識について技術的側面としては,公益奉仕を目的とする継続 的活動,科学や高度な学識に裏付けられた技術,技術の使用を支える一般論があること,経済 的側面では,特定の依頼者の具体的要求に対して行われるものであること.社会的側面では,
団体としての活動,資格の付与と専門技能の維持向上及び訓練教育という機能も持ち,倫理的 自己規制があることをあげている.
このように,profession は単なるスペシャリストとは異なる概念であるといえる.専門技 能を身に付けているというだけではなく,その技能が高度な学識によって裏付けられている点 が profession の特徴であり,さらに,profession にはその職業が果たす社会的な役割がある ことも,その資質に関わる概念と考え,専門職性という用語が該当すると判断した.
第3項 専門職の規範と義務
専門職が遵守しなければならない規範について,デービスと太田
(
1999)は,6つの規範をあ げている.1)その職業のメンバーは,基礎となる一般教養のうえに専門的な教育を受ける 2)特定の技術,能力,規範にかかわる学問基盤をもっている
3)特定のサービスを提供する
4)自律性をもって自由の選択をして実践する 5)専門職組織をもっている
6)倫理綱領を示す
これらの基準のすべてを満たすことで,専門職のキャリアを築き上げていくことが可能にな る.先述したようにこの規範を満たすためには,理論的知識に基づいた技術を必要とし,その 獲得のために専門化された長期間にわたる教育訓練が必要とされる.さらに,その職業に従事 するためには,国家もしくはこれにかわる団体によって厳格な資格試験に合格することが必須 となる.また,同資格者の集団としての職能団体を集結し,その組織としての統一性を保持す るため,一定の行動規範を形成し,営利を目的とせず,公共の利益を根本規範として行われる.
さらに,職務上の自律性(autonomy)をもち,職業団体としての成員の養成・免許就業などに ついて一定の自己規制力をもつ(日本看護協会, online1)ことが必要だといえる.
第4項 日本における専門職としての看護
看護専門職として要請される専門職性について,看護の規範と専門職性の関係,看護の専門 職業団体(専門職能団体)と専門看護師・認定看護師の役割という3つ視点から整理していく.
1.看護の規範と専門職性の関係
「Nurse」とは,ラテン語に由来し「nourish(育む)」という意味をもつ.「育む」とは,人 びとの世話をし,健康,成長,生命の維持に必要なものを与えることを意味する.看護は,人 を育み,人の世話をする仕事であり,ひとつの専門職でもある.看護は前項の専門職としての 基準は満たしているといえる.看護職の規範は,以下の6点にまとめられる(日本看護協会, online1) .
1)科学的基盤をもつこと.これは,看護には,看護活動及び実践に結びつけるための研究に 基づく知識を備えていることを示す.
2)サ-ビス指向である.これは,看護の主たる目的は,患者や社会等,他者に何かを与え奉 仕することにある.
3)倫理規定があることである.看護は,看護師がどのように行動すれば倫理的にも問題なく 進めることができるかを文書化された倫理原則のことである.