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保健医療福祉学における Grounded Theory Approach の有能性の検討

脳卒中高齢者をはじめとする対象に対し,ありのままの思いを表出していただき,その思い からそこで何が起きているのか,その現象を導き出すことによって,今後の対応や施策が発案 できるのではないかと考えた.本稿において,その手法として Grounded Theory Approach(以 下,GTA)について論述し,その分析が本研究により妥当なものであることを概説する.

第1節 研究の背景と目的

Proctor(2006)は,「期待する結果を得る為に,実践手法の有効性を支える十分に説得力の ある証拠があるものを実践手法に活用する」と述べている.脳卒中高齢者における治療や社会 生活の中での思いや状況を把握し支援していくためには,統計的なデータに偏らず,データに 向き合う研究の検討が必要である.また,研究結果に責任を持ち,科学的,客観的にあらゆる 角度から導く実践は,実証科学の拠り所になると考える.この実証科学の観点から研究方法を 検討する場合,保健,医療,福祉の実践の効果を特に研究を駆使することで,脳卒中高齢者や 支えていく者たちの体験や事象によって得られたデータから彼らが望む支援が実証できると考 える.蓄積された知見を厳格に判断し,今後の保健・医療・福祉活動に活用できるといった展 開に導くためには,どのような研究デザインがふさわしいのかを吟味する必要がある.

本稿では,保健医療福祉学の研究を進めるにあたり,対象の体験や事象に密着し,分析で きる研究として,GTA の有能性について検討した.

第2節 保健医療福祉学研究における GTA の有能性

GTA は,データに密着した分析から独自の理論生成を可能とする研究である.GTA は 1960 年代に提案され,現在では,看護・保健,ソーシャルワーク,教育,リハビリテーション,臨 床心理などのヒューマンサービスの多領域において関心がもたれている.

第1項 GTA とその開発の経緯

GTA は,コロンビア大学社会学部で数量的研究について学んだ Glaser, Barney G と,徹底 したフィールド調査の伝統を持つシカゴ大学社会学部で,「人を主体的で,創造的で,内省的 だと考える.そして人と人との相互作用を重要視し,意味と行為の動的な関係に着目し,人々 が意味を創造し伝える活動のプロセスに焦点を当てる」(Charmaz,2006)という「Symbolic interactionism(シンボリック相互作用論)14」を提唱した Blumer のもとで学んだ Anselm L Strauss,Anselm L の2人の社会学者の共著である,『THE DISCOVERY OF GROUNDED THEORY:

14

Symbolic Interactionism(シンボリック相互作用論)は,1960 年代初頭にアメリカの社会学者 H・G・

Blumer が提唱し,社会学的・社会心理学的 perspective の 1 つである.人びとは相互行為を通じて,自 己,社会,現実をつくり出すと考える pragmatism(実用主義)から生まれた理論的視点である.この視 点は,意味と行為の間の動的な関係に焦点を当てるため,人びとが意味を創造し,伝える活動のプロセ スに焦点を当てる.家族関係,formal 組織,教育のようなある特定の領域に範囲を定められた問題の理 論的な解釈や説明ができる.

Strategies for qualitative research(データ対話型理論の発見)』(Glaser,Strauss,1967.後 藤,大出,水野訳)の中で,初めて紹介された.

Symbolic interactionism では,

(1)人間はものごとが自分に対して持つ意味に準じて,行為するということ,

(2)ものごと(ものごととは,人間が,自分の世界の中で気にとめるあらゆるものを含む)

とは,個人がその仲間と一緒に参加する社会的相互作用から導き出され,発生するというこ と,

(3)個人が自分の出会ったものごとに対処する中で,その個人が用いる解釈の過程によって 扱われたり,修正されたりするということ,

のような社会観・人間観に立脚した(Blumer,2007)意義や方向性を示すものと捉えた.本研 究の文脈でいえば,高齢者が脳卒中を発症し,身体に障害をもつことによって,他者からの支 援を受けるといった相互作用を引き起こし,そのなかで絶えず「他者の援助を受けなくても生 活できる手段」という経験の意味(symbol)を生成,修正,再構成する,とみなした.

一方,grounded は英語であり,grounded on data を意味し,日本語では「データに密着し た」,または「データ対話型」と訳されている(木下,2003).つまり,grounded theory は,

ある特定の社会現象においてデータの収集と分析を通じて「データに根ざした(grounded)分析,

(theory)理論」,あるいは「データとの濃密な対話」を通じた理論生成を目的とする研究の理 論である(Glaser,Strauss.1967,2008).この理論生成に導く過程には,1960 年代初期のアメ リカでは,重病患者の死,臨終について,病院のスタッフが話をすることや,その事実を受け 入れることが殆ど見られなかった(Glaser,Strauss,1965,1968)ことから始まっている.

この現状を知った Glaser と Strauss の研究チームは,さまざまな病院において,死にゆく プロセスがどのような現状や対処なのかを調査した.Glaser と Strauss は明確な分析的デー タ処理を行い,社会的組織と死に至るまでの時間順序に関する理論的な分析を生み出した.長 時間の対話から,分析的思考を考案し,フィールドでの観察記録を分析した予備的ノートを作 成した.Glaser と Strauss は,最期を迎えることについての分析を築く過程で,他のトピッ クスを研究する上でも,社会学者が採用可能な体系的な方法論戦略を生み出した.1967 年に 出版された Glaser と Strauss による『THE DISCOVERY OF GROUNDED THEORY: Strategies for qualitative research』で,はじめてこれらの戦略を明らかにし,既存の理論から検証可能な 仮説を演繹することより,データに根差した研究から理論を生成することの重要性を主張した.

また,この所説の中で Glaser と Strauss は,20 世紀半ばに有力であった方法論的統一した見 解に対し異議を唱え,そして斬新なメッセージを放ち,行為の実践的ガイドラインを携え,認 識論的批判に加わった.そして,体系的な質的分析は独自の論理を持ち,理論を生成すること のできるものという見解を示した.

Glaser と Strauss は,特に社会的プロセスの抽象的な理論的説明の構築を意図とし,1)デ ータ収集と分析が同時に進行すること,2)分析的コードとカテゴリーを予め予想した論理的に 演繹された仮説からではなく,データからコードとカテゴリーを構築すること,3)継続的比較 法を使用し,分析の各段階において比較を行うこと,4)データ収集や分析の各段階において理 論の開発を進めること,5)メモ書きによってカテゴリーを精緻化し,それらの特性を明確に記 し,カテゴリー間の関係を定義し,差異を特定すること,6)サンプリングは理論構築を目指す もので,母集団の代表性を目指すものではないこと,7)独自の分析を展開した後に,先行研究

調査を行うこと,以上,7つの項目は,Grounded Theory の実践を示す構成要素であった.こ の 構 成 要 素 は , 調 査 の 過 程 や , 分 析 能 力 に 対 し て の 助 け に も な る と 述 べ ら れ て い た (Glaser,1992;Glaser,Strauss,1967).Glaser と Strauss は,記述的研究を超える説明的,

理論的枠組みの領域に移行し,調査対象となる現象について抽象的な概念的理解を提供するこ とを目指した.

Glaser と Strauss は,ある社会的場面や慢性の疾病を抱える等の特定の経験における心理 プロセスを研究することに深い関心を抱いていた.Grounded Theory は,研究過程を新しい理 論的用語を使って説明し,理論的カテゴリーの特性を詳細に説き明かし,あるプロセスが出現 して変化する原因と条件を明らかにし,その結果を描出するものであった.Grounded Theory は,領域密着理論であり,特定の具体的な領域を横断し,フォーマル理論のように,抽象的な 概念を生成し,それらの関係性を特定することで,複数の具体的な領域の問題を理解すること ができる.新たな具体的な領域での探索が,フォーマル理論を精緻化するのに役立つとされる.

死にゆくことに関する研究の中で,地位の変化について生成した理論的カテゴリーを多様な特 定領域を横断する一般的なプロセスとして検討することで,Glaser と Strauss の論理はフォ ーマル理論化へと発展した(Glaser & Strauss,1967).また,Glaser と Strauss(1967)は,最 初の所説の中で,読者に対し,Grounded Theory の戦略を自分なりの方法で柔軟に使用するこ とを勧めている.Grounded Theory のプロセスは,データ収集から始まり,分析の執筆,全体 の過程への振り返りで終了していくが,実践においては直線的ではなく,考えが浮かぶたびに 立ち止まり,さらにより深い理解を得るためにフィールドに戻り,理論的サンプリングを行う ことにある.

Glaser と Strauss(1967)と Glaser(1978)の古典的所説以来,Grounded Theory は異なる方 向に変化していった(Charmaz,2000).Glaser は,自らの分析のスキルを,質的分析を体系化 し,その実践に明確なガイドラインを設けた.Glaser は,この手法に対する彼の初期の解釈 を長年固守し,そのため,Grounded Theory を発見の手法を定義づけ,カテゴリーをデータか ら 浮 上 す る も の と し て 扱 い , Strauss(1987) は こ の 手 法 を 検 証 の 方 向 へ と 移 行 さ せ , Juliet.M.Corbin はこの方向性を一層強め,独自の新たな手法的手順を見出した (Corbin &

Strauss,1990).Glaser(1992)は,Corbin と Strauss の手順はデータと分析について先入観を もって予想したカテゴリーに押し付けるものであり,Grounded Theory の根本的な見解と矛盾 すると強く批判した.さらに Corbin と Strauss の Grounded Theory に対し,Glaser は何度も 反論したが,彼らの著書は構築主義として広まった.

Grounded Theory のガイドラインは,コード化,メモ書き,理論生成のためのサンプリング を使用するこことは可能であり,研究過程の各段階を説明し,そこを通過するための道のりを 提示する.各研究者は,さまざまな研究を行うために,これらのガイドラインを導入し応用し ていた.

第2項 我が国における GTA の文献検討

我が国で発表された原著論文,研究報告,実践報告 Table1.1 文献検討に用いた学会誌 等として掲載された論文を対象に,EBM の推進に寄与で (2014 年 6 月現在)

きる GTA 研究の実践に向けて現状を検討した.選択した

学会誌・学術専門誌の基準は,メディカルオンラインで 2003 年より 2013 年までの過去 10 年間までの掲載され

ている保健・医療・福祉系の学会誌・学術専門誌のうち,

学術学会が定期的に発刊することを条件にした,41 誌

に着目した(Table1.1).

GTA による研究と明示されている研究は全体として 144 編であり,原著論文 31.94%,研究報告 31.25%,

抄録 23.61%等であった(Table1.2).研究の分析方法に ついては,GTA89.58%が最も多かった(Table1.3).GTA の種類では,M-GTA15での分析が 81.25%と最も多く,

GLaser 版での研究は 1 篇のみであった.(Table1.4).

また研究対象は,患者 48.61%が最も多く,次いで医療 者 27.77%等があった (Table1.5),対象選択妥当性に ついての明示はなく,実際には所属先等の便宜的サンプ リングが多いものと推察される.

倫理的配慮については,審査を受け配慮した内容の記 載があるものは 36.11%で,全体数としては非常に少な いといえる(Table1.6).研究の妥当性や信頼性の明示は

5編であった.またアドバイザーについては,4割弱の Table1.2 GTA による研究と示され 研究者が信頼性保持の目的で指導等を受けていた ている研究数n=144

(Table1.7).

GTA は,緻密に研究のプロセスを進めていくことに 意義があるため,研究者は分析過程やその後の活用法 にいたるスーパーバイズを受け,信頼性や妥当性を高 めていく必要がある.また GTA は,系統的なデータ収

集を行うためには長期間を要する.GTA は,人間の多 (出典:メディカルオンラインをもとに筆者作成 2014 年 6 月現在)

様な現象を扱うという特徴があり,どのような視点で現象を捉え,研究を進めるのか重要であ

る.

15修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)の主要特性は,①理論特性5項目と4項目を見 たすこと,データの切片化をしない,③データの範囲,分析テーマの設定,理論的飽和化の判断で方法 論的限定を行うことで,分析過程を制御する,④データに密着した分析をするためのコーディング法を 独自に開発した,⑤研究する人間の視点を重視する,⑥面接型調査に有効に活用できる,⑦解釈の多重 的同時並行性を特徴とする,(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M−GTA)の分析技法.木下康 仁.富山大学看護学会誌.6(2).2007)