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脂肪分布パラメーターと血清パラメーターの関連解析

第 5 章 血中アディポネクチン量に関連した SNP の検討

第 2 節 脂肪分布パラメーターと血清パラメーターの関連解析

1595人のVFAとSFAはCT [26]による測定値を用いた。V/S比はVFA/ SFA として解析した。

脂肪分布パラメーター(BMI、VFA、SFA、V/S比)と血清パラメーター(血 糖値、インスリン、インスリン抵抗性指数、血中アディポネクチン量)を従属 変数として、遺伝子型(リスクアレル保有数により0、1、2と変換)、性別、年 齢、BMI を説明変数として多重線形回帰分析を行った。インスリン抵抗性はイ ンスリン抵抗性指数(HOMA-IR)で評価した。

第 1 項 アディポネクチン

アディポネクチンは、1996年に大阪大学分子制御内科学の松澤らのグループ により脂肪組織中に特異的に発現する遺伝子 apM1(adipose most abundant gene transcript)として同定されたサイトカイン(アディポサイトカイン)で あり、244個のアミノ酸よりなる分泌タンパク質である[86、87]。

近年、アディポネクチンは様々な生理活性を有することが報告されている。

マウスにアディポネクチンを投与することによって、糖尿病が改善することが 見出された[50]。また、アディポネクチン低下と肥満や糖尿病、動脈硬化との関 連が報告されている[5、37、49、51]。

ヒト血清・血漿や脂肪細胞抽出液または培養上清中のアディポネクチンは、

酵素免疫測定法 (Enzyme-Linked Immunosorbent Assay: ELISA)を用いて 測定することができる。

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第 2 項 ヒトアディポネクチン ELISA キット(大塚製薬株式会社)

① 原理と測定

抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体固相プレート(抗体プレート)

に、希釈済みサンプルを加えて反応させると、アディポネクチンが抗体プレー トに結合する(第1反応)。第1抗体液(抗ヒトアディポネクチン抗血清(ウサ ギ))を反応させ(第 2 反応)、酵素標識抗体液(西洋ワサビペルオキシダーゼ 標識抗ウサギIgGポリクローナル抗体(ヤギ))を反応させる(第3反応)。基 質液を加えて発色させ(発色反応)、Infinite 200 PRO(テカンジャパン株式会 社)を用いて、吸光度 450 nm で測定し、同時に測定した標準液の吸光度から 検体中のアディポネクチン濃度を算出した(図16)。

② 検体の前処理

血漿サンプル10 μLを検体前処理液90 μLと混和後、ヒートブロック等を用

いて100℃で5分間加熱した(10倍希釈)。さらに検体希釈液を900 μL 加え混

和した(100倍希釈)。100倍希釈した血漿サンプル20 μLを検体希釈液1 mL と混和し、前処理済みの血漿サンプルとした(5,100倍希釈)。

③ 試薬の調整 (1) 洗浄液

洗浄用原液全量(40 mL)に精製水を960 mLの割合で混和し調整した。

洗浄用原液に結晶が析出している場合は、加温して溶解後に調整し、調整後

は4℃で保存した。

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(2) 検体希釈液

検体希釈用原液全量(50 mL)に精製水を200 mLの割合で混和し調整した。

調整後は4℃で保存した。

(3) 標準液

12.0 ng/mLは標準品リコンビナントヒトアディポネクチン12.0 ng/mLを使

用し、他の標準液は標準品リコンビナントヒトアディポネクチン12.0 ng/mLを 検体希釈液で段階希釈して、作成した。0 ng/mL は検体希釈液を使用した。検 量線は12.0 ng/mL、6.0 ng/mL、3.0 ng/mL、1.5 ng/mL、0.75 ng/mL、0.375 ng/mL、0 ng/mLとした。

(4) 酵素標識抗体液

酵素標識抗体希釈液12 mLに酵素標識抗体原液を60 μLの割合で混和し調整 した。第2反応の直前に調整し、速やかに使用した。

(5) 基質液

基質液B 6 mLに基質液A 6 mLの割合で混和し調整した。発色反応の直前に

調整し、速やかに使用した。

(6) 検体前処理液

析出していた場合は、泡立てないように加温して溶解後に使用した。

④ 測定方法

(1) 各構成試薬を室温に戻した。

(2) 洗浄液、検体希釈液、各濃度の標準液を調整した。

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(3) 抗体プレートのアルミラミネート袋を開封した。

(4) 洗浄液を抗体プレートの各ウェルに約350 μLずつ加えた後、ウェルの液を 完全に除去した。抗体プレートを逆さにしてキムタオルに軽く叩き付け、ウ ェル内に残った洗浄液を除去した。

(5) 各濃度の標準液及び前処理済みの検体を各ウェルに100 μLずつ加えた。標 準液は各測定時に、各抗体プレートについて必ず測定した。

(6) プレートシールで抗体プレートをカバーし、室温で60分間静置反応させた。

(7) 液はねしないように、注意して抗体プレートからプレートシールを取り除き、

ウェルの液を完全に除去した。洗浄液を抗体プレートの各ウェルに約 350 μLずつ加え、再度速やかに除去した。この操作を2回繰り返した後、抗体 プレートを逆さにしてキムタオルに軽く叩き付け、ウェル内に残った洗浄液 を除去した(洗浄3回)。

(8) 第1抗体液を抗体プレートの各ウェルに100 μLずつ加えた。

(9) プレートシールで抗体プレートをカバーし、室温で60分間静置反応させた。

(10) 液はねしないように、注意して抗体プレートからプレートシールを取り

除き、ウェルの液を完全に除去した。洗浄液を抗体プレートの各ウェルに約

350 μLずつ加え、再度速やかに除去した。この操作を2回繰り返した後、

抗体プレートを逆さにしてキムタオルに軽く叩き付け、ウェル内に残った洗 浄液を除去した(洗浄3回)。

(11) 酵素標識抗体液を抗体プレートの各ウェルに100 μLずつ加えた。

(12) プレートシールで抗体プレートをカバーし、室温で 60 分間静置反応さ

せた。

(13) 液はねしないように、注意して抗体プレートからプレートシールを取り

除き、ウェルの液を完全に除去した。洗浄液を抗体プレートの各ウェルに約

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350 μLずつ加え、再度速やかに除去した。この操作を2回繰り返した後、

抗体プレートを逆さにしてキムタオルに軽く叩き付け、ウェル内に残った洗 浄液を除去した(洗浄3回)。

(14) 基質液を抗体プレートの各ウェルに100 μLずつ加えた。

(15) 室温で 15 分間静置反応させた後、反応停止液を抗体プレートの各ウェ

ルに100 μLずつ加えた。

(16) Infinite 200 PRO(テカンジャパン株式会社)を用いて、吸光度450 nm で測定し、同時に測定した標準液の吸光度から検体中のアディポネクチン濃 度を算出した。

製品番号:410614

製品名 :ヒトアディポネクチンELISAキット(大塚製薬株式会社)

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図 16 ヒトアディポネクチンELISAキットの測定原理と方法

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第 3 項 統計解析

ハーディーワインバーグ平衡は2テストで評価した[28]。多重線形回帰分析は R software (https://www.r-project.org/)を使用し、ボンフェローニの補正を

使用してP値は0.0071(0.05/7箇所のSNP)未満の値を統計学的に有意である

とした。1stセット、2ndセットそれぞれの解析と、1stセットと2ndセットの メタ解析を行った。また、脂肪分布は性的特異性があることが知られているた め[29]、男女別に解析を行った。

日本人はインスリンレベルが低いことが知られているので[52]、対象者の BMIについては、広いレンジで関連解析を行った。

第 4 項 ハプロタイプ解析

ADIPOQ 遺伝子のハプロタイプと HOMA-IR との関連を調べるために、

Haplo.Stats

(http://mayoresearch.mayo.edu/mayo/research/schaid_lab/software.cfm)を 使用して解析を行った。

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第 3 節 結果

7箇所のSNPのインベーダー法による遺伝子型決定の成功率は99.0%以上で あった。遺伝子型決定の結果はTableにまとめた通りである(表17)。

第 1 項 1st セットを用いた関連解析

脂肪分布パラメーター(BMI、VFA、SFA、V/S 比)については、BMI の 増加はrs864265(P = 0.029)と、SFAの増加はrs1648707(P = 0.027)と、

どちらも女性でのみ弱い関連がみられた。また、VFAやV/S比の減少は、女性

でのみrs6773957と関連する傾向がみられた(表18)。

血清パラメーター(血糖値、インスリン、HOMA-IR)については、血糖値の 上昇は、男性でのみrs6773957(P = 0.032)と弱い関連がみられた。インスリ ンの上昇は、女性でのみ rs1648707(P = 0.044)と弱い関連がみられた。

HOMA-IRの上昇は、女性でのみrs6810075(P = 0.038)、rs10937273(P = 0.040)、rs1648707(P = 0.022)と弱い関連がみられた(表19)。

第 2 項 2nd セットを用いた関連解析とメタ解析

1stセットでSNPと各パラメーターとの間にP値が0.05未満で関連する傾向 がみられたBMI(rs864265)、血糖値(rs6773957)、インスリン(rs1648707)、 HOMA-IR(rs6810075、rs10937273、rs1648707)について、2ndセットでも 同様に関連解析を行った。その結果、1stセットと同様にインスリン(rs1648707)

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とHOMA-IR(rs1648707、rs10937273)の上昇に関連する傾向が見られた。

そこで、1stセットと2ndセットでメタ解析を行った。その結果、rs1648707 はインスリン(P = 0.0017)とHOMA-IR(P = 0.00074)の上昇と、rs10937273

はHOMA-IRの上昇(P = 0.0030)と、この2箇所のSNPに有意な関連が女性

でのみ見られた。(表20)。

第 3 項 血中アディポネクチン量との関連解析

1stセットのうちの945人(男性 412人、女性533人)について、血漿サン プ ル を 用 い て 酵 素 免 疫 測 定 法 (Enzyme-Linked Immunosorbent Assay:

ELISA)により血中アディポネクチン量を測定し、7箇所のSNPとの関連を調

べた。その結果、HOMA-IRの上昇と有意な関連を示したrs10937273に血中ア ディポネクチン量の減少と有意な関連がみられた(男性 P = 0.0058、女性 P =

0.0015)。同じく HOMA-IR の上昇と有意な関連を示した rs1648707 では、女

性でのみ有意な関連がみられ(P = 0.0059)、男性では弱い関連がみられた(P = 0.018)(表21)。

第 4 項 ハプロタイプ解析

rs10937273とrs1648707のGCのハプロタイプが女性で HOMA-IRと最も 有意な関連が見られた(P = 0.0011)(表22)。

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第 4 節 考察

アディポネクチンは脂肪組織特異的に分泌され、その血漿レベルは内臓脂肪 の蓄積に伴って減少する[4、5]。アディポネクチンレベルの減少は、インシュリ ン抵抗性や2型糖尿病の発症に関連すると考えられている[5、38]。GWASによ

ってADIPOQ 遺伝子のSNP がアディポネクチンレベルに強く関連することが

示されたが[38-45]、ADIPOQ遺伝子のSNPとインシュリン抵抗性との関連に ついて、内臓脂肪蓄積を考慮した解析はこれまでに行われていなかった。そこ で本研究ではまず、ADIPOQ 遺伝子の SNP と脂肪分布パラメーター(BMI、

VFA、SFA、V/S比)との関連を解析したが、有意な関連はみられなかった。

また本研究では、ADIPOQ 遺伝子の SNP と血清パラメーターや血中アディ ポネクチン量との関連を解析し、ADIPOQ 遺伝子の 5’上流領域に位置する 2 箇所のSNP(rs10937273とrs1648707)が、日本人集団でHOMA-IRの上昇 と血中アディポネクチン量の減少に関連することを見出した。また、rs1648707 はインスリンレベルと関連することを見出した。これらのSNP は VFAとの関 連がみられないことから、内臓脂肪の蓄積とは独立して関与していると考えら れた。

最近のメタ解析の結果から、 ADIPOQ 遺伝子上の SNP である rs1501299

(G276T)がアジア人のみでインスリン抵抗性と関連を示すことが報告された [54]。HapMapデータベースによれば、このrs1501299(G276T)はADIPOQ 遺伝子の3’-UTRに位置するrs6773957(D’ = 1.000、r2 = 0.444)と強い連鎖不 平衡(LD)の関係にあるものの、本研究ではrs6773957とアディポネクチンレ ベル、インスリンレベル、HOMA-IR との関連は、男性、女性ともに確認でき なかった。一方、ADIPOQ 遺伝子の 5’上流領域に位置する rs10937273(D’ = 0.065、r2 = 0.001)とrs1648707(D’ = 0.039、r2 = 0.000)は、コーディング領

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